最後はきっと許し合える







そう、思いたい






第46夜






世界の空は深夜にまでに深まった。
夜色が全てに安眠をもたらす中で、大きな光源でもある月が静かに光を降り注ぐ。
いつも繰り返すように、変わらず、何もかもを平等に。


その白い光で、魂を慰めるがごとく。


とある土地には、小さな灯火がいくつも、控えめに浮かび上がっていた。
それは民家の明かりでもなく、ただの消し忘れでもない。
明かに人為的なもので、尚且つその炎はいつまでも絶えることを知らなかった。

月がその土地を照らせば、大きな天幕がいくつも張られてあるのが見えた。
そして馬、武装した兵達の姿も、月明かりに照らされてくっきりと姿が浮かび上がる。


そこは聖王国領域にひっそりと滞在していた、デグレア軍の駐屯地だった。






「・・・・・・・・・」


ルヴァイドは小さくため息を零した。
そして一度目を伏せて、机の上にある書類に目をやる。
そこには<戦場結果>と書かれてあった。


・・・・・・それは先日の、戦いの結果だった。
しかしそれは聖女一行と戦ったものではない・・・・・・最近、大量に出没する悪魔達との交戦結果だ。
それらはまるでルヴァイド達を狙っているかのように、執拗に現れては戦いへと発展していく。


先日のものは特に、予想外だった。
最初に届いた報告は、自分やイオス、ゼルフィルドがおらずとも、あっさりと勝利を得られる
だろうと思われていたほどの、少数の悪魔。

だから腹心の部下でもある彼らだけをつれて一度本国に戻っていた。

しかしを助けることにより到着を遅らせてその戦場へと赴けば、それは愕然とするものだった。


悲惨な、無残な光景だった。
明らかに油断が招いた、有様だった。
ルヴァイドが目にした光景は、多くの部下が重軽傷で倒れ、一部死んでいる、その光景だった。

悪魔の数が、急激に増えたのだ。
部下の報告によると、ルヴァイドたちが到着する1時間前に、急激に数を増やしたのだという。

まるで、ルヴァイド達が来ることを予想していたかのように。


(俺は)


ルヴァイドは唇を噛む。

・・一時の油断で、多くの仲間を傷つけてしまった。
少人数の死亡数でも、部下が死んでしまったことには代わりはない。

自分の私情・・を助ける、ということで仲間を殺させてしまった。



無念さが



自らに対する甘さが、ルヴァイド自身に対する怒りを生んでいく




(・・何が・・汚名を返上する・・だ・・っ!!)



私情で部下を殺させて

何が汚名返上だ

何が罪を償うだ

本当に認められたいのなら

感情を殺さなくては道はないのに

心を殺さなくては進むことすら出来ないのに



を、助けている場合ではなかったのだ




けれども




俯いて、紅い髪が頬を滑る。
ルヴァイドは荒く呼吸をしながら肩を震わせて、自分を呪う。



に会えて、喜んでしまっている自分がいるのは、確かで



(しかし一体、この聖王国はどうなっているのだ)


ルヴァイドはさらに強く、唇を噛んだ。
一体どうなっているのだろう。
レルムの村へ向かっている途中は、悪魔との交戦は一度もなかった。


だが、今では2日に1度は出くわしている。

この、出現率の高さは一体何だ?

何かが、起ころうとしているのか             


死んでいった部下の有様が、脳裏に浮かんだ。
手足を切られ、首を切られ、ただその虚ろな目には何もなく。

動かなくなってしまった肉塊が転がる。


・・紅い血で、辺りの大地を染めながら、そこに捨て置かれる。


嗤う悪魔。
動かぬ仲間達。
空に放たれるのは悲鳴。
身体が崩れ落ちる、重々しい響きの音              


ルヴァイドは頭の中に浮かんだ光景を振り切るかのように、ダン!っと机を殴った。
自分の手が己の血に染まろうとも関係なく、言いようのない自分への怒りを吐き出すため。
何度も、何度も、何度も         


「・・・っ!」


最後の打撃で机の表面がひび割れて、ヘコみを見せた。
だがルヴァイドの中に渦巻いているそれは、自分への怒りは、ただその勢いを増すだけだった。



彼らも、兵士だ



死ぬことは覚悟で、ここにいるのだろう



          だが、彼らの死が、自分の私情が原因でなったのなら話は別だ







どうしようもなくて。
自分の中にある炎を消して、いつもの冷静さを取り戻そうと彼女の名を呼べば。






途端に、安堵できる。



死んでいった兵のことを考えれば、自分はもっと傷ついて、憎しみに身を焦がすべきなのだ。
もっと苦しみ、悩むべきだ。
安堵するなど、解放されるような心地になるなど、問題外なのだ。


