「―――ふむ、酒は飲まれに呑まれてこそ…とは言ったものだが」


 言い終わると同時に、青年が持つ扇がパチンと音をたてて閉じられた。

 彼の、堂々たるその立ち姿は何者もの目を惹いた。
 目の前の光景を興味深そうに眺めた面立ちを彩る緋色の髪は鮮やかで、気品ある端整な相貌によく映えた。 緋色の髪の間に覗く龍人の証を、通りすがりの人々は物珍しそうに眺めて過ぎていくが、彼自身は気にしている風もない。
 青年の三白眼が、きょろりと周囲を見渡す。
 どこもかしこにも活氣に溢れた店内には陰鬱とした負の氣はまるで見当たらず、奏人が紡ぐ音色に踊る者や歌う者、酒盛りを楽しむ人々がもたらす喧騒や豪快な笑い声に、青年は愉快そうに目を細めた。

「いっそここまで呑まれると爽快であるな、あっはっはっは」
「あっはっはっはー…って、笑い事じゃないわよセイロン!」

 他人事のようにその光景を楽しむ若様ことセイロンに、あたしのツッコミが真横から入った。
 彼にとっては他人事だが、あたしにとって他人事ではない。
 いつまで経ってもネスは帰ってこなくて、何かあったのではないかと心配になって探しに来てしまったのだ。 この店の中にいるはずなのだけれど、広く幅締めた店内にひしめく人波にさえネスの姿が見当たらない。 ど、どこかで潰れてるんじゃないのこれ…?!

「ね、ネスを探さなきゃ…って、あわわわっ」
「おお、全裸になったぞあの男。 我ら龍人族も酒を嗜み、心地よく酔うものだが人間は随分と開放的になるのだな」

 慌てて顔を抑えるあたしの反応に楽しげに目を細めながら、またもセイロンが笑う。
 何故セイロンがここにいるかと言うと、深夜に宿を出ようとしたあたしに興味を抱き、ここまでついてきてしまったのだ。(断っても無駄だった)
 ………どうやら、この若様はネスを一緒に探してくれるというつもりは全くないようだ。
 うきうきと、どこか弾んだ様子で空いている席を目で探している。

「住民に話を聞いたところ、グラッドがここに入っていったということは間違いないであろうから、そなたはゆっくり探すと良い。 我はここで、この空気を楽しみながら酒を飲ませてもらうとしよう」

(アンタお酒が飲みたかっただけかい…!)

「それと、これは忠告なのだが…」


「――お、ねえちゃん! こっちに来て一緒に」


 「飲まねえか?」とあたしの肩を抱こうとした大きな手が触れるよりも先に、セイロンの手の中で旋回した扇子によってバシン!と打ち落とされた。
 赤ら顔の男が、目を丸くして「あれ?」と叩かれた手を眺めている。
 アルコールによって鈍くなった男の思考が正常に働きだす前に、セイロンの扇子が再び手中で旋回―――ス、パァンッ!と気持ちいいほど澄んだ音をたてて男のこめかみを殴打してそのまま払い倒し、大柄な男の体は床の上にひっくり返って動かなくなった。 え、何? 何事?!

「え? え??」
「―――と、まあ、そなたはこのように絡まれる場合もあるので、気をつけよ」

 呆然としているあたしを横目に、セイロンは扇子を開いてぱたぱたとあおぎながら席に着いた。
 あまりにも滑らかな動作だったので、あたし自身も何が起こったか良く分からない。
 ひっくり返ってぴくりとも動かなくなってしまった男に「こんなところで寝るなよー」と野次が飛んでいるが……ええと、もしかして、助けてくれたのだろうか。

