引きつったように、口元を押さえて立ち尽くしていた彼女は 誰とも触れ合わず、召喚獣と共に生きてきた一族の子 第47夜 「 あたしの身体は、青々と茂る大地に倒れ込んだ。 その時少し頭をゴツンと打ったけれど、怪我をする程度ではなかったのでまぁ、良しとする。 (って、違う違う・・・・何で、こんな冷静なのよあたし) ぼんやりと目を開けたまま、ただ空を見上げた。 深い森の中でも、木々の間に微かに覗く青い空。 あたしのピンチとはまったく正反対に、なんとも穏やかに流れている。 (ってか、脇腹が熱いなぁ) まどろんで行く意識の中で、ただ脇腹が熱かった。 何とか手を動かして恐る恐るその脇腹を撫でてみると、妙にヌルっとした感触が手の平を滑って。 同時に鈍い痛みが身体に走り、反射的にビクっと身体が震えた。 ・・濡れた感触に、嫌悪感も覚える。 (・・見るの恐いけど・・これって・・) そっと、自分の手を掲げた。 普通なら木々の間から零れている光が生む逆光で、掲げた手の状態がわからないかも知れないけれど。 暗い森のせいなのか、自分の手の惨状がはっきりと見えてしまって・・・思わず「げっ」と声を漏らす。 紅い液体が、自分の手を濡らしていた (・・き、気持ち悪ぅー!) 震えながら手を下ろすけれど、目に焼き付いて離れない。 赤い、血。 赤く濡れた、手。 (・・死ぬ、のかな?) そんなことが、ちらりと思考を掠めた。 っていうかもっとサモの世界をまったりと堪能したかったのに! さらにはもっと鎖骨やらハラチラをまったりと拝みたかったのに!! (いや、それは半分冗談(半分本気か)だけど・・・) “こんな時まで邪思考全開かよ・・”と自分に呆れながら、あたしは目を閉じた。 瞼が重くなったのだ。 開けていられなくなる。 (死ぬのは、嫌だな 「さん、さん・・!!」 目元に涙をためながら、トリスはぎゅうっと、けれど決して苦しくないようにの頭を抱きしめた。 酷く冷たい体温になっているような気がするのは、気のせいではない。 気のせいであってほしかったが、この出血量ではそれは無理な相談だった。 (冷たい) とても、冷たい。 顔色だって、ひどく悪い。 このままでは、待っているのは完全なる死だ。 「トリス!何をやっているんだ!」 ネスティの声に、トリスははっと顔を上げた。 「泣いていてもが死ぬだけだ!」 「でも、でも、あたし・・あたしが・・っ」 身を挺して、庇ったつもりだった。 守れたつもりだった。 ・・・・・・でも、逆に守られてしまった。 が肩を掴んだ力強さが今でも鮮明に、肩に残っている。 酷く、力強い、力だった。 必死な、精一杯な、力強さ。 「僕やマグナは霊属性の召喚術が使えない、だが君は使えるだろう? 今すぐにでもの治療にあたれば、まだ間に合うかもしれない」 「で、でも・・・間に合わなかったら・・」 「後悔したくないだろう!」 ネスの言葉に、トリスはぎゅっと唇を噛み締めた。 後悔。 それは生きている中で、何度もしてきた。 トリスはサモナイト石を取り出して、バルレルと共にリプシーや聖母・プラーマを召喚した。 慈愛の光が彼らの周辺を照らし、にその光の粒子が降り注ぐ。 モーリンは<氣>の回復術であるストラを、アメルは<奇跡の力>での治療にあたった。 (さん) アメルは、ただただ、全ての力を使い切るように、へと力を送った。 時間が経つほどまで力を使い、同時に激しい眩暈も襲ってくるが唇を噛んでそれを耐える。 (貴女まで、死なないでください・・!) レルムの村。 滅ぼされた、平和な、穏やかな村。 親しい友人も、知人も、子供達も、皆、皆、ぐったりとして、二度と動かなかった。 あの光景が、の姿と重なる。 それが酷く、胸の奥に焦燥を生んで、恐怖を芽生えさせていく。 (お願い) (死なないで) (生きてください) (どうか、生きて・・・・!) 