生きていく それは当たり前のようで 実は全然当たり前じゃない 命はすごく弱いから ほんの一瞬の出来事で 消えてしまう時もある 第60夜 ざぁと、風が草原を撫でた。 秋を越え、既に冬も間近に迫りつつある・・そんな冷たさを漂わせながら、風は世界に吹き渡る。 木々の葉を撫で、草の葉を撫で (さて、どうしたものか) 木の枝に佇むキュラーは顎に手をやり、思考に沈んだ。 ルヴァイドの意識の世界から戻ったはいいが少しばかり物足りない。 負の感情は自らの力の源・・これから大仕事が入るのかもしれないのだから、蓄えておいても損はない。 どうせなら、そこら辺りにいる兵士の2、3人を殺して帰ろうかと迷う。 せっかくここまで遠出したのだから、やはり何かを満たして帰りたいのだ。 「・・ん?」 キュラーは目を細め、すこし離れた草陰にひそむ何かを視界に捕らえた。 何か、動いた。 「・・あれは、聖女達の中にいた・・?」 視界に映るのは夜にも鮮やかな、赤髪。 子供と大人の間にいるような、そんな微妙なあどけなさを残した人間・・見たことがある。 確かに聖女やの傍にいた。 (あの人間を追ってきた、ということなんでしょうが・・) わずかに幼さの残る顔。 だが目は、純粋なる子供の目ではなかった。 あれはルヴァイド達と同じ、戦いの中に身を置く戦士の瞳。 (しかも、なんとも都合良いといいますか) 戦士の瞳。 しかしその中には、獣のように獲物を探している光すらも含んでいる。 死を恐れぬ気高く美しい獣のように ・・・それは恐らく、の姿。 キュラーは口元に笑みを浮かべて、飛んだ。 ふわりと空へその身を躍らせ、冷たい風を気にかけることなく、彼はゆっくりと近づいていく。 新しい、獲物の元に。 息を潜めて、ただただ闇夜の中に目をこらす。 そうすれば黒い鎧に包まれた、不気味な気配を漂わせる兵士たちの姿が浮き上がり、 それに村が焼かれた記憶が甦りつつ、リューグはひたすら少女の姿を捜し求めた。 冷たい風の中に時折混じる生温い空気が自分の頬を撫でたとき、不快感が背筋を駆けた。 「・・気持ち悪ィ・・」 嫌な空気だ。 まるで・・たくさんの人間が死んだ後に漂う空気に似ている。 血の匂いが充満し、それが放つ息苦しさ・・何故、こんなにも嫌な空気が 「!」 胸に溜まる酸素を吐き出していれば、背後に、気配。 ”気付かれた!”と素早く身を捩って振り向き 青白い顔をした、長身の男を視界に捕らえた。 「テメエ・・いつの間に・・」 「クックック・・そう警戒しなくても結構ですよ」 男の笑い方が気に触り、眉を歪めた。 だがうかつに騒がれてはデグレア軍に気付かれてしまう・・・しかしこの男は・・何か、別モノのように感じる。 「っは、それだけ血の匂いを漂わせといて警戒するなとはよく言うぜ」 キュラーはリューグを見て、薄く笑った。 彼の中にどうしようもないほどの負の感情が渦巻いているのが、はっきりと見えるからだ。 笑みが零れるのが抑えられない。 「私は貴方に手を貸して差し上げようと思ってわざわざ姿を見せたのですよ」 「何だと・・」 キュラーはリューグの胸の中心を指差して、笑う。 「その中にある憎しみ・・迷い・・私が解き放って差し上げようかと思いまして」 見抜かれている、胸の内に漂う業火の炎。 あっさりと指摘されたことにカッ!と怒りに顔を赤らめ、リューグは強く地面を蹴ると一気に キュラーへと距離を詰めた。 キュラーに近づけば近づくほど、血の匂いが濃くなる。 「 の存在で、わずかに収まっていたはずの怒りが。 彼の言葉に、だんだんと暴かれて行く。 