<素敵な若様の憂うつ 後編>にある、***の部分にこんなことがありました。
っていうお話でした。笑。
「―――さて、。 仕切りなおしをするとしよう」
龍の若様、すごい笑顔でなんか言い出したんですけど。
シンゲンが部屋を出て行って、しばらく。
なんとなく離れがたくて、あたしとセイロンは二人とも床に座り込んだままここ数日間の隙間を埋めるようにお互いに身を寄せ合っていた。
ああ幸せだなぁなんて幸福の余韻に浸っていれば、突然思いついたようにセイロンが冒頭のようなことを言い出したのだけど。
―――仕切りなおし? 何の??
言葉の意味が分からずポカンと座り込んだままのあたしにセイロンはやっぱり笑っていて、「立てるか?」と手を差し伸べて促した。 ブランケットを頭からかぶったままのあたしはその手をとってよろよろと立ち上がる。
「セイロン…? って、きゃあっ!」
彼はあたしの腕を掴んでしっかり立たせると、そのまま横に抱き上げてしまった。
シャツを羽織っただけの姿では外に逃げることもできず、剥き出しの足では暴れることもできずちょっと怒ったようにセイロンを睨むことしかできない。
けれどセイロンはそれすらも愉快そうに笑って、そのままあたしをぎゅうっと抱きしめてきた。
「風呂上りだからか、良い匂いがするな」
「え、あの、セイ、ロン…あっ、あたし今、ひどい格好で…」
「構わぬ。 それに、少なくとも我にとっては良い眺めだぞ」
「なっ…」
いいながめって! いい眺めって言われた!
今更ながらカーッと込み上げてくる羞恥にたまらず耳まで赤くして、めくれ上がったブランケットを手繰り寄せてなんとか足元を隠す。
そんな抵抗を「はっはっは」と笑うセイロンが、今これから何をしようというのか分からなくて怖い。 いや、本当はちょっと分かってる。 仕切りなおすというのは、あの夜のことで――。
「で、でもセイロン。 あたし、…セイロンにひどいことを」
「ひどいこと?」
「…何も知らないのに、騙したみたいにセイロンの大切な部分に触って……」
ごめんなさい。
言いにくそうにして顔を俯かせるあたしを、セイロンが「なんだ、そんなことか」と笑った。
「我はそなたなら構わぬと言っただろう」
「で、でも」
「はさっきから謝ってばかりだ。 我としては、もっと別の言葉が聞きたいのだがな」
別の言葉?
首を傾げ、どういう意味だろうかと思案している間にベッドへと降ろされ、座らされた。
自分がいつも寝ている、何の変哲もないベッド。
真っ白なそれを目にして心臓が破れそうなくらいバクバクと脈打っているのが分かる。 やば、だいぶ緊張してるよあたし。 顔色なんて赤くなったり青くなったりしてるんじゃないか不安になる。
「セ、イロン」
「…もう一度言ってほしいのだよ」
あの夜の、全ての始まりの言葉を。
セイロンはそう静かに呟いてふわりと赤衣を揺らすと、あたしの前にひざまずく。
恭しく礼をとるようにして頭を垂れ、黄金の角をあたしによく見せた。 龍の角。 護衛獣のレシィにも折れた角が生えていたけど、何度見ても<角が頭部から生えている>という種族の違いに不思議な気持ちになる。
「龍人族の長の妻は、龍の巫女であるのも同義。
仮に夫婦となったとして、我がやがて龍へ至れば我と契るそなたは人と違うモノとなる」
「人と…違うモノ?」
「龍の持つ御宝が不老不死を与えるなどと囁かれるのはあながち間違いではない。
――龍へと至った者と身を契ることで、そなたは人ではなくなる。 不死にはならぬが長寿を得て、老いることはなくなり巫女として他者と生きる時間を隔てられる。