何度も、何度も、心の中でそれを願った、望んだ。 血が滲むまで唇を噛み締めて眩暈に耐え、アメルはさらに力の消費を増幅させる。 ・・力を深く使うということは、心の奥部まで見えるということだ。 には悪いとは思うが、このままでは彼女の命も危険で、止む終えなくて (・・・・ 見えてしまう、はずなのに。 何も、見えない。 の、心の奥部が・・見えない。 ただただ、真っ暗で。 (・・、さん?) 何で 貴女の、心は こんなに、真っ暗で (これは、不安?) 不安 その感情も、ある けれど、最もなのは たくさんのものが混じり合っていて、区別がなくて・・はっきりとしない・・、混沌とした感情だ 「 頭痛までもが、襲ってきた。 それにぐらりと倒れかければ、ロッカとリューグが慌てて支える。 「アメル!」 「・・顔色が・・」 「まだ、大丈夫・・・」 今のは、なんだろう 頭痛が襲ってきた、その瞬間に。 誰かが、微笑みかけたのが見えたような気がする。 ” ”あたしは、貴女が彼らを救ったという真実は・・決して、これからも変わらないものだと思うよ” 言葉が。 じわりと、胸の奥へと染みこめば。 ・・・・・・・涙が、零れ落ちた。 熱い、熱い、雫だ。 それにリューグとロッカ、周りの人たちが慌てたように声をかけてきたが、 アメルに耳には入らなかった。 あの言葉は、あの人が、自分の為だけに言ってくれた言葉 ・・・初めて、友達と呼べるような 「アメル!」 ロッカとリューグが、意識を失くしたアメルを慌てて支えた。 召喚術よりも強い回復力を持つアメルの治療が途絶え、の出血が再び始まり、 青々と茂った地面を赤に彩っていく。 「ど、どうしよう・・!止まらない・・!」 もうほとんど、絶望的だった。 諦めが、トリスの胸の内を覆いつくしていく。 (さん) 過去に握られた、手の温もりが。 どんどん遠ざかっていく気がする。 それは寂しくて、悲しくて、とても辛いことで 突然。 横から、細い腕がへと伸びて、トリスは顔を上げた。 そこには聖母・プラーマを召喚したルウの姿が。 「・・?」 「ごめんなさい」 彼女は、泣きそうな表情だった。 とても、とても、悲しそうな、表情だった。 ルウの召喚したプラーマが、の治療を始める。 彼女のプラーマが力を放出すると、の青かった頬もやがては薄い桃色の頬に染める。 「貴女達は悪魔なんかじゃないわ・・」 フォルテも、カザミネも、ケイナも。 マグナ達も、リューグ達も、皆、皆、だた、悲しそうなその横顔を見つめた。 「・・悪魔は、こんなに優しい心を持っていないもの・・・」 その小さな呟きは。 その場にいた者全員の耳に、苦しそうに届いたのだった 「・・で、あたしは皆のおかげで一命を取り留めたと?」 目が覚めれば、見知らぬ天井。 次にはレシィとトリスに突進するような勢いで抱きつかれて、大泣きされた。(ヒー!) 泣き付くトリスとレシィの背中をよしよしと撫でながら、あたしはネスから状況を聞いて理解して。 あたし達の行動を軽率だと説教を始めた。 ・・けれど、怒っていたようなネスも次にはほっとしたような表情を見せて、 さっきのあたしの質問に頷いた。 「ああ、特にルウの協力がなかったら本当に危なかった・・後で彼女に礼を言っておくんだ」 「はーい」 あたしはネスの言葉を受け流すとキョロっと周りを見渡した。 古そうな本がたくさん詰まった本棚と、温かそうな暖炉、家そのものも古いものだ。 (・・ルウの家って渋いー) あたしが周りを見渡していると、トリスとレシィは再び泣き出した。 ぬぉ!?何事?!?!(滝汗) 「ううー!さん無事で良かったああああーーーー!!!」 「ご主人様あああーーー!僕・・僕もうだめかと思ってましたあああーーーーー!!!」 「いや簡単に殺さないで・・(でもレシィになら本望<逝け)」 あたしは乾いた笑いを浮かべながらルウの姿を探す。 