赤が、舞う。


 見慣れたそれは、
 網膜に焼きつくまで鮮明。
 白い唇から溢れるように零れ落ちると、さらにその鮮やかさを増す。


 美しい。
 などとは思わない。
 美しい。
 自分にはそれを感じる神経もなければ、感情もない。


 華奢な身体が、
 地面に崩れた。

 人を生かす液体が、
 切り裂かれた胸部から流れて、石畳に広がる。


「――――――――」


 それを追う硝子の瞳の中で、
 白い唇が、動く。
 あまりにも優しい、小さな笑みを浮かべて。


「   」


 声はない。
 けれど彼女は、とても短い言葉を残して。



 眠るように瞼を伏せた。



 鮮やかな赤は、いまだ広がりを見せている。



 それは生きる物全てに、欠かせぬ水。



 しかし、
 この身体には、それは通わぬ。
 この身体には、血よりもなお深い黒を帯びた皮下循環剤のみ。


 その、最後の一滴まで。


 自分の全ては、美しい枢機卿のもの。


「――――――――」


 けれど目の前に倒れ、動かぬ身体は。
 誰のものでもなく。
 強化されているわけでもなく、頑丈でもなく。

 ただ、脆く。


 一度。


 ただ一度、凶刃を受ければ。


「―――――敵味方識別信号を認識」


 その口元は二度と笑みを作らず。

 その目が優しく細められることもなく。


「――――――――強襲>(アサルト)モードから殲滅戦(ジェノサイド)モードに書き換え(リライト)


 そのまま眠るように、動かなくなるだろう。


 それは当然。

 彼女は、人。


 機械では、ない。



 だから。







書き換え(リライト)――――――、完了」






 だから。






「神父トレス、あの危機的状況の中でよく任務を果たしてくれました」

 紅に彩られた唇から、美しい声で言葉が紡がれた。
 書類に目を通すためにわずかに俯いた頬にさらりと流れるのは、絹糸のような金色の長い髪である。 どんな装飾にも勝るその美しい金糸は枢機卿の証である赤の法衣さえも彩り、豪奢(ごうしゃ)な衣装を自然なまでに着こなしている女の美貌をより惹きたてて細い背に流れた。
 女は、ついと、その横髪を耳の後ろへと掻きあげる。
 すると雪のように白く、思わず、触れることを躊躇してしまうほど日に焼けることのない滑らかな肌が露になり、彼女よりも美しい人間はいないのではないかと錯覚さえも起こさせてしまうほどの美貌までも露にした。
 実際、彼女は誰の目からみても美しい人間だった。 片眼鏡(モノクル)をかけていても、それさえもその美しさを引き立てている道具に過ぎないだろう……紅のラインを描く唇はやはり艶やかさを帯びて、言葉はさらに紡がれてゆく。

「しかし今回の件については私の責任です。 …相手の勢力を甘く見ていました」
「否定(ネガティブ)だ、ミラノ公」

 主でもある麗人の言葉を、青年神父は感情の乏しい声でそれを否定する。

「あのまま突入しなければ大量の武器が出荷され、他国に破壊兵器がもたらされていた。 突入を指示した卿の判断に間違いはない」
「……シスター・にはすまないことをしました…彼女の容態は?」

 美貌は普段と変わらぬまま、<鉄の女>と呼ばれる枢機卿はそれを問う。
 憂うように曇ることもなく、ミラノ公カテリーナ・スフォルツァはただ結果のみを求めていた。

 しかしそれは薄情などというわけではないことを、カテリーナの傍らに立つアベルは知っていた。
 美しき枢機卿、カテリーナ。 
 彼女は悲観的な感情をどこまでも表に晒すことはなく全てを自らの内に抱える女性であり そんな生き方でなければ歳若い彼女は赤の法衣をまとう身分にはなれなかったのだ。 それは、彼女がそうして生きる覚悟から得た剣でもあり盾でもある――そしてその武器が必要となくなるまで、彼女は<鉄の女>で在り続けていく。