けれど。


(・・            


今、だけは。


望んでも、いいだろうか。


お前を、思い出すことを。


望むだけでも、いいだろうか。



そうすれば、何もかもまた背負って歩いていけそうな気がして。




・・・・・今、この場は、静かな、空間だった。

虫の鳴く声が聞こえる。
風が吹く音も聞こえる。
けれど。





”・・手を、握らせてね”





けれど、お前の声は聴こえない



「俺は」



何もかもが、わからなくなる。
わからなくなって、きている。
今、こうしている意味が・・わからない。



この任務を遂げれば、本当にあの国は自分達の一族を見てくれるようになるのか?



(・・        途絶えそうだ)



このまま、あの召喚師達のままに動いていれば



響くの声が



途絶えてしまいそうだ



そして最後に、何も聴こえなくなりそうだ



聴こえなくなった自分は、何もわからないまま剣を振るい



・・・・・、自身を



自らの手で、壊してしまいそうだ



それを、一番恐れている自分がいる





不安が、積もる





ルヴァイドの中に幾度も積もっていく





拭えぬそれが、溶けること知らぬ雪のように、積もっていくようで       







「ルヴァイド様」







思考に耽っていた世界から、現実に引き戻された。
ルヴァイドは頬に流れる汗をさりげなく拭いつつ、背から届く声に何事もなかったように振り返り、
薄暗い天幕の中でイオスと視線を合わせる。

随分と長い間、思考に耽っていたのだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えながらもイオスを見やれば、ルヴァイドにイオスは多少戸惑った様子を見せ、
しかしすぐに表情を消して、淡々と呟いた。


「レイムが、貴方にお話があるそうです」

「・・・・・レイムだと?奴が、自ら出向いて来たというのか?」


ルヴァイドの言葉にイオスは頷いて、レイムの元へ案内する。
天幕の外へと足を踏み入れれば、少々冷たさを帯びる風が、ルヴァイドの頬を優しく撫でた。

今宵も、月は丸く満ちていた。


(・・満月、か)


とどうにか打ち解けてきた時、一度彼女を夜に外へ連れ出したことがあった。
彼女が”気分転換がしたい”と呟いたからだ。
だから彼女を馬に乗せて、ルヴァイドが手綱を引いて草原へ導いて外へ出た。
その時も満月で、彼女は不思議そうに問いかけてきた。



”この世界って、月はずっと満ちたままなの?”



一瞬、何のことか理解できなかった。
月が満ちたままなのは、当たり前ではないのか?
そのまま不思議そうにを見れば、はますます首を傾げて、次に空を見上げた。



”それじゃ、この世界はずっと満月なんだ”