艶やかな黒髪の、古い一族の召喚師。 でもそこに彼女の姿がなくて。 「ね、ルウは?」 「ルウなら・・ひっく・・お兄ちゃんと外に・・」 マグナと?(マグルウ誕生?<は?) あたしは首を傾げながら痛みを堪えて起き上がって、ファナンから持ってきた秘密兵器の入った 包みを抱えて、歩く用の杖を支えにルウの家を出た。 彼らの場所を他の皆に聞いても誰も”知らない”と首を横に振り、あたしは外で座っていた・・・、 鼻歌を歌いながら剣を磨くフォルテにも聞いてみることに。 「あの二人がどこに行ったかって?」 「知ってる?」 フォルテはフフンっと鼻を鳴らし(何故鳴らす)、あたしはニマリと笑う。 「鈍い奴だなー、は。ほらよくあるだろ?」 フォルテは遠い目をしながら、焦がれるように熱く語り始めた。 いやその熱く語る様だけは勘弁してほしいんだけど・・。 「不意打ちの登場に出てきた可愛い女の子・・しかもまぁまぁ良い感じの身体のラインにあの素敵な露出の ある踊り子万歳!な服装・・・あれこそ男の浪漫って言わねぇか?マグナが一目ボレって可能性もあるだろ? 恋がいつ芽生えてもおかしくない・・あいつも立派な男だからな、さすがネスティとは違うぜ」 ってか、俺的にはあと数年後に来てくれりゃオッケーって感じなんだがなー・・ その前に人の生死が関ってる時だったんだけど(怒) ”薄情者め・・”と恨めしそうに呟けば、フォルテはやれやれと肩を竦めて。 「すっげぇ心配した」 「・・・・・」 「本当だって。・・ 珍しくも、心の底からため息を吐くように息を吐き出して、彼は安堵した表情を浮かべ、 彼の隣を立っているあたしを見上げた。 「俺は召喚術が得意じゃないからな」 「・・一応、その言葉を信じてあげましょう。・・・・で、マグナ達は?」 見上げてくるフォルテを見下ろせば、向こうの方からカザミネが、妙に輝いた、生き生きとした 表情で走ってきた。フォルテも彼を発見すると、途端に嬉しそうな表情を見せて、けれどあたしに 一度目を向けて、慌ててあたしをルウの家に追いやる。 「ちょ・・ちょっと何よー!」 「ほ、ホラ・・お前は一応怪我人だしな?ゆっくりどっぷり寝とけって!!」 「嫌ってほどどっぷり寝たわよ!ってかあんた挙動不審過ぎて怪しい!!何か隠してるわね!!?」 「あ、!あそこに武器屋の親父が空を飛んでるぞ!!(空指差して)」 「んな気持ち悪い現象があってたまるかー!!」 あたしは自分を支えている杖で、ガン!とフォルテの泣き所を打った。 そうすればフォルテは声にならない悲鳴を零しながらも蹲る。 その間にカザミネが蹲るフォルテに駆けよって、達成感を称えた笑顔でグッと親指を立てた。(あたしのパクリか) 「フォルテ殿!早くマグナ殿とルウ殿の土器土器(ドキドキ)恋愛現場を 追跡しなければ見失うでござるよ!」 「・・・・ば、馬鹿・・カザミネ・・・っ・・・・・!!(激痛)」 「・・なぬ?」 「ほほーぅ・・カザミネは、あの二人を追跡しようとしてるわけ?ってか覗き見するんだー・・?」 あたしはにこりと、カザミネに微笑んだ。 あたしの存在にようやく気がついたカザミネは、頬を引きつらせて・・・・・・。 ブワワっと、いきなり泣き出して土下座した。(誇りはいいのか武士) 「す、すまぬ殿!! だが拙者はフォルテ殿にも“お前自身が恋を経験する時すっげぇ役に立つぜ!”と無理矢理・・!!」 「あ!てめえ嘘付け!!めちゃくちゃ“そうでござるか!?なら是非是非追跡致そうぞフォルテ殿!”とか 嬉しそうにあいつらを探しに行ったじゃねぇか!!オイ!!!」 「拙者は剣の道一筋でござる・・それゆえにそのような邪言に惑わされる事はないでござる(胸張って)」 「てめえがそんなに怖ぇかよ!」 「怖いでござる!!(キッパリ)」 「お前の方がムカツクわーーーーーーーーーーーー!!!!