誰かを憎んだ心を持ったまま浮かべる 笑顔でも



誰かを嫌悪しながらも浮かべる 笑顔でも



・・そんな笑顔しか 浮かべることしか出来ない人でも





”いつかは誰かのための、温かな笑顔に”と





願ってしまうんだ




変わりたいと、望んでしまうんだ










第49夜










(・・・泣いてる)


頭を抱きしめている少女の嗚咽が、耳に届く。
それにマグナは熱にうかされながらも、少女が泣いていることを理解した。



が泣いてる



しっかりと、きつく、抱きしめるその腕。
華奢な身体からは想像もつかないような包容力を感じる。
それだけが必死になってくれているのだろうか、と思うと・・不謹慎ながらも少し嬉しい。


(でも)


そこまで考えればマグナはから離されて、の膝に仰向けに寝かされた。
後頭部に触れるのは、女性特有の膝の柔らかな感触。
視界に映るのは、木々の合間に見えるわずかな青の空と。


の、泣き顔。


(・・でも、泣かれるのは、嫌だな)



泣き顔は



見ているだけで辛くなることが多いから



周りにいる仲間が、自分の名前を呼んでいるのはわかる。
けれど、頭の中が熱に浮かされたようにふわふわするのは何故だろう。
返事をしたいのに上手く声が出なくて、言葉の変わりにただ熱い吐息が零れるだけだった。



熱い

身体の所々が熱い

身が焼けるように、熱い



「マグナ・・!」


がハンカチでマグナの額の汗を拭う。
改めてその顔に目を向ければ、彼女はやっぱり泣いていて、胸が痛んだ。


「・・・ぁ・・っ」



そんな顔しないでくれ



その言葉が言いたいのに、声がうまく出てくれない。
妙に鼓動が早まって、荒い呼吸しか繰り返すことが出来ない。
慰めようと彼女の頬に触れようとしても手を挙げる事すら気だるい。

身体が動かない。


「お兄ちゃん!しっかりしてよ!!」



トリス、泣いちゃだめだよ・・鼻がつまって苦しくなるぞ?



「マグナさん・・!ごめんなさい・・あたしがおばあさんに会いたいって言ったから・・・!」



アメル、キミは悪くないよ・・会いたいって気持ち、俺もわかるから



「キミは馬鹿か?どうして召喚術を使わなかったんだ!!!・・っ半人前でも召喚師だろう・・?!」



あ、ネスって本当頭良い。
・・・でもそれほど必死だったって事でレポートの山は見逃してくれよ



自分がヤバイとわかっていても、自分の中では大した焦りもなかった。
死ぬかもしれないのに何とも思わない。

そう考えていたら意識も薄くなって、次に目を覚ます確率は低そうだとなんとなく悟る。
何故かそう思う。
それはこの身体の異様な高熱と、悪魔が最後に浮かべたあの笑みのせい。


「・・・・」

「マグナ!意識が・・・・!」

「・・俺・・守りたかった・・・・」


何の前置きもなく、ポツリと告げた言葉。
それにが不思議そうな表情をして、汗で張り付いたマグナの前髪を掻き上げながら彼を見下ろす。
掻き上げて触れてきた手が冷たく、気持ちが良くてマグナは安堵するかのように目を閉じた。


「・・昔・・・・守れなかったから・・」

「・・マグナ?」

「今度こそ守りたくて・・後悔したくなくて・・・・・」



それは



ずっと、ずっと昔の出来事



トリスを守れなくて



悲しかったんだ



悲しくて、悔しくて、どうしようもなかったから



だから派閥を憎んで



自分を憎んでいたけど



                憎んで、いたけど



「でも」


視界から遠くの位置に広がる空は、なんて広くて、遠くて、・・綺麗なんだろうか。
小さい頃は派閥の内部に閉じ込められたりもして、黒い壁の向こうにある空に憧れていた。

こうして偽りの自由を得た身でも、いまだ空に憧れる。
きっと自分は、永遠に空に憧れる。


「今、思うと・・・っ・・派閥の、おかげなんだよな・・・」

「?」


の冷たい手。
すごく安心してしまう。
子供のように泣きたくなってしまうほど、何もかも許してしまうほどに。

・・・・それにつられて眠くなる。


「・・派閥がトリス達を追放して、デグレア軍がいなければ、皆や・・にも会えなかった・・・」



温かさにも、優しさにも

誰かを愛しく想う気持ちも

全部


きっと全部知らなかった


本当の意味を身体で

心で、理解できないままに生きていた


だから



         少しだけ・・派閥を、デグレアも、・・・・・・・許せるように・・なれると思う・・・・」



あの冷たい場所が

たった一晩で、全てを焼き尽くした黒の軍隊が


少しだけ許せるようになれた気がする



「・・・・なぁ、・・」


熱いと息を零して彼女に微笑めば、はやはり、不思議そうな顔。


「俺、変われたかな・・・?」



に出会って


皆に出会って



ずっとずっと

変わってみたいと、考えていた

誰かを憎み続ける自分から

少しでも誰かを想えるような

過去を受け止めることが出来るような、そんな自分に



ずっと変わってみたかったんだよ



「・・マグナ・・」

「・・・        死にたくない」


ここでようやく、焦りが生まれた。
全てを思い返して(走馬灯というやつか?)、そうして自分が触れてきたものを思い出して、
感じたことを記憶から取り戻して、思い返せば。