どこか遠くの、何かを思い馳せるような、表情。
それが酷く印象的だったのを、覚えている。




そこでふと、音が耳に届いた。
弦の音。
それは竪琴の、音。

美しくも、相当の腕前で           





「永遠を廻るひとつの魂」





歌だ。
その音と声を辿って見やれば、そこには銀色が風になびいていた。
冷ややかな風に長い髪が流されながら、月を仰いで彼は謳っていた。



「大地の庇護
 水の癒し
 炎のぬくもり
 風の祝福
 その魂は宇宙の加護を受け、生まれた」



「原初の光より、生まれた」



「終わり無き輪廻の輪を廻りながら
 その魂は何を思うだろう
 何にかなしみ、何によろこぶのだろう
 何処へ行き、誰を想うのだろう」


「創造主より与えられた永劫の宿命に縛られながら
 その魂は何を想うだろう
 時折見える星の海の彼方に
 何を祈るだろう」



夜の闇に、浮かぶその立ち姿。
それはあまりにも神聖なものを思わせ、見る者の心を惹きつけて離さぬモノ。



「その想いは
 その祈りは
 何処へ、いくのだろう」



月を仰ぎながら、彼はただ弦に触れて音を奏でる。
満ちた月に捧げるかのように、彼は朗々と歌を紡いでいく。


「永遠を廻るひとつの魂は
 永い永い時の中
 終わり無き輪廻の輪を廻りながら」



「一体、何を想うのだろう                     ・・」




音が、止む。
声も、止む。
再び、風と虫の声しか聞こえない空間に、戻る。


彼はふと、ルヴァイドとイオスの姿を目に留めた。
そこでわずかながらの、何を考えているかわからない優しげな笑みを浮かべる。


「このような夜更けにすみませんね」


歌のことは、あえて触れていなかった。
歌のことは、何も言わなかった。
だからルヴァイドも何も聞かず、彼に用件の内容を促した。


「話、とは」


レイムは小さく笑って、竪琴の弦をピンっと弾く。
弦は身を震わせながら、澄んだ音を空気に伝わらせる。


「丁度近くを寄ったもので・・ついでに一言言っておこうかと思いましてね。
・・・ちなみに新しい任務ではありません」


レイムの瞳がルヴァイド達を映す。
それは見下しているわけでもなく、嘲笑っているのでもなく、
ただ、虚無的に映しているだけ。


「レルムの村」


一瞬、ルヴァイドの中で動揺が沸いた。
だがレイムはそのまま続ける。


「あの夜、貴方は<>を助けたらしいですね、キュラーの調査でわかりました」


いつかはバレるとは思っていたが、まさかこの男自らそれを問われるとは思わなかった。
叱責を食らうか、もしくは処刑の命をくらうか、どちらかかもしれない。


「しかも、私達には報告の1つもない」

「・・報告する必要がなかったからだ、そんな小さな事までお前に報告しなければならぬのか?」


ルヴァイドはそっと、剣の柄に手をかけた。
処刑の宣言が彼の口から放たれたなら、自分はそれに抵抗をするつもりだからだ。



自分は、死ぬわけにはいかない


と、約束をしたのだから



              彼らの分まで、<生きる>のだと



レイムは、やはり笑んだままだった。
ただ、ただ、笑んで。


「ルヴァイド、そう怯えずとも良いですよ」

「・・・・・」

「私は貴方に感謝をしているのです」


銀の髪を掻き上げながら、レイムは言った。
彼の言葉にルヴァイド、イオスは一瞬互いの視線を絡ませて、再びレイムを見やる。


「貴方が瀕死の彼女を助けた。
それの意味は私にとって大きな感謝となるのです」

「何?」

「・・・<彼女が死ななかった>、それだけが何よりも重要なのですよ」


ルヴァイドは眉を潜める。
イオスは驚いた表情をしつつも彼も眉を潜めて、彼の言葉の違和感を感じ取った。


“彼女が死ななかった”・・・?


「貴方のその行動に、今回の件は何の処罰もないようにして差し上げます。
あの兵達が死んでしまっても、変わりはたくさんいますからね・・」


ルヴァイドの中で、兵士の死に顔が脳裏によぎった。
沸いた怒りにレイムを睨んでも、レイムは平然と立って、そしてまた口元に笑みを浮かべる。


「そうではないですか、人間はまだたくさんいるでしょう?」

「貴様・・!それ以上言うな!!」



仲間の、あの死に顔が浮かぶ

虚空を見つめる、光なき瞳



「それに比べて、彼女の変わりはどこにもいない」


途端に、レイムの瞳は優しくなった。
無表情の瞳から、愛しく想う優しい色に。


「貴方達の任務、引き続き聖女達の捕獲です・・<>も、逃すことなく捕らえるのですよ」

「・・っ・・レイム!お前は本当にに力があると思っているのか?!」


イオスはそこまで言って、次には震えながら俯いた。
脳裏には、明るく微笑む彼女の顔。

約束をしたあの細い小指。



“イオス”



あのような普通の少女に、何かの力があるなんて思えない。
・・・・・・・・・・・・・・・・思いたくない。


だがレイムは、ふっと笑んだ。


「ありますよ。
その力があるが故に。
そして一つの約束を果たしに。
彼女は再び、ここへ・・リィンバウムに戻ってきたのですから」









どこから生まれ



どこから来たのか、分からぬ旅人



サプレス、ロレイラル、シルターン、メイトルパ・・それぞれを行き来することが出来た、旅人




世界の守護を司るエルゴにその力を見初められ




目的なく世界を巡ることに飽きていた彼女は、そのまま”転生の門の番人”となった




そして、気の遠くなるような月日を過ごし





番人に飽きた彼女は再び、それぞれの世界に降りた






そして、出会った











”貴方が、人間に寵愛を授け、裏切られたっていう大悪魔?”