(怒)」 あたしはカザミネのマフラーらしきものを思いっきり後ろへと引っ張り、首を締めた。 締められた本人は口から泡を吹き出して、青い顔しながら痙攣を起こし、あたしはぱっと手を離す。 そうすればガクリと、骨のない生き物のように崩れ落ちた。 「か、カザミネーーーーー!!(逝くな!)」 「・・うう・・フォルテ殿・・・拙者はもうだめでござる・・フォルテ殿・・」 「馬鹿野郎!そんな弱気なこと言ってんじゃねぇよ!!俺達・・同士だろ?!」 覗き萌え同盟のな!! あたしも入りたいぞ(?!) カザミネはフォルテに弱々しく微笑むと、フォルテに親指を立てて。(パクリー!) 「・・遠い花畑からフォルテ殿の御武運祈ってるでござる・・!」 それだけを呟くと、白目を向いて意識を失った。 ってか花畑ってあんた・・・(呆) 「うう・・カザミネーーーーーー!!!!」 お前には悪いが、あいつ怖ぇから仇取れねぇよ!! 取るなら返り討ちにしてくれるわ(怒) あたしは問答無用でフォルテの頭を杖でゴツンと打ち倒す。(トドメ) そしてばったりと気絶したフォルテを、カザミネの横に綺麗に並べてそのまま放置して去った。 ・・・後ろの方でレシィの泣き声が辺りに響いたが、あたしはマグナとルウを探すことに頭を 使っていたので、それには気付かないフリをした。(ゴメン、レシィ・・!) 「マグナー?ルウー?」 小屋からは出来る限り離れないように注意しながら森の中を探索しつつ、 マグナとルウを探すけれどなかなか見つからない。 あたしは休憩がてらに、”よいしょっと”と苦労しながらも地面に座り込んだ。 「ぁいたたたたたー・・(汗)」 座るだけでも痛みが身体に響いて、悠々と、自由に飛んでいる鳥が少し恨めしい。 あぁーでも、生きてんだあたし・・。 大きく息を吐いて、あたしはぼんやりと空を見上げた。 なんというか、自分の悪運の強さには大層な拍手を送りたくて仕方がない。 (・・よく生きてたな、あたし) それは死なせまいと頑張ってくれた、トリスや、バルレル、モーリン、ルウ、そして倒れてまで治療して くれていたアメル達のおかげだ。 ・・感謝をせずにはいられない。 (・・でも、あの声は一体誰だったんだろう) ”死にたくない”と 嘆きながらの、誰かの望み そこでふっと、声が耳に届いて顔を上げた。 マグナ達の声だ。 そっと覗き見をすれば、ルウとマグナが地面に座って、ぼーっと小川を眺めている。 「ルウ、そこまで落ち込むことないよ」 「・・うん、でも、やっぱりルウのせいだし・・」 おお?!これはフォルテの言う通りか??!(ドキドキ恋愛現場!) これはさすがに邪魔しちゃだめかなと思うけれど、ちょっと気になる。 「・・でもルウはの傷の治療手伝ってくれたし・・それにここは、悪魔が封じられている森なんだろ? 警戒するのは当たり前だよ」 「・・うん、ルウの大事な叔母様も数十年前に・・どうやって出てきたのかわからない悪魔に殺されたわ。 その叔母様の妹の叔母様がルウを育てて来てくれた叔母様なんだけど・・その叔母様も死んじゃったから、 ルウはこの森でポワソ達と暮らしているの」 理解するに、少々時間を要した。 でもようやく理解してああなるほどと納得すれば、マグナが心配そうにルウの横顔を見て。 「でもルウ、どうやって出てきたのかもわからない悪魔に殺されたって・・」 「・・本当に、突然だったみたい。反撃もする間もなく殺されたって・・」 ・・・・・・・・まさか、あの変態じゃないでしょーね・・(嫌な予感) 「ルウは小さかったから覚えてないけど・・でも叔母様が涙を流しながら言ってたの。 “姉を殺した悪魔を許せない”って・・悔しそうに。・・・だからルウは・・・」 ルウの目に涙がたまってきて、マグナは少し困惑したような表情で頭を掻いた。 うわー、良い雰囲気になってますな・・!(あぁまさにドキドキ!