いつか変われるなら


少しでもいいから 誰かの心に残っていられるような人になりたい


優しく


温かく


そしていつの間にか その人の心に入っているような


そんな自分に







第54夜







バノッサが帰ってきている。
ということはつまり、ネスだけでなくフォルテ達、トウヤやソル達だって帰ってくる・・・・。



ネスが帰ってくる→この事態にしこたま説教
(いやどっちかというと説教より説明を求められる・・!)。



そんな方程式が脳内に展開されてあたしは思わず頭を抱えた。
この事態にはあたしだってちゃんと理解できているわけがない、イオスから何の説明もされていない
のだしどう説明しろと?(イオスはまだ怪我人ということなので無理なんてさせられない)
・・・・・なんというか、お先真っ暗というのはこういうことを言うのだろうか。


(いやでも、イオスを助けたい一心だったし!
それに本格的に帰ってくる前にとっとと逃げちゃえば大丈夫だろう!うん!!)

?」


イオスが少々、心配そうな色を含めた表情であたしの顔を覗き込んできた。
いつもよりも顔色悪いその顔にあたしはぐっと気を引き締めて、イオスの両手を握って言う。


「大丈夫よイオス!たとえ皆からタコ殴りにされかけてもあたしが守るからねっ」


あたしの言葉にハヤトが”タコ殴り・・”と笑いをこらえていたが、笑い事ではない。
ネスの説教は長いときは本当長いし、デグレア軍に恨みをもってるリューグだって
このままですまないかもしれないし。(斧ブン回しそうだ・・!<汗)



(・・皆には悪いけれど、あたしは彼を守る)



           イオスが死にそうになったあのときに、



あたしは本気の、一大決心をしたのだ



”女はド根性よ!”とイオスの両手をさらに強く握り締めれば、イオスは何回か目を瞬かせてあたしを見た。
・・・・・けれども次には嬉しそうに目を細めて、頷いて。


「僕も、君を守るよ」


ふわりと抱きしめてきた。

イオスの顔があたしの肩に乗せられて、柔らかな金髪が頬に触れてくすぐって、
それにあたしも思わず目を細めながらもとんとんとその背を軽く叩いてやる。
・・・イオスが可愛く見えるなんてあたしも相当末期だわね・・!


「そう言ってくれるのは嬉しいけどあんたは怪我人なんだから、今は大人しく守られててね」

「だが」

「大丈夫!外が静かで騒がしくないってことはネス達はまだ帰ってきていないわ。
今のうちに逃げたらそれで・・・・」

「すまない・・」


あたしはしょんぼりと項垂れているイオス(ええ?!あのイオスがしょんぼり?!有り得ん!←ヒドイ)に
驚きつつ、あたしは親指を立てて、彼ににっこりと笑って、励ますように言ってやった。


「大丈夫!あたし達、性別を越えた友達よ!







・・・・・・・・・・途端にイオスがものすごく微妙な表情を浮かべたのだった。






え?何でそんな微妙な顔になんの!?(汗/なんか変なこと言った?!)


















ハヤトはそんなイオスとと見て、またもや笑いが零れそうになって慌てて口を押さえた。
明らかにに好意を寄せているイオスもまたおもしろいのだが、彼ら二人の親密さを見せつけられて
完全に置いてけぼり状態のバノッサもまたさらにおかしい。
ああ、完全に置いてかれてるよバノッサ・・!背中がちょっと寂しそうだ・・!!(笑)


(・・てゆ−か・・・すごい差があるなぁ)


ハヤトはチラリとイオスを見て、自分の首を抑えながら胸中に呟く。
          うっすらと、絞められたような手の跡がある自分の首を。


(・・・全然違う・・)


イオスの、空気が。

イオスの、表情や瞳が。


とても優しく

和らいでいる

嬉しそうに

笑ってる



ハヤトは、先ほどイオスが目を覚ました事を思い返す。
にはとても言えないような出来事                      










*












           あ、気がついたか?」


がアメルの元へ出て行ってからすぐに、イオスは目を覚ました。
彼は身体を起こし金色の髪に隠れた目元を手で押さえて、意識をしっかり保とうとしている
のか、何度か首を振っている。
顔色は悪いが起きれるほどまで回復したというのは喜ばしいことだ。


