分厚い灰色の雲は、年がら年中この土地を覆っていた。
 夏の季節が訪れても冷え込む夜には雪が降ることもある・・そして今年最後の季節の変わり目もやってきた。
 冷気を帯びた風はその冷たさをもって告げる     世界は再び冬を迎えると。






第67夜






 ここ最近はもうずっと、冷気を帯びた風が吹いている。
 召喚術によって深く抉(えぐ)られて生まれた大絶壁の地底から響くのは、獣の唸り声のような風の音だ。
 それは冬の訪れにあわせて冷気を増し、頬を刺すように、冷たく襲い掛かってくる。
 他の土地に比べて雪が降りやすいこの土地にも、とうとう本格的な冬が訪れようとしていた。

 天から降り注ぐそれは毎年、量が半端ではない。
 大粒小粒の雪が降り、それは砦のあちらこちらを塞いでしまうから、今年の秋の季節が半分過ぎた頃に、部下の兵士達と”今年は早めに雪かきに励もう”と予定を立てて、雪かきの準備をしていた。

 何故雪かきなんぞをと思われてしまうかもしれないが、雪かきは大切なのだ。
 自分達の任務は敵国である旧王国デグレアを常に監視することである・・だが雪に砦の入り口を潰されてしまうと物資の補給がとてつもなく困難になり、それを除去するのに時間を食い、相手に攻撃を許す隙を与えてしまう・・・・だから砦は常に、万全でなくてはならない。 雪かきは大切だ。

 そして今年も、去年と同じように仲間や部下達と、雪の量に文句をいいながら。
 笑いながら、雪かきを始めるはずだった。






 始める、はずだった。








 前方の、旧王国の大地に見える、黒い鎧の集団と。
 後方の、聖王国の大地に見える、黒い鎧の集団さえなければ。














      旧王国領域のデグレアを牽制するために、自国である聖王国領域を唯一繋ぐ橋を守るために建てられたローウェン砦は、敵国からの侵入に備えて他の砦より幾分高く、くすんだ灰色の壁の厚みも侵略に備えて強化し、防衛に努め、見張りを怠らぬ強固な要塞として佇んでいる。
 しかし、あたり一帯を見渡せる屋上では、多くの兵士たちが固唾を呑んで前後方に見える黒い鎧の兵士の動向を見守っていた・・不安げな表情が浮かぶのは、まだこの事態についていけていないからだろう。


「囲まれたか・・」


 若い男の呟きが、冷気を帯びた風に乗って流れていった。
 真摯な色を秘めた薄い茶の瞳には、黒い鎧の集団(軍隊と言っても良いだろう)が映っている。
 旧王国側から進軍してきた軍隊と、聖王国側から突如現れた黒い鎧の集団の姿だ。

「何時の間に国境を越えていたんだ・・彼らは・・」

 茶の髪と、赤い外套(マント)が風になびいて柔らかく揺れる。
 男の誠実さを現したような白の鎧は、旧王国側に現れた軍隊と一戦を交えたときに薄く汚れてしまっていた。 戦闘時以外は鞘に収められているその大剣は、抜き身のままで、男の手の中に納まっている―――それはいつでも剣を振れるように。



 ・・・事の始まりは、旧王国側から進軍があったと告げた報告だった。
 今まで何の音沙汰もなかった旧王国が進軍――その事実をさらに確定させるかのように、橋の向こうに見えたのは完全武装の旧王国の軍隊だ。
 シャムロックは兵を率いてそれを迎え撃った。
  思考は”何故、いきなり進軍を開始したんだ”という、相手側の行動の不可解さを疑うばかりだった・・・・・・確かに、ここ最近は旧王国の妙な噂しか聞いていなかったが。

 その後で、聖王国側からも攻められたという情報が入った。
 聖王国側からも奇襲だと? その事実もまた衝撃的で・・だがそれよりも挟み撃ちにされたのだ。
 このまま戦い続けては完璧に不利だ、砦も奪われる。

 シャムロックはすぐさま兵士に撤退の命を下した。
 砦の召喚師達にメイトルパの召喚獣を召喚してもらい、めくらましの術をかけてもらって速やかに、負傷者を連れつつの撤退だ―――術が思ったよりも効いたようで、兵士たちを多く失わずに砦に戻ることはできた。

 ・・そのかわりに、国境の跳ね橋は旧王国側の軍に奪われてしまったが。



(・・本当なら、命に代えてでも跳ね橋を守るべきだった)



 けれどそれをあっさりと放棄した。
 兵士の命を優先した・・戻っても、両方から挟まれていることは変わりはないのに。

 それでも目の前で兵士達を死なせてしまうことは耐え難かった。
 自分には出来なかった・・生きていてほしいと、思ってしまったからだ。

「シャムロック様・・どこか怪我をされましたか? 顔色が」

 この砦に就いてから色々なことに補佐をしてくれていた部下の心配に、シャムロックはどうにか小さく笑った。

「いや、私は大丈夫だ・・それよりも皆にはすまないことをしてしまった。
こうもあっさりと前後を獲られるなど・・油断していた」

「違います、あれは誰にも予測できませんでした。
 それに油断をしていたのなら私達も同じです・・不穏な噂を耳にしながらも、急に活発になったデグレア軍や、そしていつの間にか聖王国側にいたデグレアの一隊にしてやられたのですから・・・・シャムロック様。 一隊が聖王国側に布陣をひいていたということは・・聖王国には彼らの入国を手助けした者がいるのでしょうか?」

「その可能性も考えられる。
 現に彼らは我々に気付かれずにこの国に入り込んでいたのだから・・だが、相当力ある者が旧王国側にいるとなると話は別だ」

 シャムロック達は常に、唯一、旧王国と聖王国を繋ぐ橋と旧王国の動向も監視してきた。
 そんな彼らに全く気付かせないままこの国に旧王国の部隊が入り込んでいた・・ということは、自国に旧王国を手助けしている者がいる可能性も出てくる。

 しかし強力な、力ある者・・召喚師がデグレア国内にいるとなると話は別になる。
 次元が大きく変わってしまう    相当実力のある召喚師がいれば、誰にも気付かれず聖王国に降り立つことは簡単なのだから。

(迂闊だった・・デグレアが召喚術を嫌っているという傾向に油断していた)

 ・・・・この世界には召喚術という術がある。
 召喚師とは、異界から異界の者を召喚し、誓約によってその力を望むままに使役するという。
 腕の立つ一人の召喚師だけで小規模の軍隊に匹敵するほどのものだ。
 それほどまでにその力は強力。 強力ゆえに畏怖される。
 しかし権力者からすればそれはこのうえなく魅力的で、手に入れたがる者が多い。
 ・・・・・・・力は、何時の時代でも人間に好まれる。

 シャムロックも大型の召喚獣を見たことがある。
 知人の召喚師に見せてもらった・・召喚獣の中でもレベルが尋常ではないとされる、レヴァティーンと呼ばれる雄雄しくも美しい姿を持った召喚獣だ。
 その獣を召喚出来る者はそうそういないとされている・・トライドラでも、ほんの一握りの召喚師だけがレヴァティーンを召喚出来ると言われるほど、その獣は高等な存在とされていた。
 ・・シャムロックはその獣の美しさにしばし魅せられた。

 同時にその巨大さに圧倒された。


 それほどまでに、召喚術というものの恐ろしさと魅力を、肌で感じとってしまった。



 ―――そんな想いをさせるほどの力ある者が、デグレアにいる。



(だからと言って脅え、敗北を認めるわけにはいかない)


 何より、この事を三砦都市トライドラの領主の耳に伝えなくては。
 多くの部下が死ぬことになったとしても、それでもこの場の誰かが生きて、領主の耳に伝えなくては、この国全体が危機に陥る。


(誰に行かせる? だがどんなに足の速い馬でも、聖王国側に布陣をひく軍の囲いを抜けることなど・・それこそ死にに行かせるようなものだ)


 自分が役目を引き受けて、この砦にいる部下を全て後方の聖王国側に集中攻撃 させればどうにかなるかもしれない―――そこまで考えて、シャムロックはその思考を打ち切った。

 確かに、自分の剣は剣豪にはまだまだ及ばないものだ・・だが、自分の実力を自負している。
 自惚れでもない・・自分の剣が領主であるリゴールに認められたのだからこそ、こうして砦の守備隊長の任を授かったのだ。

 自分なら、戦乱に紛れて襲い来る敵を切り伏せながら突破出来るかもしれない。
 ―――だが、残った部下はどうなる?