<落ち着け) 「・・ルウ」 「ルウ達アフラーン一族は理解しようとする事を避けてしまったから、 誰かを守れるようになりたかったの。 ルウはね・・最後のアフラーン一族だから、最後までここで生きていこうって・・・」 「そんな、女の子が一人でここで生きていくなんて」 ルウはマグナに笑って、静かに首を横に振った。 「ポワソ達がいるし、淋しくないわ」 そう言って笑うルウの表情は。 あたしの中では、どこか寂しく見えた。 彼女の、姿に 胸の内の、黒い感情が顔を出す 「復讐、とか考えた事ないのか?」 マグナの中では押さえきれないような怒りが逆巻いた。 それは派閥への、怒り。 突然のマグナの言葉にルウはきょとんとするが、川に視線を移して、再び笑う。 「考えた事はあるわ、でも復讐してもしょうがないし・・・その悪魔のことは何もわからないから」 「悔しくないのか?」 「え」 「俺だったら!・・・・・俺だったら、悔しいって思う!憎いって・・」 マグナはぎゅっと唇を噛んで、川を睨み付けるように見下ろした。 彼の態度の急な変化に、今度はルウが困ったような表情を見せるが、 マグナの頭は真っ白になってその事には気がつかない。 「俺は、憎いと思う」 大事な人 大事な物 これ以上、奪われたくない こんな事ばかり考えている俺は きっと一生、誰かを恨み続ける、と 「のおうあああああああ!!!??」 『??!』 ガサガサドタンッ!! 『・・・・・・・・・・』 変な悲鳴を上げながら、茂みから派手にこけて出てきたのは。 派手にこけた名残りで木の葉がいくつか舞い落ちて来て、の髪に木の葉がつく。 「・・・・あいたたた・・(脇腹!脇腹激痛!!)・・・って、あ・・」 マグナとルウの視線に、はようやく自分の置かれている状況に気がついた。 少しばかり、引きつった表情になったのは気のせいではないだろう。 マグナはため息をつきながらを起こすのを手伝って、頭の木の葉をとってやる。 柔らかい、髪が指に絡まる。 「・・で?何やってんの?」 「あ、あはははははははははははははははははははははははー・・(汗)」 「貴女・・・どーしてここにいるの?」 「あははははははははははははははははははははははははははははははー・・(滝汗)」 は杖を掴んでどうにかむくりと起き上がり、”お邪魔しました”とペコリと一礼。 そして回れ右をしてそのまま何事もなく立ち去ろうとするが、マグナに肩を掴まれた。 「怪我、また傷が開くかもしれないだろ?」 「あわわわあわわわわわーーーーー・・・(ちょっと痛みはあるけど)も、もう完全に治ってます! ルウも本当にありがとねっ」 「で、でもそれは元々はルウが・・」 「いいのいいの、ルウはルウなりの事情があるんだし、あたしもこうして一命取りとめているし・・ね?」 「あのなぁ、・・・」 「お黙り、マグナ」 マグナの眉間にデコピンを食らわせて、はルウににっと笑った。 杖を持って立っているということは、多少の傷はまだ残っているということだろうに、 彼女はそれでも、ルウのために笑っている。 なんで、そんなに、人を簡単に許せるのだろう (確かに、話してわかったけどルウはいい子だ) けれどは、ルウとちゃんと喋ったこともないだろう。 なのに彼女はルウのために、笑っている。 ・・時々、彼女の真意がわからなくなる。 「マグナ?」 は不思議そうにマグナを見ていた。 そこでずっとを見ていたことに気がついて、はっとしたような顔でルウに振り返り。 「あ、あールウ、ネスたちにあと少しで戻るからーって言っておいてくれるかな?」 「へ?・・あ、うん。わかったわ」 ルウが向こうへ走り去るのを見送って、マグナはに座ることを促した。 今は、二人きりだ。 誰もいない。 今なら、ルヴァイド達を思った涙の意味も、彼女の真意も聞くことができる (・・っだめだ、聞けない) 憎しみばかりを、胸に溜めている自分。 