01 星月夜への招待状 -マグナ-
満天の星空はすでに見慣れて何も感じることもなく、野宿の見回りに飽いたマグナは退屈そうにあくびをする。 その様子に苦笑した彼女が空を指し、よくとおる声が彼女の世界でつけられたひとつひとつの星の名を歌えば、聞き慣れぬ名に違う世界が見えた気がして彼の眠気は吹き飛んだ。
02 まだ消えぬ残像
音もなく、熱もなく、気配さえ感じられない。
不気味な沈黙が耳に痛い。 ここはすでに死の臭いが蔓延している。 黒い雲に太陽は隠され、獣も寄りたがらぬ命の消えた砦の空気にかつて己が消した雪に埋もれる町の姿が脳裏をよぎる。
抑えようもなく情けなく震えるそんな手を、同じように震えた彼女の手が繋ぎとめると彼はようやく顔をあげて前を向いた。
03 グロリアス
「悪魔を倒せたのは皆の力があったからで俺一人じゃ何もできなかったよ」 と、複雑そうな表情の彼が言うので「マグナがいたから皆と出会えて力を合わせられたんだよ」なんて返したら、綺麗なメダルの勲章を放り出した手と腕に痛いくらいに抱き締められる。
04 ナイチンゲール
傷の痛みに眠りから引きずり出されると 、熱にぼやける視界の隅に怒ったような彼女の横顔が映る。
無茶をしたのは謝るけれど君に心配してもらえるのが嬉しい…なんて口を滑らそうものなら後が怖いので、彼は黙ってその横顔をながめることにした。
05 星月夜への招待状 -ネスティ-
テラスに現れたネスティを見るなり、彼女の顔が笑顔になる。
それが妙にむず痒く感じてついその場に立ち尽くしてしまうと、彼の不具合を察したのか不思議そうな表情をした彼女が首を傾げて「今日はやめとく? 」と尋ねてくる。
その選択肢だけは絶対有り得ない、などと口が裂けても言えない彼は今日も無言で彼女の隣に座った。
06 眠りからさめて
知っているのは書物から得た知識ばかりで実際に目で見て触れることより勝るものはないのだと思い知らされたように彼がわずかに俯くのを見た彼女は、「じゃあもっと色んな物を見て触らなきゃ損だね!」と明るく笑いながら彼の頬に両手を添えて、また新しいものを彼に教えた。
07 ステイゴールド
夕日に照らされきらきら光るファナンの銀砂と海の水面に「綺麗だね」と目を細めて呟く彼女の髪や肌、瞳も朱にきらめいて本当に綺麗だったので「そうだな」と目をそらして返す彼の白い頬にも朱が差すのも仕方のない話である。
08 その手の意味とは
自分の兄弟子は時間にうるさい人である。 もとい、時間に正確な人である。
なので彼が待ち合わせに遅れるなど天地がひっくり返ることほどとても珍しいことなのだが、遅れてようやく現れた兄弟子の隣でまだ眠そうな顔をしている彼の恋人の姿を見た弟弟子は、文字どおり兄弟子の世界の天地をひっくり返したその人に敬意をこめて「おはよう」と手を振った。
09 僕の生きる時間を君にあげる
この体は短命で病弱で子孫を残すことすらできないんだと痛ましく告げる唇を口づけでふさぐと途端に耳まで赤くした彼の顔が現れたので、彼女はたいそう満足気に笑いぎゅっと恋人を抱き締めた。
10 星月夜への招待状 -バルレル-
輝く月の白い光が心地好いのか、少年悪魔は目を閉じたままその場から動かない。
不意に、霊界に生きる者にとって月の光は魔力を帯びて元気になれるとかナントカそのメカニズムがナントカと熱く語るギブソンの姿を思い出したが、彼の悪魔の尾が彼女の細い手首に巻き付けられた意味の方が彼女にとって重要だったりする。
11 言葉なくとも
旨そうに飲み干されていく赤ワインのグラスがあっという間に空になる。
ぷはぁと酒臭い息を吐く悪魔はこちらをチラリとも見やしなくて、独り占めはズルいとオモイマス、との抗議も無視された彼女がとうとう不貞腐れたように立ち上がれば、悪魔の尻尾が仕方なしにワイングラスを差し出した。
12 命のルート
例外を除き、人は150年以上決して生きられぬ物である。
悪魔や天使は云百年云千年は余裕をもって存在できるわけで、そう考えるとこうしてあのお人好しどもについて歩かされることは瞬きの間に等しい。
そうなると、誓約も解除され自由にしてもらっていながらそれでもこの世界に留まる今の状況は自分の気まぐれによるものだが、「素直じゃないなぁ」とやたら嬉し気に笑うこの女の傍にいることもそのひとつなのか。
13 これでおあいこ
少年らしい丸い頬が影も形もなくなった悪魔の赤い髪をそっと撫でてみる。
同じく赤い三つの眼が閉ざされたまま眉間にシワが寄ったので、起きてはいるのだろう。それでも座った膝から頭をどかさないということはこのまま膝枕続行で、ついでに多少好きにしても大丈夫だと判断した彼女はこの数分後に唇と吐息を奪われる事態に発展することをまだ知らない。
14 こうなることは誰が予想をしたでしょう