(だめだ・・)


 シャムロックに隊長を任せたリゴールを想うなら、この聖王国を想うなら。
 部下を全て駒として敵にぶつける決断をしなくてはならない   けれど、出来ない。


(それだけは・・嫌だ)


 故郷のトライドラで名誉勲章を受けた良将達の中に、部下を囮に大戦に勝利した者もあれば、無血によって勝利を果たした者もいる・・自分は、出来るなら無血の者でありたい。

 本当なら、今は無血がどうと言っている場合ではないし、戦うことが任務とされる騎士が無血の者でありたいと願うのはおかしいのかもしれない。
 たとえそう願っても望んでも、戦いに必ず犠牲が出ることも知っている。
 自分には、無血に導く特別な知恵もなければ力もないことも知っている。
 ・・いつも望んでばかりだ・・そうしようと動いても、死者が出ることを止められない。


 けれど


 けれどそれでも 彼らに生きて欲しい



 金のためにと、戦う兵士もいる

 生きがいとして、戦う兵士もいる

 家族を、愛しい人たちを守る為に戦う兵士もいる。


 それぞれの目的のために、それを望んで戦地に立つ。
 平和に暮らせるようにと、そう願って戦地に立つ。


          彼らは命を賭けて立つ。



(私も、守るべきもののために剣をとった)



 諦めるな


 まだ、何か策はあるはずだ


 諦めるな





 諦めてしまえば、人は動けなくなる





「シャムロック様!」


 見張りについていた兵士が足早に駆け寄ってきた。
 それに相手が動いたのかと身構えたが、兵士は一度敬礼をしたあとで告げる。

「前後方にいるデグレアの軍隊は部隊を再構成し、攻め入る形になっております。
 ですがそれから数分経過しても動きがなく・・・」
「動きを見せていない・・・いつでも攻め込めると宣戦布告のつもりか」
「シャムロック様、こちらから攻めた方が得策ではないのでしょうか」

 補佐をしてくれていた部下の言葉にシャムロックは一瞬、思考に沈む。
 攻めたとしても、死期を早まらせるだけだ。 攻めなくても、この状況では死は確実だ。
 ・・・・・この強固な砦は自分達の処刑台に変わり始めている。

 だが、むざむざ首を落とされるつもりもない。


「いや、動いてはいけない」

「え・・?!」

「動きを見せないということは、向こうもこちらが動くのを待っている。
 相手も兵士を残しておきたいのだろうな・・だが我々が動き出せば一斉に、前後方から相手の軍隊も動き出すはずだ」


 砦は強固な建物だ。
 だがそれでも挟み撃ちをされてしまっては防ぎようがない。


「ですが、我々は、死兵になる覚悟も」

「確かに、私は守備隊長として死兵になってでも攻める決断を下す事になるだろう。
 今の我々を最後に待つのは死かもしれない―――だが私は出来る限りの道があるなら、部下にも、この砦を守る者達には生き延びてもらいたい」



 騎士として 戦に身を置くものとして


 それは 夢のような思想だろう


 歪んだ思想でもあるだろう


 犠牲なくして勝利を収めることは出来ない




 けれど無意味に死なせてしまうことだけはさせたくないと 己が心が訴える




 兵士はしばらく俯いて、シャムロックに一礼すると再び慌しく持ち場に戻っていった。
 そんな兵士の後姿を見送って、シャムロックは再び黒の軍隊を見つめる。
 最近は各地で霊属性の悪魔の姿も見かけるとの報告があったが、デグレアの急な進軍とそれは関係しているのだろうか・・・?


 補佐をしてくれていた部下が、小さく呟く。


    我々は、貴方の足枷になっているのですね」


 彼は、気付いている。
 唯一、国のためにこの危機を知らせる方法を。
 ・・この砦の全ての勢力を聖王国側にいる一隊にぶつけて、その隙にシャムロックがトライドラに報告に駆ければそれは叶うだろうと。


「違う、私が臆病なだけなのだ・・今まで何度も相手を切り伏せてきても、守備隊長として任されても・・臆病で、部下が死ぬのが恐ろしい」


 人が死ぬことが、恐ろしい


「シャムロック様」


 彼は、微笑んでいた。
 それは全てを受け入れた者の瞳だ・・なのに何故か恐怖の色もなく、聖人のように、ただ穏やかに彼は笑む。



「貴方の部下で、私は幸せでした」



 彼の笑みに。

 彼の言葉に。


 これが最期かもしれないと、シャムロックの頭の中で警鐘が鳴り響く。


(違う、我々は生き残る)


 敗北という結果になっても。
 どんなに苦痛を味わわされても・・死んだほうがマシだと思わされても。

 それでも生き残ることを諦めてはいけない。


 最終的には死が待ち受けていたとしても、それだけは          



           その時。 バサァッと、黒い影が頭上を横切った。
 影に敵襲かと灰色の空を仰げば、影は誰を襲う事もなくそのまま聖王国側の一隊へと・・、いや、一人の男の元へと降り立とうと巨大な翼を広げてゆっくりと下降していく。

 鳥の存在に気付き(恐らくあれも召喚獣なのだろう)、男は小手に包まれた腕を掲げて、鳥はその腕にふわりと降り立ち、男の長い髪を口ばしで弄んでいる。


 そのとき初めて、シャムロックと男の視線が絡んだ。
 互いに離れた位置にいるというのに、何故か視線が絡んだと、感じた。


(・・あれが、デグレアの将なのか・・?)


 周りには多くの兵がいるというのに、彼の存在はどこか特別な者のようだと思わせる雰囲気があった・・それは、幾度も戦いに身を置いたことのある者がまとう落ち着きだ。
 視線が絡んだその瞳は、鋭い意思を具現化したような光も見える。

 瞳の光とその雄雄しい立ち姿に、彼が将だとシャムロックは理解した。
 また相手のほうも、黒の鎧にその身を包み、鎧と同色の外套(マント)と紫が混じった長い赤髪を冷たい風に攫わせながら、鳥を肩の乗せたまま      シャムロックを見ていた


 彼も、シャムロックが将だと理解したのだろう。
 何がおかしいのか、わずかな笑みがその口元に浮かぶのが見えた。




(・・・あの男が)




 警鐘は、今も脳裏にこびりついて鳴り響いていた。


















 紫が微かに混じった赤髪が、冷気と熱気を帯びた風にさらわれて。
 ふと見上げれば、分厚い灰色の雲が空を覆っている世界が視界に映った。

 それは季節のせいでもあるが、戦の炎によって生まれた黒い煙が原因というのもある。
 空は煙によって淀んでいる・・何度見ても、やはり、好ましいとは思えない―――彼女と見た青空や夜空のほうが、ずっとずっと好ましくて、愛おしいと想った。