「を探しに来たのでしょうが・・しかし、手遅れですよ」 ”手遅れ” 「・・・・・・どういう、事だ・・・」 思わず足を止めて、キュラーを見た。 言葉に憎しみが暴かれて、言葉に不安が沸騰する。 ・・・・先ほどまでなかった嫌な予感と、ルヴァイドのに対する怒りが更に大きくなっていく事に気付かないまま、 リューグはキュラーの言葉に耳を傾ける。 「見つかる、見つからない以前の問題より・・ 生きているか死んでいるかを心配した方が良いのではないですか?」 「っ・・黙れ・・」 キュラーは、リューグへと一歩、距離を詰めた。 それにびくりと後ずさり、憎悪に燃えていた瞳は、まるで何かに脅えるような小動物のような色に変わっている のを見て取り、笑みがますます深まったことを自覚。 滑稽だ キュラーは大笑いしたくなるような気持ちを抑え、さらに距離を詰めて、リューグに静かに囁きかける。 「・・私が貴方の心にある衝動を引き出して差し上げましょう。 ・・そうすれば、貴方は何も恐れずに、何も考えずに動く事が出来る・・・」 リューグの手の力が緩み、斧が重たい音をたてて草の上に落ちた。 俯きながらも彼の顔にはどっと汗が噴き出し、肩はわずかに震えを見せ始めている。 その震えはキュラーに対する恐怖ではなく、 が死んでいると言うことに対する恐怖と不安。 「慎重に事を進めてしまえば、何もかも手遅れになる キュラーは言いようもない悦びの表情を、リューグに向けた。 それは彼が手中に堕ちた事を確信した笑み 「あー、眠くなってきた・・」 ハヤトは眠そうな目を軽くこすり、意識を保った。 が眠りについてから約1時間、時計を見ると深夜がさらに深まっていく時間帯となっていた。 (・・あれだけ慌しかったのに・・まだこんだけしか時間経ってないんだな・・) たくさんの出会いがあった。 達と出会い、イオス達と出会い・・色んな面を知った。 失ってでも護ろうとする力。 震えながらも、共に過ごした今までの時間より二度と取り返せないものを選ぶ力・・。 (すごいよなぁ・・) “誰か”と“誰か”が出会うことは、本当は不思議なことなんだなとハヤトは思い馳せる。 実際ハヤトもナツミやソル・・リプレやガゼルにバノッサ達と出会って、平凡で終るかも知れなかった 人生が180度回転して変わった。 “生きること”はとても不思議で、奇跡にまで思う。 すぐ隣りのレシィは、レオルドとゼルフィルドが動かなくなってから、ずっと黙り込んでいた。 の事だけでも心配なのに、更にこの二人(二機か?)まで倒れてしまったのだ。 理解不明な出来事が起こり過ぎたため、心が不安でたまらないのだろう。 (・・それに・・) の身体にいた別の人物。 握った手の感触はそのもの。 けれど空気が別物。 彼女はハヤトの中で熱く、印象強く残る。 (・・約束・・か・・) 誰との、約束なんだろう あんなに愛おしそうに笑む、彼女が思い起こしていた約束・・・・。 「あああああ〜!!!」 レシィの声に,心臓が思い切り跳ねた。 驚きに”うあうあうあうあビックリした!”と動揺をどうにか抑えつつ、ハヤトは慌ててレシィを見れば。 先ほどまで死んだように眠っていた男が、身体を起こしていた。 「・・お前は何者だ?」 彼は赤紫色の前髪をうっとおしそうに掻き上げながら、ハヤトを見る。 なんとも端整な顔だ・・そして、強いことが目でわかる。 戦いを、何度も潜り抜けてきた者の瞳。 男はレシィに目を向けて、次には男の膝にもたれるよう眠っているに気が付いて ・・口元に笑みを浮かべた。 瞳もぐっと和らいだことに、ハヤトは少しばかり驚いた。 「・・また・・助けられたな・・」 ハヤトは思った。 (うわー、カッコイイ!) なんとも男前だ。 