ラウスブルグの先代のように領地を護るようになるだろう我と同じ時間を生きることとなるのだ」
まあ、龍へ至れればの話ではあるが。と、苦笑するセイロンはあたしの足を手にとって口付けた。
セイロンの唇の熱は冷えた指先によくしみる。
思わずぴく、と肩を揺らすあたしの反応にセイロンは目を細めて、親指の爪の硬い部分に歯をたてた。
「っ…セイロン」
「――親しい者の死を何度だって見ることになろう。
人と違う生き物になるのは、そういうことだ……そなたはそれでも、我を愛し、生きてくれるか?」
それは、人間ではないヒトがもつ言葉だった。
彼が龍へと至れば、あたしもまた人間ではないヒトになるという。
その覚悟があるのか――分からない。 今、ここで答えなんて出せない。 だってあたし達はようやくスタートラインに立ったというのに、その先にある答えをどうして導き出せるだろう。
(――でも、)
今にも溶けてしまいそうな思考のなかで、ふわりと浮かび上がるのは。
目の前にいるこの人への、恋心。
セイロンを大切にしたいって気持ちがどめとなくあふれて、セイロンが好きだって気持ちが心を満たして、無意識のままに腕を伸ばす。
さらり、と指先に触れるのはセイロンの髪。
足の指先を濡らすほど愛撫していたセイロンが顔を上げて、震える指先で何度も髪を撫でるあたしに目を細める。
「…いまは、先の答えなどいらぬ。 共に過ごしていずれは出るものだと知っているからな」
「ん、…っ」
「ただひとつ、そなたの言葉がほしいのだ。
――今度こそ間違うことなく、その意味を知った、そなたの心で紡いでほしい」
赤い瞳が、情欲に揺れている。
無骨な指があたしの頬を撫でて、唇を撫でて、求めるように這い回る。
でも、求めているのはセイロンだけじゃない。
きっと、あたしも。
「…セイロンが好き。
だから、あたしにセイロンの<逆鱗>をみせてくれる…?」
――――薄く残っていた情痕をたどるように舌を這わせ、湿った肌を吸い上げる。
そうすれば、熱に穿たれ翻弄されてばかりの細い身体が大きく跳ねた。
閉じることを忘れて呼吸を繰り返す唇がか細い声をもらし、今よりもさらに体温を上げてセイロンを締め付け、すがるようにブランケットを握り締める。
しかし、太腿を高く抱え上げられて大きく開かされたとなれば涙に濡れた瞳は大きく見開いて、すがっていた手で顔を覆い隠して目を背けた。
「やぁっ、それ、やだ…!」
「――何故だ? 繋がった部分がよく見えるぞ」
「あ、ぁっ」
「二度目だから、少しは痛みも和らぐだろうかと思っていたが…っ」
が痛みを感じることがないように、よく解しておいたつもりはあったが。
彼女の中がやわらかで熱く心地よいためセイロンのほうが理性が効かない。 彼女の膣がセイロンに絡みつくようにして締め上げるのはもちろんのこと、溢れるほどに滴らせる愛液が潤滑油としての役目を果たし、それが彼女の肌に落ちて、やわらかな腿を濡らしてセイロンの肌と擦り合う刺激が興奮を誘ってくるものだからこっちの気がどうにかなりそうだ。
なかなか誘い上手だ、と喉奥で笑ってしまうと、それに気づいたは悲しそうに眉を下げた。
「セ、イロン…っぁ、き、…っきもち、よくな…いっ?」
「いや、その逆で困っている――、少し、起きられるか?」
細い体を膝の上に抱き上げてから、一度離れた結合部を再び繋ぎ合わせる。
自分の重みでセイロンを受け入ることとなったが泣きそうな声をあげたが、唇を重ね合わせることでそれをセイロンの中へと飲み込んだ。 くぐもった声が、絡み取る舌の熱さが彼女の必死さを伝えてくる。