「起きれるのか?これ、服だけど・・」


もきっと喜ぶだろう。
そう思うとハヤトはついつい笑顔になってイオスの傍に近づいた。

だが、イオスがハヤトの姿をその瞳に映した瞬間。


「うぁっ!」


ものすごい力でベッドへと引きずり込まれ、押し倒された。
訳も分からずイオスを見れば次には首に彼の手がかかり、途端に息苦しさと眩暈を覚える。

息苦しさで、理解した。

首を絞められているのだ。


         イオスに。


「あっ・・?!」

「・・死んでしまえ・・!」


吐き出されたように、呟かれた言葉。
それの意味を考えることが出来ぬほど酸素が頭に廻らなくなり、あまりの苦しさに
ハヤトは手足をばたつかせて抵抗するが、首を締める細い腕に繋がる手は離れない。
・・ただ、掠れた声を漏らすことしか出来ない。


「っぁ・・・!」


意識が、朦朧とする。
次第に抵抗する気力も失いかけ、ぼんやりとイオスを見上げれば。

霞む視界に映ったのは、悲しげな・・苦痛な表情を浮かべるイオスの顔。


「・・イ・・オ・・」

「イオスさん!やめてください!!!」


割り込みむように届いたその声に、イオスがびくりと身体を震わせた。
同時に首を絞めていた手の力が一気に緩みを見せた。
ハヤトは無我夢中で自分の剣の柄を掴んで振りかぶれば、鞘はイオスのこめかみに直撃し、
殴られた反動でイオスは小さく呻きながらベッドから落ちていった。


「ーーッハ!ガハッ!ごほ・・!」


視界が涙で滲んでいる。
急激に酸素が体内を巡り、いきなり巡り始めたそれに眩暈さえも起こる。
殴られてベッドから落ちたイオスはただ、床に座り込んで呆然とハヤトを見ていた。


「ハヤトさん!大丈夫ですか!」


ハヤトは背中をさするレシィに、咳き込みながらもどうにか言葉を返す。、


「けほ・・俺は、大丈夫・・」

「良かった〜・・・・い、イオスさんも・・・・大丈夫ですか?」

「・・・すまない」


おそるおそる問いかけるレシィの言葉に、イオスはやはり呆然としたまま詫びた。
それにハヤトは慌てて手を振って、“大丈夫だったから”と言ってしまっていた。
・・・本当ならここは怒るか責めるかそんなことをするべきところなのかもしれないが、
つい一瞬前までのイオスにちゃんとした意識があったように思えない。

・・どちらかというと、半分寝ぼけているような、そんな感じだ。(寝ぼけで殺されかける俺って・・!)


ハヤトははーっと一息ついて、床に落ちた服を拾って彼に差し出した。


「・・あのさ・・がこれを・・」

「・・が・・」


イオスはハヤトから受け取った服を眺めて、ふっと優しげに、安心したような瞳の色を見せた。
まるで、その者に心を許しているかのようで・・あまりにもその優しい表情に、ハヤトは思わず
目を丸くしてしまった。

イオスは再びハヤトを見る。


「・・本当に、すまなかった・・お前は知った顔ではないから条件反射で敵かと・・」

「条件反射?」

「戦場だと全てが敵のようなものだからな」


イオスは何ともないように言っていたが、ハヤトは少し考えてから。

そして後に絶句した。



全テガ敵・・・?



イオスが上着を脱いでレシィに手渡したその時、ハヤトは初めてイオスの身体を見た。
華奢とも言えるほどの白い身体に刻まれてあったのは、戦った故に彼についた傷。


無数の傷痕。


うっすらとついた傷もあれば、深く、濃く残る傷もある。


「・・傷が珍しいか?」

「え?!あー、俺も一応戦う身だからそういうのはつくけどさ・・でもこれほどは・・」

「・・一応、軍人となればほとんどはそうなるだろう。訓練もあるからな」


眉間にシワを寄せながら呟くイオスに、ハヤトは困惑の表情を浮かべる事しか出来なかった。
自分の世界のテレビなどで自衛隊の訓練をしている光景をちょっとだけ見たことはあるが、
あれと同じ・・いやそれ以上のものなのだろうかと考える。