まだ生きたい、と願う

死にたくない、と足掻く


友達と



泣きたくなるほどの温かさをくれた君と



「もっとずっと・・一緒にいたい・・・」



願う


願ってしまう



「そう想うことは、そう願うことは・・・・・・・だめじゃないよな?
こんな俺でも・・・・・・・・っ・・願って、いいよな・・・?」



ずっと ずっと


奥底で、人を恨んで、生きてきた



      これからもそうやって生きていくのかもしれない





そうやって生きることしか、出来ないかもしれない





ふと、手が、強く握られた。
それに目だけをへと動かせば、彼女は泣き笑いの表情で。

マグナの言葉に何度も、何度も頷いて。



「・・当たり前じゃない・・っ」



たった、一言を呟いた。
彼女の言葉が、じんと、胸の奥に、深くしみこんで。


マグナは、ふっと笑っての・・自分と違う小さな手を握り返した。



「うん」




キミが言う“当たり前”は

とても強い言葉に聞こえるよ




混沌としていた意識はとうとう、消えるように薄まって。
マグナは握られた力強さを夢うつつに感じながら意識を手放した・・            


















手が、崩れ落ちるように、あたしの手から離れた。
それはマグナの意識がなくなった証拠で、思わず、叫ぶようにマグナの名前を呼ぶ。


「マグナ!」


荒い呼吸もなくなって、一瞬死んでしまったのかと錯覚したけれど、触れた身体は熱い。
眠るような静かな状態で、彼は目を伏せている。
どうやら死んではいないようだけれども、悪魔のあの、妙に嬉々とした笑顔が頭からこびりついて離れない。
呪いとカイナは言ったけれど・・。

あたしは彼の頬をペチペチ叩いてマグナをもう一度起こそうとする。
けれどもトリスがその細い腕を伸ばし、マグナの身体を大きく揺さぶり始めた。


「お兄ちゃん!!」


悲痛な声、というのはこのことか。
まるで狂ったようにマグナの名前を呼びつづけて、彼女は揺さぶる。


「やだよ!やだぁ!!置いて行かないでよぉ!!!」

「トリス!落ち着いて・・!」


だけどトリスはあたしの手を振り払う。
今の彼女の目には、眠るように意識を失っているマグナしか映っていなかった。
ネスがあたしに”大丈夫か”と気遣って、あたしはそれに礼を言うと、彼はトリスを見た。


「トリス!マグナはまだ生きているんだぞ!!」


ネスの、言葉。
それに、トリスに振り払われてちょっと呆然としていたあたしは我に返って、
いつの間にか滲んでいた涙を拭った。


(・・そうだ、まだ生きてる・・)


呪いを解けばきっと助かる。
今のあたしはそう信じるしかない。


(・・・・・そのためにもまずはトリスを落ち着かせないと・・・・)


ネスの言葉に勇気と気力を貰って、あたしはトリスの肩を掴んで、彼女を呼ぶ。


「トリス!ネスの言う通りよ!落ち着いて!!」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!!」


ネスとあたしはトリスをマグナから引き剥がすけれど、落ち着く気配がまったくない。
ただ、暴れて、暴れて、泣き叫んで。
マグナへと、腕を伸ばして。

彼を呼ぶ。


(時間がないのに)


今、こうやって暴れるトリスを抑えている間に、マグナが本当に死ぬかもしれないl。



(死            ・・)









”死にたくない”









望み。









あたしの脳裏に、誰かの姿が浮かんだ。
マグナと同じ髪色で、マグナと同じ身長で。

けれどのその背に漂うものは、悲壮感。






                 死なせない)






あたしの胸の奥から、そんな気持ちが急激に溢れた。
溢れて、溢れて、あまりにも激しいその感情の波に飲み込まれそうな錯覚を覚えて。
けれど我を忘れそうになることを、唇を噛んで堪えた。


次の瞬間、あたしは暴れるトリスの肩を強く掴んで。
絶望的な表情を見せる彼女に、手を振りかざして。


         パァンッ!


・・・・・・・頬を打った瞬間に、あたしの手に、熱と、痛みと、乾いた音。
暗い森に、木々に、周りに木霊する。


「あ・・・っ」


トリスは呆然としてから、叩かれた頬を押さえて。
驚いた表情であたしを見た。


「・・・、さん」

「トリスが取り乱してどーすんのよ!」

「・・・」

「まだ、生きてるのよ!・・しっかりしてよ・・・!」

「・・・・」


ネスの掠れた声があたしの耳に入る。
それでもあたしはネスの方には向かず、じっとトリスを見つめた。
彼女はまだ呆然としてて、“ちょっとキツ過ぎたかな”と心の中で謝罪の嵐を起こしながら、
あたしはトリスを抱きしめた。(くぅ!ごめんよ!トリス!!(泣))


「トリス、ここでマグナを呼んでもマグナは目を覚まさないんだよ?
ここにいるあたし達がどうにかしなくちゃ、だめなの、わかるよね?」

「・・あ、・・・」


唇を震わせながら、トリスはあたしにしがみつく。
必死に、すがりつくように。
誰かに救いを求めるように。


「あたし・・あ、あたし・・」

「しっかりして、トリス」

「・・あたし、どうすればいいか・・誰に・・助けてもらえば・・」


“わかんないよ・・”と本格的に泣き出すトリスに、あたしは背中をそっと撫でて。


「・・トリス、あたし達は貴女にとって何?」


問えば、トリスは不思議そうな表情を見せた。
傍でマグナを見守っていたハサハが、とことことあたし達に歩み寄って来て(メラ可愛い!<逝け)、
ぎゅっとトリスの手を掴んで見上げる。