 ”本当はやさしい女の子なんですけどねぇ”と堪えられぬ苦笑を口元に浮かべつつアベルは、彼女のデスク前に直立不動の青年神父に目をやった。
 まるで主と似るように、感情を浮かべない端整な顔立ちの青年だった。
 しかしこちらは無感情で在り続けようとしているのではなく、もとより、感情浮かばぬ青年だった。 それは表情だけでなく、よどみなく紡がれる言葉までもが淡々として無感情。

「現在集中治療室にて手術中だ。
 密輸武器の刀で胸部からわき腹にかけて袈裟切りを受け、意識不明の重体。
 手術にはあと四時間はかかると想定される」

 表情を一つも変えないカテリーナとは対照的に、アベルの眉宇が苦しげに歪められた。
 ぎりっと硬く握り締められる拳は震え、冬の湖を思わせる青い瞳は瞼に硬く閉じられて、己を責めていることが誰の目にもわかる……誰のせいでもないとわかっていても、それでも、心が、胸が痛むのだと、その表情は雄弁に物語る。

 そんな彼を見て、ハヴェルは心配そうにアベルの肩に手を置いて首を横に振り。

「アベル、貴方のせいではない」
「………ですが、私の援護が早ければさんは」
「貴方の援護が早かったからこそ彼女は今、死の淵に立っていられるのです。 貴方の行動が遅いのであれば貴方が駆けつけていたときに彼女は死んでいた」

 彼が語る言葉は真実だった。
 そして、いつも穏やかな声音がどこか、震えているように聴こえるのは”は助かる”と自分に言い聞かせているよう。
 
「――我々は常に、いつ死してしまってもおかしくない場所に立っている。
 彼女もその覚悟があってこの世界に踏み込んできたのです」

 そう。
 彼女は復讐のために、この世界に乗り込んでしまった。
 無力な自分が、神の代行人という名の力を得るために。
 ―――今は、復讐のためにここにいるわけではないということは知っているけれど、それでもこの世界にいる限り彼女は敵地に向かうだろう。 衣装班という、軍事や戦いに関係のない役所に所属しているとはいえ彼女は戦力として認められている一人なのだ。 超人的な力で戦えずとも、にはそれを補うものがある。


「でも」

「ヴァーツラフ神父の言うとおりだ、ナイトロード神父」


 抑揚のない声が、枢機卿の室に広がった。
 それに顔を上げたアベルをトレスはいつものように、何の感情もなく静かに見返して。

「今回の傷害責任はシスター・ にもあり俺にもある。
 ―――彼女は俺を庇い、俺は彼女の行動を予測できなかった。それが原因だ」

 その言葉に、アベルやハヴェルだけでなく美貌が揺らぐことがなかったカテリーナの表情も、驚きに近いものに染められた。
 淡々と告げられたそれは、書類にはない報告でもあった。
 彼にとっては報告書に書くほどのことでもなかったのだろう。 怪我の状態と状況、が負傷したということを書いてさえおけば労災の保険金も降りる。 それ以外のことは書かずとも充分だった。

 けれどそれだけで全てが理解出来た。

 カテリーナは小さく息を吐いて背もたれに身を任せると、その瞼を静かに伏せる。

「そうね―――それなら彼女自身の責任も大きいわ」 
「カテリーナさんっ」
「アベル、貴方の援護が間に合っていても彼女はきっとそうしていたわ」

 トレスとは、特別だった。
 いや、彼女が特別だったのかもしれない。


  はトレスが好きだった。


 機械化歩兵であり、殺戮人形キリングドールであって人間ではないと知ってもそれは変わらなかった。
 そして彼女は、アベルの援護があっても変わらなかっただろう。


 彼女に、トレスを想う心がある限り。
 誰が援護に来ようと。
 誰が彼女を救おうと。


 トレス・イクスが危うければ、その身を挺しても守ろうとする。


 彼女が唯一トレスを守れるとするなら、そんなことでしかないから。




 そんなことでしかないのだと、彼を想う度に彼女は思い知らされているのだから。




「―――ミラノ公、先ほどの発言の意図が解明できない。 明確な回答を」
「要求には応じません」

 ぴしゃりと要求を跳ね除けてカテリーナは嘆息をもらした。
 そしてその言葉に従い何の追及なく口を閉ざすトレスの姿を片眼鏡越しに見つめて、片頬をつく。

(皮肉な話ね)

