分厚い、灰色の雲 肌を刺す冷気 降り注ぐ雪 白の吐息 祖国を思えば、何よりもまずそれだけが鮮明に浮かび上がる。 第54夜 固く、厚い壁に覆われ、吹雪く雪からも外敵からも守る役目を持つ、国の象徴。 第一印象に物々しい重みと冷たさを与えてしまう、国の盾。 王族の遺臣たちが集まり形成された元老院議会が統治する、国の政。 ・・・・・・・・雪に覆われた旧王国最大の軍事都市・デグレア。 けれども、温かな国でもあった。 国民は皆愛国心が強く、雪に覆われた国であっても、ルヴァイドは温かだと感じていた。 しかしそれらが凍えるように冷たいと感じたのはいつだったか・・・・・。 ( 暗い世界でぼんやりと意識を保ちながらルヴァイドはそう思った。 意識を失って倒れたはずなのだが、自分はどうしてここにいるのだろうという疑問は、 どこかに落としてきたかのように浮かぶことすらなく彼は祖国を思い馳せた。 (・・あの男が、現れてから・・ 旧王国時代に国に貢献した家々の者が元老院議会のメンバーとして国の政を仕切る。 だがそれは市民に反論を許さぬ一種の独裁とも言える体制で、これを良しとしない遺臣者の反乱が始まり、 時間をかけてようやく沈下したと思えば・・・・・・反乱分子たちは皇子を連れて亡命。 皇子不在という理由から同盟を結んでいた他国から見放され、国は衰退していく一方という結末を辿っていった。 それを機に、帝国がデグレア支配へと戦争を持ち込んだ。 だが国の大きな柱ともいえる2人の将軍がデグレアの軍を指揮し、それを幾度も、見事に退けた。 獅子将軍・アグラバイン、鷹翼将軍・レディウス。 それが国の柱の名。 (・・アグラ、・・バイン殿・・) 懐かしき、父の親友であり戦友でもある将軍の名を、ルヴァイドは無意識に呟いた。 彼が国を去らなければ、父は死ななかったのかもしれないと今でも思う。 だが彼は、国を出た。 それは極秘任務を命令を受けたからだ。 ・・このままでは帝国の戦争を塞ぎきることも出来ない、聖王国打倒すら叶わぬ夢となる。 国の行く末を悩んだ者が古い書庫から発見した一冊の書物の情報を元に、元老院議会は新たな策を持ち上げた。 <【禁忌の森】と呼ばれる森が聖王国領域内にある。> <獅子将軍・アグラバインは他数名の部下を連れ、森に封印されているとされる強大な力を調査し、我が国へと持ち帰ってくるべし――――> 獅子将軍は命令通りに【禁忌の森】へと向かった。 だが連絡は途絶え、月日が経ってから生還を果たしたのは獅子将軍ではなく。 ――――銀の髪の召喚師。 若く美しい美貌を持つ彼の報告によれば、獅子将軍と自分以外の部下は全員行方不明。 だが森には確かに力の源があり、さらに調べを進めれば強大な力が国のものとなる――――。 ・・・短くも美しい銀の髪を僅かに揺らめかせ、その召喚師は聖人のように微笑んで告げた。 デグレアは基本的には召喚師の存在を敵視していた国だった。 だが戦いとなれば召喚術、召喚師の力が必要になり、多くはないがぽつりぽつりと召喚師は国にいた。 銀の髪の召喚師も、数少ない召喚師の一人だった。 しかし国は、銀の髪の召喚師・レイムの言葉通りに調査を続けていった。 レイムの言葉はどこか力があり、次第には国が彼の言葉を違えることなく従っていくようになり――。 ・・・気がつけば変わっていた。 全てが、変わった。 雪の寒さに白い吐息を吐きながらも、ささやかに賑わっていた街。 それがいつの間にか静まりかえってしまっていた。 兵士が気を抜くことなく警備しつつ、小さく笑いながらも仲間同士で交わされたひそやかな会話も、 いつからか誰一人喋ることなく、無表情に佇むようになっていた。 12歳だったルヴァイドは、それに小さな恐怖を感じていた。 ・・・まるで、生きている人間がこの国からいなくなっていっているような気がして。 騎士であった父も、静まり返る国に何らかの異変を感じ取っていただろう。 だからこそ原因であると考えたレイムを討とうと考えたのだ。 ・・・・・・それは叶うことなく、終わってしまったが。 ( 父が殺され、病気が悪化した母も眠るように死んでいった。 母が亡くなり・・生きている人間が自分以外にいなくなったかのように感じて、さらに孤独感が募った。 ・・だが、それでも生きていけたのは レイムを討とうとした父の行為から反逆という罪の名を与えられたからだ 父を誇りに思っていた。 父を何よりも尊敬していた。 だからこそ、その名を与えられたことが耐えられなかった、許すことも出来なかった。 ・・・・・・・そうして一族の汚名を返上するため、今日まで国のために剣をふるい、生きてきた。 それはこれからも――――。 霞む意識の中でそんなことを考える。 けれど次にはその考えは打ち負かされた。 ”・・本当にずっと・・そんな道、なんだって!・・・・思ってるの・・?” 誰の声か思い出せない。だが鮮明に届いた、その声。 声に、虚ろな意識は目を覚ます。 はっとしたように顔を上げれば自分は暗い世界の中に立っていて・・・。 (ここはどこだ・・?) どこかに落としてきたと思われた疑問が先ほどの声によって浮かび上がり、彼はようやく思考を働かせた。 ルヴァイドの本体は眠ったままで本当に目を覚ましたというわけではないだろうと判断する。 ・・そしてゼルフィルドとの会話中に倒れ、こうして目を覚ますまで延々と、過去を思い出していた。 けれど声が届いた途端に、途切れるように思い出すことがなくなった。 「・・あの声、は・・」 声の主を思い出そうとしていれば、目の前に、意識を失う前に見下ろしていた泉がぼんやりと現れた。 暗く、深く・・風もないのに水面が揺れている。 ルヴァイドを誘うように揺れている。 思い出そうとしたことを忘れ、ルヴァイドはそれに誘われるがまま歩み寄る。 泉の岸に肩膝をつけてゆらゆらと揺れる水面を見下ろした。 映っているのは紫がかった赤髪を持つ、精悍な顔立ちの、大人の男・・自分の姿。 けれど水面が一度大きく揺れれば、次に映ったのは紫がかった赤髪の 「・・?」 水面に映る少年が、笑んだ。 しかしその笑みは歳相応の笑みでなく、嘲笑する、誘惑するような・・・妖しい笑み。 かと思えば、水面が再び大きく波を立たせ、少年が泉からゆっくりと姿を現した。 濡れた赤髪の雫を軽く払い、宙に浮かぶ少年はルヴァイドを静かに見下ろして、もう一度笑む。 「 まだ声変わりのない高い声で、少年はルヴァイドに言葉をかけた。 彼の言葉に何故か大きな衝撃が走り、ルヴァイドは少年を見つめたまま息を呑む。 「癒しなんていらない、涙も理解者もいらないって・・父上が死んだ時決めたじゃないか? ・・君は何もかもをあの時に捨てたんじゃないか」 「俺は・・」 そうだ、捨てた 涙も、癒しも、何もいらないと、捨てた 灰色の雲から降り注ぐ雪の空を仰ぎながら、獣のように泣き叫び、何もいらぬと決めた そうすることでしかこれからの道を進むことが出来ないと思っていたから 「 断ち切るような重みがこもったその言葉に思わず、力が抜けたように膝をつけば少年は泉から離れ、 ゆらりとルヴァイドの目の前に降り立つ。 ルヴァイドはただ、自分の幼い頃の姿を持った目の前の少年を見上げた。 少年がルヴァイドを見下ろすと、柔らかな赤紫の髪が揺れる。 「多くの人間を散々殺しておいて、いまさら救われたいと願うなんて」 自分は救われたいと願っているのだろうか? ・・・願っているのだろうか。 ならば何故、願うようになったのだろうか。 昔はそんなことを片時も思ったことはなかったのに 少年は、呆然と少年を見上げるルヴァイドの表情に浮かぶその疑問を感じてか、 悔しげに・・・憎々しげに唇を噛んだ。 「あの女に出会わなければ・・・」 「・・あの女?」 あの女とは、誰のことだ。 過去の記憶と今の記憶が深く混濁し、思い出そうとしても思い出すことが出来ない。 女、と言っても出てくるのは別国の娼婦や道を擦れ違っただけの女ばかりだ。 (違う、あの女達ではなく もっと、別の。 もっと、愛おしい。 怒り、泣いていた、あの、温かな手の持ち主 「君はずっと血塗られた道を行けば良い」 少年の言葉に、思い出しかけた彼女の存在が掻き消された。 霞む記憶を正常に戻そうと首を振るルヴァイドの肩に触れ、少年は顔を寄せて、 囁くように言葉を耳に投げかける。 「ただ、あの女に会う前の君に戻れば良いんだよ」 「やめ、ろ・・っ」 ルヴァイドの表情が歪んだ。 それでも構わず、少年はルヴァイドに囁く。 