その目は、悲しそうな色。

彼女もあたしの言いたいことがわかってるんだな、と思ってあたしは言葉を繋げた。


「仲間って、思っていいの?」


言葉の意味が理解して、トリスは何度も、縦に首を振る。


「それじゃ、あたし達を頼ってよ」

「?」

「・・・あたしも、頑張る。
マグナが好きで、トリスも好きだから、本気で頑張る・・・だから、トリス」


あたしはすがりつく彼女の身体を、抱きしめる。
きつく、きつく、抱きしめる。



「一人でどうにかしようだなんて思わないで」



トリスにとって、マグナはとても大きな存在だ。
トリスの世界をほぼ占めているであろう、マグナ。

・・・図々しいかもしれないけれど、あたしはその中に混ざりたいって思う。
トリスが好きだから、だから混ざりたいって、混ぜて欲しいって、思う。



悲しいときは、一緒に哀しみたい


嬉しいときは、一緒に喜びたい



でもそれはただの自己満足で、あたしのエゴで



トリスとマグナの重みになるであろう、あたしの勝手な感情




でも・・そう思えるほどまでに、あたしは貴方達が好きになっている




             好きに、なっている




好きに、なってしまったのだ




最初は、死にたくなくてマグナ達と一緒にいた。
けれど過ごすうち、同じ世界を歩いているうち、好きになったり、嫌いになったりを繰り返しているうちに。


友達に、なって。

仲間に、なって。



           最後には、必死に生きるその姿に、憧れを抱くようになって




”ああ、あたしもあんな風な生き方、してみたいな”と、思うようになって



「トリス」


あたしはそっと、トリスの身体を離した。

重い沈黙が、周りを支配する。
カイナもハヤト達も困惑したような表情を浮かべて、トリスとあたしを見ていて。
リューグ達も同じような表情を浮かべて見ていた。

トリスは変わらず呆然としていた。
けれどしばらくして、再び肩を震わせて、唇を震わせて。



「・・け、て・・」


「?」



トリスは顔を俯かせて、手で口元を覆って、、泣きじゃくりながらあたしを見た。




「みんな・・お兄ちゃんを・・・・助けて。・・     助けてください・・・」




まるで。
その一言を言うことが、とても勇気がいるかのように。
彼女は拳を、白くなるまで強く握り締めながら、あたしに言った。


人に頼ることが、恐怖だと思っていたのかと、思うほど


(・・今思えば)


彼らは、ほとんど二人だけでお互いの世界を構成していたのかもしれない。

蒼の派閥。
あの場所は知識の探求を目的とした場所だけれど、一部では己の地位を高めようとする者も多く、
召喚師としての強い可能性を秘める者に痛いほどの言葉をぶつけて、叩き落す。

小さく、何も知らぬままつれてこられたマグナとトリスは、その言葉を幾度もぶつけられて。
だから、マグナとトリスは二人で世界を構成することしか出来なかったのかもしれない。
       人に頼ることに、慣れていないのかもしれない。


(これはあたしの勝手な想像だからそうとは限らないけれど)


あたしはそっと、トリスの頭を撫でて。
なだめように、何度も何度も、撫でる。


「うん、一緒に助けよう」


トリスは更に顔を歪ませて、ぎゅうっとあたしに抱き付いて、嗚咽を零した。
あたしは華奢なその背をとんとんと撫でて、再び抱きついている身体をそっと離す。
あたしとトリスだけじゃどうにも出来ない、ということはわかりきっている。


「みんなにも、手伝ってほしいけど・・いい?」


あたしが、呆然としたままのフォルテ達にそういえば。
皆、それぞれ頷いたり、笑ったりと反応を見せて       あたしは思わず笑みを浮かべた。


「ありがとう」




マグナ



貴方に生きていて欲しいと



望む人が、ここにいるよ




「よし、とりあえずファナンに戻りましょ。
アメルのお祖母さんは、また後回しになっちゃうけど・・」


あたしはマグナを肩で支えて、よろよろと立ち上がる。
ネスもそれを手伝って、出口へと先導するルウの後に続くように1歩を踏み出す。



一歩



それがあたしの勇気になった気がした



トリスが慌てて、あたし達の隣に並ぶ。
それにあたしはトリスに微笑んで。


「ここにいてもしょうがないしね、行動は素早くするに限るでしょ?」

「・・うん!」


あたしは駆け寄ってくるトリスを見て、また前へと足を踏みしめる。
1歩1歩進む事に、あたしの中にあった焦燥感は薄れていってる気がして。
本当に助かるのか、という難しい疑問を打ち消して行ってくれる。

何事も、前向きに考えなければ何も動いてくれないから。



だからあたしは前に進む



あたしはぐったりとして、頬を高潮させながらも眠るように気を失っているマグナを見た。
僅かに繰り返される呼吸は苦しそうに、こめかみにも、額にも、頬にも汗が流れ出ていて、
それがどれほど苦しいのか不安になって。

あたしはそっと声を掛けた。


「マグナ」


もちろん、返事はない。
ただ熱い吐息が返されるだけ。


「・・助けてあげるからね・・」



ほんの少し

ほんの少しだけでいいから

頑張って




「・・           当てはあるのかい?」


低く、けれどどこか透き通るような、そんな、声。

どこかで聞いたことがあるような別の声が、あたしの耳に飛び込んできた。
それに顔を上げて真正面を見やれば、そこにはあたしにとって見慣れた少年(青年?)が立っている。

長身、黒髪、ギザギザのマントを羽織っていて、整った顔の青年。
名前はもちろん知っている。(サモ1だってプレイ済み!)
ハヤト達のパートナーでもある、       キールだ。
ってか、その髪型が何かを思い出させるよ・・・タコさんウインナーとか・・(遠目)


あたしは取り合えず、渋々と口を開く。


「・・当て・・は、そこそこにしかはないけど・・」


何なんだ、この男は。
ものすごく、いや、穴が開くほどっていう言葉が似合うほど、マグナを見つめている。
わずかに熱い吐息を零しつつも、眠るように気を失っているマグナを、じっと見つめている。


(・・・・・・ま、まさか、キール・・・)



・・・そっちの趣向が!??!?