 機械は愛を知らない。
 だから、彼女の行動の意味が分かるのは彼らの周りにいる人間だけ。
 想われている、ヒトではないこの男は理解出来ない。
 きっと永遠に、理解できない。


 永遠に。


 カテリーナは再び、ため息に似た吐息をこぼす。

 想いを伝えることは出来る。
 けれどそれは、彼に理解されないもの。
 そして彼は自分の手足であり銃でもあり、所有物。
 彼の全ては自分のものだということは、カテリーナに拾われたトレス自身も了承している。

 だからあれは、決して、のものになることはない。
 結ばれることもない。
 彼女がどんなに恋焦がれようとも。

 に手渡す気もない。
 自分の目的が果たされるまでは。
 それまでは、トレスには我が身を省みず我が銃となりて敵を討ち滅ぼしてもらう。



 …世界の敵を滅ぼすまで。



「――神父トレス、貴方には次の任務に向かってもらいます。
 先の任務で確かに殲滅させたようですが、別の地区に彼らの残党がいるそうです。
 詳細はシスター・ケイトに資料を受け取るといいわ」

 麗人の言葉に頷くと、トレスは死神と見紛う黒の僧衣を翻した。
 彼の重みを訴えるかのように響くその靴音は小柄な外見には不似合いな重音を響かせ、規則的かつ一定の歩幅と速度で室の入り口へと向かう。
 その歩みには一切の迷いはない。
 それも当然。 彼は機械で、カテリーナの銃なのだ。 銃は持ち主が引き金を引き続ける限り弾丸を吐き出して敵を撃つ。 カテリーナが戦う限り、トレスも自らの全てを駆使して戦場を駆け抜け、弾丸を全て吐き出すまで戦い続けるだろう。

「ガルシア神父とヴァトー神父も連れていきなさい。 …規模は大きいようですから」
「了解。 <剣の館>を出る直後に二人と連絡を――」

 そこで、淀みなく紡がれていたトレスの言葉が不意に途切れた。
 扉の向こうにいる二つの気配に気がついたのだろう。 室の扉を開け放ち、広い廊下に立っている”ダンディライオン”と”ソードダンサー”の名を持つ彼らの姿を視界に認め…そしてそのまま、扉を閉めようとしたそのとき。


「神父トレス」


 その背を見送っていた枢機卿は、ふと、尋ねるようにその背を呼び止めた。
 彼女に忠実な青年は、その言葉に、扉を閉じようとしていた腕を止め。


「―――何故、あの場にいる人間を一人も生かさなかったのですか?」


 相手は、重罪を犯していた集団であった。
 彼らが取引道具として手にしていた武器の数々は尋常のものではなく、入手経路やその経緯を知るため、一人くらいの生き残りが出るよう手加減をすることがこの青年神父には出来た。
 彼の愛銃<ディエス・イレ>は、彼の手であり足でもある。
 正確無比な狙撃で絶命を狙わなければ、重傷を負わせつつもいくらでも生かすことが出来た。

 そう、生かすことは出来たのに。

 だが結果は、生存者ゼロという現実だった。
 全てがその場で命を絶たれ、病棟に運ばれたとしても即死のため蘇生は不可。
 残るのはその場で殺戮が行われたという証拠である、半壊した建物と硝煙が残る空気、血に池のように濡れたおぞましい現場のみだ。
 そうして、殺戮人形に相応しい舞台を残して、彼は帰還した。
 腕には瀕死の少女を抱いて、無機質的な瞳のままで死地から戻ってきた。