半魔は人になることも悪魔になることもできないのだと語り、ゆるりと顔をあげたブロングス家メイドの艶やかな紫色(しいろ)の髪の隙間から尖った耳が覗く。
見慣れたそれに思わず釘付けになっていると鮮やかな赤い瞳がこちらをジッと見つめてきた。 半魔として生きた彼女の孤独な境遇や彼女の言わんとしていることは痛いほど理解できるのだが、それでもこのお腹の中にいる新しい生命のことを想うと喜びでしかなくて。
「なら、いっぱい愛してあげなきゃね」と自分のお腹を撫でて呟くと、向かいに座るメイドは嬉しそうに笑い、隣の悪魔は苦虫百ぴき噛んだみたいな顔をしてそっぽを向いた。
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15 星月夜への招待状 -レシィ-
初めて戦った時のことが脳裏をよぎって、一日も終わるというのに今になって体が震えてきた。
手にまとわりつく他人の重みを振り払うように拳をぐっと握りしめる。 迫りくる敵意に立ち向かうのは恐ろしく、それをねじ伏せて進むことにまだ躊躇いがある。
けれど故郷で群れから外されたあの時とは違い共に立ち向かう仲間がいて、何より隣で星空を見上げているこの人を守るために戦うのだと思えば握りしめた拳の意味も確かに変わるのだ。
16 あこがれ
屋根裏部屋へ続く階段の拭き掃除をしている所に名を呼ばれ、彼は笑顔で振り返る。
その途端に何か違和感を覚えた彼女が首を傾げ、その反応に彼もまた不思議そうに首を傾げた。
彼女は大して気にとめず用件を伝えると手を振って客間に戻っていったが、その背を見送った少年がいつもと違う視線の高さに気付き「いつか追い越せたら」と一人で顔を赤くしたあとすでにピカピカになった階段をさらに磨きあげたことは誰も知らない。
17 勇気の印
唐突な力の解放に折れた角のあたりがうずいて激痛が走る。
魔獣使いを倒すため覚醒したばかりの魔力の大量消費の反動か。 堪え切れず体を折り、ごまかしようのない痛みにたまらずこぼれ落ちていく涙があたたかな指先に拭われると彼は涙の浮かぶ目を瞬かせて顔を上げた。
そのまま伸びてきたしなやかな細い腕が未発達の背にまわる。
少年の体を抱き寄せ「頑張ってくれてありがとう」と鼓膜を揺らす彼女の声にとめどなく胸が熱くなって、(あなたがいたから頑張れたんだ)と彼は初めて自分を誇りに想えた。
18 かわいいひと
よく晴れたある日に、年齢も身長も近く自由騎士団内で一番仲の良いアルバに声をかけられたレシィはいつも行く商店街まで昼食を買いに出た。
その道中、普段なら騎士団のことや修行のことが話題になるのだが今日はやたら主のことを聞かされるので彼が内心不思議に思っていると、にやりと笑った戦友が「レシィがヤキモチをやくことはあるのかなぁって相談されたんだけど、どう?」と楽しそうに耳打ちするので、レシィの顔は買ったばかりの林檎のように赤くなった。
19 星月夜への招待状 -レオルド-
今夜は風が強い。 ギブソン邸の狭いテラスでは機械兵士と呼ばれる彼の巨体が自由に身動きできるスペースはあまりないが、それでも隣で星空を見上げている彼の主に吹きつける風の盾になることはできた。
風向きの変化に彼が注意を向けたところで、彼のささやかな気遣いに気づき小さく笑った彼女の手が黒鋼の体に触れる。 いたわるように優しく撫でられる感触は初めてで、ただ風が吹いて過ぎるそれとはまるで違いやわらかな肉体の脆さを現していた。
20 春日の木漏れ
レオルドが気持ち良さそうに日光浴している姿を見つける。
黒いボディが陽の光で鈍く輝いていたので思わず暖められたフライパンや鉄板を想像したのだがよく見ると猫と仔猫がくっついたり張りついたりして気持ち良さそうに寝ているので、彼女は思わず緩みかけた顔を引き締めるとレオルドへにじり寄った。
21 オートマタの悩み事
人間の肉体を得てからというもの間違いなく主と距離ができてしまった。
機械兵士の時は後ろを向くだけで彼女は気にせず着替えていたところが、人の姿では部屋から出ないと着替えられない!と突っぱねられ今も部屋から追い出されたばかりである。
仕方なく部屋の外で待つ彼の珍しく物思いにふける姿の後ろで、頬を赤く染めながら頭を抱えた彼女の姿もあったとか。
22 ルール違反
貴女の前に立ち塞がる敵は何であろうと戦います。と、眉ひとつ動かさず言ってのけた人の姿の彼があまりにも自分をかえりみないので「じゃあ二人だけで逃げてみる?」と冗談めかして言ってみたら「了解しました」と熱のこもった強い力に腕を捕まれた。
23 温度
耳許をくすぐるようにちいさく笑う声がして、レオルドはゆるりと瞼をひらいた。
肩と肩が触れあう距離に身を寄せた彼女が彼の髪を編んで遊んでいる。 彼は細い首筋に残された赤い痕に気付かない彼女が口ずさむ歌に目を閉じ、あまやかな時間を享受する。