脳内で、あたしの思い付く限りの色々なシーン(皆様のご想像におまかせします<オイ)が流れ、
あたしは慌てて首を振ってそれを追い払った。(邪念は去れ!)


(そりゃ確かにゲームと違う趣向の持つキャラがいたとしてもまぁそれは本人の自由であって
決してあたしは関係ないんだろうけれどでもちょっと・・いやかなり驚いたって言うかああぁぁぁ!
キールってばそっちだったんですか!そっち設定だったんですかフライト●ラン様!!



落ち着けよ



「(まぁあたしとしては・・彼が男に走ろうが女に走ろうが関係ないし・・)って、ち、ちょっと!?!」


あたしは思わず、マグナの額に触れて熱を測り始めるキールを押し留めた。
こうやって近くで見れば、彼はかなりの高身長だと気付く・・が、
今は身長の高さに悶えるより(悶えるな)、マグナが第一優先。


「いきなり何してるのよ!」


けれどもキールは叫ぶあたしを無視しして、マグナを地面に横たわらせるようネスに指示。
ネスはそれに”何なんだこの男は”と言ったような表情を見せたけれど、キールにふざけた様子は
ちっとも見えず、しぶしぶとマグナをそっと地面に横たわらせる。

キールは地面に降ろされたマグナの容態を看るかのように、
テキパキと体温を測ったり脈を調べたりしている。


「・・何してるのよ・・」

「カイナは呪いだって言ったけど、この症状には見覚えがあってね」


淡々と返される言葉に、あたしは目を丸くした。
見覚えのある症状・・?
いや、それよりマグナをじっと見ていたのは・・・彼の容態を見ていただけか!


(あたしってば!あたしってばどーしてこんな大変な時に不埒な想像ばっかりしてんのよ!!!
あぁもう誰かこのピンク色ドリームな脳内をどうにか・・どうにかしてください・・!!(切実に!))


「・・・、何でそんな地面に座り込んで頭を抱えて・・・大丈夫か?」


ネスに不審者を見るような目で見られ、あたしはひとまず我に返る。
そうだった、今はこんなところで己の脳内構造を悔やんでいる場合じゃない。(悔やんでも治らない)←それも悲しい

あたしは”さて、これからどうしたものか”と首を傾げて思案していれば、
ポンっと肩を叩かれた。


「え?」


それに振り向くと。
これまた知っている顔に、あたしは思わず(喜びの)悲鳴を上げそうになる。(懲りねぇなあたしも!<泣き笑)


「キールって医術にも通っているみたいだから、彼に任せていたら大丈夫だよ」

「・・・あ、あなた・・・(ああ!すっげぇ可愛い!!萌えてる場合じゃないけど可愛い!!!)」


茶色い髪に、妙に爽やかな笑顔を浮かべる、可愛らしい顔(ポイント・・!<落ち着け)の少年は、
あたしに屈託なく笑いかけながら手を握り締めてきた。
・・どうやら握手のつもり・・らしい・・ってか、手!手ぇーーーーーーー!!!(混乱)


「あああああああの・・(その無防備さが乙女のココロをくすぐる・・!!)」←ヤバイ

「俺はハヤト、君は?」

「・・あ、あたしは・・・(はぅ?!流されてる?!!)」

、か。よろしくな」


彼はブンブンと握手して、ハヤトはあたしと握手した手を離さぬままキールに視線を向ける。
繋がれた手に思わず顔を真っ赤にしながらも、あたしもつられるように視線をキールに向けた。
(手、繋いだまま!繋いだまま!!)←落ち着け


「どうだ?キール」

「これは確かに呪いと言えるものだけど、でも僕達はこれが何なのか・・そして治療法も知っている」


キールの発言に、仲間の視線が一斉にこちらに向く。(ヒィ!怖っ!)
トリスもきょとんとしてキールを見て、ハヤトも輝いた笑顔(目の錯覚)を浮かべて、
あたしの手を離すかわりにキールと肩を組み、彼を称える。


「さっすがキール!お前最高だぜ!!」



アナタの(笑顔)が最高デス(撃沈)



ハヤトと肩を組むだなんてなんて羨ましい・・!今日からあんたはあたしのライバルよ・・!
などと妙な闘争心で彼らを見ていれば、肩を組んで彼を称えるハヤトに、キールは半ば呆れた
ようにため息を吐いて。


「ハヤト、キミもこれを知っているし、サイジェントでいたフラットの仲間のみんなも知ってるよ」

「へ?そうなのか?」


ハヤトは驚いたようにキールを見た。
”どれどれ、一体どんな呪いかな?”とナツミやアヤ、彼らの他の仲間・・なんと、
カシス、クラレット、ソルも、わらわらとこちらに集まってくる。

あたしはふと、思考を止めてその人物達に視線を送る。



・・・・・・・・・・・・ちょっと待って、フランソワ←誰よ

ここに来た人達ってアレですか?

誓約者とそのパートナーってやつよね????

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リンカーズ×4とパートナー×4?


どうなってるの?!(嬉しいけど!)

いやほんと、どうなってるの?!(嬉しいけど!)