「え、えーと、あ、ありがとう?」
「うむ」


 よく分からないまま御礼を言えば、セイロンは大仰に頷いてから酒を注文し始めた。













「えーと、ネスは、っと…」

 そんなセイロンをその場に残し、あたしは店内に視線をめぐらせる。
 周囲は大分盛り上がっているようだ。
 男の人は半裸だったり全裸だったりと相当目のやり場に困るのだけれど、ウエイトレスの女の人たちもかなり薄着になって楽しそうに笑っていて、客も従業員もみんな楽しそうだ。 あたしはここまで酔ったことがないけれど、人間がこんなに開放的になるなんてお酒ってすごい。

(ネスも、息抜きになったかな)

 ネスがグラッドと出掛けていったと聞いて、本当は嬉しかった。
 この時間から出かけたということは飲みに行ったのかな?と解釈していたけれど、あのネスが、誰かと酒場に行くなんてことは今までなかったから。
 ”今度はあたしも一緒について行こうっと”と全裸&半裸の人々(トレイユは開放的過ぎる…!)から視線を背けて、カウンターテーブルの周囲に人だかりが出来ているのを発見。
 好奇心からそれらに近づいて行けば、大柄な身体に鎧を纏った男―――傭兵とか戦士とか、そういったものを連想させた―――が、赤ら顔のまま酒瓶を片手に掲げ、テーブルに乗り上げている。

「次の挑戦者はいねえのかー! こんな若い兄ちゃんにやられっぱなしでいいのかお前らー!」
「おおー、スゲー!」
「あの兄ちゃん、意外とやるなー」

 どうやら飲み比べの挑戦者を募っているようだ。
 カウンターテーブルで対戦を見守る野次馬の周囲には、惨敗者らしき人たちが気持ち良さそうにいびきをかきながら転がっている――そこまで視線をめぐらせていれば、その惨敗者の中に、とても良く見知った顔を見つけて悲鳴が出た。

「っぐ、グラッド?! しっかりして!」
「ん〜、もう飲めらいれすミントさん〜」
「ギャアアやめてよあたしはミントじゃないってば抱きつくなー! そ、それよりネスはどこなの?!」

 腰にすがりつく駐在軍人を蹴り落として、その肩を掴んでがくがくと揺さぶる。
 耳まで赤くし、眠気にぼんやりとした目で何度か瞬きをした彼は視点をあたしに定めると、にへら、と笑いながら人だかりの中心を指差した――この時点で既に嫌な予感を抱きながら、おそるおそる、あたしも中心を覗き込む。


 ダンッ!


「―――次の酒をくれ」


 静かな声音とは反対に、荒々しくジョッキを置く音と同時にわぁっと歓声が湧き上がった。
 カウンターテーブルに備えられた椅子からぐらりと崩れ落ちる男には目もくれず、飲み比べの勝者は注がれた琥珀色の酒に艶やかな視線を向けて、すでに対戦者がいないというのに湯水のごとく飲み干していく。
 気品ある綺麗なお顔を朱に染めながら飲み干すその姿は普段生真面目な彼からはとても考えられないほど妖艶な空気を醸し出しており、ウエイトレスの女の子も酔っ払った男客もその光景に見惚れるように息を吐いて見守っていて何だか妙な光景が―――って、ちょっと待て眼鏡えええええ!!

「ねねねねねネス?! 何してるの?!」
「…?」

 人垣を掻き分け、がっしりと肩を掴んだあたしにネスはぼんやりとした眼差しを向けた。
 黙々と飲み続けているので相当酒に強いと思いきや、思考が鈍くなるほどには酔っているようだ。 熱に揺れる黒瞳をぱちぱちと瞬かせたあとで、柔らかく目を細めてあたしの胸に顔を寄せるように腰を抱いてきた。

…」
「ひえええっ! ちょ、ひ、人前で…」

 慌てるあたしに構わず、ぎゅうと抱きしめてくるネス。
 ――ウワオ、珍しい。 珍しすぎる、あのネスが”甘える”(?)なんて姿、この先一生見られないかも。

(なんか、か、かかか可愛い気が…記憶と網膜に焼き付けておこう…!)