どう言えばいいかわからないハヤトを横目で見つつも、イオスは新しい上着を手に取った。
手に取ったときに視界に入ったのか、カーテンが開いている窓の向こうに広がる世界を見る。
穏やかな夜に優しいさざ波の音がファナンを包み、空はさらに深い夜へと色を深めていた。
・・争いのない、平和な夜。

魅入るようにその世界を見つめているイオスに、ハヤトはぽつりと声をかけた。


「何で、軍人に?」

「・・・さぁな、理由なんて、とうに忘れてしまった」



気がつけば、武器を握って相手を貫いていた



生き残るために、勝利を得ていた



           そして、初めて負けた





黒の騎士と呼ばれていた、あの男に。





何年も勝利し続けての、初めての敗北。
捕虜とされ、敵国に捕まった絶望と屈辱に耐えられず殺せと叫べば、
黒の騎士であるあの男はただ静かに自分を見下ろし。



”俺が憎いか”



静かに、静かに、問うた。
確認のように、彼はイオスに問う。
それにイオスが当たり前だと言ったように嘲笑を浮かべれば、彼も口元に笑みを浮かべた。






”ならば生きて、殺すがいい”






         それは、イオスにとって解放の言葉だった。




捕虜という立場からの、解放。




・・・ただただ生き残るためだけに戦ってきた人生からの、解放。





イオスは彼の部下となり、殺す機会を狙いながらも生きていった。
だがしかし生きていけば、彼の人となりを知り、彼の歩く道を知り、次第に憎しみを覆い隠すほどの、
尊敬の念を抱くようになり。


こうして、今、地面に立っている。



       今は、ただ一人の男のためだけに戦っているだけだ」



戦って、戦って


ふと、考える


一体、何人殺しただろう


一体、何人死なせただろう


たった二つのこの手で


一体、何人の歴史を壊したんだろう


それはきっと数えられないくらいで


自分はたくさんの死を担った



            けれど後悔は、感じることはなかった



・・ほんの少しだけ後悔を感じたことといえば。




”あたしだってあんたなんか大っっっ嫌いよ!!!”




が叫んだあの時だけだ。




そうして、重い沈黙が舞い降りた。
ハヤトはそれに内心・・ため息吐き出すことしか出来なかった。
・・が彼らを生かそうとする気持ちがなんとなくわかってしまうからだ。


その時、小さな足音が耳に届いて、イオスはふっと顔を上げて扉を見た。
それにつられてハヤトも顔を上げて扉を見やれば、が戻ってきたのだ。

彼女はイオスの上半裸の姿に驚きの悲鳴を一つもあげることなく、
にっこり。
そう、にっこりと笑って、イオスを気遣った。


「イオス、大丈夫?」

「・・、顔、なんかすごい輝いてないか・・?(汗)」


は自分のツッコミを完全に無視してイオスの着替え(もとい身体)を拝み、彼を気遣う。
それにイオスが服をベッドに置いて、彼女を包み込むように抱きしめた。


「・・


その声色も、仕草も。
全てが優しい。


その後、が悲鳴をあげてイオスの頬を引っ張って怒鳴るが、イオスは本当に嬉しそうに笑っていた。
先ほどの暗い表情はなくて、暗い影もない。
とうに消えてしまってる。



が、彼の視界に入った途端に

彼の顔に笑みが生まれて

そうして楽しそうに

安心しているように

ただ彼女の声を受け入れて

それに幸せを感じている



「あたしが常々心配してんのに、どーしてあんたはそういう心臓に悪い事やるかなぁ?!
ってかそんな事より反省してんの?!イオス!」

「・・一応は」


“一応は”と言っている割には、反省はしていないだろうとハヤトは気付く。
そうこうしている内にの怒りは更にエスカレートして。
ついにはバノッサが現れて、現在に至るわけだった                 









*








(・・しかも何か性格まで変わってるように見える・・)


呆れたため息を吐きながらハヤトは頭を掻く。


(でも)



きっと、本当に嬉しいのだろう

が傍にいることが、嬉しくて嬉しくてたまらないのだろう



(アメル達の反応を見て、すっごく悪いような奴に感じられたけど・・)



が必死に助けようとしている姿を見て

イオスの話を聞いて

そんな印象は吹っ飛んでしまった



(・・どっちの味方になればいいんだろう・・)





そのことで迷っているのかもしれない



そんな事を考えてうなっていたら、胸ぐらが乱暴に掴まれた。
一体何だ?!と掴んでいる本人を見れば。
     いかにも目で殺すと言わんばかりに睨み降ろしてくる、バノッサ。(ヒィィ!)