“サービス精神旺盛なシチュエーション・・!幸せ過ぎて逆に怖いわ・・!”と頭を抱えるあたしに、
ロッカとリューグがぎょっとしたような顔で見たけれど無視。

その間にソルとキ−ルは引き続きマグナを看て、マグナを肩に担ぎ上げるように立ち上がらせた。
いきなりの行動にネスとトリスは驚いて止めに入るけど、彼らは平然とした様子で言い返す。


「これは1年前にサイジェンドの街で流行った病<メスクルの眠り>だよ」


キールは淡々とした口調でネスとトリスにぐったりとしているマグナを手渡す。
ソルもキールの言葉に続いて言葉を繋げた。


「その病は高熱を再発させ、そして意識を失わせた後に眠るように死を運ぶ・・・。
彼に掛かっているのはそれと一緒なんだ。
・・あの悪魔は最後の力で呪ったらしいが、これは薬一つで簡単に治る」



うっわ、超お手軽ー・・・(ここまで来ると悪魔も哀れだ)



あたしはトリスを引っ叩いたという重い代償を払ってまでトリスを落ち着けたのに、
オチがこういうのであれば・・・・何となく何かを恨みたくなる。(トリスを引っ叩いたのにチクショウ・・!<泣)


(・・でも)


皆、嬉しそうだ。
とても、嬉しそうに喜んでいる。
とんとん拍子に進んでいるこの事態だけど、でもハヤト達の登場は本当にありがたかった。


(メイメイとかファミィさんを勝手に当てにしてたのはいいものの、確実に治るなんで
保証なんてまったく、これっぽっちもなかったもんね・・・)


ぼんやりと思考に耽っていれば、ネスティがズンドコと話を進めていく。(偉いぞ!ネス!!)


「それで、薬は?」

「俺達が住んでいる街・・サイジェントの薬屋の店主の弟子が調合してくれる」


レヴァティーンを撫でていた黒髪少年・・トウヤがボソリと呟いた言葉に、
あたしは思わず顔を輝かせた。
薬屋の店主の弟子といえば、アカネのことね!


「それじゃ、急いでサイジェントに        ・・」


ぱんぱんぱん♪


うきうきと言いかけたあたしの言葉を遮って、軽く手を叩く音があたし達の視線を集める。
その視線の先にはアヤがいて、彼女はにっこりと微笑みながらあたしに歩み寄ってきた。


「初めまして、さん。私はアヤと言います」

「あ、どうも・・っていいます」


お行儀良く、綺麗な角度でお辞儀をする彼女に、あたしも思わず頭を下げた。
って、また流されてる?!


「それでは少しの間、ご注目くださいね」


流されっぱなしの自分の状況に少し唖然としていれば、アヤはにっこりとまた微笑んで。
さっと1枚のハンカチを取り出して。


「チャラララララ〜♪」


歌い始めた。(何故)


「え・・?あ、あのー・・・」


聞いたことのあるハミングだ。
よくテレビの中で手品でかかっている、あの音楽。
思わず、あたしは今からマジックショーでも始まるのかと考える。(リンカー・マジックショー?)
ハヤトもナツミも、トウヤ達でさえも彼女の行動の意図がわからないらしくて、ただその行動を見守るだけだった。
何なの?!リンカー!!!?(汗)

彼女の手品はひたすら続く。(続くんかい)


「チャララ〜♪チャーラーラー♪」

(・・・もう好きにして・・・<がっくり)

「それでは皆さん、見ていてくださいね?」


アヤのハンカチがかぶせられた白い手に、一同の視線は釘付けになって。
彼女はそれを確かめるとにっこりと笑いながら“それでは行きますね?”と合図をして。

パッとハンカチを取り上げると、小さな手には、小さな紫色の小瓶が収められていた。
オー!ブラボー!!!(取り合えず拍手)


「アヤー?それってなーに??」


カシスが興味深そうにそれを眺めていると、アヤはまたにこりと笑って。
その物体の説明をする。


たった一言で。


「<メスクルの眠り>の特効薬です」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



『ええええええええええええええーーーーーーーーーーーーー?!!?!(一同)』


突然の解決に思わず叫んだそのボリュームに、森が揺れた気がする。
けれどそれほど驚くことだったのだ。


「な、何で・・」


アヤはにこにことしたまま、あたしに微笑んだ。
ってか、何故手品風で取り出すの・・?(誓約者・・もとい、アヤの謎が増えた・・・)


「1年前にこの病気が流行ってしまった時、薬というものの大事さが思い知らされたんです。
だから今度は間に合わない事がないようにって・・念の為に持っていたんですよ」



折角なので、手品風で出させていただきました(笑顔)



すげぇ茶目っ気・・!!(汗)



あたしはアヤに盛大な拍手を送りながらトリスの方を見ると、トリスの目元には涙がぼろぼろと
零れ落ちていて、あたしは彼女をぎゅうっと抱きしめた。


「良かったね!トリス!(あたし何も出来なかったよ・・!<滝汗)」

「うん、・・う、ん・・!」


アヤはトリスと抱き合うあたし達の前に立って、薬を差し出す。


「どうぞ、使ってください」

「・・あ、・・ありがとう・・・!」


トリスに手渡して、トリスとネスとアメルは慌ててマグナに薬を飲ませる。
妙にアッサリ解決だったけど、いや、本当に良かった。
安堵に思わず、座り込みそうになる。


(・・本当に)



良かった



死ななくて、良かった



もう心は、胸の内は、それだけでいっぱいだ



アヤは、胸を撫で下ろすあたしをじっと見つめていた。
妙に、じっと、見つめてくる。
それに一瞬ちょっとびくりとしつつ、あたしは引きつった笑顔で彼女を見返せば、
彼女はマグナへと視線を映して。


さん。あの人が気が付いたようですよ?行きましょう」

「え?ほんとに?!(ってか早いお目覚めね!)
・・・・・ところでハヤト。さっきからキョロキョロしてるけど・・どうしたの?」


突然のあたしの問いかけに、ハヤトはあたしを驚いて見返した。
何なのさ・・?