表は笑っていても、裏は憎むばかり。 そんな自分が、彼女の何を責められようか? 「マグナ?」 の指が、の隣に座るマグナの手に、そっと触れた。 それにビクリと身を竦ませれば、の目が瞬いて。 次には、何故か彼女はひどく優しげに、笑んで。 「マグナ」 彼女にとっては、ただいつものように名を呼んだだけ。 けれど自分には、手を引かれ、どこからか連れ戻されているような錯覚を覚える 「・・あっ」 「どうしたの?」 不思議そうに首を傾げながら、はマグナの手に触れて。 「気分が悪いの?顔色が良くないけど・・」 気がつけば、汗が噴き出していた。 どくどくと、自分の鼓動がいつもより早く動いているのがわかる。 「っ、何で、も・・」 「ほら、ハンカチ。汗拭いたら?」 白いハンカチを差し出して。 は、笑む。 ルウの姿を見て、芽吹き始めていた黒い感情が 冷水をかけられたかのように、冷えていく マグナは震える手でハンカチを受け取って。 川をただ、のんびりと見つめているの横顔を見つめて。 「・・・っ・・ぅ」 受け取ったハンカチを、目元に当てて。 嗚咽を零して、泣いた。 ただ、泣いた。 じわりと、自分の涙の熱さが、自分の目元と白いハンカチに染み込んで行く。 ・・何故、泣いてしまうんだろう? 聞きたいことがあったのに、今は無性にただ泣きたい。 今は派閥なんて、どうでもいい。 ただ、泣きたくて泣きたくて、しょうがない。 「マグナ」 が、ぐいと、強引にマグナの肩を引き寄せて抱いた。 ぴったりと寄り添うように密着した後、とんとんと、背中があやされるように叩かれる。 まるで、母親のようだ 母親というものは知らないけれど ・・・・母親の、ようだ 「大丈夫よ」 「・・・」 「誰も死なない、誰も死なせない」 「 なだめの、言葉。 気休めの、言葉。 けれどそれにとめどなく、涙が零れていく。 流れ落ちていく。 そこで気付く。 怖かったのだ トリスが刺されそうになって、が刺されて それであの時、二人が死んでしまったらどうしようかと、本気で思っていた が死んでしまったら、どうしようかと思っていた それだけが怖かった とてもとても、怖かったのだ 自分はまた、妹を守れなくて 大切だと理解し始めた、までも守れないかと思って不安でたまらなかった が自分の背中をあやすように叩く、一定のリズムに。 胸の奥がますます、何かが込み上げてくるようで、ますます涙が溢れ出てきた。 一定のリズムが。 抱きしめてくれている、その腕が。 心の中に在った恐怖を、憎しみを溶かして行くようだ。 「・・どうして・・、だろ・・」 何も知らないのに 何も言ってないのに でもは何も聞かなくて 教えてくれと言わなくて それでも俺の傍にいて 優しい声で、俺を呼ぶ たったそれだけ それだけなのに こんなにも心が満たされる 「マグナ?」 「・・はすごい」 「そう?」 「誰も、わからなかったのに」 そう、わからなかったのだ。 が目を覚ましたという知らせを聞いてから、ものすごく安堵した。 けれど同時に、”またこんなことが起こってしまったらどうすればいいんだ”と、 とてもつもなく怖かったのだ。 その恐怖心は、トリスにも、ネスティにも気付かれなかった。 誰にも、気付かせなかった。 なのには、気付いた 「マグナはね、不安な感情を胸に溜めると、笑顔がぎこちなくなるのよ」 「え」 「なんていうかね、いつもだったらワンコのごとく、にっこりvvvって感じなのに、 さっきまでのマグナはぎこちなくて、どこか固いっていうか・・ってか寧ろ可愛くないっていうか・・」 (ワンコ・・?っていうか、犬?!?!<滝汗) 「・・トリス達も、結構気付いていたかもよ?」 が、笑う。 それにようやく涙が収まって、次にマグナは苦笑する。 「・・何も聞かないのに、何も知らないのに・・は全部わかってるみたいだ」 「(ギクッ!