 だが、主人である麗人の言葉にトレスは答えない。
 主は咎めてはいない。
 ただ何故と、問うているだけ。


 けれど彼が、麗人に即答しないことなど今までにはなくて。




 …………それは、困惑に言葉をつまらせるヒトのよう。




 しかし、それはほんの三秒の間だ。
 感情の灯らぬ、ガラス玉めいた瞳は美しい枢機卿に向けられて。






「それが最善だと判断したからだ」






 ――――――それは誰のための最も善い行動だったのだろうか。






 しかしカテリーナは、それ以上の言葉を望まず。

 ただ。



「では、もうひとつ。
 ――――――――三人とも、無事に戻るのですよ」



 それは、小さな呟きで。
 眩い金を放つ髪を緋色の法衣の上で揺らして見つめた、
 窓の向こうに広がる世界への独り言のよう。


 そんな、主の。
 祈りにも似た小さな呟きを聞き届けてから、



「了承した、ミラノ公」



 彼はその手で、扉を閉めた。












「で、 の容態どうなんだよ」

 レオンは横広い階段をくだりながら、トレスに振り返った。
 手の中で煙草の箱を弄び、それは天気の話をするような気軽さで投げられる。 彼らのあとに続くユーグは無言のままで、その気軽さを咎めることはない。

「集中治療室にて現在も手術中だ。
 意識不明の重体。手術には三時間はかかると想定されている」
は知ってんのか」
「シスター・とシスター・は既に病院で待機中だ」

 の負傷を耳にした二人は同時に顔を強張らせたが、 ユウはすぐに、感情を押し殺すかのように瞼を閉じて頷き、 ヒヨは顔を青ざめて唇を震わせたが、震えるそれを噛み締めて息を呑み込み、搬送された病院の住所を問うてきた。
 ――どちらも、怒りたいのか泣きたいのか、判断しかねるものだった印象が記憶に新しい。

「そうか」

 二人の様子があっさりと思い浮かんだのか、レオンはそれだけを口にした。
 そのまま黒髪に隠れた耳の穴をほじり、その垢を小指に乗せてふうっと吹き捨てた。 シスター・ケイトあたりが悲鳴をあげそうな、巨漢のいつもの行動を目にしながら彼らの後に続いていたユーグは、トレスの背に一つ問う。

「これから残党を潰すのか」

 背後のユーグの言葉につられるように、トレスはガラス玉めいた瞳を金髪の神父に向けた。
 色素の薄いその髪は背後の窓から注がれる夕暮れの赤に妖しく輝き、翡翠の瞳に静かな色を浮かべて彼は佇んでいる。

「肯定。 ”アイアンメイデン”の情報によるとかなりの規模が予想されるが」
「――カンケーねぇよ、んなもん」

 背後の窓から差し込む赤い夕日に黒髪を照らし、レオンは腕をぐるんと回して欠伸した。
 大きく開くその口が閉ざされると、よし、と頷いて首を鳴らし、大股で<剣の館>の出口へ向かう……その顔に浮かぶ笑みは、獲物を前に舌舐めずりをする猛獣にも似ている。

「まぁ、仇討ちってのは俺のキャラじゃねぇけどよ…」
「ガルシア神父、シスター・はまだ死亡していないが」
「いちいち細けぇんだよデコっぱち!」

 顔をしかめて振り向くレオンの睨みを、トレスは怯むことなく受け止めた。
 相変わらず何の感情の変化もない男だと毒づきたくなるが、カテリーナとの会話を聞いているので、おおっぴらに罵ることは出来ない。 ただこの行き場のない思いをぶつけるように、レオンは黒髪を掻き毟る。



”―――何故、あの場にいる人間を一人も生かさなかったのですか?”