24 星月夜への招待状 -フォルテ-
剣の腕も立って知識も雑学に富み冒険者としての経験なら仲間内でトップであろう彼はなんとなく自分を卑下するところがあるようで、彼女にはそれが不思議でたまらなかったのだが、彼がそれを語る言葉を織らぬのであれば自分は知るべきではないと理解していた。
例えどんなに知りたいと願っても彼が望まないのであればその願いに意味もなくなるのである。
25 冒険者のふりをした騎士
力の弱い者を守るのは義務だとのたまう騎士の真似事をするつもりはない。
ただ自分が守りたいと思うもののために剣を振るし盾にもなる。 義務ではなく自分の心で決めているのだと、自らの体に流れる血統を否定するように吐き捨てる彼の横顔を見つめた彼女は「そっちのほうがどう考えても騎士じゃない?」と、呆気に取られた表情の彼の腕をぽんと叩く。
26 お礼
いつものお礼だって。と笑って彼女が差し出したクッキーは甘くて優しい味がした。
(さすがアメルだなぁ…あいつじゃこんなの作れねえよなぁ)と男なら誰もが抱く幻想に思い馳せながら「すごくうまい、これなら腹一杯食えるぜ」と飲み込むと、ニヤリと良からぬ笑みになった彼女が「すごく美味しいんだね! 良かった~! まあケイナも頑張って作ってたしそりゃ美味しくないわけないかぁ~」などと大げさに声を上げながらギブソン邸の客間に戻っていったので、彼は全速力で口止めをしに行かねばならなくなった。
27 フルールの蕾
親友がとても楽しげに彼女と話をしている。
話の内容はフォルテの失敗談やら二人で共に過ごしたらしい豊漁祭のことやらで、彼女が笑うと心なしか彼も嬉しそうに表情を緩ませていた。 トライドラの件で塞ぎ込みがちだった彼の事を思えばその姿は大変喜ばしいものだったが、何となく近い距離にいる二人の姿にあることを察したフォルテは「ディミニエになんて言えば良いんだよ…」と密かに頭を抱えた。
28 離れて気付く
旅立ちに付き物の出逢いと別れに慣れたつもりではあったが、今回だけはやたら名残惜しかった。
涙で瞳を潤ませる彼女の肩をケイナが撫でて慰めている。 自分も彼女の髪をぐしゃぐしゃと撫でて「お前らに何かあったら絶対駆けつけるからな」と無理矢理笑うことしかできなかったが、涙をぬぐい精一杯に笑った彼女は初めて会った頃よりずっといい女になっていた。
29 星月夜への招待状 -ロッカ-
あの緑深い森で見上げる空と違うところは空気や匂いだろうか。
船が通るほど巨大な淡水湖をもつゼラムはどこにいても水の匂いがする。 それが余計に故郷を失った喪失感を思い知らせてくれるのだが、隣で空を見上げている彼女もまたこの世界に喚ばれて故郷に戻れずにいる人で。
そのことに少しだけ慰められた気がして彼は小さな声で(ごめんなさい)と彼女に詫びた。
30 ロマンス未満
血の繋がりのない妹と間違いなく血をわけた弟もつ兄としてのロッカの面倒見のよさは中々のものだ。
ときたま自分まで彼の妹にでもなったような気になるのでためしに”おにいちゃん”なんて呼んでみようか~と彼の弟妹たちに提案したところ、兄の心情でも察したのか「やめとけ」「それはちょっと…」と気の毒そうな表情でやんわり却下された。
31 観察
彼の髪色は青と茶で構成されている。
しかしよくよく見るとまつ毛は茶色だ。 「…青色じゃないんだ」と何気なく呟いたところですぐ目の前にまで迫っていた彼の頬が朱をはらみ「あの、目を閉じてもらっていいですか…」と恥ずかしそうに訴えてきたので、彼女は小さく笑ったあと素直に目を閉じた。
32 変わらないもの
新しくなったレルムの村は人間だけでなく行くあてのない召喚獣を招いたことでずいぶんと活気に溢れた村になったが、昔とまるで違う姿に時おり、胸の奥に重たい感情がこみ上げてくることがある。
それを密かに飲み込みんでやり過ごす彼がまだ真新しい家の扉を開けると、旅をしていた頃より髪をのばしてエプロンもずいぶん似合うようになった彼女の明るい声と笑顔に出迎えられて、彼の口許に笑みがこぼれた。
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33 星月夜への招待状 -リューグ-
月のきれいな夜でさえ彼の視界に入らないらしい。
鋭く風を切る音をたてて黙々と鍛練に励む姿をしばらく眺めていても自分の出番はなさそうだ。 ため息をついた彼女が「お邪魔しました」とスカートにつく芝生の草を払って立ち上がったところで素振りの音が止むと、そこには、木刀を肩に乗せて呆れたような顔の彼の目が彼女を見ていた。
34 理由
これまで姉のように振る舞いながらも自分に守られるべき存在でいた少女が、自らの生い立ち知りかけがえのない仲間を得てひとり先を歩いていく。 その後ろ姿はあまりに眩しく同時に自分の存在の意味さえ無くした気がしたが、隣で笑いかける彼女が彼の見つめる先のものに気付きわずかに目を伏せるのを見て、胸の奥に新たな熱が灯ったことも確かなのだ。