何度顔を見ても、そう思う。 端整な顔の作りだなとは思っていたが、笑みが加わるとなんと優そうな雰囲気に変わるのだろう。 ・・・っていうか、この人いくつなんだろうか・・・?(25〜29くらいか?) 「あ、あの、俺はハヤトって言います。 イオスがを呼んできて・・それで、俺はただついてきただけなんだけど・・」 「俺の名はルヴァイド・・面倒をかけてすまない、ハヤト」 ルヴァイドはそう言うと起き上がり、を起こさないように抱き上げて自分の寝ていた場所に寝かせた。 その様子を見ていたレシィは目に涙をいっぱいに溜めていて・・・次には、思いきりルヴァイドの腕に抱きついた。 「ルヴァイドさーん!!生き返って良かったです〜!!!」 “死んだわけではないのだが”と苦笑しながらルヴァイドはレシィの頭を撫で、”を頼む”と彼にをまかせ、 近くで倒れて動かなくなったゼルフィルド達を見下ろした。 「ゼルフィルド」 ルヴァイドが呼びかける。 その言葉に反応するようにゼルフィルドの目が淡い光を灯し、機械的な音が彼の体内から響いたかと思うと ぎこちない動きで身を起こし(うわー!動いたー!byハヤト)、彼はルヴァイドの前に膝をついた。 その仕草はまるで人間のようで、ハヤトはエスガルドを思い出す。 「オ目覚メデスカ?我ガ将」 「ああ、・・お前にも世話になったな」 ルヴァイドは先ほどの・・紫色の瞳を持つ男と、ゼルフィルドを重ねる。 色々とごたごたとしていたが、何となく覚えている夢の中の彼は確かに、自分の事を“我が将”と呼んだ。 ・・・・・自分をそう呼ぶのはこの機械兵士しかいなくて。 (今は、聞かぬほうが良いのだろうな) 彼は、ちゃんと思考を持って動いている・・人間と同じだ。 彼に考えがあるならば、自分は彼が教えてくれるのを待つべきだろう・・ルヴァイドはそう思う。 「俺はどれくらい眠っていた?」 「4日間デス」 「・・そんなに眠っていたのか」 ほんの少しの期間かもしれないが、それでもルヴァイドには長く感じた。 そして悪魔に殺され、死んでいった兵士達を思い出す。 (・・俺は、彼らの死を理由にして逃げたかったのかもしれない・・) この戦いから この使命から 解放されたかったのかもしれない そしてその願望は あの少年に届いて・・歪んだ形で叶えられようとしていた ルヴァイドは、目を伏せた。 夢の内容はうろ覚えだが、それでも心に刻んでいたい。 自分が死んでも 誰も泣いてくれないかと思っていた ・・いや、昔は誰も泣かなかっただろう 生きろ、とは言わなかっただろう でも今は・・・・。 ルヴァイドは膝をついたままのゼルフィルドを見下ろした。 そうして自分は進んで行って。 今を、生きている。 ・・・・・”生きている”。 温かな気持ちが、心に満ちた。 同時に笑みが口元に浮かび、わずかに目を細めてから・・伏せた。 出会えて良かったと、心から思える。 生きていけると、これからを思える。 「ゼルフィルド」 「・・・・・・・」 「・・お前に・・・・・ 人が生きようと思うのは それを望んでくれる誰かがいるから 何も知らなくても、ただそこにいて 自分がいる事を“当たり前”と思ってくれる、誰かがいるから だから、その場所にいようと思える だから、その場所にいたいと思う 生きたいと、願う 「 「え?あ・・ああ」 ルヴァイドは毛布でを包み、そのまま抱き上げるとハヤトに手渡した。 彼女の身体が腕から離れるのが寂しいと感じたが、それを抑えてルヴァイドは、あどけない顔の 少年の目を見つめたまま告げる。 「このまま何もなかったように離れろ」 「・・・え?」 