 ”この世界の空もほんとに綺麗だね”




 知っている。 この世界の空は美しい。

 朝の澄んだ空気に満ちた、白い空。
 昼の海を思わせる青が満ち満ちた青い空。
 夕焼けが見せる、血を思わせる色でもどこか神聖な、眩い赤の空。
 夜色に包まれた月と星が静かに浮かぶ、穏やかな暗闇が満ちる空。

 それはつい最近までは忘れてしまっていたものだ。
 子供だった時はよく、故郷の雪野原一面が月の微かな光を浴びて薄く輝いた光景に心を奪われていた・・・・・そういえば、そんな些細なことを思い出させてくれたのも彼女だった。


 それを忘れてしまっていたのは、今までこの淀んだ空の下を歩き続けてきたからだろうか。
 だが、歩き続けてきたことを後悔をしたことはない。 それはこれからも変わらない。

 ただたまに、淀まぬ空を恋しいと想う瞬間があるだけ            



 そのとき、羽ばたきが耳に届いた。
 再び空を見上げれば、本隊との連絡用である鳥型の大きな召喚獣が、漆黒色の翼を大きく羽ばたかせながらルヴァイドの元へ降り立とうとしている。

 腕を掲げ、鳥を受け入れる。
 小手の部分に鳥は降り立ち、小さな紙を巻いた足をルヴァイドに差し出した。
 それを受け取ってメモを開くと、国境の跳ね橋は完璧に抑えたとの短文がつづられてあった。


(計画通りだな)


 仕事を終えた漆黒色の鳥はルヴァイドの肩に移動して、髪を戯れに弄ぶ。
 ふと砦の屋上を見やれば、一人の男と視線が絡んだ・・他の兵士と違い、白の鎧に身を包んでいることから騎士とわかる。


    あの男か)


 本隊の攻撃時に跳ね橋をあっさりと放棄し、部下の身を案じて速やかに砦に撤退させた、この砦の良将。
 随分と整った顔立ちだが、いかにもと言ったように、誠実さと、人の良さそうな空気が滲み出ている。
 だが瞳は間違いなくお人良しだけではない戦士の目だ。 ルヴァイドが男に目を向けているように、真摯な色が浮かぶ茶の瞳もまた、自分へと向けている・・互いに”この男が将だ”と気付いたようだ。


            ルヴァイド様」


 今では聞き慣れた声が、名を呼んだ。
 それに視線を向ければ、この薄暗い世界の中でも眩い金の髪を持った青年がそこにいる。
 華奢な体格ながらもその腕が持つ槍は何人もの命を貫き、赤の瞳は死線を何度も潜り抜けてきた戦士の目だ。

「どうした、イオス」
「相手は兵を出すつもりはなさそうです。動きを見せず・・砦から出ようともしません」

 ルヴァイドは再び砦を見上げた。
 見事な作りだ、さすがは聖王国が誇る砦の一つ。
 管理も怠慢なく行われている・・壁や砦の入り口などに、ほつれている部分がどこにも見当たらない。
 砦から逃げ出す兵士がいないことや第一弾に攻めた時の反応から見て、ここの責任者は信頼も厚く、生真面目な人物のようだ    先ほど見たあの顔はまさに、ぴったりと印象に当てはまる。

 思わず、ふっと口元を歪める。


「良将がいるとなると、少々骨が折れるようだな」

「向コウニイル本隊ニ、合図ニ合ワセテ挟撃ヲシタホウガ得策カトオモワレマス。
最短時間デコノ砦ノ攻略ガ可能ニナルカト」

「国境の跳ね橋は押さえたとの報告もあった・・それも可能だろうな。
 だが挟み撃ちに立たされている状況がどういう意味なのか、分からぬ相手もないだろう。次に攻め込んだ時は命を賭けて迎え撃ってくる」


 肩に移動した鳥に目を細めながら、ルヴァイドは砦の屋上を見つめた。
 男の姿は既にない・・次の準備をしているのだろう。


「しばらく待て」

「え」

「俺とて兵を無駄に散らせたくはない・・死兵はまさに、その名の通りなのだからな。
 侮ると逆に大きな痛手になるだろう」


 命を賭けて向かってくる兵は、時には召喚術よりも恐ろしい。


「だが・・立てこもられても埒が明かない。 それは相手もわかっている。
 相手は騎士で、戦場の理を理解し、部下を駒として扱うことが出来ぬ男だ。それ故に―――相手を引きずり出せるこの方法に乗ってくる」


 イオスはルヴァイドが何を考えているのか少しばかり読み取れないらしい。
 眉宇をひそめてゼルフィルドを見るが、ゼルフィルドは無言を保ったままだった。


「その前に砦を召喚術で弱らせておく必要がある・・精神的に揺さぶっておくのもいいだろう。
 召喚師数人を前列に整える。 俺が指示をする、イオスは号令を頼む」

「はい!」

「ゼルフィルド、お前は兵士の列を少し後ろに下がらせて待機していろ」

「了解」

「・・あとはビーニャに引き続き待機命令も出しておかねばな。
 あの女のことだ、真っ先に敵の兵士を殺しかねない」


 ビーニャ、と聞いてイオスは不機嫌そうに顔を歪めた。
 キュラーやガレアノ、レイムの名を聞くと彼はいつもこのような表情を浮かべる・・嫌悪している事が分かりやすい。 だがそれを咎めるつもりはルヴァイドにはなかった。

 ふと、イオスの表情が曇った。
 ルヴァイドがそれに目をやれば、彼はすみませんと詫びて。


「今ここにいる事に後悔は一つもありません。
 僕は軍人です、それに誇りさえも感じます・・でも、ただ・・が僕達のしている事を知ったらと思うと・・傷つくのではないかと・・思うと・・・・」


       後悔はしない。
 後悔をするのなら、遥か昔に命を断っている。

 自分は恨みも、不満も、罵りも、何もかも、受け入れられる。
 死んでいった者たちが自分を呪っても、ルヴァイドはそれを受け入れるつもりだった。
 死ぬ事さえなければ、死んでいった者たちやそれに繋がる人間の感情を、言葉を、何でも受け入れるつもりだった。


 後悔はしない。


 けれど、自分達のために心を痛める人がいることは、耐え難かった。


 罵りも、恨みも何もかも受け入れることは出来る。
 だが自分達のために泣いて、傷つく人がいるのは・・辛いと、思う。
 その人がいると、後悔しない気持ちが後悔してしまう方向に傾きかける。


 愛おしいと思ってしまう人なら、なおさらだ。



      泣かれてしまうのは正直、堪えるな」

「・・・はい」


 罵倒を浴びせられることも、怒りの感情をぶつけられるのは耐えられるのに。
 そんな自分たちを見て、泣いて、悲しむ人がいるのは耐え難い。



 自分達は、彼女から奪ってばかりなのに。


 なのに彼女は、自分達を想って泣いてしまう。


 危険を犯してでも、手を差し伸べてくる。




 必死に、救い上げようと


 何度も、腕を伸ばして、手を、差し出してくる。




      それは、優しい、だけではすまされず。
 慈悲深い、というには当てはまらない。

 時折何か裏があるんじゃないかと疑ってしまいそうになるほど、彼女は自分達に腕を伸ばす。




 手を、差し出してくる。






 傷つきながら それでも






 細い、その腕を伸ばして





 限界まで、手を広げて






(・・・




 裏があるのか、わからない



 何度も彼女に助けられたのだ・・裏などないと、信じてもいる




 だが、たとえ、そこに裏があったとしても。




 自分達の復讐のために 彼女が歩み寄ってきたのだとしても








     何度、彼女に愛おしい感情を抱いてしまったのだろう





 心を奪われてしまったのだろう








 ルヴァイドはそこで、思考を打ち切った。
 分厚い雲に覆われた灰色の空を睨むように見上げ、意識を戦場のものに切り返えて、―――けれど次には表情をふっと緩めて、自分自身に苦笑する。