35 羞恥
強くなることにしか興味がないのかと思っていたけれど「今夜冷えるからそんな格好して寝ると風邪引くぞ」とかそれなりに気にかけてくれていることに気が付いたとき、いつもはいていたショートパンツの短さでさえなんだか恥ずかしくなって指先で裾を引っ張る。
36 Poor talker
言葉が足らない自覚はあるし何でもはっきり物を言う性格なのもわかっている。
それでも自分なりに考えた末での意見であることに変わりはなく、他の誰が何と言おうと今さら治るものでもない。だが、うっすらと涙を浮かべて睨んでくる彼女を見たときだけ己が口下手であることを少々悔やむ。
37 Aarly morning
どれだけ年月が経とうと彼の日課は変わらなかった。
いつものように一人起き出して着替え、剣を片手に寝室を出ようとしたところで彼はふと立ち止まり宙に視線をやって思案し、すぐ引き返すとベッドで眠る妻の前髪を軽く撫でた。
これも彼女と連れ添うようになって新たに加わった密かな日課なのだが、それを扉の隙間から覗く自分たちに似た小さな子供二人に目撃されると、シ、と唇にあてた人差し指で秘密を約束させた。
38 星月夜への招待状 -カザミネ-
黙々と刀の手入れをする姿を隣でじっと見つめていると彼は落ち着かない表情になって「いかがしたでござるか」と声をかけてくる。 それを適当に返事して、引き続き刀と骨ばった手の繊細な動きを見つめていると彼はやはり何とも言い難い顔を浮かべ、今度は「勘弁していただけないだろうか…」と低く呻いた。
39 歓喜
「別に構わんでござる」と事も無げにそう言ってのけた彼は彼女に離れるように指示をして、ファナンの砂浜からせりだした大岩の前に立つ。
腰をやや低く落とし、刀の柄を指で押し上げただならぬ空気を纏ったその目がぎらついた瞬間、目にも留まらぬ早さで閃く一撃が大岩を真っ二つにしたのを目撃して「ざんてつけんだァァァッ!!」と彼女は歓喜の声をあげる。
40 狭間
ケルマを助けたときのカザミネはカッコ良かったなぁと褒めればげんなりした顔をされたのだが、これが男のロマンそのもののモテ期だということを教えてあげるべきか、清楚とグラマーの間で揺れ続ける彼をみて少し悩む。
41 ミーティング
豊満な女性が好きだがケイナ殿のあの勢いには少々参るうえ清楚でしとやかなカイナ殿の視線が極寒のごとく冷たく向けられる拙者はどうすればよいのか。
と心底頭を悩ませているモテ期真っ只中の侍に彼女は苦笑して「二極の理想に悩むならその中間にあたる女の人を好きになれば?」と助言をすると、すさまじい勢いでガッと両手を握られた。
42 月が綺麗ですね
もともと武者修行の旅をしていたのだから彼を助けた恩義を果たしてしまえば別れは必然である。
淋しくなるなぁと仲間に挨拶をしている彼の横顔をながめていれば目があって、真剣な表情で突然こちらに歩いてきて。 それに驚く暇もなく彼女の目の前に立ち「拙者は、どうしようもなく未熟者でござるが」と前置きした彼は耳まで赤く、顔にびっしりと汗が噴き出していた。
43 星月夜への招待状 -シャムロック-
星の美しい夜だ。 鳥の声もなくしんと静かな世界はやけに耳が痛くて彼女は顔をしかめるが、その世界でただ一人立ち尽くしている人の背には戦場で見た苛烈さもなくまるで抜け殻のようで、多くの死を目の当たりにしたせいか生きている人の匂いもしない。
それがとても悲しくて(どうか連れていかないで)と彼の背に手をのばす。
44 無意識
そろりと伸ばされた指先がつややかな髪に触れ、すぐに離れていく。
何が起きたのか分からず目を瞬かせる彼女の表情に慌てて距離をとって「花びらがついていた」と言い訳をすると、彼女は「ありがとう」と礼をのべて花のように笑う。
45 優しい痛み
ぎゅっときつく包帯を結ばれて思わず声をもらすと、じっとりとした目で彼女が睨んでくる。
それに何も言えず困ったように苦笑する彼に彼女は盛大にため息を吐き、痛ましい傷痕を慰めるよう血のにじむ包帯をやさしく撫でた。
46 矛盾
傷ついて眠る黒騎士に付き添う彼女の目から涙がとめどなく溢れる。
それは友人を失なわずにすんだことへの安堵の涙で、彼も因縁の相手に対してこれが最善の結果なのだと思えるようにはなったが、彼女の心を占めるその存在に胸の奥がぐずぐずと燻り息が詰まる自分はなんと狭量なことかと己を恥じた。
47 龍殺し
喉を焼いて流れ込む酒の効果か頭が振られるように目が回る。
親友の酒に付き合って潰れかけている彼に呆れながらも「大丈夫?」と心配そうに肩を撫でてくる手とふわりとただよう花の香りに彼女との距離を理解して、目眩はいっそう酷くなった。
48 追憶
やわらかな手に触れると心臓が破れそうなほど激しく鳴りはじめた。