思い出を愛おしむかのよう思い出したその時に浮かんだ、レイムの表情。
それにルヴァイドとイオスは、呆然と彼を見つめていて。


       では、私はこれで失礼します」


呆然とする彼らに気付かないままレイムは、草原に足を進めた。
どこまでも続くような、広い草原を突き抜けていく。

ルヴァイド達はその背を見送って・・・・・・・・・ルヴァイドはイオスに1つの問いかけをした。


「イオス」

「はい」

「お前はあの男が・・・・・・あそこまで安らいだ表情を見た事があるか?」

「・・ありません。
いつも・・どこかに感情を置き忘れてきたようなモノしか見たことがありませんでした」


イオスの返答を聞きながら、ルヴァイドは俯いてレイムの言葉を繰り返した。
一番、違和感を感じたこの言葉。






”その力があるが故に”





”そして一つの約束を果たしに”






”彼女は再び、ここへ・・リィンバウムに戻ってきたのですから                






















「珍しいね、お兄ちゃん」

「何が?」

「お兄ちゃんからあたしを抱きしめてくれるって、あんまりなかったでしょ?」


トリスとマグナの部屋のベッドの上で。
トリスはニコニコとしながらマグナの腕の中に収まって、嬉しそうにその腕にしがみつく。


「だからお兄ちゃんが甘えてくれてるみたいですごく嬉しい」

「・・うん、たまには可愛い妹と一緒にいたいしな」

「あはは、またまたお世辞が上手いんだから〜」


トリスはマグナの胸に頬を擦り寄せて、兄に染み付いている陽射しの匂いに心を落ち着かせる。
彼は、自分にとっていつも安心出来る居場所の一つ。


「あのね、さんと探しに行った花。すっごく綺麗だったよ」


トリスは目を閉じている為、マグナの表情は気付かなかった。
彼はの名に、暗い影を落とした表情を見せていたことに。

トリスは話を続ける。


「すっごく綺麗な花だった、お兄ちゃんにも見せたかったなー」

「ありがと、トリス」


マグナはトリスに優しく微笑んで、髪をそっと撫でた。
それにくすぐったそうに笑って       、ふと、俯いて。

トリスは目を閉じたまま、マグナの腕を掴む力をほんの少しだけ強めた。


「ねぇ」

「ん?」

「あたしね、本当は・・旅に出たくなかったの」


トリスの言葉に、マグナは驚いたような表情を見せる。
追放に近い任務だったが、トリスはあの派閥の空気を好きになれずにいて、
だから旅に出られたことを、一番喜んでいたとマグナは思っていたのだ。


「どうしてだ?」

「お兄ちゃん、あたしね」


トリスはマグナを見つめながら、真剣な表情で彼を見上げた。
けれど次には、泣き笑いに近い表情に顔を歪める。


「見聞の旅よりも、ちゃんとした家名よりも何よりも           お兄ちゃんが、大事なの」



家名を貰ったり

見聞の旅を続けていても


心は癒される事はない


そこにあるのは、ただの虚無感

ただの寂しさ



「・・トリス」

「・・ネスとバルレルとで旅に出たおかげでさんやアメル達に会えたけど。
心の中はお兄ちゃんのこと、いつも考えてた。
・・・・たった一人の家族なんだよ?・・・・・・・・・・・・楽しかった旅も、どこか寂しかった」



貴方のその笑顔は


いつも側にあったから


だから無性に悲しくて



「お兄ちゃんは、あたしの悩みをいつも聞いてくれる。
あたしが泣いてても、何も言わずに側にいてくれる。
でもお兄ちゃんは・・自分の中に全部溜め込んで自分で解決しようとする。
それは誰にも迷惑をかけないようにって思ってるからって、わかってるけど・・・・・・・・でもね」



それで本当に


貴方の心は癒されますか?


あたしが貴方に癒されたように


貴方は癒されているのですか?