それがいとしくて堪らず、己の内に込み上げる衝動のままやわらかな臀部を掴んで一気に攻め上げた。
「ひぅっ、ぁ、あぁ…ッ!」
両腕をセイロンの首に絡めて、爪を立て、溺れまいと抱きしめてくる。
臀部の肉を揉みしだいて突き上げられる律動に全身を震わせ、もっとと、ねだるようにセイロンの腰に絡む自分の足の腿のやわらかさがどれほど厭らしいものか、はまだ知らない。
ああ、まったくなんと可愛いことをしてくれる。
セイロンは深く息を吐いて暴れたがっている本能を押さえつけ、必死に呼吸を繰り返して身体を震わせているの髪を撫でた。
「――、」
「ぇ…ぁ、どう、したの…?」
「<逆鱗>を見てみるか…? 今なら、よく輝いているだろう」
ず、と音をたてて繋がりを解く。
その動きにがぶるっと身体を震わせたが、セイロンは彼女の唇にキスをすることでごまかして、背を向けた。 いきり起つ自らの物がを求めてやまないが、赤く灯る鱗が見たいと言っていたことを思い出したのだ。
「どうだ?」
「…わぁ、きれい…」
感情の高ぶりに加え、情交によって龍気がセイロンの全身に廻っている。
セイロンのもう一つの心とも呼んでも過言ではないそれを目の当たりにしたが、感嘆の声をもらした。 まだ整わぬ呼吸のままセイロンの背に顔を寄せ、すぅっとやさしく肌を撫でる。
「っ、…それは」
「あっ…ご、ごめん! ヤだった?」
不快になるどころか、肌が粟立つほど気持ちがよかった。
しかしそれを伝えるのもなんだか癪で、セイロンは首を横に振るだけにとどまる。 まだ二回目だというのにあっさりとセイロンの弱いところを知られるのは、男として少々複雑だ。
「ね、セイロン」
「何だ?」
「…ここに、キスしていい?」
―― 一瞬、何を言われたかすぐに理解できなかった。
しかし彼女はセイロンの返事を待つことなく、は自分の唇を<逆鱗>にやさしく押し当てた。
ちゅ…とかわいらしい音をたてて、やわらかな感触が熱を持つそれに触れる。 びくっと肩を揺らすセイロンに気づかないのか、次第に夢中になって何度もそれを繰り返した。
「ん、…ふ…っ」
「…っ」
「んむ…っは、ぁ…セイロン…」
背後から響く、の声。
それを耳にして自然と腹筋に力が入る――背を向けているため彼女の表情が見られないことは残念だが、口づけに夢中になっているの手がいとしそうにセイロンの肌を撫でて、想いを注ごうとしているように懸命に繰り返すそれに、彼女がセイロンの熱に奉仕しているかのような錯覚を起こす。 いや、ある意味それに近い。 <逆鱗>はもうひとつの性感帯でもある、それを恋しい女にいとしむように口付けされて触れられて、煽られぬ男はいない。
「…はッ…、やはり据え膳は、性に合わぬな」
「え…、ぁ、んぅっ…!」
「ふ、っ…どんな表情で我に触れているのか見られないのは残念だったな…そなたの顔が見たい、よく見せてくれ」
「ぁ、セイ、ロン…セイロン…ッ…あっ、ァ、ん、あぁ…――っ!」
が眠る寝台が二人分の重みを受けて、ぎしぎしと大きく鳴り響く。
夜の肌寒さなど入る隙間もないくらい熱篭もり、淫靡な空気が漂っている。
――この部屋は、の匂いに満ちていた。
甘く、やさしく、やわらかな匂い…まるで、彼女そのもののよう。
絡めあうようにして繋がれた指と、重なり合う手のひらから様々な想いと鼓動を伝え合いながら、限界の果てを共に目指して溶け合っていく。
そうして互いの熱を感じながら、やさしい夢に堕ちていくのだ。