「何も思い出さなくて良いんだよ、ルヴァイド。・・何も・・思い出すことなんてない。 キミの中にある想い出は辛いものばかりだ。 何も思い出さないで・・・そうすれば、いつもの君に戻れる」 「・・いつもの、自分・・」 「君が生きるのは、母上や父上の汚名を晴らすためだけ。それ以外は有り得ない」 何故、有り得ないと言うのだ。 汚名を返上すれば、多くの可能性があるはずだ。 デグレアの国の体制を整えながら、新しい世界を見ることだって出来るはずだ。 イオスやゼルフィルド、そして 「ルヴァイド」 少年が、名を呼んだ。 それを睨むようにして見やれば、少年は無表情、淡々と繰り返す。 「己の誇りのためだけに、多くの命を奪った君が幸せになることなんて許されないんだよ」 唇も震わせながら俯き、固く目を瞑り震える唇を強く噛んだ。 己の愚かさを、改めて突きつけられたような気がした。 持っては、いけなかったのだ 望んではいけなかったのだ 多くを死なせても、汚名を返上するまでその命を背負うと決めた 命を奪ったことを誰かに打ち明けることなく、謝りつつ 返上をした後でも、背負った命のために、永遠に剣を振るい、剣によって死んで行くのだと、決めていた 持ってしまった。 望んでしまった。 彼女に出会い、触れて、得たいと、願ってしまった。 ”彼女達と生きていきたい”という、希望を。 少年が頬に触れた。 途端に触れられた箇所がぬるりとした感触に濡れ、鉄錆びた、嗅ぎ慣れた匂いが鼻につく。 もう幾度も幾度も嗅いだ、匂い。 ・・血の匂い。 「・・お前なんか、ずっと傷つけばいいんだ」 少年の顔が、憎々しげに歪むのをルヴァイドは見た。 彼の両手はすでに赤く濡れている、ルヴァイドの両手も、頬も、血で染まっている。 「・・お前だけを幸せになんかしてやらないよ」 血の匂いに酔ったように眩暈が起こり、少年が一体何者なのかという疑問を浮かべることなく。 同時にルヴァイドの意識がふつりと消えて途絶えたのだった 「 誰もいない居間に向かって、ロッカは弟の名を呼んだ。 きょろりと首を動かして見渡しても、鮮やかな赤の髪を持つ弟の姿がそこにはない。 が去ってから何時の間にか姿を消している弟が心配になり道場を、庭を探していたのだが どこにも姿が見えず、ロッカは不思議そうに首を傾げた。 「どこに行ったんだ・・?あいつ・・」 「ロッカ・・」 呼ばれて振り返れば、そこにはゆったりとした服に着替えて眠っていたマグナが立っていた。 しかし疲れたような表情で壁を支えに立っていて、ロッカは慌てて彼を支えに入る。 「マグナさん!まだ寝ていなくちゃだめですよ!!」 「何か・・あったのか?」 「・・はい・・ちょっと・・」 マグナはロッカに支えられながら、トリス達が集まっている道場へと向かう。 (ネスティたちが帰ってきたので全員が集まることが出来る場所は道場しかなかったのだ) ゆっくりと歩きながら、マグナはふっと思い出したように顔を上げてロッカを見る。 「ロッカ・・」 「?」 「さっき・・リューグが走って出て行ったけど・・どうしたんだ・・?」 ロッカは一瞬、何の事だかわからなくて少し時間を置いたが、 ようやく言葉が思い浮かんで顔をあげてマグナを見た。 「あいつ・・外に出て行ったんですか?」 「うん・・何かすごく・・怒ったような顔をして・・あ、あと斧も持って行ってた。 今から浜辺に鍛錬に行くのはおかしいし、“何かあったのかな”って・・」 「・・・・」 マグナは眠ったままだったからとイオスのことを知らない。 ロッカはマグナの体調も考えて話すべきか話さないでおくべきか少々悩んだが、 いずれにしてもマグナにはわかってしまう事なので、何が起こったかを説明しようと 顔を上げた。 だがリューグがどこへ行ったのか。 思い当たることがあって、嫌な予感がロッカの中で膨らんでいた。 ・・・・・・・・・・・・・行き先が<デグレア軍のいる場所>ではないか・・そんな嫌な予感を。 「マグナ!もう大丈夫なのかい?」 マグナとロッカは、その声に顔を上げてそちらを見る。 ここの家主でもあるモーリンが、淡く長い金の髪を揺らしながら駆けつけて、笑顔でマグナを見上げた。 マグナもつられて笑い返す。 