「・・・イオス、あまり思い出させるな」



 会いたくなる



 イオスは再び”す、すみません”と詫びたが・・恐らく、彼も同じ気持ちなのだろう。
 だからこそふとしたときに彼女の名前を呟いてしまうのだ。

 ゼルフィルドはどうかわからないが、だが見ている限り彼はなかなか彼女に好意的(?)だ。
 任務以外で、自分達以外に話しかけることなどそうそうない・・必要なこと以外を喋らないのに、彼女が自分達の傍にいたときは色々な事を教えていた。(それはが話をせがんだのだろうが)

 
 ルヴァイドは鳥を空へと解放した。
 その足には待機命令のメモがある・・途中で射落とされないように、鳥はさらに高度を増して舞い上がる・・空気が冷たいことすらも構わず、それは羽ばたく。


「我々は、やるべきことをするだけだ」

「はい」


 聖女を捕らえ、それを元老院議会に差し出す。
 だがを捕らえるつもりはない。 元老院議会には、聖女で我慢をしてもらうつもりだ。

 もとよりは当初の目的には入っていなかったのだ。
 なら聖女さえいればデグレアは聖王国に打ち勝つことが出来るほどの力を手に入れられるはずだ。
 それさえ出来れば元老院議会も満足するだろう・・・・打倒は旧王国長年の悲願なのだから。


 いまだ彼女がどういう目的で捕らえられるのかはっきりと教えられていないのだ。
 【 禁忌の森 】・・もとい【 アルミネスの森 】に関わっているというだけでは納得など出来まい。
 納得できたとしてもそれだけは      

 ルヴァイドは空を仰ぎ、目を伏せた。
 覗いただけでは地底が見えぬ大絶壁から吹く風の音を耳にしながら、兵士達のざわめきを耳にしながら。


「・・イオス、ゼルフィルド」

「はい」

「ハイ」


    俺は、何がなんでも汚名を返上するつもりだ」


 長年共に歩んできた腹心の部下達は、先ほどと同じ返事をする。
 それにどこか、大きな支えを感じながらもルヴァイドは続ける。


「聖女を捕らえ、元老院議会に引渡し、デグレアはあの森から巨大な力を手に入れ、聖王国を打ち負かす・・・・だが、それでも元老院議会が聖女だけでは飽き足らず、を捕らえよと申請してくるのなら」



 冷えた風が、ルヴァイドの頬を撫でた。



     俺も、反逆者の汚名を被ろうと思う」



 ルヴァイドの言葉に、イオスは目を丸くした。
 次にはルヴァイドの言葉を頭の中で何度も反芻して・・ぎょっと、驚きの表情を見せる。


「え・・? それは・・」

「我ガ将ヨ、元老院議会ノ命令デアッテモヲ捕ラエナイトイウコトデスカ」

「そうだ」


 自分も、反逆者の汚名を被ろう。
 亡くなった父と同じく・・そして騎士の称号を授かった自分は、国が滅ぶまで反逆者として。
 そして一族は国が滅ぶまで反逆者の一族として語り継がれるだろう。


「これは例えの話だ。 元老院議会が、レイムがを諦めてくれないならの、話だ」


 なのに・・・・・・・ここまで決意をするのに、どれほど時間がかかっただろうか。


「ルヴァイド様、それでは・・っ」

「お前達も長年付き合ってくれていたというのに、本当にすまないと思う・・」

「そんなことはいいんです! ・・ただ・・それで、良いのですかルヴァイド様・・・」


 ルヴァイドは、しばし黙った。
 良いのか、と聞かれればそれはそれは、何時間も悩んでしまうほどの深みがある。
 だが何をされるかもわからないというのに、がレイムの手に落ちて、元老院議会の手に落ちていく・・それを想うと、感情がざわめいた。


 頭では汚名の返上を叫ぶのに。
 心はそれだけは許すなと、納得をしてくれなかった。



    その時は、が望むなら・・俺は彼女を連れて別国へ逃げるつもりだ」



 イオスがますます、ぎょっとした表情を浮かべた。
 ・・さすがにゼルフィルドは驚きの表情を浮かべることはないので、無言だったが。


「デグレアの力が及ばぬ所が見つかるまで、平穏に暮らせる場所が見つかるまで。
 それがたとえ地の果てでも、彼女が安心して暮らせる場所を見つけるまで」




 追われる恐怖のない日々を過ごせる地が見つかるまで




に償いたい。
 俺はあれだけの事を、抱えきれないほどのモノを彼女にもらったというのに・・・・・・・・俺は奪うばかりで、泣かせてばかりだ」



 許されるなら、傷つけてきた償いを



「・・ルヴァイド様」

「我ガ将、我モオ供シマス」


 ゼルフィルドの申し出に、イオスの口が開いたままになってしまった。(それほど驚いたらしい)
 同じくルヴァイドも驚いた表情を浮かべて彼を見上げれば、忠実で、無機質な黒い機体の機械兵士は抑揚のない声で淡々と告げる。


「将ガ向カウ道ハ、我ノ向カウ道。
 将ガ護ルト決メタモノハ、我モコノ身ヲ盾ニシテデモオ守リシマス」

「ぼ、僕も行きます! ルヴァイド様、お邪魔じゃなければ僕も・・」


 部下達の申し出に、ルヴァイドはやはり驚きを隠せぬままだった。
 しばし目を伏せて沈黙したあとで、彼は告げる。


「一国に追われる事になるぞ」

「それでもは友人です! 僕も、彼女に何度も助けてもらいました。
・・彼女が、レイム達の手で壊されるのだけは・・それだけは耐えられません」


 イオスも、ルヴァイドと同じ不安を抱いていた。
 レイムは最近、ますます掴みどころがなくなってきている。
 会ったばかりのころは”変な召喚師だ”くらいにしか認識していなかったが。


(あれは、おかしい)


 おかしい。
 あの男は形容しがたい存在ということが、長く年が経った今ようやく理解し始めている。
 強く、禍々しく、あの紫の瞳の奥に、大きな罠を張っているようでならない。

 美貌は聖人のような笑みを浮かべているのに。
 紫の瞳には全てを壊してしまいかねないほどの狂気の光が。


 ルヴァイドは、俯くイオスの肩をそっと叩く。


「・・なら、お前達にはまだまだ世話になるかもしれないな」


 イオスが思わずぱっと笑むと、ルヴァイドは素直に感情を浮かべてしまう部下に苦笑を浮かべた。
 だが青年はすぐに背筋を伸ばし”部隊の編成に向かいます”と告げて、槍を片手に持ったまま颯爽と身を翻し駆けて行く。


      今は、やらねばならないことがある。



「ゼルフィルド、行くぞ」

「了解シタ」


 黒い煙が舞い上がり、雲は分厚く禍々しい戦の色に染められて。
 その雲から零れ落ちる灰は大地へと降り積もり、やがて戦は勢いを増すだろう。

 自分もこれからも、血の道を行くだろう。



(だが・・・・俺は必ず、命を賭けてでもお前に償おう)






 例えそれが、一生かかったとしても















えーと、神様



取り合えず、今日1日に感謝します。



ていうか今の状況に感謝します。



エィメン、そして南無阿弥陀仏・・って念仏唱えてどうするよ!