泣き笑いの表情が次第に消えて。
小さな雫が、トリスの頬を滑る。
それはマグナの服に小さな滲みを作って、やがては色濃くしながら濡らして、広がる。


「・・っでも、苦しそうなお兄ちゃんを見るのは・・嫌だよっ・・」



嫌なのです


あたしが癒されていても


貴方も癒されていると知らなくては



嫌なのです



涙がボロボロと零れ落ちて、トリスはとうとう小さな嗚咽を漏らす。
その手はぎゅっと、力強くマグナの服が握られていて。


「あたし・・ずっとお兄ちゃんの側に居たんだよ?
今のお兄ちゃんの様子がおかしい事くらい・・わかるっ」



そう、ずっと

一緒にいたから、わかってる


嫌いな物も、好きな物も

全部全部わかってる

クセだって、趣味だって

いつも一緒にいたからわかってる

でも



「そんなお兄ちゃんに何も出来なくて、それでお兄ちゃんが苦しんでる姿を見るのは・・・嫌だよ・・っ・・」




貴方の心は、遠くて見えない



一緒に居ても ただ真っ暗



近いのに すぐ側にあるのに



遠過ぎて何も見えない



マグナは泣きじゃくるトリスの背中を撫でながら、沈黙を保った。
頭の中ではの言葉が響いて離れない。




              死なないで”




願うように



祈るように、呟かれた言葉



それは夢の中でも願うほど



彼女の中に強くある願い



・・それにどうしても、やはり、不安を拭うことができない




<は敵になってしまうんだろうか>と




「トリス」

「・・・」

「俺も、トリスのこと・・すごく大事だ。
誰よりも多い時間を・・トリスと過ごしてきたから。
俺もトリスのこと・・わかってる・・・」



でもあんなにの事を慕っているトリスに


この事実は重いのではないのだろうか?


傷ついて、悲しんで・・また、あの時と同じようなことになったら・・                  





マグナの中で、昔の事が脳裏によぎった。




暗い部屋

そこにしばらく一人で閉じ込められて

たくさんの大人たちが現れたと思ったら


たくさんの質問をされて


覆い隠しもしない怒気、戸惑い、恐怖を全てぶつけられて


ようやく解放されたと思ったら


トリスの所に戻らせてもらえるかと思ったら



別室で、同じように閉じ込められた部屋の奥



そこにいたのは



何よりも大事な妹



けれど、その表情にいつもの笑顔はなくて




まさに<心壊されて、心ここにあらず>




彼女は虚ろな瞳で涙を流し



ただただ虚空を見つめて座り込んでいた



声を掛けても、揺さぶっても



何の反応も見せなかった妹



その時初めて



その場にいた大人を、殺してやりたいと思った



自分の大事な人を



ズタズタに壊したあの大人達





あの・・派閥を





マグナはきゅっと唇を噛んだ。
これ以上思い出さないように、見失いそうになっている自分を現実に引き戻すかのように、頭を振る。

嫌な思い出は、何もかもを憎くさせる。
自分の心を、残酷の色に染め上げる。


「大事だから、傷つけたくないんだ。
泣いて欲しくない、笑っていて欲しい・・・・・・・・・だから、これは言えない」

「お兄ちゃん」


マグナはトリスの言葉を遮るように、彼女の身体をきつく抱きしめて。
今の自分に浮かぶ表情を見られないように、華奢なその肩に顔を埋めた。



今の顔は


きっと何よりも醜い顔


見せたくない


ドロドロとした感情に飲み込まれそうな



憎しみに溢れた自分の心



「だから、ごめん」




その言葉を吐き出すの時の声音に。

トリスは、マグナの心が叫び声をあげていたように聞こえた。


























おとーさん、おかーさん

あたし・・この状態に最高に逝きそうです

これって神様があたしにくれたプレゼントなんでしょうか?


でも心臓がマジでヤバイので解放して頂けると感激です(滝汗)





あたしは、この状態を見下ろしていたリューグと目を合わせる。
リューグも真剣な表情であたしに頷いて、あたしを戒めているロッカの腕を掴む。
そして二人同時に深呼吸をして。


「いっせーのーで・・ふんぐうううううううううううううううううう!!!(力込め)」


あたしの首に絡みついて離さないロッカの腕を、同時に引っ張った。


「んぎぎぎぎぎぎぎぎ・・と、取れない〜!!!」

「・・っく・・!!」


しばらく力んでいたが、段々と疲れて来てあたしは大きく息を吐く。
リューグも苛立たしそうに舌打ちして、眠っている兄をギロリと見下ろした。


「っくそ・・ビクともしねぇ」

「ちょっと!本当は起きてんじゃないのー?」



ってか、この状態は最高に嬉しいけどヤバイってば!!