「モーリン」 「疲れたような表情をしてるけど・・うん、顔色も良くなってるね。 まったく、あんまり心配させんじゃないよ?」 「うん、ごめん・・モーリンもありがとう」 「とにかく、無事で本当に良かったよ」 ”トリスも喜ぶよ!”とモーリンは笑いながら、数センチ高い身長を持つ彼の髪をくしゃりと撫でた。 少々収まりの悪いマグナの髪が、モーリンの手によって押さえつけられる。 ・・しかしといい、モーリンといい・・何で女の子はこうも頭を撫でるのが好きなんだろうと疑問に思ってしまう。 次にモーリンはロッカに目を向けた。 彼はモーリンとマグナを見ないまま、深く考え込むように俯いているのだ。 「ロッカ、どうしたんだい?」 「・・俺が“リューグが外に出て行った”って言ってからそれっきり・・・」 モーリンはふと考えて、弾けたように顔を上げてマグナを見た。 彼女の中にもロッカと同じ考えに行き付いたらしい。 「マグナ・・!そりゃ本当なのかい?!」 「う、うん・・でもそれがどうか・・?」 「あたいはネスティたちと一緒に森に残っていたから詳しくは知らないけど・・。 どうやら・・イオスがここに来たんだよ」 瞬間、マグナの表情が凍りついた。 支えていてくれたロッカから離れて、モーリンの両肩を掴んで問う。 「は?!アメルは・・無事なのか?!まさか何かあったんじゃ・・」 「アメルは無事だよ、他の皆も無事だけど」 「は?!」 叫ぶように、マグナが問う。 それにモーリンは戸惑った表情を見せて・・・・・口を開く。 「・・は・・レオルドとレシィを連れて、イオスと、ハヤトともう一人の・・人相悪い男と一緒に ここを出て行ったよ。・・たぶん、デグレア軍のところに行ったと思う」 デグレア軍の所に行った? 俺を助けてくれた仲間の人と一緒に? 何故? (でも、とうとう知られてしまった が、イオス達を想っていたということ。 それが他の仲間にも知られてしまった。 これで何かの騒動が起きないわけがない、皆はとルヴァイド達の関係を問うだろう。 ・・それよりも、は戻ってくるのだろうか。 それだけが何よりも気がかりで マグナは頭の中がますます混乱するのを感じながらも、首を振る。 取り合えず詳しく話しを聞いてみない限り何もわからない。 「とにかくトリス達の所に行こう。・・ロッカ、リューグのことも・・全部それからだよ」 「・・はい」 風が強い。 レヴァティーンの背に乗って飛翔しているのだから当たり前なのだろうけれど、そんな事を思う。 空気が重い。 けれどそれは飛んでいるせいではない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理由は、目の前にあったりする。(うんざり) 「おいお前・・さっきはよくもの身体に触ったな・・」 イオスが、バノッサの首元に槍を突きつけていた。 しかしバノッサは平然とイオスを見て、口元を歪めて吐き捨てるように告げる。 「あんな色気のねぇ女の身体触ったって何にも嬉しくねぇよ」 イオスの口元が(珍しくも)引きつった。 槍を握る手の力をこめて、振り下ろそうとするのをハヤトが必死になって止めている。 あー・・・ますます空気が重く(っていうか悪く)なっていく・・・。 っていうか色気がないとは失礼ね!そっちだって色気どころか不健康じゃん!←これもヒドイ 「離せ!ハヤト!」 「ああもう二人とも仲良くしろよ〜、同じ美白なんだからさー!」 ハヤトさん、フォローにもなってません その一言で、イオスの怒りの矛先が今度はハヤトに襲い掛かった。 レシィはハヤトに同意するつもりで口を開きかけていたのだけれど、イオスに怒られているハヤトを見て、 慌てて自分の口を抑えて、余計な一言が出ないように防ぐ。 賢いわよレシィ!(拳グッ!) 「で、でも本当に喧嘩してる場合じゃないだろ?」 「・・それは・・そうだが・・」 「バノッサだってわざわざイオスを怒らせるなよ〜! ・・仮にも怪我人なんだしさ、血圧上がって血管切れたらどうするんだよ・・(死ぬよ!)」 「知るかよ」 バノッサはうっとおしそうにハヤトとイオスを追い払って、飛行を続けるレヴァティーンの背を優しく撫でる。 すると嬉しそうにレヴァティ−ンが小さく鳴いて、その鳴き声にバノッサは僅かに目を細めた。 (おお、召喚獣を可愛がってるなんて優しいじゃん。 ・・・・口は果てしなく悪くて性格は捻くれてるけど)←とことんヒドイ バノッサを眺めていたあたしに気が付いたのか、ハヤトは嬉しそうに笑いながらあたしの隣に座った。 先ほど体調が悪そうだったけれど、今は平気みたいで、少し安心。 いやしかし本当愛らしい顔つきだよねハヤトって・・!(恋だって始まるよ!) 「バノッサ、口も悪いしひねくれてるけど結構いいところもあるんだよなー」 「ハヤトはバノッサのこと好き?」 「どっちかというと俺が嫌われてたけど・・俺は好きだよ。 喧嘩っ早くてアレだけど、何だかんだ言って結構面倒見もいいし」 「・・あの顔で面倒見が良い・・!!(顔は関係ない)意外な事実だわ・・!」 バノッサの背を見つめながら唸るあたしに、ハヤトが笑った。 「ま、とにかく嫌わないでくれたら俺も嬉しいよ」 「大丈夫よハヤト!顔が凶悪で性格が捻くれてるけど実は微妙に優しいって事は ついさっき理解してるから、安心して!(親指グッ!)」 「・・・・・あ、ああ・・(顔が凶悪・・確かに目つきがなぁ・・<オイオイ)」 「ってか、イオス。あんたルヴァイドを助けにもらいにきたのよね? ・・こい言っちゃなんだけどもあたしなんか役に立てないわよ?」 イオスはあたしの言葉に首を振って、優しく微笑む。 大量に出血していたから顔色は相変わらず悪いけれど、でも傷が癒される前に比べたら ずっとずっとマシだ。 「君でなければ無理なんだ。 “力”とか“召喚術”とか・・そういうものが必要で来たんじゃない」 あたしはイオスの言葉に首を傾げて、考える。 “力”でもなく“召喚術”でもない?? 「じゃ、何なの?」 まさかハートとか言わないでしょうね・・!(イオスに似合わない!) イオスがそんな言葉を口するなんて到底考えられないけれど、 彼はあたしにやはり微笑んで、告げる。 「“君”が・・“”自身が必要なんだよ」 イオスはあたしの手を握って、手の甲に唇を落とす。 ・・・・・・・ぎゃーーー!またかい!!! 「ちょ・・また・・っ?!」 「ルヴァイド様の身に何が起こったかはわからない。 ・・・だがたとえ途中で何かあっても、僕が君を守る」 イオスはほんの少しだけ無邪気な色を含めた笑顔を浮かべて、あたしに微笑む。 ああもうまったくそのセリフは女殺しだってば・・っていうかあたしの中の <萌えキーワード>に入ってんのよ!!わかってるのアンタは?!(汗) 「それに“姫”を守るのは、騎士の役目だろう?(笑顔)」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒメ? 「・・・・・どこに?(周りを見渡す)」 「ここに」 「・・・・・・・・・誰が?(周りを見渡す)」 「君が」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「はあああああああ?!??!あんた何言ってんのよ!!」 あたしはおもわず立ちあがるが、強い風に煽られてレヴァティーンの背から下界へと落ちかける。 けれどもイオスが素早くあたしの腰を掴んで引き寄せて、柔らかな金髪を風に揺らせながらあたしの 耳元でそっと囁いた。 「・・君は僕らのお姫様だからね」 ほほぅ?(ニヤリ) 「それじゃ、あたしがイオス達の<お姫様>ってわけ?」 「男にとって、“守ってあげたい”女の子はお姫様だって誰かが言っていた」 誰がそんなクサイ事を吹き込みやがった?!(滝汗) あんまりにもイオスらしくないセリフに内心ツッコミを入れていたら、落ちそうになっていたあたしに ハラハラと心配そうな表情を向けていたレシィがぱっと顔を輝かせながら、落ちそうだったあたしを 助けたときの状態・・つまり、イオスに抱きしめられている状態のあたしの所にやって来る。 そして。 「それじゃぁ、ご主人様は僕とレオルドさんの“お姫様”ですね!!」 思わず・・・・・レシィの背景に、ぶわぁっと向日葵の花が咲き乱れているような幻覚を見た。 しかもイオスとは違い、なんともそのセリフが可愛らしいというか、なんというか・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・ブチ。