あたしはとてもちっぽけな存在なのだ







第61夜







土の匂いが鼻につく。
それが眠っていた意識を目覚めへと誘い、あたしは深い眠りから覚めようと声を洩らした。



              ・・ん・・」



「あ、。気がついたか?」



今では聞き慣れた声が耳に届いて、意識は完全に覚醒した。
瞼を持ち上げて視界を広げれば懐かしい天幕の天井が第一に映って、
その次にハヤトの顔とレシィの顔(なんというか完全に号泣モードだ)、彼らより少し高い位置にレオルドがあたしの顔を覗き込んでいた。


・・なんていう幸せな目覚めなのかしら・・!


「(可愛いモノに囲まれて(一つはカッコイイロボだけど!)目覚める日が来るなんて幸せ!
人数足りないけどちょっと白雪姫気分・・ってどうしよう完璧変態だよコレ!
あー・・あたし、どれくらい寝てた・・?」

「んー、結構寝てたと思うけど・・」

「う・・うぅぅぅ・・うぇ・・っ・・ご、ご主人様、も、もう目が覚めないかと思って心配で心配で・・」



落ち着けレシィ



あたしはぼんやりとする思考の中でツッコミつつも、自分がちゃんとした寝床に寝ていたと言うことに気がついて、首をかしげた。
何であたしはここで寝てたんだっけ?

少し考えて、すぐに思い出して慌ててハヤトの襟首を掴んで詰め寄った。
(ハヤトが悲鳴をあげていたけど無視!←鬼)


「ハヤト! る、ルヴァイドは!? ルヴァイドどーなったの?!
もしかしてまだ起きてなくて顔色悪いまま爆睡モードに入ってるんじゃ・・」

「うあぁぁ落ち着いて! だ、大丈夫! ちゃんと目が覚めたよ!」





”目が覚めた”





それはルヴァイドが目をあけて、ちゃんと起きて、動いたということで         





ほろりと、涙がまた零れた。


「えぇ!? ・・」

「・・よか・・良かった・・良かったよぅ・・」




生きてる



ルヴァイドが生きてる



一緒に帰ってきた





         これからも、一緒に生きていけるんだ





そう思うと、もう止めようがないくらい胸が熱くなって涙が零れていった。
安心してしまって、張り詰めていた身体に疲れが重く圧し掛かってきたけれど、
・・・・・あぁでもやっぱりとても嬉しい。

思わず、笑いながら両手で顔を覆った。


「よかった」


喧嘩もした。
悲しいこともあった。
殺されそうにもなった。
散々な出来事ばかりだった。


でも後悔は欠片も残っていない。


今は嬉しさと清々しい気持ちと・・・・・未練だけがある。




未練。



それは幼い頃のルヴァイドの姿を持った少年のこと。



・・?」

「ん、大丈夫。 嬉しすぎて、感極まっただけだから」


あたしは本当にずるい人間だ。
ルヴァイドが助かった今、彼にも消えて欲しくなかったと溢れんばかりに願っている。


彼が”消える瞬間”に願わず。


ルヴァイドが助かった、”今”になって願っている。





        彼が消えなければ、ルヴァイドは目覚めないと知っていたから。





だからあの瞬間に、願うことが出来なかった。






あたしは自分のためにルヴァイドを優先したのだ。






(あーもう、何度も思い知るわチクショウ・・)


自分に嫌悪を覚えて毒吐いた。
もっとすごく強い特殊能力があったなら、カメハ○波ァー! と手から何か出てくるほどの力があったら、あたしは彼もルヴァイドも両方助けられただろうか。


       否、助けられない。


(彼も、ルヴァイドだから)


だから、どうしてもどちらかを優先しなければいけない。
・・・・・・・・・だからあたしは自分のためにルヴァイドを優先した、それだけだ。


(ごめん)


いやもう本当に、勝手でごめん。
勝手で我が侭でずるい人間でごめんね。



       ・・僕は“幸せ”だ・・”


・・・だからあなたの、最後の可愛い笑顔に、甘えさせて。
あなたがあの時、幸せだと感じて、消えていったのだと思わせて。




そして消えても、幸せに。







       ありがとう”







あなたも、ありがとう。












       視界は、全てが赤に染まっていた。


空も、大地も、自分の手も、相手の顔も、全てが朱に彩られている。



(俺は、何を、している?)