「あー、あー・・       何でもないよ」


ハヤトはごまかすように笑ってたけど、あたしは深く聞かなかった。
”ま、あたしには関係のないことだろうし”と考えて。

あたしはそのまま、目を覚ましたマグナの元に駆け寄ったのだった。














ハヤトは、そんなの後姿を見送って・・少し離れた位置の木にもたれかかっている男を見た。
陽に当たって淡く輝く白髪に、陽にもまったく当たったことのないようなほどの、白い肌。
彼は険しく辺りをゆっくりと見回し、それでいて時折、イラついたように舌を打つ。


「バノッサ」

「・・・」

「・・・力、感じなくなったのか?」


バノッサの瞳が、ハヤトを見た。
それにハヤトは怯むことなくバノッサを見つめ返し、頷いて。


「俺も感じなくなった」


呟いて、達に目を向けた。
わぁわぁと大喜びしているの姿にバノッサはますます不機嫌そうに顔を歪めて、再び舌を打つ。
ハヤトには彼が何故こうもイラついているのかわからないが、無駄足になってしまったという結果が
彼の中にあって、それに怒っているのだろうと勝手に結論付けて、言葉を続ける。


「結界が不思議な力に破られた影響っていう考えもあるけど・・」


ハヤトは自分の胸に手を当てた。
レヴァティーンの上からこの森を見上げていたときは、この胸の内に熱いモノが込みあがっていたのに。
今では何も感じなくなり、ただただ、自分の心臓が鼓動を打っている。


「バノッサ、これからどうするんだ?別行動か?」


ハヤトの問いかけに、バノッサは反応すらしなかった。
ただ、ただ、       に睨むような視線を向けている。


(・・あの女・・)


この地に最初に舞い降りた時。
悪魔より、何よりも視界に映ったのはという名前の女。
座り込んで、呆然と、驚きに見開いた目で自分を見上げていた。
・・・けれども、からは何の力も感じない。


「俺達は当分達についていくよ・・マグナって人のことも心配だし」


ハヤトはバノッサに苦笑しつつ、達に目を向けた。
温かな空間を生み出しているような、そんな温かみのある空気が、そこにある。


「・・・・・・・・」


バノッサはただ、その温かな空間を。
僅かに目を細めて、見つめ続けるのだった           






















                場所は変わってゼラムの草原。


その青々とした緑の絨毯を急ぐように駆けている一頭の馬がいた。
しなやかな筋肉を持った足で、栗色の毛で全身を覆っている馬だ。
馬の手綱を巧みに操っている主の、鮮やかな金の髪が風に攫われていく。

彼が目指しているその先には、港町・ファナン。


(・・っく・・!)


イオスはぎゅっと唇を噛んで、掛け声を出して馬を急がせる。
少しでも早く、1秒でも早く彼女に会いたい。
・・・・・会わなくてはいけない。

イオスは祈るような気持ちで馬を急がせた。
頭の中には・・尊敬する、一人の男の顔。


・・・ルヴァイドの様子がここ最近おかしいことに気がついたのは、数日前だ。

任務も雑務もこなしている彼から、めっきりと言葉が少なくなった。
喋ることも、食べることも少なくなってしまった彼のことを心配して、
彼の休む天幕の入り口で護衛をしていれば、うなされるような声ばかりが響く。
酷く、酷く、苦しんでいる・・・そんな姿が、見られるようになった。


(・・あれは、貴方のせいではないというのに)


悪魔によって多くの兵が失われた、あの時が始まりだった。
ルヴァイドがどんどん憔悴してきている気がする・・いや、している。
さらにはあろうことか、一人になれば自分の身体を傷つけて、自分の心を責めている行動さえ、
ここ数日の間に出てきている。
・・・・・・そんな彼を、イオスは見ていられなかった。



誰よりも、命の尊さを知っているから

だから、部下を駒としてみることも出来ず

死んでいった者たちを捨てきれずに、迷い続ける

         そんな彼を、なら立ち直らせてくれるのではないかと思って、こうして走っている


馬を走らせながら、イオスはふっと考えた。

昔の自分は・・こうしてまで誰かを救おうとした事があっただろうか、と。
否、なかった。
目の前の人間は全て憎む対象であり、殺せと教わり。


帝国軍には、任務遂行、そして勝利を。


それだけだった。


(だが)



戦う理由は勝利だけではないと教えてくれたのは、ルヴァイドで。


守るべき存在のために生きるべきだと教えてくれたのは、ゼルフィルドで。


幸せを願うことは、とても温かいことだと教えてくれたのはで。



他の人間にとって些細なこと。
とてつもなく、些細なこと。


けれども、自分にとって大きなこと。


とても、とても大きな事だった。
彼らがいなければ、何も理解せぬまま、人を殺していくばかりだったのだ。


「・・・っ!止まれ!!」


イオスは手綱を思い切り引き、走る馬の足を急停止させると馬上で槍を構え、
目の前に立ち塞がるモノを睨む。


立ち塞がるのは、紅い目を持つ数匹の悪魔達。
それぞれが、獲物に出会えたとでもいうかのように、恍惚とした光を瞳に宿している。
そんな悪魔達の手にある武器は、赤く濡れた痕を残している悪魔と、新品同然の美しさの光を持つ
武器と分かれていて・・・・どうやら、ここ最近現れた悪魔もいるらしい。