(何かが切れる音) 「レシィ可愛いーーーーーーーッッッ!!!!」 あたしはドーンっ!とイオスを突き飛ばして、かわりにガバァっ!とレシィに抱き付いた。 レシィは慌てた様子で頬を染めるけど、あたしにとってそれは更に愛らしく映って。 あたしは思わずレシィの頬に頬擦りする。(悩殺よォォォォ!) 「あたしにとってレシィはある意味“お姫様”で、レオルドはすごく頼もしい騎士様だわ! あーもうあたしってほんと幸せモンだわー!!(身悶え<落ち着け)」 「アリガトウゴザイマス、アルジ殿(ガション)」 「ちちちち違います〜!僕にとってご主人様が“お姫様”・・はぅ!??」 耳まで真っ赤になりながら言い返していたレシィの顔が、今にも泣き出してしまいそうな表情にと 変化して、硬直するように固まった。 あたしは彼の反応に不思議そうに目を丸くしながら、後ろに振り向くと。 (かなり)不機嫌そうなイオス。 「(我を忘れてレシィに飛び付いちゃったからすっかり忘れてた・・!)・・・あ・・」 「いいい、イオスさん!ごごごめんなさい・・・・!(←何故か謝る)」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕は怒ってないよ、レシィ」 レシィがその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。 けれども次の瞬間には顔の表情が今度こそ完璧に凍り付いた。 「でも、邪魔をされたから不機嫌だ(にっこり)」 笑顔。 とてもイイ、笑顔。 しかしイオスはそう言うやいなや、レシィの首根っこを掴んで軽々と持ち上げた。 ああっ!あたしのレシィーーーー!!!(所有物宣言<は?) 「いーーーーやぁぁぁぁ!イオス、やめてええええええええ!!!(汗)」 「それじゃレシィ、空を見下ろしてみるか?」 そう言って、イオスはレシィをレヴァティーンの背から床も何もない大空に片手でぶら下げる。 こういう場合は下を見てしまうのはよくないのだが、レシィはばっちり下を見てしまって。 「うわーーーーん!!高いですーーーーーーーーーーーー!!!!」 「ちょっとイオス!レシィに何て事すんのよーー!!!」 「そうか、気持ちがいいか。良かったな」 「いや、めっちゃ泣いてるし!あんた性格歪んでない?!ねぇ!!?」 「そろそろ腕が痺れてきたが・・・どうして欲しいんだ?レシィ」 「は、離してくださ・・離しちゃだめですーーーーーーー!!!」 とうとうレシィがシクシク泣き出した。 それにイオスは随分と気持ち良さそうに微笑んで(鬼畜がここにいる・・・!)、 レシィの首根っこを掴んでいる腕をさらにぶらぶらと揺らした。 「離していいのか?なら・・」 「いい加減にやめろこの馬鹿男ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 陰湿なイジメに近いそれに、あたしの理性もプッツン切れた。 怒りの感情に流されるままにイオスを横腹に蹴りを入れて、突然の攻撃に呻くイオスの手から 離れたレシィは見事、レオルドにキャッチされる。 そしてあたしはレシィを抱きしめると、よしよしと柔らかな髪を撫でながら宥めた。 「よしよし・・怖かったよね?もう大丈夫よ?」 「う・・うぇぇぇぇん!怖かったです〜!」 「よっぽど怖かったのね・・(そりゃ当たり前か・・!)可哀想に・・。 もう、イオス!悪ふざけも程ほどにしなさいよ!あたしだって怒るときは怒るんだからね!!」 怒るあたしの姿を見ながら、ハヤトは脇腹を押さえながらも哀愁を漂よわせるイオスの肩を、 慰めるようにポンとたたく。 「・・俺にはどっちも可哀想に見えるよ・・」 「・・・・・そうか」 ハヤトは落ち込むイオスに苦笑しながら、ふっ・・と眼下にあるリィンバウムの大地を見下ろした。 広々と続く草原と、月の光を浴びて小さく輝きながら水面を揺らす泉。 結構飛んだほうだとは思うのだが、それでもまだ向こうにはファナンの街の明かりがはっきりと見える。 ” (・・あれは、誰だったんだろう) 先ほどの声を思い出しながら、イオスが必死にの許しを得ようとして賑やかなこの空間を背後に、 ハヤトは空に浮かぶ月を見上げる。 