ベッドの上でロッカにぎゅうっと身体と首を抱きしめられて、あたしはまったく身動きがとれない。
おまけに顔がすごく至近距離に合って、あたしの心臓は今にも壊れそうだ。
くはー!そのあどけない顔がたまんねぇー!!(親父か)

でもリューグは先ほどのあたしの言葉に、首を横に振る。
そして呆れたような目でロッカに抱き付かれて動けないあたしを、見下ろした。


「馬鹿兄貴は一回眠っちまったらなかなか起きねぇタイプなんだよ。
これはもう諦めるしかないぜ」



・・・・・それは、訳しますと



この・・抱きつかれた状態のまま朝日を拝めと言うことデスカー?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(頭を抱えて)ガッデム!!(泣)




「うそー!絶対心臓壊れるってば!!」

「でもそいつ、余程の事がない限り起きねぇぞ」


あたしから視線を逸らし、ここではない遠い何処かを見つめながら、リューグはボソリと呟いた。
どうやら彼にも色々とあったらしい。
何があったんだっつーの!(ツッコミ)


「ヒィー!やだやだリューグ!!見捨てないでぇぇぇぇ!!!」



見捨てたら一生ストーカーしてやるー!!



リューグはあたしの叫びに首を傾げながらも(ストーカーの意味がわからないらしい)、
見捨てるかのように背を抜けて、自分のベッドに戻っていく。
ああっ!コイツ本気で見捨てる気かよオイ?!


「リューーーーーーーーーーーーーグーーーーーーーーーー!!!!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇな、別に見捨てるわけじゃねぇよ」

「は?」


リューグは自分のベッドから布団を引っ張り出して、あたしの所に戻ってくる。
え?え?何・・?


あたしが困惑した表情をリューグに向けていると、リューグはあたしの顔の脇に片手をつく。(はぅ?!
あたしの顔を照らしていた眩しい光がリューグの影に遮られて、あたしの目にリューグしか映らなくなる。

な、何事!?!?(どうなってるんだ一体)


「りゅ、リューグ?(うわ、男前!<逝け)」

「オラ、寝るぞ」

「・・・・・・・・・・・はぁっ?!(何言ってんデスカー?!)」

「俺も眠いんだよ」


リューグはロッカとは反対の場所・・あたしのすぐ右隣りに体を寝かせてきて、
いきなり男二人に添い寝されるという事態に、あたしは思わず絶叫をあげてしまう。
ヒィィィィィ!双子アタックーーーーーーーーーーーーーー!!!!(嬉しい攻撃ね!<オイ)


「ぎゃー!何であんたまでー?!?(ってか悩殺する気か?!)」

「見捨てるなって言ったのはテメエだろうが。
それにな、大事なモン獲られて平気でいられるほど俺は人間できてねぇよ」


そう呟いてリューグはあたしの肩に顔を埋めて、目を閉じる。
しばらくしてから、穏やかな寝息が聞こえて来て。

あたしは更に固まってしまった。


(ってか・・大事なモン・・?ロッカのことカナー?)



ブラコン決定?



本人が聞いたら一刀両断しかねない発言を漏らしながらあたしは首を捻り、
はっと今の状態に我に返る。



右にリューグ



左にロッカ



このハーレムとも言える状態から抜け出るには、大人しく夜明けを迎えろ



神様は仰っているのデスカ?



ってかそんなサービスせんでもいいじゃないっすか?!ねぇ?!??!(泣き笑い)



あたしは叫んで助けを求めようとしたが、この双子が寝ぼけて更に顔を近づけて来て。
助けを求めようとした声は、心の中で響く絶叫に変換された。
みぎゃああああああああああああああああああああああ!!!(し、死ぬー!)


「・・はうはうううう・・!!は、離れてくださいお願いします〜・・!!]

『ん・・』


リューグとロッカの息が耳に掛って、あたしの顔はコレ以上にないほど更に赤くなった。
どちらかに顔を傾けようとしても、両サイドから攻められているのでどっちにしろ瞬殺モノな
寝顔が待っている。

眠ったら眠ったで、必ず首を移動させてしまうので唇が触れる可能性は非常に高い。
ってか、朝までこの状態?!(一種の拷問だ!)