「・・・・・、何を言ってるんだ・・・・・?」

「あらやだネスったら聞こえてた? っていうか声に出してた? 」

「・・声に出ていたぞ(一人ツッコミまで)」

「うわそれはちょっと恥ずかし! いやいやいやいやでもオッケー、オッケーオールオッケー!
今のあたしは多分久しぶりに輝いていると思うのよ、あたし今幸せなのよーーーーーー!


 “輝くって素晴らしいよねっ!”と1人悶えているあたしに、ネスはその整った顔を引きつりながら数歩後退したけれど、あたしの視界にはまったく入らなかった。 いや、それどころじゃなかった。

 そんなあたしの両手には、丸っこくて、小さくて、やっこい(柔らかい)手が繋がれてあるからだ。
 片方はウサギ耳っぽい狐耳を持つマグナの護衛獣・ハサハ。
 もう片方は子羊子羊と連呼されている健気なあたしの護衛獣・レシィ。

 ・・・・・マジでそれどころじゃないよコレは!と脳内で仰け反る自分が確かにいる。
 どうしよう。 今更だけどちょっと人としてヤバイかもしれない。


(いやまぁとにかく、久しぶりだもんね。 ちょっとくらいハメ外してもいいよね)


 というわけで。 こんな嬉しい状態を維持したまま今現在、ローウェン砦に向かっている。

 ハヤト達はサイジェントに、エルジンとエスガルドはそのまま任務続行ということで、あたし達とは別れて去っていった。 カイナはケイナの事があるから、そのままあたし達のお仲間に・・良かった。
 ここまではどうにかストーリー通りだ。


(ここから先がルヴァイド達が生きるか死ぬか・・そう、まさにデッドオアアライブの第一関門なのよね。このあとはローウェン砦が・・・・・・)


 そこで、冷たい汗が背に浮かんだ。
 ここから先は、また一段と強烈なタイプのキャラ・・っていうかビーニャが本格的に関わってくるのだ。

 また死んで行く人を見て。
 シャムロックとフォルテは傷ついて。


(・・あたしは、どうなるかな)


 この事態は予想できていた事だから、また衝撃は少ないだろうか。
 ビーニャのやり方が・・ルヴァイド達のしていることが、あたしには許せるだろうか。


(敵には、回らない)




 でもそれでも、感情は別なのだ



 ”嫌い”に傾いてしまいそうで、不安になる




 柔らかい手をぎゅっと握り締めて、不思議そうに見上げてくるハサハにあたしはにっこり笑った。


「あはは、久しぶりだねーハサハとこうやって手を繋いで歩くのっ」


 ハサハは小さく頷いた。
 その口元には小さな笑みが浮かんでいて、彼女も同じ気持ちでいてくれているのかなと、少し照れる気持ちが沸いて出る。


「(ていうかほんとこの子可愛いよなぁ・・)あたしすごく嬉しいよー!
 もー今ならフォルテかカザミネを崖から突き落としても爽やかに笑っていられそうなほど嬉しい・・って、ああ冗談だからそこの冒険者さんとマフラー侍さん、離れなくても大丈夫だって」

「お前の場合は冗談に聴こえねえって! 身の危険(寧ろ命の危険)感じるっての!」

「っていうか何故に拙者まで含まれているでござるか・・?」

「あたしのとっておいた焼きプリン勝手に食べた人手ぇあーげてー

「・・・・・・・・・・・・・・(そっと挙手をするカザミネ)」

「ネタは上がっちまってるようだな、カザミネさんよ」


 レナードが紙巻煙草に火をつけながら、カザミネに笑った。
 冷たい風が吹いているせいなのか、なかなか苦戦しながらもどうにか火をつけて、一服してから満足そうな表情を浮かべる。


「それにしても結構強い風が吹いてんだな、フォルテ」

「まあなー。 ここらあたりは旧王国領域に一番近い場所だからその影響も受けてんだろうな。
 ちなみに旧王国領域は年がら年中吹雪いてるって話だからな、寒いぞぉ〜凍えるぞぉ〜

「ひぃっ、こ、凍えちゃうんですかっ?」

「特にレシィみたいな子供はあっという間に雪男に食べ・・ガハッ!

「脅かしてるんじゃないわよ! バカッ!」


 さすがケイナさん。 いいパンチです。 あたしも見習います。

 ケイナに盛大な拍手を送りるあたし達の隣で、バルレルが”ニンゲンって馬鹿だ”と呟いた。
 いやいやそれは違うよバルっち、人間は皆こんなんじゃないヨー。 一部例外がいるだけだヨー。



       フォルテが、シャムロックのことを話し出す。

 俺の知り合いは砦の守備隊長だーと自分のことのように、嬉しそうに。
 ・・なんというか、シャムロックの話になるとフォルテはずいぶん、子供っぽくなるようだ。
 弟のことを話すお兄さんのようだったりとか、兄のことを話す弟のようだったり・・そんな表情を見せながら、彼とのちょっとした思い出を教えてくれた。


「あいつはなー女にあんまり免疫ないんだよ。
 昔、俺が繁華街に連れてってやって、女に囲まれたら顔真っ赤にしてさ。
 もうガチガチに固まって、限界が来たらものすげー速さで逃げ出して」


 なんだか可哀想だシャムロック


 その時、仲間のほとんどはまだ見ぬ守備隊長にそう思ったに違いない。
 本人にとって顔を覆いたくなるほど恥ずかしい(であろう)過去が友人に暴露されているのだ。
 普段フォルテで苦労(?)しているケイナの呆れた表情は、アメルの事件が落ち着いたら彼を労わってあげようとか考えているに違いない。


 しばらくわいわいと歩き続けて、あたしの息が荒くなってきた。
 目指す先はローウェン砦・・いやしかしこのあたりの地形は少々複雑らしく、時折緩やかだったり、平坦だったり、急だったりと地形の変わるこの道筋・・砦まで続くのかと考えただけでも骨が折れそうだ。


「それに、しても、結構、斜面があるのね」

「おねえちゃん・・大丈夫・・・?」


 心配そうに覗き込んでくるハサハに、あたしはぐっと親指を立てて頷く。
 っていうか何でみんなそんなに平気なのー?!

 そうなのだ。 ヘバっていたのはあたしだけだ。
 アメルもトリスも、ミニスはちょっとフラフラだがそれでもあたしよりは結構しっかりしている。
 ・・何てこった、ちょっと辛い現実だ。


「っていうかネス! あんた何でそんな平気そうなの?
 絶対、あたしより体力下だって思ってたのに!」

「失礼な奴だな、君は」

「ここでひとまず休憩入れますか?」

「いやそれは大丈夫よロッカ、その優しさだけですんごく頑張れる


 自分自身にファイトー・・オゥッ!(ごく○ん風に)と励ましつつ、踏ん張って進んだ。
 ネスはあたしに呆れたため息を吐いていたけれど、トリスは嬉しそうにネスの隣に並んで。


「でもさん、ネスって最近良く散歩してるのよ。 前はほとんど室内から出てなかったけど」

「そりゃそうだろう。 兄妹弟子が色々な出来事に巻き込んでくれているんだ。
 体力だってつくし、つけようとも思うさ」


 そう言ながらネスはあたしを支えてくれた。(よ、余裕なんだ・・!)
 ていうか、散歩が体力作りの一環に組み込まれてるなんてどんなんよ。
 そりゃ、しないよりはマシだけど。

 思わず呆れ半分な視線を向けつつ、素直な感想を述べてしまう。


「つーか、なんかおじーちゃんみたいに隠居した生活してたのね、アンタ・・」

「仕方がないだろう。 派閥の中では散歩という気分にもならないし、
 週に一回の休暇のときしかバスク家に戻れなかったり、街に出られなかったんだからな」


 そうか。 蒼の派閥は週イチ休暇制だったのか。
 今の時代は週2休暇があるというのに・・リィンバウムが少し遅れているのか、それともあたし達の世界がアレ(何だ)なのかわからない。