眩しくて、白く淡い光を放つ月。 これは召喚されて来た1年前と変わらない。 美しい月だ。 彼女が掴んだその瞬間に、ハヤトの中にいるサプレスのエルゴは確かに反応した。 (・・?) 君、なのか? 「 イオスがハヤトを呼んだ。 それに思考を現実へと引き戻して、ハヤトはイオスの顔を見る。 「ん?」 「どうかしたのか?月を眺めて・・」 「んー、ちょっとな。・・それにしてもイオスも大変だな、結局まだ許してもらってないんだろう?」 「・・・ああ、・・でも」 イオスはふっと俯いた、けれどもその口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。 「でも、楽しい。彼女の側にいられて・・嬉しい」 嬉しい、と呟く彼の横顔は酷く穏やかだった。 ”ルヴァイド様が大変な時だとわかっているのだがな”とと付け加えていたが、それでもやはり、 嬉しいものは嬉しいということらしく。 ハヤトはイオスと出会って初めて、彼の人間らしい部分を見せてもらった気がした。 それに自分も嬉しくなってにっこり笑ってイオスを見る。 「わかる気がするなー、の側にいると俺も楽しいし」 「・・お前はが好きなのか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「へっ?!」 「違うのか?」 いやいや何でそうなるんだといいたかったのが、イオスは至極真面目な表情でハヤトを見ていて・・。 、ハヤトは頭を掻いて苦笑した。 ・・・彼はきっとこういう恋愛に関する話をした事がないのだろう。 興味津々といった色を浮かべている瞳に何となく、そう思う。 「んーわからない、でも“好き”だって思えてしまったら好きなんだと思う」 「・・そんな事は当たり前だろう。“嫌い”と思っていて好きになれるはずがない」 「・・でも“嫌よ嫌よも好きのうち”って言うしなー・・」 「そんな言葉があるのか?」 「いや俺が言ったんじゃないんだからそんな、変なモノを見る目で見るなよ・・(汗) まぁ、心に「この子が好きだー」って来たらそうじゃないか?人それぞれだよ」 何故か考え込んでしまっているイオスを見て、自分の中で彼の印象がかなり変わった。 アメル達が彼らを憎むのは、ただ憎まれるキッカケがあっただけで。 そのキッカケさえなかったら仲良くなっていたのかもしれない。 ・・ふと、の言葉を思い出す。 “・・どっちも、っ・・大事なのに・・” 泣きそうになりながら呟かれた、あの言葉。 その気持ちはとてもわかる気がする。 彼女にとってイオス達は大事で、トリス達も大事で。 でも気分は、仲の良い友達同士で喧嘩して取り残されたような・・・・そんな複雑な気分かも知れない。 どっちにつけば良いのかわからなくて、取り残されたような そんな寂しい気持ち 彼女は今の状況を どう思っているのだろうか? イオス達を助けても トリス達にどう言うのだろうか? そしてイオスが言ったあの言葉も。 “は傷つけないでほしい” その気持ちも分かる気がする。 彼女はイオスにとって良き理解者なのだろうということは確かなのだ。 複雑な環境の中で育ってきたであろう彼にとって、きっと信頼が大きい理解者。 傷つけたくはないだろう。 悲しませたくもないだろう。 ・・守りたい人だろう。 守りたい人ならハヤトにだっている。 たくさんいる。 家族や、リプレ達や、トウヤ達、ソル達だって守りたい。 バノッサやカノンだって、イイ奴だ。 だから守りたい。 守りたい人だらけで、<今>がすごく充実してる。 けれどその守りたい人達が互いにすれ違った立場にいるなら、 それはとても悲しくて寂しい。 「イオスー!」 の声に、イオスはぱっと振りかえる。 その表情は悪さをして怒られて、“ようやく許してもらえる?”と喜んでいる犬のようなモノに見えた。 ・・・本人にはとても言えないことだが。(死ぬ・・!) 「、その・・・」 「・・レシィに謝って来てよね?そしたらあたしもちゃんと許してあげられるわ」 「・・わかった」 イオスはレシィの所に行って、ハヤトとはその背を見送る。 見送ったあとではハヤトの隣に腰を下ろした。 「イオスと何話してたの?」 