「オイ、はぐれ野郎。・・俺は女を捜しにここまで来た・・。
なのに何であの女顔の優男に睨まれなくちゃいけねぇんだよ、アァ?」

「優男・・?睨まれるって・・?(俺が悪いのか?!?)」


ハヤトはたちの方に目を向ける。
するとイオスがすごい目でこちらを睨んでいて、思わず背筋に寒気が走った。
何で睨まれるんだーーーーーーーー?!(汗)


「ハヤトとか言ったな・・・・・・・・さっき笑っただろう」

「(バレてる!)い、いや!笑ってないよ!うん!(笑うの我慢したし!)」

「・・まぁいいが・・それより、に手を出すと容赦しないからな」

えぇぇ?!!!

「ほぅ・・手前・・この俺様にそんなデカイ口を叩くとは良い度胸じゃねぇか・・?」

エェェ?!!!!今のは俺に言ったんじゃなかったのか?!)


もはやどこにどうツッコミをいれていいのかわからなくなったハヤトを間に挟み、
イオスはバノッサを睨み上げ、バノッサはイオスを睨み降ろして互いに睨みあっていた。
・・・・・・・・・いかにも武器を持って喧嘩(流血有り)しそうな勢いだ。
な、何で俺、こんな目にばっかりあってるんだろう・・!(本当にな)


「ちょ・・ふ、二人ともそんな事してる場合じゃないだろ?!落ち着け・・」

「ってか、ここで喧嘩しないでよ」

 
ベシーン!


の言葉と同時にレオルドが自分の後頭部にある、三つ編みにされているコードの束らしきモノで
躊躇なくイオスとバノッサの頭をはたいた。
突然のその攻撃に、被害も何も受けていないはずのレシィが泣きそうな顔で頭を抑えて、
はたかれた本人達は痛そうに(相当痛かったらしい)頭を抑えて、ただうめくばかりだった。


「ここはあたしの部屋なんだから、物を破壊するような喧嘩はお断りよ!
それにイオス、あんたこんな所で喧嘩してる場合じゃないでしょ!
だいたいバノッサも初対面のイオスに失礼よ!イオス・・女顔ってことこっそり気にしてるんだから!」

(気にしてたんだ!<ハヤト汗)


痛みからどうにか立ち直ったバノッサは、レオルドの隣に立つを、
涙目(やはり相当痛かったらしい)で睨む。


「くそ・・この女・・犯すぞ!!

「あんたにヤられるくらいならあたしがヤってやるわよ!!」

「だめだ!、どうせ抱くならあんな男より僕のほうに・・」

「とか言いながらあんたも抱き付くんじゃないわよイオスーーーー!!!」


バノッサは二人に怒り狂い(不憫だよなバノッサも・・<ホロリ)、そしてを抱き込みながら
頭を殴られるイオスを見て・・・・・・・・ハヤトは更にため息をついてレオルドに向かい。

そして一言。


「レオルド、GO−」


パシーーーン!


再びレオルドの三つ編みアタック(命名)が炸裂し。(ちゃっかりを避けている)
問答無用で男二人を黙らせたのだった・・。



















「取り合えず・・アホやってないでルヴァイドの所に行くわよ」


あたしは廊下に人がいない事を確認して、誰にも気づかれないように外へ出る事を試みる。
なんだかんだで結構時間かかっちゃったし、いい加減皆も帰ってくるわ・・!(ヤバイヤバイ!)