・・・・・・・・取り合えず、文句言いたい気持ちを抑え、



あたしは、自分の寝不足を覚悟するのだった。






でもやっぱり、リィンバウム万歳・・!!(寝不足は嫌だけどな)


























が、双子アタック+眠気と必死に戦っている同時刻。



聖王都・ゼラム・・・・こちらでは、頭痛と戦っている女がいた。
彼女の名は、ミモザ・ロランジェ。
痛むそれに彼女は珍しく、こめかみを抑えて唸っていた。



外ではもう夜中と行っていい時刻。
しかし問題は、時間に関係なく起こる時に起こるものだった。


「はぁー・・・・ど−ーーーーーーーーーーーーーーーーしてアナタはそうそう問題を起こすわけ?
おねーさん、アナタを解剖したい気分に駆られちゃう」


さり気に恐ろしいセリフを吐きながら、ミモザは大きくため息を吐いた。
そんな彼女の目の前には、不機嫌そうな表情を隠さずに見せている、肌の白い青年。


「ねーぇ、バノッサ。何であんな障害事件を起こしたのよ?」

「うるせぇな、手前には関係ねぇだろうが!」

「やだ逆ギレ?この私に向かって逆ギレするの?あーやだやだ・・」


傷害事件。
その後始末にミモザの疲れがピークに達しているのか、何の躊躇もなく杖を構えてバノッサを見上げた。
彼女の目には明らかに殺気がこもっていて、さすがのバノッサも命の危険を感じて唸る。
彼の中でミモザは誓約者と同じく、苦手な部類に入っているからだ。


「痛い目にあいたくなかったら・・貴方が繁華街で騒動を起こした理由を100字以内に
まとめて私にいいなさい。
じゃないとヒポスの催眠効果で悪夢を見てもらうわよ」



目がマジだ



バノッサは内心ビクビクしながらも、虚勢をはる。
何だかんだ言って、相手に弱いところを見せるなどとんでもないことだ。



哀れな



ミモザはにこりと微笑んで、グッ!と力強く杖を握った。
その行動は明かに“吐かねーと殺っちまうぞ、コラv”と言わんばかりのオーラが溢れ出ていた。


「バノッサ?(にっこり)」

「・・・・・・・・・・・・ッチ、わかったよ!話せばいいんだろ!・・ックソ・・!」

「そうそう、人間素直が一番よねー・・それじゃキリキリ吐きなさいな」



正直に話さなかったら、ペンタくんの孫とひ孫で攻めるわよ?



爆弾に孫もひ孫もあってたまるか



あくまで微笑を絶やさないミモザに背筋を震わせながらも舌打ちをして、
彼はあっさりと言い放つ。


「女を探してたんだよ」

「女ぁ?」


ミモザはキラリーンと光る眼鏡の位置を戻して、不審そうにバノッサを見上げる。
見下ろされた本人は不機嫌そうな表情を隠さず、ミモザを睨む。


「手前も聞いただろうよ、はぐれ野郎たちが探している女だ。
・・このゼラムか何処かにいるはずだと言ってただろーが」

「・・それじゃ1つ質問していいかしら?」

「?」


ミモザはバノッサを見上げて、真っ直ぐにその瞳を見る。


「彼女に会って、貴方は何をするつもりなの?」



何をする?


出会って、その女に        何をする、だと?



(待て)



はたと、思い立つ。
俺はその女に会って、何をするというんだ?
この胸の奥にある違和感を消してもらう・・そう、それもそうだが。


けれど本当は、何をするつもりだった?


何故こうも、求めている?


・・何か、別の理由が             




「・・バノッサ?」


ミモザの声にはっとして我に返ると、意識がとんでもないところに飛んでいた自分に、
忌々しげに舌打ちをした。
そしてバノッサはマントを翻しながら、テラスからふわりと飛び降り、着地した。
そのまま外へと出ていく。


「ちょっとバノッサ!!」

「うるせぇ!手前には関係ねーだろうが!!」


ミモザはテラスからバノッサを見下ろして、夜中にも関らず大きく叫んだ。


「関係あるわよ!その子は私の後輩のになる子かも知れないんだから!!」



・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「は?」


バノッサは訳が解からないといったような表情でミモザを見上げ、何と言ったかもう一度訪ねる。


「何だと?」

「だーかーらー!になる子だっつってんでしょ!!ラウル師範が言ってたのよ!」



“ネスかマグナの孫が生まれたら何と言う名前がよいかのぉ?”ってね!