問いかけても、答えはない。
ただ憎き相手・・黒い騎士に剣を振り下ろしては裁きあう。
相手は強かった。
だがどこか、自分を気遣うように剣を繰り出しているように感じる。



(何故、本気を出さない)



本気を出せば、騎士はすぐにでも自分を貫いているはずだ。
自分はこの騎士に追いついていないのは自覚している・・なのにこうして、今も生きている。


それは相手が、手加減をしている。


自分を、気遣っているからだ。



(本気を出せ、ルヴァイド)



俺を殺しに来い。



村を燃やしたあの夜のように。
村人を殺したあの夜のように。


俺を殺せばいいだろう。



何故、殺さない?



何故、訴えるように言葉を吐き出して        




(・・・・俺は、何を、している・・・・?)




思考が、最初に戻った。
もう何度この考えを繰り返しているのだろう。
赤い視界と、湧き上がる衝動のまま剣を振るっている自分に、何度問いかけた?




(・・・・俺は、何のため、ここに      





答えに辿りつかないままに。
リューグの意識は、再び沈んでいくのだった・・・・・・・・・・・・・・・。













     お前は本気なのか!?」


イオスの声が空に響いた。
先ほどからスタスタと歩むスピードも緩めない男に投げかけるが、男は全て無視の方向だ。
まったく聞く耳を持たない、というのはまさにこのこと。

イオスは両手を広げて男の前に立ちふさがる。


「本気で、を呼ぼうとしているのかっ」

「邪魔だ」

「お前は彼女の立場を知らないのか? 彼女は今狙われていて、ここで捕まってデグレアの本国に送られてしまったりすれば・・」

「手前が捕まえる側だろ、手前で何とかしろ」

「ふざけるな!」


怒りに吼えて、イオスは槍を強く握り締めた。

確かに自分達は何とか出来るかも知れない。
だがルヴァイドの立場を考えればそうは行かない。
を捕らえることが出来ないと言い訳を続けるわけにもいかないが、聖女だけでも捕まえれば、聖女だけで国は大きな力を手に入れることが出来るはず。
・・そうすればもいつか、狙われることがなくなるかもしれない           


「ルヴァイド様はがこのまま軍を離れることを希望されている。
それは僕も同じだ・・       たとえ、このままリューグが死ぬことになっても」




を悲しませたくない



できるなら、リューグを助けてやりたい



だが、を失うほうが辛いのだ






     には、笑って、生きて欲しいんだ」






本当なら、追われる不安も心配もなく過ごして欲しい。
ただ平凡な生活の中で生まれる不安や喜びを感じながら生きて欲しい。


けれどレイムの目に止まった今では、それは敵わない。

なら、せめて、彼女があの仲間達と共に笑って過ごして欲しい         


イオスの言葉に耳を傾けていたバノッサは、嘲るように鼻で笑った。
それに怒りが沸きたって一瞬視界が白く霞んだが、バノッサの次の言葉に息が止まる。



「ガキが死んで、あの女が笑って生きていけると思うか?」



言葉に、身体が強張った。



「自分を助けようとして死んだ、であいつが泣きまくりになるのは目に見える。
そのうち笑えるようになるかも知れねえが・・・・まぁ、それでも引きずるだろうな」

「だが・・っ」

「俺にとっちゃあのガキが死ぬのは別にどうでもいいんだよ、出会って間もない赤の他人だしな。
だが・・俺にはあの女に恩を売っておく必要がある」


言葉に、眉をひそめる。
恩を売る・・ということはどういうことだ?