「お、もしかしてねえちゃんがこいつの嫁さん?」

 役得と言わんばかりにぎゅーっと抱きしめるあたしに、挑戦者を募っていた傭兵の男が声をかけた。
 「嫁さん?」と聞かれるとものすごく恥ずかしかったけれど、婚約もしてるし”一応、そうなる予定ですけど”としどろもどろに返事を返せば、「アンタ愛されてんねー」ととても楽しそうな笑顔を見せた。
 あ、この人、強面かと思えば意外に愛嬌のある顔だ。

「えーと?」
「この兄ちゃん、あんたに心底惚れてるよ。 いやー、話聞いててこっちまで恥ずかしくなってきたな! 初々しいのがまたいいな! 俺もどこかに腰を落ち着けて、かわいい嫁さんもらいたいもんだなあ」
「アハハハハ、ガンバッテクダサイ…(羞恥プレイですかコレ)」

 周囲の人々の視線が生温かすぎて、変な汗が出てくる。(何を話したのネスよ…!)
 とにかくこの場から離れようとネスの腕を引っ張るけれど、ネスは離れようとはせず、あたしの腰を抱いたまま空いた方の手でジョッキに酒を注いでいる。

「まだ飲むの?!」
「僕は、まだ、大丈夫だ」
「いやいやいやいや目が据わったまま言っても説得力ないんですけど」
「君も飲むといい、トレイユの酒は聖王国でも”名酒”とされてるだけあって、美味い」

 珍しい、ネスがそんなことを言うなんて。
 驚きのあまり目を丸くしていれば、ネスはいつになく嬉しそうに口元を綻ばせて、小さな呟きを落とした――お酒で気持ちが緩んでいるせいか、その微笑はとてもとても、柔らかくてやさしい。



「……知らない人と飲む酒でも、こんなに楽しいことだとは知らなかった」


 それは、本当に。

 本当に、とても小さな呟きだったけれど――あたしの中で、温かいものが身体の中を駆け巡った。
 ほんのりと温かくなって、じんわりと何かが込み上げてくる。



 ネスが、そう言ってくれたことが嬉しくて嬉しくて堪らない…そんな感情に似ていると思う。




「そっか…ねえ、ネス」
「?」
「今度は、あたしも一緒に連れてってね」
「ああ…また来よう」

 嬉しさのあまりぎゅうと抱きしめ返せば、ネスも嬉しそうに声をこぼして抱いてきた。
 …ああ、こんな気持ちを幸せとも呼ぶんだろうなぁ…なんて、感極まってちょっと泣きそう。

「いやぁー、お熱い! いいねぇー!」
「ほら、ねえちゃんもぐぐっと! 一緒に盛り上がろうぜ!」

 周囲からも囃し立てられ、ジョッキを口元に持ってこられては断るのも気が引けた。
 味オンチであるはずのネス絶賛のトレイユ地酒の琥珀色がとても綺麗で、お酒独特の匂いの中に不思議な花の香りもして、確かに美味しそうだ。
 ネスの膝に乗せられたままってのはちょっとアレだけど、ネスも膝から降ろしてくれなさそうだし、ただ一人素面のあたしが何か言っても無駄そうだ。

「じゃ、じゃあ、少しだけ」

 せっかく、ネスも皆も楽しそうにしているのだ。
 ここであえて空気を壊す必要もないし、トレイユに来た良い記念になるかも。
 香り良いそれを目の前に持って、あたしはぐっと気合を入れた。



「い、いただきます!」


「おー、ねえちゃんいい飲みっぷり……、あ゛




 ―――――――― 一発で、意識がとんだ。















「あーあ、一口でオチちまったなぁ」
「ねえちゃん大丈夫かー?」

 それぞれに出る言葉には、案じる響きがこめられていた。
 ネスティにもたれかかるようにぐったりとしている少女を、誰も彼もが心配そうに覗き込んでくる。
 一口で意識を飛ばした彼女にジョッキを持たせた男が酒瓶のラベルを見直して「げっ、一番強いの勧めちまった」と声を上げる様子をネスティはぼんやりと眺めていれば、傭兵の男がその眼前でひたひらと手を振った。