このまま死んでしまうのではないかと錯覚しそうなそれを堪えてちいさな肩を腕の中に抱きとめれば、外の空気に冷えた服の下にある細さを知る。 自分にはない曲線と感触はあまりにも儚いのに、その肩に顔を埋め目を伏せて思い出すのはこれまで共に歩いてきた旅路に見た彼女の姿だった。
49 遠くの未来へ
色鮮やかな花束が白い墓石によく映えた。 目を細めてそれを見下ろす彼の横顔はいつもどこか寂しげでいて、これからもここを訪れるたびそんな表情で思い馳せるのだろうと容易に想像できる。
しかしそれでは墓石の下に眠る彼らもさぞかし心配するに違いない。
だから彼女は彼の手に指先を絡めて寄り添い、いつか彼がここで笑えるようになるまで彼の隣にいてとびきりの笑顔で生きていくと誓うのだ。
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50 星月夜への招待状 -レナード-
月の空へと立ち昇るそれはこの世界に喚ばれる以前に嗅いだものと違っていて、彼女は不思議そうな表情で彼を見た。 彼は彼女の言わんとしていることを察して苦笑い「ないよりはマシだ」と、また新たに火をつけ紫煙をくゆせる。
その仕草がくたびれたコートとよく似合っていて彼女は映画のワンシーンを思い出す。
51 レコードではない温かさ
娘のことを語る彼の横顔は、普段のものと違いやわらかいものに包まれているようだった。
けれど「娘と同じ年頃のあいつらが軍隊に追われる状況なんてさっさと終わらせてやりたいもんだね」と向こうで賑わう仲間たちを見つめて語る姿もまた、同じようにやわらかだった。
52 失くしたものを思い出した日
妻と娘と離れて暮らすようになったレナードの食生活は独り暮らしの男のそれで、異世界に呼ばれ物資の限られた砦の兵士たちと暮らしていた間も気楽で似たようなものだった。
だから彼らの仲間になって食卓に並ぶようになった温かいスープや彩り豊かなサラダ。 芳ばしく焼いたチキンにデザートのアイスクリーム。 そして「今日はあたしが作ってみました」と胸を張ってスプーンを差し出す彼女の姿は、<家族>という言葉を思い出させるに十分だった。
53 パフュームの誘い
すれ違いざまにふわりと薫るものをつい目で追いかけた。
それが彼女の匂いだと分かった彼は気まずそうに頭を掻くと、まるで見てはいけないものを見てしまったかのように足早にその場を離れる。
54 そいつはどこの馬の骨?
顔を合わせるなり「さっきのやつは誰なんだ?」とやや渋い顔で問い詰められる。
珍しく不機嫌さをあらわにしたそれに驚きながら「道を聞かれただけだけど…」と答えると「手を握られていただろ」とズバリ言い当てられて返す言葉をなくした彼女にやれやれと息を吐き、「いいか、ああいうときはだなぁ…」と慈悲も情けもない撃退方法を三十分かけて伝授した。
55 星月夜への招待状 -シオン-
カウンターの向こうで微笑みを崩さない彼に、美味しいお蕎麦をいただいて満足そうに息を吐いた彼女は深々と頭を下げて店を出ようとしたが、手早く店じまいをした彼が「送らせてください」と至極丁寧に願い出ると、和紙と木材を組んだ懐かしい灯りが月夜の道に二つの影を映す。
56 この症状の名は
細い目の下にある眼差しは優しいときと厳しいときがあることを知っている。
例えどちらであろうと向けられれば動悸を感じるのだから、彼女の憧れだった気持ちは別の感情に塗り替えられてしまったのだと自覚せざるをえない。
57 落ちる瞬間
悲しみや憎しみに囚われてばかりでは人は前を向くこともできず、他者を不幸にし、やがては己自身に負けて死ぬのである。
そんな生き方を多くみてきたが故の厳しい物言いにうつむいていた彼女は言葉を詰まらせたが、嗚咽が収まり、涙もこぼれなくなり、泣き腫らした目で月を見上げる姿は生きようと立ち上がる人のそれと同じで、死と隣り合わせの世界にいる彼は眩しそうに眼を細めた。
58 温に触れて音が鳴る
掌の下で熱を増していく彼女の頬にシオンは口許をゆるめる。
彼が声もなく笑った気配に「余裕ですね」とすねたように唇をとがらせる彼女をゆるりと組み敷いて、「そうでもないですよ」と己の生を司る場所にその手を導き、常より速い鼓動を刻んでいることを教える。
59 星月夜への招待状 -アグラバイン-
やはり何度見ても鋼のように鍛えられた肉体には目をみはるものがある。
夜の空気の肌寒さなど毛ほどにも感じていない様子に「すごいなぁ」と見とれていれば、刻まれた傷をさりげなく隠し「鍛えたいなら協力してやるぞ」とひどく優しい目をして彼は笑った。
60 ディナーの前に愛を問う
ロッカとリューグのどちらかを婿にどうじゃ?といきなり問われて、へ?と間の抜けた声をもらした彼女が夕食用のサラダボウルを落っことす。