「ここいいてはが危険だ。 我ら黒の旅団の目的は、“聖女”と“”の捕獲だからだ。 ハヤトは思わず、頬が引きつった。 さり気にすごいことを言ったような気がする・・を大事にしているということが、さらに理解できた。 リューグが聞いたら本当怒りそうだな・・怖い怖い!(汗) 「でも、が怒るんじゃないのか?」 の性格の事を考えてそう言ってみれば(彼女のことだから相当怒るはず)、 ルヴァイドはそれを想像したのか、笑みを深めてハヤトに言った。 「そうだな・・怒るだろうな。の場合は・・・・・だが俺は危険な目には合わせたくない」 ルヴァイドは、の寝顔を見てまた笑う。 その表情はとても安らいでいて。 「・・大事なんだな、が・・」 何気なくそう言ってしまって、それを聞いたルヴァイドは目を丸くした。 そんな彼の様子を見てハヤトは慌てて“ごめん”と謝る。 「あ、えー・・その、何か・・そんな感じがしたから・・(滝汗)」 「・・そうだな、命の恩人とも言ってもおかしくはない・・。 と出会った事で、俺の中で何かが変わったのは確かだ」 最初は彼女の言葉に興味を惹かれた 父を知っているような、そんな言葉に そして次には彼女が見せる怒り、そして優しく触れる手に戸惑った それは久しく感じていなかった他人の温もり 最後は彼女全てが愛しくなった “忘れたくない”と言った自分の言葉を覚えていてくれた事が、嬉しかった ハヤトはルヴァイドの言葉に頷いて、を落とさないよう抱え直して・・ルヴァイドに笑う。 「・・俺さ、ルヴァイドのことを誤解していたみたいだ」 「?」 「俺はまだ達と知り合って間もないから、リューグ達に教えてもらったんだ。 ルヴァイド達がどんな人間なんだって・・そしたら彼らの答えは女子供にも容赦ない 人殺しの集団だって言ったよ」 ルヴァイドの脳裏に甦るのは、燃え落ちる村。 人も、動物も、森も、全て焼き尽くした。 ・・・剣で貫く感触も、悲鳴も今も耳に残っている。 ・・だが、後悔はしていない。 悲しむことがあっても、辛いと思っても、苦しいと感じて、うなされても・・後悔はしない。 「間違ってはいない。実際・・俺達はレルムの村の人間を一晩で殺し尽くした」 ハヤトはルヴァイドの返答に、何とも言えないようか表情を見せる。 そしてを見下ろしてポツリと呟いた。 「・・でも、誰かを大事に思えるなら・・まだ大丈夫じゃないかって、俺は思うよ」 誰かを護ろうとするなら 何かを大切に思えるなら それは時に 強い力になる 俺はそれを学んだから この世界で 「ルヴァイドは・・まだ大丈夫だよ」 ソル達の父・オルドレイクは 力に固執して 自分の娘も息子も何もかも 全てを魔王召喚に費やした そしてその結末は ただ“死”だけで ・・死んだ彼を、何となく哀れに思った自分が あの時は確かにいた ルヴァイドは俯くハヤトに、何か言いようもない感覚を覚えた。 今まであった人物と何か違うと、感じる。 と、似たような空気 そして、レイムとも似ている まるで 彼だけがそこに切り取られているような 自分たちとは何か違うような そんな、感覚が 「・・お前は・・」 そこまで言いかけて、ルヴァイドは言葉を打ち切った。 耳をつんざく悲鳴。 それはルヴァイドも何度も聞いた、怪我を負う者が上げる悲鳴。 「ハヤト、を頼む!」 「ルヴァイド!!?」 ルヴァイドは剣を手にとって、鎧を身に着けることなくテントを出た。 空はあの夢のように暗い・・だが浮かぶ満月を見て、過去の自分の姿をした少年の言葉が胸に甦る。 “キミも僕も、本当は時間が止まってるんだよ” ならば、動かそう お前が俺だというのなら お前の時間も俺の時間も動かそう それが 凍てついた時間の中、ずっと独りでいたお前に 自分が、唯一出来る事だと思うから (月が、隠れた イオスは、薄暗くなった世界に気付き空を見上げた。 先ほどまで眩しいほどまでに満月が世界を照らしていたというのに、急に雲に隠れ、 世界を薄暗闇へと誘った・・・何故、急に? 「ハッハッハーーーーーー! この俺様に勝とうなんざ500年早いぜ!!」 ・・・・・・・・イオスは、呆れたため息を吐いた。 そして、巨大かつ強力な召喚獣の背に乗っている色白男・・もといバノッサを見上げた。 そんな彼の近くには、軽い負傷を負いながらも応戦している自分の部下達。 (・・やはりあの召喚のレベルの高さは半端じゃないな・・) ああいうナリだが、彼は異様なほど高位の召喚術をいともたやすく扱う。 しかも剣術も我流なのか動きが読みにくく、その姿はまさに獣と言っても良いだろう。 “だがそろそろ相手にするのも飽きてきたな・・”と本人が聞いたら怒り狂いそうな事を考えれば、 部下の兵がイオスへと駆け寄ってきた。 「イオス隊長、た、大変ですっ」 「・・何だ」 「こちらからも侵入者です!」 兵士の言葉に、イオスは眉をひそめた。 侵入者?・・これ以上誰が侵入してくるのだろうかと、さっと思考を巡らせた。 悪魔にしても、ただの賊にしても、ルヴァイドが危険な状態の今、都合が悪すぎる。 「悪魔か?」 「いえ、一部の者の報告によりますとどうやら聖女達の仲間の内に見かけたと・・」 「・・・聖女・・?」 予想外の答えだ。 聖女・・いやしかし、考えればを連れてここへ戻ってきたのだ・・誰かが、追っても不思議ではない。 では、誰が? 途端に、痛みに叫ぶ悲鳴がその場全員の鼓膜を打った。 つんざく悲鳴・・何度聞いても慣れるものではなく、イオスは眉を歪ませながらも 槍をしっかりと手に握り、悲鳴の上がった方向へと足を向けた。 「迎え撃つ!案内しろ」 「はっ!」 悲鳴が上がった方向は、月の光がなく、ただただ暗闇に満ちた草原。 テントの灯りとして灯っていた火はすでに消え、薄暗い世界がそこにあった。 イオスはわずかに目を細めながら相手の位置を捉え、片手で部下に灯りの用意を命じ、 ・・・・・・灯りに暗闇から浮き上がった姿に目を見開いた。 小さな灯りに照らし出されたのは。 闇夜にも鮮やかな、燃えるような髪色をした1人の少年。 「・・お前は・・」 リューグ、という名だったはず。 だがリューグの手に持つ斧は ・・彼の頬も、彼の手も、全て赤い血で染められていた。 「見つけたぞ・・」 「どうやってここまで・・」 リューグは返事の変わりに、斧をイオスに向けた。 そんな彼の瞳には、ただただ凶暴な光しか浮かんでいない。 ・・いや、光すら、失っている・・・・・・・・・・・・・・・まるで操られているかのようだ。 「を返せ」 低く告げられた言葉と同時にリューグは強く地面を蹴り、イオスめがけて駆けた。 他の兵士に構うことなく、ただただ真っ直ぐにイオスをめがけて。 イオスは迫り来るリューグの目に、驚きを隠すことが出来なかった。 リューグの瞳はただ殺す事しかない血に飢えた獣のようだ。 それをさらに主張するかのように彼の手の中に収まる血だらけの斧が、赤く光る。 「隊長! お下がりください!」 「っよせ!」 イオスを助けようとした兵が、リューグの前に立ち塞がる。 だが彼は暗い瞳を向けたまま、表情をかえることなく斧を降り リューグが動かなくなった兵士の身体の横をすり抜けた途端、兵士の鎧は破壊され、 鎧を破壊するほどの衝撃に口から血を吐き、そのまま崩れ落ちたのをイオスは見て取った。 思わず兵士の名を叫べば 「死ねぇ!!」 