 ネスの言葉に、ミニスは首を傾げてネスを見上げる。


「ネスティ、どうして嫌なの? 派閥の皆で買い物とか、遊びに行ったりしない?」

「それは無理だろうな。 蒼の派閥は皆ライバルなんだ。
 誰が試験でいい成績をとれるか、上に行けるか、それぞれの師範に目をかけてもらえるか必死で勉強している。 だから他人と遊ぶなんていうことは滅多にない・・ある方が珍しいくらいだ」


 確かに、あそこはとても静かだった。
 あの場所は学校とかとは全然違う・・人はたくさんいるはずなのに、人の声は囁き程度。
 本のページをめくる音、文字をつづる音、微かな足音・・・あそこは本当に、とても静かだった。

 フォルテは微妙に顔を歪めて、一息吐く。


「なんちゅーか、ガリ勉学校みたいだな」

「学校じゃない。 れっきとした、世界の真理の探求を目的とする組織だ」

「世界の真理ねぇ・・俺様にゃ、さっぱりピンとこねえがな」


 レナードの言うとおり、確かに、真理ってどんなんだろうと思う。
 けれどこの世界は本当に未知なものが多いのだ・・そういうものを探すのも、蒼の派閥の方針なんだろうなということは何となしに理解できるけど。

 一方、派閥の話が出てからマグナとトリスは、どことなく俯き加減で歩いていた。
 彼らが蒼の派閥を好いていないことはわかっているけれど、話に出るだけでここまで落ち込んでしまうのは・・今までの、経験からなのだろうか。


(あたしは、よく、知らないからなぁ・・)


 ネスのことは知っている。 いや、知ってしまった。 不思議な力であたしは見てしまった。
 過去を見るなんてずるいと思う、だって自分の心を覗かれてしまうの同じなのだ。
 でもその力は急に出てきてしまうもので・・ゼラムで倒れたときも、マグナとトリスのこともほんの少し見てちゃったし・・あぁぁあたしってばなんてことをォォォオオォ!(身悶え)


(ああやって覗くように見てしまうんじゃなくて、マグナたちの口から知りたいな・・)


 知りたい。
 けれど、あたしが近づいて、知ってもいいんだろうかと考えると足が竦む。
 ”でも、顔を覗き込むくらいならいいかな”と、位置的に近いマグナの横顔を、こっそり覗き込んで・・。


(え)


 ぎょっ、とした。
 ・・なんか、見てはいけないものを見てしまったような、そんな感じだ。
 横顔を覗き込んだだけだから、もしかしたら気のせいかもしれないけど。
 でも     気のせいなんかじゃない。


(・・あんな顔のマグナ、初めてかも・・・・・・・あんな、暗い瞳で)


 派閥はそれほどまでに、この二人に対して酷い態度をとっていたのだろうか。

 あたしも人のこと言えないけど、人って、集団になると怖い。
 護ろうとする人(ラウル師範とか)の気持ちがあっても、それでも、人の悪意は心に大きな傷を生む。
 憎んで、憎んで・・複雑に深く根を張って、心を蝕んでいく。


 ふと、そのマグナと目が合った。
 それにギクリとしてしまえば、マグナはしばらくあたしを見つめて・・穏やかに、笑って。


「見た?」

「・・・見ちゃった」

「内緒にしてて、トリスにも」


 あたし達は皆より少しだけ後ろを歩いて、言葉を交わす。
 賑わう皆の輪からちょっとだけ外れて。


「・・マグナにとって、派閥ってどんなところ?」


 ずっと言いたくて、やっと口に出来た質問に、マグナはしばらく黙々と歩き続けて、灰色の、分厚い雲に覆われた空を見上げて、太陽の光なんてないのに眩しいものを見るように目を細めて。


    真理の探究なんて、俺にはどうでも良かったよ。
 はっきり言って訳わかんなかったし、真理って何だろうって感じで」

「うん」

「ほとんど何もない街で、孤児で、生きていくのに毎日残飯漁りしてて。
 ひょんなことからトリスと一つの石を拾って・・・・・・街が、消えてちゃってさ」


 マグナが、話してくれてる。
 聞いてもいいのだろうかという気持ちと、聞きたいって気持ちがせめぎあっていたけれど、でもあたしはやっぱり頷いて、マグナの言葉に耳を傾けていた。


「それから派閥に連れてこられて、閉じ込められて・・あとはもう散々な記憶ばっかだ」

「うん・・(・・あ、話、途切れた)」


 あたしが知ってもいいのは、そこまでと言う事だろう。
 話の内容をもう一度よく思い出して   簡単に言っていたが、彼が滅びた北の街で、どういった生活をしていたかは理解できた・・・・あたしは胸の奥・・気分が重くなった気がした。
 ・・・・・・・世界が違う。


「派閥には今まで食べさせてもらってたけど、やっぱり、俺にとってあそこは牢獄みたいだ。
 唯一安心できたのって、寝てるときとか、師範の授業のとき、バスク家に帰ったとき、・・・・・・・・あと木の上とか」

「うん・・って、は? 木の上!?」


 何故木の上と驚くあたしに、マグナはにんまりと笑った。
 悪戯っ子のような笑顔だ・・ネスに聴こえないように、あたしにそっと耳打ちする。


「ほとんど授業サボって、木の上で昼寝してた・・トリスと」

「あーなるほど」

「木の上って涼しくていい木陰も出来るし    木の上には誰も追ってこないから」

(・・追う?)


 言葉の意味が、少しだけ理解できなかった。
 誰が、追うんだ? 何を、追うんだ・・・・・それだけしか、わからなかった。

 けれどマグナの言葉で理解する。



「葉は俺達の姿を隠してくれるし、俺達以外に木に登ろうとする人なんていないから。
 だから杖を持って俺達を追いかけ回す人も、嫌な目で見る人も、怒鳴る人もいなかったよ」



        血の気が退いた気がした。
 その杖の意図は何だろうとか、どうして追い掛け回すんだろうとか、
 そんな事を、言われなくても・・・・マグナの、あの表情で理解する。

 憎くて、堪らない、暗い陰りのある、あの瞳で理解する。


 なのにその事を話すマグナは、いつもの笑顔だ。
 慣れているといわんばかりに、笑顔だ。


「フリップ様も好きじゃないんだけど、でもあの人、避けてても寄って来てさ。
 何かと目の仇にするんだよなー」

「・・あ・・・」


 さっきまでは、あんなに穏やかな気持ちで、寧ろものすごく舞い上がった気持ちで歩いてたのに、まるで一気に地の底まで落ちてしまったような気分だ。
 でもそれはマグナに対してじゃなくて    マグナ達が受けてきた、痛みの重さが。



 それがあまりにも重くて。



「っと、? どうしたんだ? ・・あ、ごめん、嫌な気分になった・・?」


 あたしは首をブンブンと横に振って、マグナの隣に並んだ・・俯いたまま。
 そんなあたしが心配になったのかマグナがあたしを呼ぶ声が聴こえる   泣いているんじゃないかって、思われてるのかもしれない。