 その問いの答えは、”それ”が最善だと判断をしたから。

 何故それは、”最善”だと。



 ”誰”のために、”最も善い”と判断したのか。



 ―――知らず知らず、彼は手の中で弄んでいた煙草の箱はすでに握り潰していた。
 それでもなお強く込められた力に耐えかねて、ぐしゃ、と音をたてて哀れに変形していく。
 立ち止まったままのトレスを見ても、やはり、いつもの通り感情の浮かばない端整な顔。

(っくそ、わかってねぇ顔してやがるくせに)

 が生きるには、あの場にいる全てを殺すしかなかった。
 下手に加減をしても、生きている限り抵抗される。
 その抵抗に対応して時間をとられてはが助かることはなかっただろう。
 その抵抗は、瀕死だったにとどめをさしかねない。

 彼女を生かすためならば、全てを、手当たり次第、殺すしかなかった。
 相手は罪人として判子を押されたような人間ばかりだ。 事件の解決を望む主に危険が及ばなければそれで良いトレスには情けなどという、かけるものもない全くの赤の他人だ。(それ以前にこの男に<情け>などという、かけるものがあるのか?)

 この男は自称している通り、機械だ。
 だからこそトレスは遠慮も情けも容赦もなく、事務的にかつ無感情に、全ての弾丸を吐き捨てるかのように引き金を引き続けたのだろう。

(たとえ仲間の命が最優先事項(トップオーダー)だったとしてもよー…)



 身体は返り血と自己の血で汚れ


 愛銃が掌を焼かんばかりの熱を持っても撃つことをやめず


 ただひたすら


 全てが死に絶え、血の池が出来上がるまで


 殺戮人形に相応しい舞台を創り上げ




 自分を庇った、ただ一人の女を生かそうとした




 それは、何かの御伽噺(おとぎばなし)めいたもののようでもあり、けれど御伽噺らしからぬ、血と死体が積み重ねられたその光景は凄絶なものだったに違いない。

「だぁーーーーーっもうイライラすんなこいつらはよぉ! おい拳銃屋っ、帰って来たらにキスだろーが抱擁だろーが一発ぶちかましてやれよ!」

 今、死の淵に立たされている仲間。
 報われるかどうかもわからないのに、惚れた男を守るために命を張ったのだ。
 まさに女の中の女。 たとえが望んでいなくとも(女として望んではいるだろうが、羞恥から全力で拒否しそうだ)それくらいはしてやってもいいくらい充分な怪我だろうし、仮に口づけをもらえたならば喜びのあまり彼女の治りも早くなるかもしれない。 そうなれば色んな意味で万々歳だ。

 「これで大団円だな!」と再び大股で<剣の館>出口へと向かう”ダンディライオン”の提案に、”ガンスリンガー”は無言のままで続き、ソードダンサー”は呆れたようにため息を吐いて。

「シスター・に殺されるぞ」
「衣装班唯一の理性であるがいんだから死なねーだろうよ。
 …とにかくお前ら、今回の任務はちーっとばかしマジに行けよ。 全部容赦なくぶっ倒す勢いで行け」
「――もとよりそのつもりだ」

 翡翠の瞳が、剣呑な輝きを帯びて瞬いた。
 いくつもの死地を乗り越えて渡る経歴を持つ”ソードダンサー”の気迫に、レオンは満足そうに笑みを浮かべるとカフスの通信機に電源を入れ、小さな電子音のあとに男の声が流れだす。

「よう、久しぶりだな」

 挨拶混じりに男とニ、三言言葉を交わすと、やがて思案するように<剣の館>の天井を見上げながら、すらすらと言葉を紡いでゆく。 分厚い唇から淀みなく零れるのは破壊力を秘めた銃器の類だ。 気が済むまでそれらを一通り並べてから、

「――それらを明日までに調達してくれや」

 あっさりと言って退けて、通信を切った。
 前をゆく巨漢の背に、ユーグは一つの苦笑を浮かべて刀を握り。

「まるで戦争に行くみたいだな」
「女があそこまで度胸を見せたんだぜ、ここで男がへたれてどうすんだよ」

 朗々と言い返すと、血のように赤い夕焼けに染まる世界を背景に広がる<剣の館>の出口扉を背にしながら、背後にいる二人の神父に振り返り、荘厳なオーケストラの指揮者のごとく、太い両腕を大きく広げ。


「さぁ、パーティーの始まりだ。 気合入れてけよ野郎共!」




 そうして三人の死神が


 赤い世界に舞い降りる。

それでもあなたは愛しい機械 1

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