<滝汗)・・・・・聞いて欲しいの?」 はあまり<聞こうとする>ことはしなくて <聞いて欲しいのか>と、尋ねる まるで、自分がマグナの領域に入ってもいいのか?と、許しを請うように 抱きしめているからわずかに身体を離し、あやすように叩いていた手をそっと掴んで、 マグナは自分の頬を、に触れさせた。 ・・・温かい手かと思ったけれど、今は体調不良のせいもあるのか酷く冷たい。 けれどもそれが気持ち良くて、火照っている頬がの手によって冷めて行く。 本当は誰にも聞かせないまま 本当は誰にも頼らないまま 生きていこうかと思ってた それで自分を保てるかと思ってたから 派閥を許すことも出来ず、守れなかった自分を許すことも出来ず、 でも本当は 「・・聞いて、欲しい・・のかな」 「・・・・」 「でも俺はが思っているような人間じゃないよ。・・酷く嫌な奴だ」 いつも笑っているその裏で 殺したいと考えている 憎んでばかりいる は俯くマグナの頬を冷やしていた手をそっと外して、ベシン!っと頭をハタいた。 マグナはそれに驚いて恐る恐るを見上げると、の顔はあっさりとしたような表情で。 「そんなもんよ」 と、軽く言ってのけた。 本当に軽く、何の気負いもなく。 他人事のようで、けれど、マグナの不安を躊躇もなく手で払いのけるように。 「あたしだってすっごい事考えるし、そりゃもうマグナに言えないような・・ 口に出せないようなことたくさん考えてるよ?中には残酷な事とか、人として 最低な事とか、・・自分を殺そうとするシーンとか・・たくさんね」 「も?」 「・・偉そうなことなんて言えないけど、でもそんなもんなんだよ。 嫌な気持ちをたくさん抱えているのに、それを仮面1つで覆い隠して生きていく・・。 世の中、自分の思うとおりに動くはずないって、諦めて生きていくしかないわけ」 “あたしって結構廃れた考え持ってるでしょ”と笑って言うに、マグナはブンブンと首を横に振る。 そんなことはないのだ。 自分も諦めて、恨みながら生きていたから。 「あ、言っておくけど諦めて生きる・・っていうのは、何もかもを諦めて生きろってことじゃないわよ。 世の中を全て自分の思うとおりに動かそうとすることを諦めろって意味よ? でも代わりに、自分の周りだけでも動かそうと足掻くのはいいってこと」 「うん、わかってる」 マグナは一度、から視線を外した。 足掻く。 それは見る者によって、酷く滑稽で、哀れな行為かもしれない。 ・・・・・・・けれど、変えようとすることはとても大きな事で。 とても、勇気がいることで。 「あたしは・・・・負けないように足掻く人が好き」 「?」 「あたしのために足掻いてくれた人も好き。 自分の大切なものを守るために足掻く人もとても好き・・だから余計に生かしたいと思ってしまう」 それは、誰のことを言っているのだろう。 のために足掻いてくれた・・それは恐らくトリスや、アメル達のことだろう。 自分の大切なものを守るために足掻く人・・・・・・それは、ルヴァイド達のことを言っているのだろうか。 (・・・・・・そういう、ことか) は、恐らく、・・ルヴァイド達を知ったのだ。 知ったから、知った上で”死ぬな”と涙を流したのだ。 彼らを、”好き”だと思ったから。 だから、夢にまで見るほど”生きろ”と願った 「・・ 「そ?」 「は前に、俺のこと優しいって言ったけど・・・俺はの方が優しいって思う」 「んー、あたしってそんなに親切じゃないわよー?」 「が持っているのは、親切とかそういうものの“優しさ”じゃなくて、もっと別の、“優しさ”だよ」 他の人間が、ルヴァイド達を許す君のことを酷い奴だと罵っても 自分にとっては、今は君が”優しい”と思える 言葉の意味をしばし考え込むように、は唸って。 ようやく一つの結論を、複雑そうな表情ではじき出した。 「・・それってあたしがケチだって事かしら・・・?」 