でもこそこそと外に出ようとするあたし達の後ろに、何故か堂々としているハヤトとバノッサまでついてきて。
・・・・・・・・・あたしは不審そうに振返る。


「何でついて来るわけ?」

「リビングがこっちだから」

「・・確かに・・」


それなら同道としている理由も納得だ。
あたしは取り合えず彼らを無視することに決めて、そっと廊下を伺った。
誰もいないのは、皆一つの場所に集まっているからなのだろうか?


(・・アメルが、説得してくれてるのかな・・)


ちょっとだけアメル達の様子を覗いてみようと、トリス達がいるであろうその広間に歩を進めて、
声が聴こえてくる部屋まで近づくと、なるべく音をたてないよう神経を集中する。
リューグがアメルを非難していたら速攻飛び込んで襲い掛かってやるわ・・!(落ち着け


「あ・・ご、ご主人様・・」

「レシィ・・、静かに・・」

「ご、ごめんなさい」

「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」

「は・・クシュンッ!!



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ハヤトが、ぽつりと一言。


「・・バレたな」

「・・・・・・・・・・・・・レーシーィー?」

「あわわ!ご、ごめんなさいご主人様!でも我慢できなくて・・!」


すでに半泣きになっているレシィに”チクショウ可愛いぞ!”などと悶えていれば、
ドタドタと音が聞こえて来て・・・・・あたしは思わずこめかみを抑えた。
あの慌しい走り方はリューグと考えて間違いないはず・・。


「そこにいるのは誰だ!?」


正解だった。
けれども次には・・・やっぱりというかなんというか、どうしようもなく重たい空気に包まれる。

険悪。
そう、まさに険悪なムードというやつだ。

あたしはその空気に身動きがとれず、ただただ渇いた笑いが出るだけだ。
つーかもう見事よレシィ!見事過ぎてもうあたし泣きそうだわ!
っていうかなんてクシャミだなんて・・お約束なことをして・・・!!(ブルブル)

ぶわわっと冷や汗を流すあたしに、イオスが問う。


、どうする?」

「あー、その、・・・」


リューグは唖然としたようにあたし達を見て、しばらく間が開いてから・・・・・怒ったような表情を見せた。
久しぶりに見る、その顔。
思わず”さっさと行けばよかった”と心底後悔した。(ら、乱闘になる・・?!)


「リューグ!どうしたの・・って、さん?!」


トリスとアヤ達まで出て来て、あたしは頭を抱えたくなった。
けれどもリューグはあたしを無視ししてイオスの前に立つと、彼の胸ぐらを乱暴に掴んだ。
ギャア!ちょ、ちょっとー!!


「や、やめて!リューグ!!(イオスの顔に傷がつく!!<オイ)」

「うるせぇ!!」

「わっ・・!」


止めようとしてすかさずリューグの腕にしがみついたけど、あっけなくリューグに払いのけられた。
さらには予想以上のその力強さに、あたしは廊下の壁に叩きつけられて、はずみで背中を強く
打ってずるずると座り込む。
いったーーーーーー!!!!(痛)


「っつーーーー・・・(シャレになんないくらい痛い・・!<汗)」

さん!!」

さん!!」


トリスとロッカがあたしに駆け寄って、身体を起こそうとしてくれる。
でも背中はよほど強く打ったみたいで反射的に顔を歪めて、うめいてしまった。
それにロッカが顔をしかめて、リューグに叫ぶ。


「リューグ!やり過ぎだぞ!!」

「・・っ」


今度はリューグの顔が歪んだ。
怒った顔じゃなくて、酷く傷ついたような顔だ。

・・思わず、言葉が出た。


「あ、あたし・・大丈夫だから」


けれども次の瞬間。
リューグの身体が壁に叩きつけられる光景が視界に飛び込んできた。
・・・・・・・・・・一瞬、何事かと頭の中が混乱を巻き起こす。


「なっ・・」

「イオス?!」


トリスの声に混乱していたあたしの頭が、リューグを殴った相手をようやく理解した。
それは、胸ぐらを掴まれても殴られようとしていても無言、無抵抗を保っていた・・イオスだった。

彼が、突然の反撃に出たのだ。


「い、イオス・・?」

「テメェ・・!!」


リューグも負けじとイオスの顔を殴り返し(いやー!美形二人の顔がー!<オイオイ)、
今度はイオスが反対側の壁に背を強く打ち付けてうめき声をもらす。
けれどもその反動でイオスは軽く床を蹴ると、リューグの間合いに一気に滑り込み殴り返した。
え?え?な、何この展開・・!