 でも、今、あたし、すごく情けない顔になってると思う。
 唇を噛み締めて、顔をものすごく歪めて・・怒りを堪える。

 ああでも、我慢なんか出来なくて


「ま・・マグ、ナ」

「ご、ごめん、やっぱり、別の話をしよう。
 派閥のこと思い出すと俺どうしても嫌なことばっかり言っちゃうかもしれないし」


 ”違う”と言いたくて、でも言葉が詰まった。
 だからもう一度ブンブンと首を横に振ってから深呼吸を繰り返して、次はだいぶ落ち着いた声で言う事ができた。


「・・聴かせて」




 異邦人と、過去に繁栄した一族の末裔

 それは過去のモノであっても

 蒼の派閥で学ぶ者達にとって、地位に、才能に執着する者にとって、


 強い妬みとなって、彼らを襲った



(・・マグナも・・・トリスも、ネスも・・・強い・・・)



 きっと、わからなかったんじゃないだろうか


 何故 妬まれるのか

 何故 冷たい視線で見られるのか


 わからなくて、怖かったんじゃないのだろうか



 なのに今、あんなに楽しそうに笑ったり、優しく笑ったり、誰かを守ろうとしたり―――。






(どうしてだろう)






 そんな、ボロボロになった、からだとこころで






 どうして、かれらは、わらうことが







 まもろうとすることができるんだろう







 怒りのせいで、声が震える。
 けれどそれを無理矢理制御して・・でも抑えきれなかったからぎゅうっとマグナの手を握った。


「今は、マグナが嫌ならいいよ。 でもまた、話・・・聴かせてね」

「でも」

「マグナのこと知りたい」


 怒りまかせに握ってしまったから、マグナが驚いたようにあたしを見ていたけれど、
 あたしは俯いたままだ・・こんなブッサイクな顔を見せるなんてとても出来ない。 女として。


(悔しい)


 そう思うのは間違っているだろうか。
 彼らが何をされたかなんてほとんど知らなくて、あたしはこの世界に存在すらしていなかったのに。
 なのに悔しいと思うのは、だめだろうか。


(・・でも、腹立つ、ムカツク・・・・・悔しい)


 蒼の派閥が    自分にも。
 自分に怒ってもしょうがないのはわかるけど、それでも腹が立つ。
 涙は出ない。 ただ顔が怒りに、とんでもない感じに歪んでることだけしか理解できない。


    

「・・なに?」

「俺、大丈夫だよ」


 マグナが皆の視界に入らないようにこっそりと、握り返してきてくれた。
 大きな手だ、男の子の手だ・・掌の厚さが全然違う手が、あたしの手をすっぽりと覆ってしまった。
 それにあたしの手が、怒りでますます熱を持つ。


「何で、笑ってられるのよ・・信じらんないっ・・」

「悪い事ばかりじゃなかったよ。 辛くて、痛くて、腹立って堪らなかったけど」

「じゃあ、笑わないで・・痛いことがあったんなら笑ったりなんか・・」

「でも、俺、今すごく楽しいから」


 皆が笑ってる声が聴こえる。
 みんなが笑ってる声が聴こえる・・ネスもトリスも、喋ってる声が聴こえる。


「ときどき死にそうな目にあうけど、でも俺、皆とこうして歩いてるだけですごく嬉しいから」

「・・・マグナ」

「仲間とか、友達っていいよな。 並んで歩いてるだけで楽しい。
 こうやって旅してるだけで次はどこに行けるんだろうとか、次は誰に会えるんだろうとか考えるとさ、本当、たまに興奮して眠れないこともあるし・・・・俺って召喚師より、冒険者のほうが向いてたかも」


 冒険者マグナ・・いい響きだわと考えたらそこでようやく怒りが収まって、あたしもどうにか笑みを浮かべる事が出来た。 あたしが笑うとマグナはさらににんまり笑って、繋いでいる手をブンブンと振って。


「今は派閥なんて関係ないし、とにかくとアメルを守るのが一番だし」


 元気に、笑ってそう言った。
 あの暗い横顔の感情は全く浮かんでいない・・彼は、あの感情を制御のする方法を知っているから。
 感情を制御する方法を身に着けてしまったのだ・・・・・自然に。

 それを想うと、哀しい気持ちになるけれど。


(でも)


 でも、彼が、その感情を誰にも見せたくないと願うなら。
 ・・・あたしも、待った方がいいのかもしれない。




 いつか、マグナがあの感情を見せることを許してくれるようになるその日まで




 だからあたしも気持ちを切り替えて、にんまりと笑みを返して言った。


「でもどっちかってーとあたしよりアメルのほうを重点的に置いた方がいいわよ〜。
 どうせあたしだってくだらない理由から狙われちゃっただけだろうし」


 変態とか変態とか変態とかああ考えただけで頭が痛くなる。


「まぁ、理由がわからないんだからどうにも言いようがないけどさ・・」

「全くその通りね・・あ、マグナ」

「ん?」


 言い忘れていた。 とでも言うように、あたしはほんの少しだけ手を握り返した。
 途端にマグナがぎょっと驚いた表情を見せたけれど、あたしはやっぱりにんまり笑って。


「派閥のことで立ってられなくなったら、いつでも肩貸すわよ」

「え」

「あたしたちは仲間で、友達だし。
 あ、もちろん派閥に限らず色々と立ってられなくても、肩貸して支えて、持ち上げてあげるわよ。
 マグナがキレてヤバそな時は身を張ってでも止めるし、フリップがマグナたちに何かしようもんならあたしが一発食らわせてもいいし・・明らかにハゲが進行しているあの髪の毛をむしりとってやるわっ」

「うわぁぁ、キッツー」


 特に毛が。


        あたしいつでも待ってるから」



「・・でも待てないかもしれないから、先にごめんて謝っとく」



 やっぱり、またあの力で見てしまいそうだから



 ・・・・・・・マグナは”あーあ”と空いている手で目元を覆った。
 それから苦笑するように、一つ、ため息を吐く。
 え、何でため息?


「あのさぁ、

「?」

「あんまりカッコイイこと言わないでほしいよ・・俺の立場がなくなる」

「マグナのためならいつでもプリンス・・もとい王子様になれる心意気よ! ええ!」


 王子様、という単語に敏感に反応してフォルテがギクリと体を強張らせてあたし達を見た。
 それにあたし達二人は彼を不思議そうに見たけれど、”いや、なんでもない”と笑って、安堵するかのようなため息を吐くのを目撃・・・・一体なんなの?


「ていうか、俺がお姫様?」

「それじゃ魔王はフリップよ、弱点は毛。
 あいつの頭上にフレイムナイトを召喚すれば一発よ」


焼け野原の完成ね。(銀魂風に)


「ぶふっ、ヤバイヤバイ! 色々とヤバイって! あははっ」


 マグナがあたしの背中をバンバン叩いて、大笑い。
 ていうかマグナに背中叩かれながら笑ってもらえるって・・感激だ。
 リューグ達にやってたのは知ってたけど、とうとうあたしも背中デビューね・・!(何)

 幸せを噛み締めているあたしに、マグナがはっと我に返って慌てて背中にあった手を離した。


「ごめんっ、つい」

「いいっていいって、もっと叩いて!(マゾにあらず)

「いやでも女の子だし」


 思わず、むっと顔をしかめてしまった。
 確かに、性別の違いで女じゃ男の人と親友!って感じにはあんまりなれないかもしれないけどさ。
 (そういう形の友情もあるけど)


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたし、男に生まれたかったなぁ・・・」

「えぇ?!」

「そしたら今頃マグナとさ、リューグ達みたいに背中バンバン叩きながらバカ笑いできたかもしんないし」


 性別が同じだったら、もうちょっと早く打ち解けられただろうか。
 大丈夫だと言いながら彼の背に手を置いて、笑って、一緒に戦えただろうか。


「いや、は女の子でいいよっ」

「でもねぇー・・」

「・・・・ていうか、女の子じゃないと、困る    気持ち的に」


 視線を明後日の方向に向けたまま呟くマグナの言葉の意味が理解できなくて、あたしは変な人を見るかのような目で彼の横顔を見つめる。


「気持ち?」

「いやいやなんでもない・・」


 その時、遠くから響く音が耳に届いた。
 ドォンと、地面を揺らすように。 どこかで大きな爆発が起こったような、そんな音だ。
 それは一度だけではなく、二度、三度と続いてから・・・・ようやく収まった。