それを見事に受け止めた老人の「気が早いかもしれんが…」や「せめてワシが生きているうちにあやつらの晴れ姿が見れればのう…」と思い悩む姿はまるで父親のようでもあって、彼女はなんだか微笑ましい気持ちになった。
61 紡ぐ人
喧嘩した。と低くうめいてテーブルに突っ伏した彼女の言葉に彼は苦笑し、暖かいハーブティーを差し出す。 ふわりと立ち昇る湯気のぬくもりと心を静める効能をもたらす香りに彼女の目元がゆるむと、その真向いに座った老人は彼女が言葉を織るまでただ待ち続けた。
62 ランチの前に愛を問う
ルヴァイドを婿にどうじゃ?といきなり問われ(今度はそっちで来たか…)と返答に困った彼女は洗ったシーツを無心に干していく。
それを手伝う老人の「あやつもそろそろ嫁をもらってもおかしくない年頃だしのう…」や「そうすればレディウスも安心して眠れるじゃろうな…」と思い悩む姿はやはり父親のようで和むのだが、少し離れたところで聞いてしまった本人が固まっていることをいつ教えようか、今度は彼女も悩んでしまった。
63 バージンロードへ連れていって
正装に身をつつんだ彼はどこか照れくさそうに目元をかいて「まさかこんな日がくるとは…」と感慨深くしみじみ呟いている。
それを見て、白いヴェールごしにくすくすと笑う彼女は「おじいさん、よろしくお願いします」と彼の大きな手をとり白いドレスをふわりと揺らして立ち上がる。
64 BIRTHDAY
丸太のように太い腕が赤ん坊を抱くと火のついたように泣き出してしまった。
一向に泣き止まぬそれに微笑んだ彼女が子を抱いて泣き止ませ、その隣で赤子の父親となった青年が苦笑する姿にかつて見た懐かしい光景を思い出し、しわの増えた老人の目に涙がにじむ。
65 沈黙の祈り
緑深き森のなかに木の杭をさした墓が並んでいる。
その中にひとつだけ離れひっそりと立つ墓石を見つけると、弔うこともできなかった親友の墓だ。と小さく告げた声は風にさらわれ、雲ひとつない青空に吸い込まれて消えた。
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66 星月夜への招待状 -ルヴァイド-
星が瞬く深い夜にテラスへ足を踏み入れた彼女は「こうやって話せる日がくるのをずっと待ってたんだよ」と明るく笑い、歓迎するように両手を広げた。
まるで秘密基地の場所を明かした子供のようだ。 自然と笑みがこぼれる彼は「そうか」と一言だけ返し、星を見上げる彼女の髪が風にさらわれて踊るさまを見つめる。 ちいさな背中、頼りない細い肩、やわらかな曲線で構成されたそれらは離れていても彼をずっと支えてくれた人のもので、悪魔に身体を乗っ取られた瞬間はもう二度と会えないのかと強い未練にもなった。
(お前がいなければ俺はどうなっていたのだろう)
未練がなければあのまま死んでいたのだろうか。 と、もう一つの可能性が脳裏をよぎるが、今となっては分からない問いに深追いすることはやめ、彼は彼女が愛する星空を共に見上げる。
67 その焔でこの身を燃やし尽くしてくれるなら
怒りに燃える目というものはまさしく生きた人間のそれであり、幾度となく他者から向けられたとして彼は無慈悲に剣を降り下ろすばかりであったが彼女の目には不思議と惹かれるもの感じていた。
理由は分からない。 だが、滞在していた村やそこに住まう者たちを失い、喉を涸らして彼を糾弾する声を聴きながら彼は彼女という存在から目を離せなかったのである。
68 グランヴァンは毒杯に変わる
真実はあまりに報われぬもので、しかしこれまでの報いを受けたのだとも思った。
すぐそばにいる部下の声も聴こえなくなり異形と化した己の身が凄まじい声で絶叫していることももはや他人事にしか感じられず、虚ろう意識のみと成り果てた彼は(しぬのか)とそれだけを確かに理解したのだが、それと同時に、記憶の片隅で誰かが「生きて」と泣いた声も確かに思い出していた。
69 あなたに見惚れてマナー違反
一挙一動が優雅なのは騎士の家系の出だからだろうか。
切り分けたステーキをゆっくりと口元に運ぶ動きをじっと見つめていると彼女の視線に気付いた彼はゆるりと視線を返してきてそれすらも優雅であった。
絡まる視線に自分の行動こそ不作法なものだと彼女は慌てて目をそらし、芳ばしく焼かれた肉の欠片を口に突っ込む。
70 熱の意味
崩れ落ちるやわらかな体を抱き留め強く引き寄せると彼女は許しを乞うように涸れた声で名を呼ぶが、それを呑み込み呼吸を奪う彼を受け入れた場所はまだ足りぬのだと離してくれず、彼もまた彼女を奪い足りずにいることに吐息で笑うと目の前の白い肩にやわく噛みつき、彼女の奥をさらに暴いてゆく。
71 憧憬
揺り籠から小さな手がはみ出ている。傍で本を読んでいた彼がその短い指をゆるく握ってやるとキャッキャッと嬉しそうな笑い声が響いて彼もまたやわらかく目元をゆるませている。