「ちょ・・やめてよ!二人とも!!」

さん!危ないです!!」


ロッカが止めようとするあたしを抑えるけれど、今度はリューグがイオスを殴り倒した。
床に倒れたイオスが背を打ち付けて声を洩らし、傷が塞がったばかりの肩を抑える。
奇跡の力で塞がったとはいえ、どうやらまだ痛みはあるようだ。
しかしリューグはその機を逃さず、倒れたイオスの上に乗り込むと、再び拳を握り締めて
イオスの腹に打ち込んだ。


「ぁ・・イオス!」


イオスの口から紅い血が吐き出され、それがモーリンの道場の床に飛び散った。
だがイオスもやられてばかりではないといわんばかりに、不利な体勢にもかかわらず抵抗し、
リューグを殴り返していた。
あまりの状況にトリスやアメルが顔を手で覆う。
・・二人は我を忘れたかのように、ただ殴り合っていた。


「や、やめてよっ・・」

さん・・」


ロッカが、踏み出そうと身体を動かすあたしの肩を強く掴んで引き止めた。
そうしている間にも、イオスとリューグは互いに痛めつけあっている。

何回も、何回も殴り合いが続いて      


イオスの身体の上に乗ったリューグが、荒く呼吸を繰り返しながら拳を振り上げた。


「やめてっ!!」


あたしはロッカの手を振りほどいてリューグの腕にしがみついた。
背中に鈍い痛みが走るけれど、それはもちろん無視だ。


「や、やめてっ・・!」

「離せ!!!」

「もうやめてよ!!!」


あたしの叫びに、リューグが顔を強張らせる。
リューグの下にいたイオスも無表情のまま、あたしを見て。

痛々しい二人の顔に、ものすごく泣きたくなった。
どれだけリューグの怒りが深いとか、そういうものがようやくわかった気がしたのだ。

あたしは振り上げかけていたリューグの腕にしがみついたまま、どうにか声を出した。


「・・もうやめてよ・・、殴らないで・・」


しがみついたまま、あたしは首を振った。



泣くな


泣くな、あたし


しっかり言うんだ



「・・あたしは・・そんな二人見たくない、・・どっちも、っ・・大事なのに・・」



そんな我が侭

通しちゃいけない?

望んじゃいけない?

どっちも大事って

想っちゃいけない?