吼えるリューグにイオスは応戦しようと構えを見せる。 だが身体が縫い付けられたように動かない 振り下ろされる血に濡れた刃に”死ぬ”と考えたその思考は、 割るように間に現れた・・目に映った赤紫色の髪にすぐに中断された。 ギィン!! 刃と刃が重なり合って、リュ−グの斧が大剣に受けとめられていた。 イオスは自分を助けた者の姿を理解して、一瞬泣きそうに顔を歪めた後・・ 気を引き締め、叫ぶように呼んだ。 「ルヴァイド様!」 「すまない、遅くなったイオス・・だがこの男は・・」 リューグはルヴァイドを見て、怒りの表情へと顔を歪めた。 瞳はさらなる憎悪で彩られ、剣によって受け止められた斧を握る力をさらに強く力をこめた。 ・・・・・血にまみれたその形相は・・。 「・・鬼・・」 だがその鬼を生み出したのは 他ならぬ、自分の所業 ルヴァイドは呟くと、足に力を入れてリューグを後ろに押し込んだ。 リューグはそれに流されるように身体を傾け後退し、二、三度後ろに跳躍し・・・ だが体制を立て直すと再びルヴァイドに襲い掛かる 「待て! 俺は、今、お前を殺すわけにはいかんのだ!」 「黙れぇえええええええええ!!」 リューグはルヴァイドを力で押しこめる。 重なり合った刃がギチギチと音を立てつつ、異常に強いその力に違和感を拭えずにはおれない。 ・・だがルヴァイドもそれに負けじと押し返し、後方にいるイオスに叫んだ。 「イオス、負傷した者を運べ!!」 「ルヴァイド様!」 「様子がおかしい・・! ・・だが彼女のために、俺は今、この男を殺せない・・!」 様子がおかしい。 こんな無謀なことをするなどと、に危険が及んでも構わないということか・・・? 突如、ルヴァイドの脳裏に男の顔が浮かんだ。 薄く笑った、男の顔・・。 「・・キュラーか・・!」 「テメエを殺して、ここの奴らを全員殺して・・村との仇を取ってやる!!」 ”の仇”・・彼はが死んだと思っているのか? 「は死んではいない!」 「嘘を吐くな! テメエの仲間が死んだと・・殺したと言ってやがったぞ!!!」 「嘘ではない! 目を覚ませ!!」 そうしてルヴァイドの剣はリューグの斧を弾き、空高く舞い上がらせた。 弾かれた斧は、彼らのいる位置より少し離れた大地に、重々しい音をたてながら突き刺さる。 だがリューグは後ろに2歩引いて、先ほど斬った兵士が落とした剣を手にした。 そうしてまたルヴァイドに剣を構えて走り、剣と剣を交わらせ・・彼は吼えた。 「村の連中を殺したのは嘘じゃねえだろうが!!」 「っ・・!」 バノッサよりリューグの方が危険だと確認されたせいか、他の兵もバノッサに構っていない。 それはそれでいいのだが・・・バノッサは下で兵を指揮しているイオスをレヴァティーンの上から見下ろした。 「おい、あのガキはあの女の仲間じゃねぇのか?」 「・・そうだ、僕たちの跡をつけてきたらしい・・」 「・・の、割にはえらく荒れてんな」 イオスから見ても、バノッサから見ても。 明かに様子がおかしいことは理解できる。 先ほど、ルヴァイドがキュラーの名前を呟いたのを聞いて原因はキュラーだともわかっている。 「で、どうすんだよ。あのままじゃあのガキ、死ぬぜ?」 「・・わかっている・・」 イオスはぐっと拳を握った。 どうすればいいのかわからない。 あのまま戦えば、殺すことも止む追えないだろう。 ・・・・だが、が バノッサは俯くイオスをしばし見下ろし、ワインレッドのマントをばさりと翻し、レヴァティーンの背から降り立った。 そしてレヴァティーンを異界に返すと、彼は真っ直ぐにルヴァイドのテントに向かう。 