「今の音は何だい? 花火にしちゃ、いやに重たい音だねぇ・・」


 首を傾げるモーリンに、”花火”?とルウも同じく首を傾げる。
 けれどバルレルは耳をピクリと動かして、その幼い顔に喜色を浮かべてにたりと笑う。


「こりゃぁ花火の音なんかじゃねェぜ・・召喚術の、爆発だな」

「ご主人様、燃える匂いがします・・火薬の、匂いとかも・・風に乗って流れてきます」


『召喚術』 『爆発』 『燃えるような匂い』 『火薬』


 護衛獣達の口から出た不吉な単語に、フォルテが風上に向かって一番に駆け出した。
 全速力だ、大きな体格を持っているのに歪んだこの地形を物ともしないほど、早い。
 何が起こっているのか、彼は理解をしたようだ。

 あたしもそれに続いて、皆も遅れて追いかけてくる。


「あるじ殿」


 隣に並んで走行するレオルドにあたしは問う。


「レオルド、これって」

「2時ノ方向ニ、複数ノ煙ガ上ガッテイルノガミエマス。
 煙ニヨッテ空気中ニ微カニ灰ガ混ジッテイルヨウデス、混ジッテイル灰ハ微量デハアリマスガ、あるじ殿ノ御身体ノ事ヲ思考ニイレマスト呼吸ノ回数ヲ減ラシテ頂ケレバ・・」

「回数を減らす!?
 せめて口呼吸か鼻呼吸かエラ呼吸のどれかにしてくれたほうがありがたいっていうか」

「あるじ殿ハ人間ナノデえらハアリマセン」


 その通りだ! と内心でツッコミ返しをしつつ、、あたしはどうにか崖から景色を見下ろしているフォルテに追いついた・・彼は呆然と、そこに突っ立っていた。
 それはもちろん、広大な景色に見惚れているとか、そういうのじゃない。


「フォルテ・・わっ」


 召喚術の爆発が、もう一度この一帯を揺るがした。
 爆発に一瞬耳に届く音が遠くなる・・視界には黒い煙がもうもうと、堅牢な作りの砦の入り口から吹き上がっていた    扉は木製部分もあったのか、禍々しい炎で燃え上がっている。

 その扉の前には、軽装な服装からどこからどう見ても召喚師だ。
 黒いローブに身を包み、腕には銀の杖を持ち、片手には光が輝くサモナイト石が掲げられている。

 その傍には。


「イオス・・・・」


 分厚い灰色の雲によって太陽の光は遮ぎられているこの世界で、彼の金色の髪がなんとも鮮やかで、美しかった。
 遠目から見ると随分と華奢な体格なのだが、彼はとても強い人。
 重みのある槍を自在に扱う     戦士の一人だ。


 マグナ達も追いついて、戦場と成り果てているその場所に小さく呻いた。
 目的の場所は”デグレア軍によって壊滅しかかっている”という事実が一目でわかるほど、その場所は炎の熱気に満ちていた・・・・倒れて動かなくなってしまっている人の姿も見えた。

 脳裏に、レルム村で見た惨劇が甦る。

 それを無理矢理押さえ込んで、目を硬くつぶって、今にも体に現れそうな震えを抑えた。
 ・・今は震えてる場合じゃない。


(ルヴァイドも、ゼルフィルドもいる)


 姿が見える。
 砦の扉を破壊して、召喚師達を引き下げている姿だ。
 破壊された扉の向こうから、何人もの兵士や騎士がルヴァイド達を睨んでいる。

 爆発に怪我をしたのだろうか、頭から、肩から、足から・・どこからも血が流れて、彼らの形相がさらに厳しいものへと変わっていく。


「黒の旅団だ・・国境を越えて、橋の向こうのデグレア軍隊と挟み撃ちにしているんだ。
 いくら名を轟かせているローウェン砦でも、これじゃ敗北は・・」

「分かってる!」


 フォルテが、ネスティの言葉を遮った。
 彼はもう一度崖下で繰り広げられている襲撃の光景を見下ろして、誰かの姿を目で探している。
 それはシャムロックの姿だろう・・あたしも目をこらして探してみるけれど、彼の姿が見えない。


(死んでない、シャムロックは死んでない)


 そうわかっていても、それでもシャムロックの姿が見当たらない。
 親友の姿が見えないことにフォルテが歯軋りして、隣でシャムロックの姿を探していたあたしに目を向けた。


 厳しい、瞳だ。
 責めるような、怒りが、言葉ではなくその目で伝わる。
 酷く鈍く、くすんだ金色の髪と同じ瞳に、怒りと、憎しみの感情が浮かんで   








 あたしはただ、その瞳に何も言う事はできなかった。


















NEXT



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長いあとがき

第67話をお届けさせて頂きました。

 超お久しぶり更新です、すみません。
これを言うのは二度目です、前回もそうだったー!(悶え)

 シャムロックの登場シーンあたりの記憶がスッポーンと抜けておりまして。
ゲームサモ2を最初からプレイして、ようやくシャムロック登場までこぎつけたー!と喜んだのもつかの間。

修正前の文章は状況が全然違ってました。

 あまりの間違いっぷりに青くなる私。 最初から全部打ちました。
でも私が書くと状況ますますわかりづらく・・あぁでもシャムロックの仲間になる話は好きなシーンだから気合いれたくて。
 もうルヴァイド贔屓街道爆走中です。漆黒色の鳥召喚獣て何。 すみませんルヴァイドをカッコよくみせたくてちょっとした演出(大きな鳥が鎧の肩に乗ってるとかカッコイイと勝手に思ってます。妄想。)を・・。
でもさん、もしものときはルヴァイド達デグレア一行が貴女を連れて逃げてくれますよ!
ルヴァイドなんて一生かけてくれますよ! そのままお婿に迎えてやってください。(黙れェエェェェ!)

・・彼らは汚名を被ることだけは否定するのでしょうけれども、大事な物には代えられないと思っていただければなと・・。


 マグナさんの派閥時代は脳内設定です。
可哀想な頭ですみません。でもマグナにはある程度荒んでて欲しい。(えー)
なんていうか、ネスはラウル師範のバスクという家名があったからまだちょっとはマシだったかなと
思うのですが(フリップは構わず当り散らしてそうですが)、マグナとトリスは家名もなく、他の新米召喚師にイビられていたというか・・平民出の成り上がりなのに、何でラウル師範(師範は温和で優しいので他の生徒にモテモテ/マジでか)に特別扱いされてるんだーとか・・過酷な少年時代を送ってきたんじゃないかなと・・・・・・。
気分的にはマグナ達をイビった彼らにそこになおれ新米召喚師共ォォォォ!という気分ですが、
やはりドリーム小説として、さんが彼の支えになってあげるのもまた一つの要素ではないかと・・・。


さてさて次回に続きます。
よろしければまたお付き合いをして頂けると、至福の極みに・・ルヴァイド贔屓はまだ続きそう・・?(そろそろ落ち着いてください)

・・にしても、毎度長いあとがきですみません。
そういうことは文章中で語れと言いたくなるのですが・・修業せねば・・!

2002.7.8

2005.3.18加筆修正(どころか全部修正)