えらく興奮したように、ミモザは叫ぶ。
その<嫁>の単語に、なぜか酷く苛立って。

バノッサも負けずに返した。


「誰が嫁だ!誰が!!どんな野郎か知らねーが・・嫁にさせてたまるか!!」

「だめよ!私の後輩の嫁は譲れないわよ!!」


話しが段々ズレていっているが、二人は睨みあってうなり合う。
だがそれは、一人の少女の声に幕を閉じるのだった。


「はい、そこまでですよ」


にっこりと、笑顔を携えて現れたのは誓約者・アヤ。
彼女の出現にバノッサとミモザはぎょっとしたような表情を見せて、睨み合いを中断する。
・・・彼女の言う“喧嘩両成敗”はとてもキツイものだという事を、身に染みて知っているからだ。


「バノッサさん、ミモザさん、だめですよ?
今は深夜ですし・・ご近所の方々が起きてしまいますよ?
そうなるとご迷惑になってしまいますから、喧嘩はやめてくださいね?(笑顔)」

「・・あ・・う・・わ、わかったわ・・アヤ・・(滝汗)」

「・・・・」


エスパー・ミモザ、元魔王・バノッサ。
彼らも誓約者が仲介に入れば形無しである。


「あ、あとミモザさん、・・ハヤトが“感じ取った”みたいなんです」

「感じ取った・・?」

「・・っ!あの女がどこにいるのかわかったのか?!」


バノッサはアヤの腕に掴みかかるが、アヤを掴んでいた手が払いのけられた。

何に妨害をされたのかと思って見下ろせば、そこには彼女が召喚した召喚獣・テテ。
主のアヤを守った事が誇らしげに思ったのか、フフンと鼻を鳴らして胸を張ってバノッサに喧嘩を売る。


「だめですよ、テテちゃん。すいませんでした、バノッサさん」

「そんな事はどうでもいい・・あの女の居場所を早く教えやがれ!!」


バノッサの怒声に、アヤは動じもせずに見上げながら。
次にはニコリと微笑んだ。


「まぁまぁ・・お話は明日にしますので今日はゆっくりと休んでください」

「は?・・って、ふざけんな!手前!!!」

「ふざけてなんかいませんよ、バノッサさん。
ただでさえ血色が悪いのですからゆっくり休んで健康色に戻さなくちゃだめです」



やかましい



バノッサは頬を引きつらせながらアヤを見下ろすが、アヤはにこにことバノッサを見上げる。
その二人の間にいたミモザは、その光景に火花が飛び散っていたように見えた。
さすが誓約者・・最強ね!!(感心)


「それでは部屋に戻りましょう、バノッサさん、ミモザさん(^^)」

「そうねー、さっさとお風呂にでも入ろうかしら・・バノッサー、アナタも入りなさいよ」


・・・・・ミモザのセリフにバノッサは、力の限り召喚術を発動させてゼラムを壊したくなったが。
ミモザの背後でにこにこ笑っているアヤに寒気を感じてしまって、一生懸命我慢したそうな。



偉いぞ、バノッサ。








そうして、騒がしい夜は更けていった。



















NEXT





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後書き



第45話をお届けさせて頂きました

デグレア久々登場です。
苦悩ルヴァイドに愛がすっかり偏ってしまってはおりますが、お許しください。(土下座)
なんといいますか、ルヴァイドはとことん悩ませたい、ウフ。(サドか)


レイムシリアスに、ちょっと過去に触れてみました。
修正前と少々違う内容になっていきます、ここでようやく、アルス達ご先祖様を交えた設定に
書き直せそうな土台が出来上がりました・・決めるのに結構時間がかかりました・・おおぅ。(滝汗)

リューグとロッカの添い寝。
たまりません、されてみたい、しがみつきたい。(落ち着いて)
今だちゃんと仲直りしていませんが、次回でようやく仲直り完結かと。
・・・・・・・タンクトップは浪漫だと思います、ハイ。(とてつもなくマニアックな・・!)


バノッサが女性陣に押されまくっておりますね!
ここまで弱くはないのでしょうが、まぁ・・相手が相手だ、ということでスルーな方向に!

そして文中に出てきた、レイムの歌。
あれは以前当サイトにあった、詩と歌を募集していた掲示板よりありがたく拝借させて頂いて、
こうして掲載させて頂きました!


<永遠を廻るひとつの魂>(タイトル)
●なゆこ様のコメント●

ああ!なんか勢いでわけわかんないです!
いえ、レイムが歌ってたので・・・
はうあ、いみふめいですぅぅぅ


ああ!もう素敵に素晴らしいでごいざいますよ!!なゆこ様!!
これのおかげでイメージがぴったりと重なったと言えます・・!本当にありがとうございました!綺麗でしたよvv


では次こそルウ嬢を・・・!!(大丈夫か)


2002.2.27

2004/6/21大幅修正