イオスはそれを、不思議そうな表情で呼び止めた。 「何を・・」 「あの馬鹿女を連れてくるんだよ」 連れてくる だがバノッサはそれをうざったそうに払いのけると、イオスを冷ややかな目で見下ろし。 「何か文句があんのか?」 「を連れてくると言うことは・・彼女がここにいることが他の兵士に・・!」 「じゃあ、テメエはあいつを止めれるっていうのかよ?」 「それは僕が聞き返そう、がリューグを止めれると思うのか?」 無理だ 今の彼は、正気を失っている ・・恐らく、を見てもその姿がわからないくらいに だがバノッサは、挑発するようにニヤリと笑って。 「あいつしかいねーだろうが」 キュラーは、笑みを浮かべながらリューグとルヴァイドの戦いを見ていた。 おかしくて、おかしくて仕方がない。 人間とは、なかなかどうして・・ここまで滑稽な姿を晒すのだろう。 「 呼ばれて、彼は慌てることなくゆっくりと振り返った。 「ガレアノですか・・サイジェントから戻ったのですか?」 「お前は何をしていたのだ?レイム様がお探ししていたぞ」 キュラーは笑っていた顔を引き締めると、顎に手を置いて考え込む。 には手を出した覚えがないので死刑は大丈夫だと思うが、 他に怒らせたかどうかその理由をさっと探し当てる 「任務ですか」 「ああ。・・貴様は今度、騎士の国を落とせとの命令だ」 ”トライドラですね”とキュラーはニタリと笑いつつ、リューグ達に視線を戻した。 ガレアノはキュラーの視線を追って・・・・・・呆れたような表情を見せる。 「あんなモノを見て何が楽しいのかワシにはわからんな」 「楽しいじゃないですか、あの人間は鬼になる資格が充分にありますよ。 憑依召喚術で鬼の魂を降ろせば、相当な戦力にもなるでしょうね」 低く笑う声を漏らして、キュラーはリューグの戦いを見つめた。 ルヴァイドが殺さないように必死で戦い、リューグは本気で殺すつもりで本気で戦う。 なんて愉快なのだろう。 「貴方も観戦しませんか?とても楽しいですよ」 「・・レイム様にお前を連れ戻せと言われているのだが?」 ガレアノは不満そうにそう言うと、キュラーは遠目で呟いた。 「・・私にも鬱憤晴らしくらいさせてくださっても良いかと思いますが?」 そんな二人の頭の中に、レイムが大声で愛を叫びながらを追いかけるシーンを思い浮かんだ。 ・・見ると涙が零れそうな、あんまりにも壊れてしまったレイムの姿。 ・・・・・・・・・・・・・・二人同時に、胃を抑える。(胃痛再発) そうだ、確かに鬱憤晴らしも良いかもしれん。 「・・少し見ていくか、時間もあるしな」 「それが1番ですよ、たまにサボっても大丈夫でしょう」 そうして悪魔二人は、木の上で観戦を決め込むのだった。 月のない夜の悪魔の宴は、まだ続く・・・。 NEXT ----------------------------------------------------------------------------- *後書き* 第60話をお届けさせて頂きました。 リューグがちょっと悪魔の手先に・・(何か違う・・) ようやく目覚めたルヴァイド。 けれどもまだまだ引っ張るデグレアストーリー・・いやもういいから!いやもういいから! なんて言わず、お付き合いしてやって頂ければ幸い・・ゲフォ・・(吐血) キュラーさんのサドっぷりがどんどん露になっていく。 キュラーはサドだと思います、っていうか悪魔がサドだと思う。ビーニャなんて完璧サドだよ!(落ち着け) 修正、あと半分頑張ります・・! ここまで読んでくださってありがとうございましたーvv 2002.5.3 2004.11.28加筆修正 |