・・・・いけない、のかな・・・。



リューグは力を込めて握っていた拳を・・ゆっくりと、解いて。
俯くあたしを見下ろして、イオスを見下ろして、・・俯いて、呟く。


「・・何でだよ・・」

「・・・」

「・・何で・・そこまで庇うんだよ・・お前は、俺達の仲間じゃないのかよ・・・」


顔を上げれば、リューグの悲しそうな横顔が視界に映って、胸が痛んだ。
どうすればいいのかわからなくなる。
どういえばいいのか・・わからなくなる。

でも。


「・・仲間、のつもり。・・・・・・・・でも・・イオスも、ルヴァイドも、ゼルフィルドも・・大事で・・」

「何でそいつらが入るんだよ!!敵だろ?!レルムの村だってこいつらが壊したんだぞ?!」

「うん・・」


リューグが、あたしの両肩を掴んだ。
あまりの力強さに思わず泣きそうに顔が歪むけれど、あたしは唇を噛んで耐える。



       泣いては、だめ。

これは、あたしが自分で招いたことだ。

・・・イオスを守ると決めたその時から、覚悟をしていたから。




       だから、どんなに責められても、怒られても、泣いては、だめ。




「テメエは憎くないのかよ?!悔しくないのかよ?!」

「・・・」

「それともテメエは村の人間じゃねぇから、あの村の人間が死んでも何とも思わないのか?!!」


それは悲痛な叫びだった。
あたしの中に深く、深く突き刺さる、叫びだった。


だけど。


「思わないことないよ・・そんなの・・忘れられないよ・・」


あたしは顔を上げて、リューグを見つめた。
泣き笑いに近い表情が浮かんだのが、自分でもわかる。


「だって・・リューグ達が育った村だもの・・忘れられるわけないじゃない・・」



貴方が育ったあの村は

貴方の想い出が詰まったあの村は

あたしにとって、とても大事な村だよ



「リューグが肩車してた子供達も、リューグが笑い合ってた自警団の仲間の人も。
皆、皆覚えてる・・・・・・あたしの中に、残ってるよ?」



あの景色も残ってる

すごくのんびりとしたあの村

始めてみたとき、緑の多さに、綺麗さに、本当に驚いて・・・心奪われた



あたしはリューグの血まみれの手に、そっと触れた。
イオスの血なのか、殴り続けていたリューグ自身の血なのか、わからないけれど。

ぎゅっと握った。
あたしとは全然違う、男の人の手を。
この手には何度助けられただろう。


進めなくて、足が竦んでいたときに。


何度、背を、押してもらったのだろうか。



「許せないよ、あたしだって悔しいよ。
でもリューグはもっと悔しいから、だからイオスが憎くて、憎くて、しょうがないんだよね」

「・・・」

「でもあたしは許してしまった。
ほんの一瞬でも、あたしは彼らを許しちゃったんだよ。
・・・・村の人にも、リューグ達にも本当に申し訳ないって思っても、あたしは許しちゃったんだよ・・」




許してしまったのだ




苦しくて、苦しくて、悲しくて、どうしようもなくて、どうすればいいかわからなかったあの時に





・・・・・抱きしめてくれた、あの時に。






「ごめん・・ごめんね、リューグ・・ごめんなさい・・っ」


でもリューグ達の気持ちを考えると、謝らずにはいられなくて。
あたしは彼に謝った。


「・・謝る、な」


リューグが、掠れた声で呟く。
あたしはそれに首を横に振って、何度も謝った。
謝って、謝って、謝って・・・・・・・そして、リューグの手を強く握り締めて。


「あたしのこと、嫌いになって欲しくない・・嫌われるのは怖い。
でも、死なれてしまうことのほうがもっと怖い。怖くて、怖くてしょうがなくて、
だからどうしてもイオスを助けたかった。死んで欲しくなんかなかった」

「・・」

「嫌ってもいいよ、口だって、二度と利かなくていいよ。
だってずっとイオス達のこと黙ってた。本当は彼らを好きになってたって黙ってた。
嘘だって吐いた。酷いことも、嫌なことも言った。嫌われてもおかしくない」


おかしくない。
そう思えるほどたくさんの時間を過ごして、歩いてきた。
喧嘩したり、泣いたり、笑ったり・・いっぱい、いっぱいだ。


「でも。でもあたし、それでも心配だよ。
たとえ嫌われても、・・そんなに手を痛めても気付かないくらい怒るリューグが、心配だよ」




痛いだろうね

手も

心も

痛いだろうね

でもリューグは意地っ張りだから

誰にもそんなこと言わないんだ


・・自分の中に、たくさん積もらせていくんだ




(でも)




でも、お墓参りに連れて行ってくれたとき


涙を見せてくれたとき


あたし、嬉しかったよ


嘘ばっかり吐いて、本当のことを黙ってばっかりのあたしでも


リューグの傍にいてもいいんだって、言われてるみたいだったから




嬉しかったよ、リューグ




「・・・・・・・・・・もう、いい」


一言、リューグが呟いた。
それにあたしはまた泣きそうになって、顔を歪めそうになって、俯いた。


「もう、いい・・・・離せ」




”離せ”




言葉に、ただでさえ静まり返っていたその場の空間が、さらにしんと静まって。
リューグの表情から怒りは完全に消えていて、彼はのろのろと立ち上がってイオスから離れた。
イオスは何度か咳き込みながらも起き上がって、床に視線を映し、沈黙を保っていた。


さん」


トリスが、あたしを立たせてくれた。
そしてそのまま別室へと引っ張っていく。


「・・と、トリス?」

「こっちに来て・・あ、イオスはそこにいて、すぐ戻るから」




”離せ”