それをこっそりと目撃していた彼の妻と腹心の部下と機械兵士は皆一様に「今日も世界は平和である」と言わんばかりに顔を見合わせたのち、ティーセット一式をそろえてから彼とその子供の名を呼んだ。
72 星月夜への招待状 -イオス-
包帯だらけの細い体を支えながらミルクティーを差し出すと彼は小さく礼をのべたが、それでもその表情は硬い。 今日は本当に色々とあったから無理もなく、かろうじて一命をとりとめた彼の上司はまだ眠り続けていて安心できる状況でもない。
それでも目まぐるしく過ぎた一日は間もなく終わりを告げる。
これまでのことを思い返していた彼女が疲れたように目を伏せ彼の肩に頬を寄せると、彼も彼女の髪に頬を寄せ、いま共に生きていることを伝え合う。
73 可愛いは正義
イオスは小柄で華奢で可愛い顔をしている。
たった今も女性に間違えられ、嫌そうな顔を隠しもしないでナンパ男を撃退する光景を見ていた彼女の視線に彼は何か言いたそうに口を開きかけたが、それを彼女に手で遮られたうえ「イオス、可愛いことに罪はないのよ…」と真剣な表情で諭されことで彼にさらなる筋トレを決意させたのは言うまでもない。
74 追う者
夜の空に大輪の火花が咲く光景を初めて見た。
砲撃された音に似ていることで彼は一瞬身構えたが、色や形を変えてゆくそれに呆然と立ち尽くすばかりでいると隣で同じように空を見上げる彼女も「きれいだね」と嬉しそうに目を細めている。
いまだ敵対した立場にいる彼は(次の景色も君と見ることができたら)と声もなく願うことしかできない。
75 もっと好きになって
「背が伸びたね」とこの六年で離れてしまった目線を今になって彼女は知ったようで、そんなことを呟いた。彼はとうに知っていたことだが「そうかな」と言葉を返しやわらかな腰をさらに引き寄せると「…手もはやくなった」と彼女が頬を染めていうので、彼は渇望していた勝利を確信しより美しく笑った。
76 星月夜への招待状 -ゼルフィルド-
彼が人の姿であれば(目は口ほどに物を言うとよく言ったものだ)と多少は感心したふうに頷いていたかもしれないが、今は機械兵士の姿であったのでそれもできず、かれこれ一時間ほど斜め下から刺さってくる睨むようなもしくはじっとりと絡み付くような視線をただ受け止めていた。
原因はわかっている。自爆しようとした彼を彼女はとても怒っているのだ。
このままでは時間だけが過ぎていくばかりだが、かといって彼には謝る言葉を吐くつもりもなく、ならば彼女の気がすむまでこうして共にいれば良いと思考を切り換える。
彼も彼女も生きているのだから、それでいいと思った。
77 あなたの傷も痛みも全部私が引き受けたかった
しなやかで細く白い手がゆるりとのび、黒ずんだ血の痕を残す鋼の体を指先で撫でてぬぐう。
もはや落ちることのないそれを悲しむのでもなく喜ぶのでもなく彼女はひどく静かな眼差しで見つめ、湯に浸した布で黙々と拭いてゆく。
最後の仕上げにと、彼の腕に素足をかけて乗り上げ近くなった彼の頬に残る血痕も傷痕もゆるくぬぐったあと「必ず帰ってきてね」と騎士を見送る姫君のように冷たい鋼へキスをした。
78 推して参る
鍛練へ出掛け際に、ゼルフィルドの好きな食べ物は何?とそう問われ一瞬の沈黙が二人の間に降り注いだ。
機械兵士は物を食べないが人の姿のときは食事をするよう言われている。 一通り思案した彼は表情を変えず「特に思い当たらない」と正直に答えると、引き留めた彼女は「じゃあ、よかったらこれ食べて!」と赤い顔で包みを三つ彼の胸に押し付け猛然と走り去っていった。
そんな彼女の後ろ姿を見送っていれば、後ろから現れたイオスは彼の腕からひとつ包みを取り上げて「残さず食べるんだぞ」と釘を指し、横からもうひとつ包みを取り上げた彼の主は「帰りに花か菓子か買っていくといいだろう」と、最後に残った温かな包みに困惑する部下に助言する。
79 不変など存在しない
この六年で彼女は召喚師として成長し、自由騎士団の顧問召喚師となった。
召喚獣対策専門でもあるので以前より共に行動することも増え、前線に立って戦うことも増えた彼女はもう守られるだけの存在ではなくなった。
だからだろうか。 「またゼルフィルドと一緒にいられて嬉しい」とあの頃より女らしく笑うようになった彼女に焦燥めいたものを覚えたのは。
80 願い
ぐるん、と視界が回ったついでに頭の中がひっくり返ったのかと思った。
しかし何度目を瞬かせても目の前に彼のきれいな顔がある。 この状況は妄想じゃない。宝石のような紫の瞳は熱っぽく揺れて、シーツに埋もれる自分の両手には彼の長い指が絡んでいる。
呼吸をすれば彼の匂いも温度も吸い込んでしまいそうでつい息を止めてしまえば「お前に触れる許可がほしい」と初めて彼の願う声を聴いた。
81 エスコートするって言葉をご存知?