「あーこりゃどっちも限界だな、兄ちゃん、二階に部屋があるから今日は泊まってけよ。 こっちの支払いは、そこで転がってるグラッドの奴ににやらせとくから」

 ”あと、ねえちゃん運ぶの手伝ってやろうか――”その言葉が終わる前にへと伸ばされた手を、ネスティは寸前に掴み取った。
 剣を持つ者特有の、厚みのある男の手の感触が伝わる。
 それをやんわりと遠ざけながら、眼鏡の奥の黒瞳が厳しい光を浮かべて、傭兵の男を見据えて告げる。



「―――彼女に、触るな」



 酒の熱で喉が焼け、掠れた声で紡がれた低い、低い、警告のようなそれ。
 しかしすぐにはっと表情を強張らせると、呆然と見つめてくる視線を避けるようにネスティは俯き、元の落ち着いた音で謝罪の言葉を紡ぐ。

「……色々、世話になった。 すまない」

 言葉に、やはり、傭兵の男は目を丸くした。
 そのあとで――やはり赤い顔のまま、”ほんっと愛されてんな〜”と愛嬌のある顔でにっかりと笑顔になり、ネスティの肩を叩いて豪快に笑った。


「こういうときは、ありがとう、って言うもんだ!
 今度は嫁さんとも一緒に飲もうな、兄ちゃん! 楽しかったぜ!」













(…まだ目が回る…)


 を抱えながらも、ネスティはふらついた足取りで酒場の二階―― 一番奥の部屋に向かう。

 少し前に降った、雨の余韻だろうか。
 廊下の空気はわずかに雨の匂いや湿気を孕んでおり、漂うそれは決して爽やかなものではなく、普段であればこのじっとりとした感覚を不快に思うのだが、今だけは別だった。
 何故なら、それを不快に思うところまで思考が回らない状態だからだ。
 逆に心地よいとまで思ってしまうのだから、相当重症でもあるらしい――階下から響く、心地良い賑わいの声を片耳にいれつつ、そんな自分の状態を思考の片隅で冷静に判断しながら、アルコールで昂ぶった熱汗で額に張り付く前髪を掻き上げ、ネスティは深く息を吐いた。



”彼女に、触るな”



(…さっきのは、少し、みっともなかったな)

 酒で自制が利かなくなっていたせいもあるのだろう、気がつけばそんな言葉が出てきた。
 他の男がに触れると考えたら、無性に不快な感情が込み上げてきたのだ――あんなみっともない姿、彼女には見せられない。 眠ってくれていて本当に良かったと思う。

 葛藤や後悔にも似たものを抱いている間に、部屋に辿りつく。
 狭く薄暗い室内には、二つの寝台と、必要最低限の家具だけが揃えられている。
 明かりを灯すための燭台には目もくれず、ネスティは真っ直ぐに寝台に向かうと、すうすうと寝息をたてるを寝台にゆっくりと下ろし目許にかかった前髪を掻き上げてやった。

…」

 アルコールの熱にじんわりと汗を浮かべ、頬も耳も真っ赤にして、ネスティの目前で無防備に眠る姿がどうしようもなく愛しい。
 彼女を想うと、それだけで胸の奥にあたたかいものが流れ込んでくるのが分かる。

「っ、…好きだ」
「んー…」

 むずがる子供のような反応に更なる愛しさがふわりと込み上げて、露になった額に唇を落とす。
 額から目蓋、頬、唇の上とネスティが持て余す熱を与えていれば―――不意に、悪戯を思いついた子供のようにネスティの黒瞳が細められた。
 それはマグナやトリスが悪戯を企む笑みと似ているということは、彼自身も気づかない。