(増えている)


最近、増えている。
異常なほどまでに、増えている。
ルヴァイドの部下の兵士達が多く死んだのも、この異常な数までに増えている悪魔達が原因。


(独断調査をしているのだが・・その原因は不明・・・)



この、聖王国で


何かが、起きているのだろう


何かが、動き始めているのだろう


今はそれだけが理解できる



「死ネ!!!」


相手の悪魔達も槍を構えて、イオスに突っ込んでくる。
イオスは小さく舌打ちをすると槍の刃を悪魔達に向けて、すれ違いざまに悪魔の一体の身体に槍を貫いた。

悲痛な悲鳴が草原に轟く。

しかしイオスはそれを無視して、貫かれ、痙攣を起こしながら力尽きる悪魔から槍を引き抜き、
槍を素早く旋回させると別の悪魔の身体を貫いて絶命させて、次の敵に攻撃の態勢を取り、威嚇するように吼えた。


「邪魔をするなぁ!!」

「ガアアアアアアアァァァァァ!!!!!」


馬を巧みに操り、一体一体を確実に、一撃でしとめる。
それは並の武将ですら難しい動きだった。けれどもイオスは、それを冷静に繰り返し、
イオスの強さにうろたえている最後の一体へと、血に濡れた槍を振りかざす           が。


「?!」


突然の、思わぬ乱入者。
白い翼を持った鳥がイオスの視界を横切る。
このまま貫けば鳥もろとも悪魔を倒す事が出来るだろう・・がイオスの中に一瞬の迷いが生まれた。


小さな命


イオスの槍が鈍るのに気付き、悪魔はニヤリと口元に笑みを浮かべると。



イオスの華奢なその肩を、血に汚れた槍で貫いた。



嫌な音をたてながら、それを深く、憎悪を込めて。
赤い鮮血が淡い緑色の草原に飛び散り、イオスの服を黒く染め、手にあった槍が彼の手から落ちた。
イオスは呻き声を零しながら馬を操り、悪魔から一度離れる。


「・・ック・・!」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


悪魔の、笑い声。
それはいやに耳につく笑い声。


(こっちは馬で、相手は一匹・・撒くことは出来るが)


ふと、のことが気になった。
彼女は大丈夫なのだろうか?
マグナ達の腕だと大丈夫だとは思うが、それでも心配になる。

これでイオスが逃げて、悪魔は再び獲物を探すだろう。
そしてもし、この悪魔が達を襲い、に害をなしたら?と考えれば。


        逃げるわけにもいかないな)


が襲われる可能性なんて、きっとそれほどにもないだろう。
だがイオスは、恐ろしく冷めた目で悪魔を見やった。
考えただけだったのに、酷く、酷く・・腹立たしくなる。

悪魔の目は本能の、命を奪うことに快楽を覚え、瞳は恍惚な光を灯してイオスを見て、笑っている。
なんと嫌な笑みで笑うのだろうかと思いながら舌打ちをし、彼は肩を貫いたままの槍を手に持ち。
一つ息を吸い込んで。


「・・く・・」


肩を貫いている槍を、自らの手で引き抜いた。
激痛が身体に走り、引き抜く際には大量の鮮血が再び草原を赤く彩る。

荒い呼吸を整えて、貫いた槍を手にしっかりと持ち、悪魔を見やる。
悪魔は戦う姿勢を見せるイオスに、少々怯えたように一歩後退し。


「逃がさない」


恐ろしく冷めた目でそう告げれば、悪魔はイオスから背を向けて駆け出した。
逃げるくらいならば襲わなければいいだろうにと思いつつ、イオスはその背を馬で追い。

その槍で、悪魔の心臓を貫いた。

妙に固い感触が槍を通して腕に、手に伝わるが、イオスはそれを無視する。
貫かれた悪魔の口から発せられた、壮絶な断末魔が草原の大地を空間を揺るがした。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


・・・・・・びくびくと痙攣を起こし、やがては貫かれたままぴくりとも動かなくなった。
イオスは槍を振るってその身体を刃から離せば、ぐしゃりと、悪魔が草原に倒れ、
しばらくしてその身体は砂となり、ただ血の痕を残して草原の土となる。


「悪魔でも、砂になるのか」


イオスは気配を探り、仲間がいないことを確認すると肩を抑え、馬の頭をファナンへと方向転換させる。
そんなイオスの、怪我を負っていない肩に、先ほど間に入った鳥がふわりと舞い降りて来て、
イオスの髪をその嘴で戯れのようにつついた。


「・・お前が・・入ってきたからだぞ」

「ピー」


頬に頭を摺り寄せてくる鳥を、限りなく優しい瞳で見つめて、イオスは鳥を空へ返す。
白い羽がイオスの上空を舞い、その羽は白い太陽の光で煌いて。
それに見惚れながらも、彼は足で馬の腹を蹴り、その足を走らせた。


(出血が多いな)


一度馬を止めて、イオスはだんだんと虚ろになってくる意識の中、
自分の血に、悪魔の血に染まる手を見下ろした。



          さっき迷ったのは


戦争にでも、戯れにでも

小さな命まで奪い取る権利なんて

無意味に殺してしまっていいなんて

誰にも許されることではない


・・そんな事を思えるようになったからか?




(・・何故だろう・・?)