「手前には関係のねぇ話だ」


バノッサはそのまま、イオスの横をすり抜けた。
イオスは慌ててバノッサの腕を掴もうと手を伸ばせば、掴む前に掴まれた。

掴まれた腕が、強く締められる。
相手も細身の身体のはずだが、力はイオスの腕をあっさりと折ってしまいそうなほど強い。
猛禽類を思わせる眼光を秘めた赤い瞳に射られながら、イオスはバノッサの空気に息を呑んだ。



     邪魔するなら、誰だろうがタダじゃおかねぇ」



・・この男は、に何を望むのだろう。
のことだから、借りを作ればちゃんと返そうと思うだろう。
自分に出来る許容範囲内の願いながら、叶えようとするだろう。



・・・・・・・・・彼は、に、何を望む?



          だーかーら! 、本当にルヴァイドは目が覚めたんだってば!



突如、二人に割り込むように慌てた声が耳に届いた。
それにイオスがそちらへと視線を向ければ、テントから出ようとすると、それを必死に止めるハヤトの図。
しかもハヤトは微妙にボロボロなのだが・・・・・の激しい抵抗のせいだろうと予想がつく。


「何でこのまま帰れっていうのよー! 別にちょっとくらいルヴァイドと話したっていいでしょーが!
呼べないのなら呼びに行くまで! ・・ということでそこ、どーーーーいーーーーーてーーーーーーー!!」

「イテテテテ! 顎! 顎突っ張らないで! しゃくれ顎になるから! アントニオ○木になるから!

「しゃくれ顎ハヤト上等よ! イチ、ニの、サン、ダァーーーーーー!とか言ってよし!」

「俺は嫌だー! しゃくれたくない!」



・・・・・・・・・謎な会話だった。



「・・、ハヤト・・・・何をしてるんだ」


呆れながら声をかければ、そちらに注意をとられたハヤトの隙をついてがテントから出た。
そのまま勢いに乗ってイオスの傍にまで駆け寄ると、すぐさま彼の背に回りこむ。
ハヤトは呆れたように頭を掻いてから、”降参”と両手を挙げた。


「イオス! ルヴァイドは目を覚ましたんでしょ? どこにいるの?」

「・・・・・それは・・」

「ほんの少しだけでいいの。忙しいなら元気になった姿を遠くから見せてくれるだけでいい。
・・・・・ちゃんと起きてくれたのか、安心してから帰りたいから」


イオスはバノッサを見れば、バノッサはにやりと口元に笑みを浮かべていた。
リューグの事をに言うつもりだということがわかる。
・・・・・彼の事を聞けば、は絶対に帰らない・・・・・。


「・・

「安心して帰って、それからリューグ達に謝りたいのよ。
・・と、いうかルヴァイドの元気な姿を糧にしてリューグ達に謝る勇気を持ちたいって言うか・・。
いやもうあたしってばヘタレだからさ〜、勢いなしに真正面からズドーン! と謝れないっていうか・・」




背に回っていた彼女へと身体を向けて、華奢な両肩を掴んだ。
それにが不思議そうな表情を見せてイオスを見つめるが、イオスは一度唇を噛んで、
・・・・・・・・・告げる。



「・・リューグが、ここに来ている」



・・・は、しばらくポカンとイオスを見ていた。
”何を言っているのだろう”、”リューグが来るわけがないじゃないか”と言いたげだ。
イオスも、あれだけ激しい喧嘩を見たのだから来るはずがないと思っていた。
誰も追ってはこないのだろうと。