…」

 無防備な寝姿に愛しさが募った故か。 それとも酔いの効果か。
 彼にしては珍しく、蕩けるような響きをこめて、恋人の名は花香る少女の耳元で囁かれた。
 肩を抱いて横たわる体をゆっくりと仰向けにし、服の裾に手をもぐりこませる。 てのひらで撫でるように上昇していけばそれに合わせて腹部の肌が露になり、鎖骨にまで行き付くと、甘やかに色づく蕾をたたえた膨らみがネスティの眼前に現れた。
 外気に触れて粟立つ素肌は誘惑するような色香を立ち昇らせて、無意識に喉が鳴る。
 酒で熱を帯びた唇を汗ばんだ肌に寄せ、ネスティを誘う胸の蕾を口内に含んで味わうと、晒された身体がぴくりと跳ねた。

「んっ…」

 伏せられた睫毛が切なげに震える。
 普段は寝込みを襲うなどというこんなふざけた事はしないが、酔いのせいかネスティは行動の意味を深く考えなかった。 ただ。

(もう一度、声が、聴きたい)

 ただただ、彼女の声が聴きたくて。
 夢の中に落ち込んだその意識をどうやって浮上させてやろうかと鈍い思考を巡らせ、湿った水音を奏でながら主張を始める蕾を弄び、ゆるゆると手を下腹部に降ろしていく。
 下衣を膝上まで引き下ろして薄布越しに少女の秘園の入り口を柔らかく絵取れば、細い腰がびくりと跳ねて悦びを示した。
 ツンと主張を始める蕾を舌先で嬲るように愛でながら、布越しに秘園の入り口を指で擦りつけ、眠れる彼女の情欲を煽る。 じわりと伝わる彼女の肌の温かさと染み出してきた愛液に堪らず、息が荒くなる。

「ん、っ…は、…ぁ…」

 ネスティの頭上で、規則的だったの呼吸も乱れ始める。
 愛される身体は次第にさらなる熱を帯びて汗ばみ、無防備に眠る彼女を<女>へと変えていく。
 その瞬間は男としての本能を刺激して、砂嵐に似た目眩のようなものがネスティが見ている世界をぐらりぐらりと揺さぶる―――乾きに似た焦燥が、ネスティの喉をごくりと鳴らした。

…っ」

 急くように、にとっては最後の砦でもある薄布をも引き下ろし、湿り気を帯びたその場所を可愛がるように愛撫を繰り返す。
 晒された表面をゆっくりと撫でるように指先を擦りつけ、びくびくと腰が跳ねる様子を楽しみながら、視線を落とさずとも分かるほど濡れているその場所を彼女のモノで濡らしていく。 泉から溢れる蜜は撫でれば撫でるほど量を増し、ネスティを誘う。 その先を促す。
 それだけでは我慢が出来なくなれば、されるがままに開かせた脚の間に顔を埋め、熱帯びる唇で直にその場所を探り当てた――敏感な部分ごと、音をたてて吸い上げる。

「んんっ!」

 その途端に、あられもなく開いた腿がひくっと震え、彼女の体温が狂ったように熱を上げて、さらなる意識の覚醒を促していくのが見て取れた。 閉じた目蓋が動き始めているのは、彼女が目を覚ます予兆だ。 目覚めの時は近い。


「んっ、はぁ、ぁ―――ネスっ…」


 まだどこか夢落ちたままの口から、喘ぎ声と共にネスティの名前が落ちた。

 それに一瞬、思考が完全停止をするもすぐに動き始めた。
 夢の中でも彼女を抱いているのは自分だろうか――そんな想像に胸を躍らせながら舌を伸ばし、とろりと溢れ出す愛液を一滴も零すまいと、卑猥な音をたててすすり上げる。
 今まで何度も彼女を抱いたというのに、どうしようもないほどまでに彼女に餓えているようだ。

「っん…!」

 飢えと乾きを満たすように、ネスティは秘奥へ深く口づけた。
 蝶が花蜜を搾取するように…いや、これはそんな優雅なものではない。
 延々と続く砂漠を旅した男が、無我夢中で喉の渇きを癒そうとする行為に似ていて、オアシスとされたの身体が、貪るように敏感な場所まで舌を這わされ一際大きく跳ね上がった。