「んー、男の複雑な心理状況を・・」 「訳わかんないわよ・・」 苦笑する彼女にハヤトも笑って、・・・・・ハヤトは先ほど考えていた事をに問うた。 「、帰ったらどうするんだ?」 「んーどうしようかねー?取り合えず帰ったらまずパッフェルのケーキ屋に行って、 玄関口で待ち構えているであろうネスの口をケーキで塞ぐでしょ? んでその後の皆に騒がせたお詫びにケーキを配って、ロッカとリューグに謝って、 アメルにももう1度謝って・・」 「・・ネスティには謝らないのか?」 それにがきょとんとしてハヤトを見た。 「何で謝るのよ、あたし、悪い事なんかしてないじゃない。 騒がせたし、心配させてしまったのは悪かったって思うけど・・・。 でも謝るのは今回傷付けちゃったロッカとリューグとアメルだけって決めてるの。 ・・あーもう、改めて思い返せばリューグ達に本当酷いこと言っちゃったよねー・・あたし・・・・」 は“気が滅入るー”と目元に手を当てて、重々しくため息を吐く。 彼女も疲れているのだろう、動きっぱなしだったから。 「今は何も考えない方がいい」 「え?」 「そんなにたくさんの気持ちを抱えてたら、が壊れる」 ハヤトは笑って、の目を手で覆う。 何も映さないように。 「俺から見てても、は抱えすぎてる。 どっちの気持ちも残すことのないように抱えて・・それじゃ落としたりしてしまうし、自分を壊しやすい。 が壊れてしまったらたくさんの人が悲しむよ」 「・・・・」 「イオスの話だと、ルヴァイドって人の所につくのはあと5分だけかかるって言ってたけど・・。 5分だけでも休んだほうがいい・・それでも充分休めるから」 心も身体も たくさん悩ませてしまったなら 休んだ方がいい そうすればまた 立ちあがれるから ハヤトはの目元を抑えている自分の手の平が、濡れるのを感じて少し戸惑った。 目元を覆っている自分の手が濡れているということは 「・・?」 「・・ありがとう・・・」 そう呟いて、はハヤトから顔を背けてそのまま寝転んだ。 レヴァティーンの背中に頬を当てて目を閉じる。 ハヤトはそんなに苦笑しながら、自分の上着の脱ぐ。 「・・おやすみ」 脱いだ上着をにかけ、ハヤトはまた浮かび上がる月を見上げた。 白い月は相変わらずで。 白くて淡い光を放ってる。 それでも真っ暗よりはいい。 真っ暗な道を歩くより、まだ薄暗い道を歩く方がいい。 薄暗いほうが、進む勇気が持てるから。 レヴァティーンの翼は、夜の空に大きく羽ばたいた。 NEXT -------------------------------------------------------------------------------- 後書き 第54話をお届けさせて頂きました。 レシィ、ごめん。 今回もレシィが苛められました・・・何やら苛めやすくて・・(ヒドイ)。 ルヴァイドの幼少時の姿を持った彼が何なのか、また後々に明かされます。 これからの舞台はデグレア軍駐屯地、そしてルヴァイドの精神世界の中です。 ようやく擬人化ロボたちが出てきます・・が、苦手な方はご注意・・!(汗) ルヴァイドのシーンで、別国の娼婦、とありますが。 か、彼も男だということで・・ネ!(笑) ルヴァイドがテクニシャン(オイィィィ!)だと信じて疑っておりませんので、 どうぞそういう設定だと思ってくだされば・・ルヴァイドのカッコよさに惚れた女も多いでしょうし!(必死) イオスが随分と爆弾発言多発です。 「“お姫様”」と「“キミは僕が守る”」です。 くあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!(のたうち) まさか某ゲームチックなセリフを自分が打つとは思ってもみませんでした! こ、こっぱずかしなぁ!恥ずかしい・・! でも姫様萌え!!燃え!萌ーーーーーーーーーーーー!!!(黙れ) すみません、心は乙女ドリーム大好きっこなんです・・(笑) マグナも復活、ロッカも弟が心配で仕方ありません。 さてそんなリューグはどこにいったのか・・これもまた、後日に明かされます。(え) てきました・・ラブvv それではここまで読んで下さってありがとうございました! 2002.4.5 2004.9.18加筆修正 |