自分が怪我しても

“良かった”と思えるようになるなんて

厳しい痛みが身体を走っても

“死なせなくて良かった”と思えるようになったなんて



それがとても心地よいことだと、思えるようになるなんて



再び走らせて、ようやくファナンを覆う外壁周辺までたどり着いた。
イオスは馬から降りて適当な所に繋げると、正面門ではなく、以前調査で発見した
裏口からファナンへと侵入した。
正面門だと金の派閥の召喚師が見張っていて入れないのだ。


(・・確か・・街の外れの道場だったな・・)


あらかじめ記憶に叩き込んでおいたファナンの地理を脳内に展開させ、
聖女達のいるであろう道場への道筋と、現在地を照らし合わせる。
現在地からどの方向へ進めばいいかと確認すれば、イオスは颯爽と身を翻してファナンの街を駆け抜けた。

出血の止まらぬ腕を抱えて走れば、血がボタボタと滴れ落ちて地面に痕を残していて、
街を歩いていた住人はイオスを不思議そうな目で見る。
それに構わずイオスは走り続けた。


しばらく走って、道場の門を見上げる。
頭の中の地図と完璧に一致する位置にある、その建物。


「・・・


呟いて、門内に入ろうとしたその足を止めた。
彼女の仲間のことを、そこでようやく思い出したのだ。


(・・だから、どうにか出来るだなんて確証はない・・)



なら、ルヴァイドを立ち直らせてくれるのではないかと


勝手な希望を持って、ついここまで来てしまった



(・・それに、彼女だって、困るだろうに)



困るはずだ

トリスやマグナ達に、責められる

自分達と繋がっていたのかと、疑いの眼差しに晒される



酷く、意識が朦朧とする。
応急処置すらしていないから出血が止まらない。
イオスの立っている足元に、自然と血の溜まりが出来ていく。


(けれど、僕にも、ゼルフィルドにも無理だ)


どうすればいいのかわからない


このまま彼を放っておいても、彼はますます衰弱するだけなのは目に見えている


どうすればいいのか、本当にわからないのだ


ゼルフィルドも理解できず、自分にも理解できない



どうすれば、彼を助けてやれるのだろうかと・・・・・・・・・



朦朧とした意識を抱えたまま思考に沈むイオスは、取り合えずに会おうと顔を上げて、
足を1歩道場内へと踏み出す。
だがその2歩目を踏み出そうとしたとき、足が絡まりつまづき倒れてしまった。


「・・っ・・」



あの人を助けられるのも

僕を突き動かしているのも

きっと、キミの存在だ


初めて

幸せにと笑って、願ってくれたキミ

それがどれほど嬉しかったか

どれほど癒されたか

キミはきっと知らない



君と言う拠り所が、愛おしくてしょうがない



触れた地面が酷く、冷たく感じて。
イオスはうつ伏せから、仰向けにと身体を動かして、暮れかけている空を仰いだ。
空の青と夕暮れの紅のコントラストがまた、不思議と視界に焼きつく。





小さな呟き。
それは今、会いたいと思っている者の名。
一番心に残る者の名。


どんどん、世界が遠くなる気がして。
浅い眠りのようなものが、イオスの中を支配していく。





会ったら、君に聞きたいことがある

君は多分、首を傾げて考えて

わからないよ、と言って答えられないかもしれないけど


それでも、君に聞きたいこと








イオスは今一度道場を目に映して、とうとう瞳を閉じてしまった。
それでも聞きたいことは、心に刻まれたまま。





君に出会って、僕は変われた                       ・・・?













誰かのために笑えるような人に
(自分のために笑えるような人に)


誰かを想えるような人に
(自分を想えるような人に)

誰かのために変われるような人に
(自分のために変われるような人に)




そんな人になりたいと




望むことは、願うことは




とても尊いことだと思うのです












NEXT



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後書き



第49話をお届けさせて頂きました。

変わりたいと思うことは、何度もあります。
けれどやっぱり変われなくて、自己嫌悪に陥ったりもするのですが。
たとえ変われなくても、変わろうと思うこと自体がとても大切なことに思える今日この頃。
・・何があったんだ自分よ・・・。(聞くな)

しかしまた微妙に長く・・(汗)
しかも大幅修正は48話から一週間以上ぶり・・OH・・!!
ギャグが少ないせいか、文章力やおもしろいという感じの表現力が落ちて行くのがわかります。
ヘタレて逝く・・!!(ノォォォォ!)

マグナの出だし、48話のヒロインと被っているだなんていうことは秘密です。(ありきたり文章!<泣)
しかもあっさり、マグナ解決!(あぁ)ごめんよマグナ・・!私が考えなしなばかりに・・!!
何だか刺されまくり、瀕死になりまくりの展開ばかり・・戦いのシーンなんて書 け ま せ ん !(血涙)
しかしようやくまともにリンカーズと接触です。
・・しかし・・もう人数が多くて・・大変・・。
サモンは本当、なかなか人口密度が濃いゲームですよね。
書くのも大変・・・でも好きだからやめられない・・!

そろそろ、レイムでギャグを書きたいなと思い始めてます・・が。
イオスとルヴァイド、ゼルフィルドが大きく関わるオリジナルストーリーに突入しますので、
彼の出番はまだまだ先・・・代わりにデグレアズ、ハヤト、バノッサ、擬人化レオルド、擬人化ゼルフィルドが出張ります。

また長いですよ!この話だけで8話分くらいはとっていたような気がします・・デグレアだけで8話も取るのか私・・!
ここまで読んでくださってありがとうございました!!


2002.3.17

2004/7/28