「やあ、ぁ…っ! …はぁ、はぁっ…――ぁ、…え?」


 動揺と困惑に満ちた声が、ネスティの頭上に降り注いだ。
 飲み干す行為を止めず視線だけをに向ける。 頬を火照らせ、濡れた瞳でネスティを見下ろす彼女の、脚を開かれたあられもない姿に征服欲が煽られる。

「ね、ネス?! なっ、何し…ひ、やぁっ…!」

 制止の声に構わず舌を伸ばし更なる奥底を目指して彼女の秘奥を掻き回せば、制止は悦びに塗り替えられた。
 弓道者が持つ、美しくしなる弓のように背を仰け反らせながら、すがるようにネスティの髪を掴む。
 その反応にますます煽られてか、言葉を交わす余裕を失くしながらネスティはただひたすらその身体を味わった。 呼気を荒く吐き出す熱気に眼鏡が曇るのも構わず、彼女を悦ばせようと狂ったように掻き回す。 彼女の奥が震え、柔らかく収縮を繰り返しながら快楽の淵に達したとしても、悶える身体を押さえ込みながらなおも続けた。

「はぁ、ぁ…ん、ぅう…っ!」
「―――っはぁ、…」

 びくびくとつま先を痙攣させて、ぐったりとしている身体を救いあげるように腕に抱く。
 とろりと絡み合う視線は互いが情欲に溺れていることを知らせて、乾いたネスティの心を満たして――向けられた眼差しに堪らなくなったように唇を重ね、その舌を容赦なく奪い取った。

「んっ、ふ…、っ」

 酒の味を残す柔らかい舌に何も考えられなくなる。
 攻撃的な口づけに翻弄されながら必死に応えようと彼女からも絡ませてくるから、余計に堪らない。 汗で滑る腰を掴み、昂ぶった欲望を擦り付けるように宛がうと、の体がぶるりと震えて、ネスティの背中の服にすがることで受け入れることへの許しを示した。

「はぁ、ぁ…ネス、熱い…ぁっ…」
「…君も、熱い…っ」
「―――ん、あぁっ…!」

 受け入れて、受け入れられて重なり合う、互いの声。
 苦しげな声はすぐに艶を帯び、声を上げながらすがるように、求めるようにネスティの首を抱きしめてくる。

「はあ、はあっぁ、ひ、ネス、っ…ネス…ッ」
「…くっ……!」
「ぁ、やっ、…そんなッ、ぁ、奥ま、で…やッ、やだぁっ」

 酒で緩くなった理性のせいか、いやらしいほどにはよく啼いた。
 もっとその声が聞きたくなる。ネスティは 服を脱ぎ捨てるのも忘れて、がシャツにすがる手もそのままに腰を打ちつける。 ぎしぎしと軋む寝台はその激しさを知らしめるも、二人の熱を煽るだけだ。
 頬を寄せ合い、息を吐き合うほどの距離で。 喘ぎながら、弱弱しく紡がれる己の名にネスティも理性というものを見失う―――それは、酒よりも濃厚な味わいと快楽を招き、酒よりもネスティの全てを突き崩して夢中にした。



 トレイユの酒が”名酒”ならば。


 ネスティにとっては、彼女そのものが ”楽園の美酒”なのだ。









 ―――後日。


「な! 何で俺が全部払うことになってんだー?! しかも他の奴らのぶんまで!」

「一番最初に酒に呑まれた兄貴が悪い」
「ねー」

「俺の、俺の給料が〜〜!!!」

飲んで飲んで、呑まれましょう 2

あとがき
仲良しの二人とセイロンとネスが街の人に絡まれるお話が書きたかった。笑。
…あと、寝込みを襲うのと「触るな」って言わせたかったために出来上がりました。自分に正直すぎるな私も。どうなの…!

バスクが好きすぎてしょうがない。眼鏡えええええ!!!
新婚になったらどうなることやら。笑。
2008.7.8