・・・・・・あの言葉に、ほんの少しだけ、イオスを助けて後悔しかけている自分がいるけれど。
でもこれは全部、覚悟していたことだ。



許した瞬間に、覚悟していたことだ



でも俯いていられない



あたしはまだ前を向いて、歩いていくのだから



ぐっと、唇を噛んだ。
そしてトリスに手を引かれるまま、訳が分からぬままに彼女についていくのだった       





















達が出て行った後、ロッカは俯いたままのイオスを見た。
何となく、彼の肩が震えているようにも見えたからだ。


「・・え?」

「・・・」


彼の頬に、涙。
ロッカとリューグも、その場にいた全員は少なからずとも驚きを隠せなかった。
・・・どんなに殴られても、泣かなかったのに。

しばらくしてイオスは今、涙に気がついたように袖で拭い、リューグを見た。


「・・・」

「・・何だよ」

「・・・お前は、僕たちが憎いか」


イオスは涙を拭って壁に手をつきながら立ち上がり、リューグに問うた。
それにリューグが睨むように見返し、拳を固めたが・・すぐにその力を解いて・・・答えた。


「それを言わせて何になる」

「レルムの村の事も、今までお前達を襲った事も僕は詫びるつもりもない。
さっきお前を殴ったのも、お前がを傷つけたからだ」

「・・・何だと・・・!?」

「よすんだ!リューグ・・!」

「僕達の道にお前達が立ち塞がるなら相手にもなる。
好きなだけ憎み、剣を向けてくるがいい・・もう、慣れたことだ。
・・・・・・・・だが・・・・・」


イオスの瞳は、まっすぐにリューグを見ていた。
それには強い瞳・・と呼ばれる、光がある。


「・・を許してやってくれ」



君が側にいなくて寂しい

けれども、君が泣きそうに顔を歪めるのは嫌で



は、何も悪くないんだ」



だが、君が笑って、生きていてくれるなら

傍にいなくてもいい

この身を傷つけてもいい・・いくらでも、傷ついてやる



そう思えてしまうほど、君の言葉が嬉しかった




”だからどうしてもイオスを助けたかった”




           泣きたくなるほど、嬉しかった




君の中に、僕は確かにいるのだと



確かに、存在しているのだと



・・それだけで、今は何もかもが満たされる




だから




「この件が片付けば僕は彼女にもう二度と近づかない。だから・・」

       だめです」


その場にいた者を視線が、全てアヤに向けられた。
彼女は胸に前で手を組んだまま、イオスの前へと出る。


「?」

「・・傷つく事に、憎まれることに慣れてはだめです・・。
さんに近づかないと言うことも、だめです」

「アヤ・・?」


ナツミは不思議そうにアヤを呼ぶが、アヤはニコリと笑って返す。


「貴方が意識を失っていた時、さんは言ってました。
          貴方を、大事な人だと」

「・・」

「・・私だったら、友達が傷つく事に慣れてしまうのは悲しいです。
さんも、貴方が傷ついてほしくないと思ってるはずです。
言ってたじゃないですか、死んで欲しくなかったと。
なのに貴方が二度と近づかないなんて言えば・・さんの全てが、無駄になってしまいます」



嫌われることが怖いと、言っていた



けれども彼女は、それでも生かそうとしていた



「私達はリューグさんたちの気持ちを良く知らないから、こんな言葉を言えるのでしょうが・・。
・・・・でも、さんのためにも・・貴方は彼女の傍にいて、傷つくことにももう・・慣れちゃだめですよ?」


微笑むアヤに、イオスは何も言えず俯いて。


 
堪えきれなくなったかのようにまた、一粒の涙を零し、立ち尽くしたのだった         













NEXT






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後書き



第52話をお届けさせて頂きました。


後半、シリアスです。
シリアスな部分はシリアスにと思い、つらつら打ちました・・また時間かかったヨ・・!

というか、今更なのですが。


サモンナイトって、絶対こんな話じゃないよね!(言った・・!)


バノッサまったくでないよ・・!置いてけぼり状態だよ・・!
ハヤトが不憫だよ・・!
次こそはイオスVSバノッサで・・・!!
そのうちこの時のリューグの心情も出てくると思います・・。


それではここまで読んでくださってありがとうございました!


2002.3.29

2004.8.25加筆修正