・・・・・・だが、彼は・・・・・・・。



「・・あいつが、ここに、来ているんだ」





君のために、ここにいるんだ




君のために、ここまで来たんだ






      君を助けるために、あいつはここまで来たんだ」



が、息を呑んだ。
次には掠れた声を出して、疑問を呟く。


「・・なんで・・?」

「・・・・・」

「・・だって、あたし、リューグを    


掴んでいる両肩に、震えが現れた。
小さく震える、華奢な身体。
抱きしめたくなる衝動をぐっと堪えて、肩を掴む両手に力を入れてイオスは続ける。


「ルヴァイド様と戦っている」

「・・!」

「もう、いつ殺されてもおかしくないんだ。
・・ここはデグレア軍の陣の中、・・・矢が、剣が、召喚術が、いつあいつを殺すかわからない」


相手をしているルヴァイドを救おうと、兵は常にリューグを狙っている。
ルヴァイドが離れた瞬間に、彼に刃が降りかかる。


それは、一斉に。

雨のように・・降りかかり、貫く。


    は一呼吸を置いてから、すぐさま身を翻した。
だがイオスに両肩を掴まれていたせいで、イオスに押し留められる。
悲痛の叫びがイオスの耳を貫いた。


「離して!!」

「駄目だ」

「離してイオス! り、リューグ、リューグを、助けないと」


混乱しているのか、言葉が上手く出ていない。
けれど彼女がこれからしようとしていることが理解出来て、イオスの顔が歪められた。


「・・駄目だ、・・・君が危険になる」

「どうでもいいよそんなの! リューグが、リューグを助けるのよ! あたしが・・」

「どうでもよくなんかないっっ!!」


怒鳴るように声を荒げれば、が恐怖に顔を歪めた。
彼女の表情に胸が苦しさを覚えていることを理解しつつも、イオスはの肩をしっかりと掴んだまま、の瞳を射るように見つめる。

が、怯えた表情でイオスを見る。
瞳は潤み、今にも泣きそうで        自分は、に笑っていて欲しいと願っているのに。
どうしてこんな表情をさせてしまうんだろう・・自分が嫌になる。

イオスは荒くなった呼吸を必死に元に戻し、心を落ち着かせようと肩を上下する。
・・掴んでいるの両肩は、やっぱり震えていた。


「・・・どうでもよくなんか、ないんだ」

「・・・」

「どうでもいいはずがないんだ。 ・・頼むから、君がそんな事を言わないでくれ・・・」


冷たい風が、二人の頬を撫でて過ぎていく。
それにどうにか心が落ち着いてきたのを自覚したとき、が頭を抱えながら、
向かいに立つイオスの肩に額を押し付けてきた。


「・・どうすれば、いいのよぉ・・」

「・・・・」

「ルヴァイド、助けられたのに・・リューグが死んじゃうなんて・・嫌よ、そんなの・・」

「・・

「何で、リューグがここにいるのよ・・あたしなんか、裏切り者だって、放っておいてくれれば・・。
あたしだって、帰って、ちゃんと説明するつもりだったのに・・何で・・・」




       放っておけるはずが、ないんだ。




イオスはそれを言葉に出さず、心に思った。




        君が大切だから、放っておけるはずがないんだ。




       君が好きだから。






(だから)




・・だから、無理なんだよ、





どんなに仲違いしても








君が危険の中に入っていくのを、彼は黙って、放っていられなかったんだよ。






小さな嗚咽が、イオスの耳に届いた。
けれどすぐにそれは深い呼吸に変わり、は何度も深呼吸を繰り返し・・イオスから離れる。

目尻はわずかに濡れていたが、意思の光はしっかりと瞳に浮かんでいた。




「・・イオス、あたし」

「・・・」

「やっぱり、放っておけない」

「・・・・」








「あたし、リューグと一緒に帰りたい」








・・同じなんだろう?







君も、彼が大切なんだ            














NEXT






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*後書き*

第61話をお届けさせて頂きました。

い、一ヶ月ぶりの更新てどうなの私・・! ですがこれから小まめに更新していきたいと思います。
デグレア贔屓リューグ贔屓で! ムンムン!(バノ達はどうしたよ)
この辺りも修正前とまたかなり変わっております・・かなり。というか全部変えたというか。
私的にこっちのほうが好きです。 イオスがヒロインのことをどう思っているかちょっと出せたなと
いった感じが・・・滲み出ているような!(滲みかよ)

今度はリューグ救出に・・。
バノ達に出番はあるのか・・!?


それではここまで読んでくださって、本当にどうもありがとうございました!



2002.5.7

2005.1.6大幅修正