高いところにいれば視点も高くなって、見慣れた世界でも少しは変わるものだ。
しかし景色に見とれるどころか彼が一歩踏み出す振動で体が落っこちそうになる。 慌てて彼の頭や顔にしがみついて「もうちょっとゆっくり歩いて~!」と無茶なお願いをしてみるのだが、彼は無言で大きな片手をのばし肩にいる彼女の体を支えただけで、きゃあきゃあうるさい悲鳴に構わずズンズンと歩き出す。
82 あなたが生きていることがどうしたって幸せなのです
「ゼルフィルドのことが好きよ」と小さく言ってから照れたように彼女が笑った。
しかし、彼の表情はまるで変わらない。 赤くなることも嫌そうな顔もない。 寡黙な彼らしく言葉なくいつものように紫の瞳でひたと彼女を見つめればそれだけで彼女が幸福そうに笑ったので、奥底から込み上げる正体不明の衝動のまま彼はその人を抱きしめる。
あとがき と OMAKE
終わったあああああああああああ!!!
ここまでお付き合いしていただきまことにありがとうございました!
とても楽しく書かせて頂きました…時系列とかバラバラですみません…
雰囲気だけでも(笑)お楽しみ頂けたら何よりでございます。 ありがとうございました。
しかしあと少しで100個だったので女子メンバーとか他の人で書いても良かったかなぁと思いつつ…。
とりあえず名前の一文字でタイトルつけることが優先だったので意味とか二の次でした。
分かりづらかったかもしれない単語の一部~↓
*Poor talker 口下手
*グランヴァン 偉大なワイン
以下、ボツになった物たちです。
OMAKE 01 (マグナ)
初めての海遊びにはしゃぎすぎてか波の飛沫が顔にとんで目にしみた。
まばたきもできないほどのそれに思わず顔を抑えてうつむくと、かすかに開いた両目に「大丈夫?!」と慌てて駆け寄ってきた彼女の普段は見えない胸元と白い脚が間近に見え、それを意識すると今度は別の意味で目を開けていられなかった。
OMAKE 02 (ネスティ)
夜が明けて空の白む頃が彼の起床時刻だ。
人間の肉体を得てもその習慣だけは変わらず、早く起きたぶん仕度や読書にいそしむことが彼の常だったのだが、いつの間にか隣に眠る恋人のあどけない寝顔をぼんやりながめることが増えてしまい朝の時間が足りなくなっていた。
もっと早く起きるべきかなどというくだらなくも割りと切実で密かな悩みに今日も悶々としていたのだが、頬をすり寄せてきた彼女の甘い「おはよう」の一言で彼はとうとう考えることをやめてしまった。
OMAKE 03 (バルレル)
恋をした天使のお伽噺が語られるなら、恋をした悪魔のお伽噺も語られて良いではないか。
OMAKE 04 (レオルド・レシィ)
レオルドとレシィは彼女に甘い。 と渋い顔で断言してきたのはネスティ・バスクであった。
彼女を守るべき護衛獣がそれでどうするのだ、と何故か正座させられた二人が延々とお説教をくらっていたところで噂の彼女が現れ、その場にいる三人に身ぶり手振りで大道芸の迫力を伝え「一緒に見に行こう!」と誘うのだが、現在が悪魔との抗争まっただ中であることを指摘しようとしたネスティをさえぎり微かな笑みと満面の笑顔で了承した彼らはまさしく彼女に甘い護衛と成り果てたことを認めざるをえない。
OMAKE 05 (シャムロック)
その笑みを花のようだと思うほどには彼女に心奪われている自覚はあって、収まらぬ動悸に彼はたまらず花びらを手に握りこむ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました(^^)
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