なんとも、複雑そうな表情だ。 しかも意味が、まったく違う。 見当違いな答えに、マグナは思わず吹き出して笑ってしまった。 ・・・・久しぶりに、こんなに軽い気持ちで笑えたような気がする。 「まぁ、とにかく・・・・・がケチでも、俺はそんなのままでいて欲しいよ」 「・・・・・怒るか褒めるか微妙だけど、一応褒めてあげましょう」 ぽんぽんと頭を撫でるに、マグナはまた嬉しそうに笑う。 その笑顔がの目に、かなり犬に見えることとは知らずに。 「・・あたし、マグナみたいな犬が欲しいー・・・(そして思いきり!ハゲるまで頭を撫でくりまわすのよ!!)」 「え?(汗)」 ・・・そうしてしばらく、二人で他愛ない話をした。 会話に一区切りがつくと、マグナはを支えながらルウの家に戻る。 体調がまだ良くないのに外出をするなんて!と、ネスにこっぴどく叱られるを眺めていたら、 レオルドがそっと近づいて来て話しかけてきて。 「納得ヲ、シテモラエタカ?」 それは、とデグレア軍のことをレオルドから聞いた夜の話を。 がルヴァイド達と敵ではない、友に近しい関係だという話を。 それを本当に、心から納得したのか、という意味だ。 (そりゃ、・・まぁ、納得はしたかもしれないけど) ルヴァイド達に、少しだけ焦げるような感情を覚える。 それはきっと、嫉妬というものだろう。 それがなかなか、完璧に納得したという結論を出してくれない。 (でも今は・・) 今は 抱きしめてくれた、あの温もりが、身体に残っているから・・・・・満足だ 「ああ、大丈夫だよ」 「ソウカ」 マグナとレオルドがに視線を戻すと、延々と続いた説教にキレたが、怪我をしていると 言うのにもかかわらず、ネスの頭を杖で打ってやろうと振りかぶっているシーンを目撃して、 慌てて止めに入った。 「!ネスが死ぬ!死ぬ!!(打たれ弱いのに!<滝汗)」 「ぬがー!!離してマグナ!!今日こそ“お前の方が馬鹿だ!”と思い知らせてやるわー!!」 「!落ち着け!!それこそ本当の馬鹿にな・・」 「やかましいーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 その怒声と共に、鳥が一斉に飛び立つ。 白い翼を撒き散らせ、果て無き青い空へと旅立つのだった ずっと沈んだ心は空に舞い上がり 灰色の世界は鮮やかに色をつけ 優しい旋律が歌い出す それは少なからずとも 誰かが癒された証 NEXT -------------------------------------------------------------------------------- 後書き 第47話をお届けさせて頂きました。 誓約者、出ませんでしたね・・次!次こそは!!(滝汗) 補足説明をさせていただきますと、my設定ではルウの叔母様の姉の叔母様(ややこしい)を殺したのは レイムということになっております。 ゲーム中の設定、セリフをあまり覚えてないので、メルギトスがいつアグラバインさんの仲間の身体(レイム)を乗っ取って、 甦ったかは書けませんでしたが・・・・・取り合えず叔母様を殺しましたということで。 フォルテも酷くさんを心配しておりました、ですがすぐボコられギャグになったので印象が薄いと思います。(笑) 今回のメインはマグナです。 my設定では、マグナは派閥に対して、自分に対して色々と溜め込んでいる設定です。 お気楽(?)で、押され気味なキャラではありますが根が真面目なので、深く考えるというフシもあると言った感じに。 過去からの経験により、失うことに酷く敏感で、大切な人には何も心配をかけたくない・・そんな設定があったりします。 ネスにちょっと似てるかな?(笑) それではここまで読んでくださってありがとうございました! 2002.3.10 2004/7/10大幅修正アップ |