海が、体温を奪う。 しかしそれは、普通の人間の場合に通用する話。 憑代(よりしろ)となっているこの身体に降りた私には、些細なことでしかない。 第44夜 (ローレライ、ですか) 泡立つ飛沫に、海の水の冷ややかさにも目もくれず。 レイムはただ、海底にまで引きずり込まれているとその原因であるはぐれ召喚獣、 ローレライだけを追っていた。 手で水を掻き、海底を目指して。 (しかし、呼吸が制限されているというのも不便極まりない) の口から、酸素が零れて行く証である泡が漏れて行ったのが見える。 抵抗していた彼女だが、やはり海に属する召喚獣には敵うことなく、ついには抵抗をやめてしまった。 ローレライは、気を失ったを見て細く笑んでいる。 何とも嬉しそうに。 (たかが下級のケモノが、彼女を嗤うなどと・・) 彼女に指摘された通り、自分は彼女を重ねていただけなのだろう 同じ姿を持つに、彼女を重ねていただけなのだ (何故) 理解した自分にもはや、には何ら価値も感じないだろう <は彼女ではない> それはもう、はっきりと理解した なのに何故 レイムは、ぴくりとも動かないの片手を掴んだ。 恐ろしいほどにその腕は冷たくなっており、レイムは背筋が一瞬、逆立ったように思えた。 完全に意識を手放しているのは、どう見ても明らかだ。 腕を掴んだ彼に、ローレライがわずかに驚きの表情を見せた。 そして獲物を奪われまいと片手に収まっている、水の中でも不気味に輝く槍を構える。 「ローレライ」 レイムの声が海に響いた。 本来ならば海の中で、人間の声は言葉とならないもの。 言葉として出てこず、ただよくわからないくぐもった、音に変換されるだけだ。 しかしレイムの声は、ローレライに、海の中で確かに響く。 それは彼が、海の中で会話をするローレライの言葉を知識として得ているからだ。 「手を離しなさい」 「何故、何故貴様ガココニイル?滅ビタ悪魔ガココニイル?」 ローレライの言葉が、レイムに届いた。 その内容にレイムは無意識に眉をひそめ、ローレライを冷たく見やる。 ローレライとは本来知性が高く、気高く、誇りを持つ種族のはずだ。 だがこのように獰猛なローレライがいるということは稀で。 ・・そのため、彼女の中で何かが変わったのかもしれない。 何かが、壊れたのかもしれない。 「花を、摘みに来たのです」 「”蒼ノ雫”カ?ソレハ無理ダ。花ハ他ノ人間達ニ奪ワレタ。 モウ最後ノ一輪シカ咲イテイナイ」 最後の一輪のみしか咲いていない。 ローレライは、笑んだまま告げる。 「貴様ノ噂ハ既ニドコニデモ届イテイルゾ。 姦計ト虚言ヲ司ル悪魔ガ目覚メタト、ソシテ不穏ナ動キヲ見セテイルト」 ローレライが、饒舌に喋りだす。 の片手を離さぬまま、レイムを嘲笑うかのような青の瞳で見つめながら。 海に属するローレライは、喋りだす。 「人間達ハ貴様ノ動向ニマルデ気付キモシテイナイ、ダガ我ラニハスレバ貴様ハ派手ニ動キ過ギテイル。 我ラ気付カレルノハ貴様ノ存在自体ガ強スギルカラダ、敏感ナ本能ヲ持ツ者ニハ勘付カレテイルゾ」 ・・確かに、憑代に降りたとは言えど、敏感な、力ある者には悪魔としての違和感を勘付かれやすい。 達の前では極力控えているつもりだが、それでも気付きかけている者がいるのを知っている。 ・・それはマグナ、トリス、・・彼らの護衛獣達だ。 彼らは特別だ。 クレスメントの一族に召喚され、が無意識に召喚したならば、それだけでも特別になる。 だがさらに特別なのは、彼ら自身で ローレライが、レイムの思考を打ち切った。 「シカモ、人間ノ女ニ執着シテイルト聞イテモイタガ・・マサカ、コノ女ガソウダトハ」 「離しなさい」 「我ニスレバ久シブリの獲物ダ、譲ルト言ウノハ無理ナ相談ト言エヨウ?」 ローレライは、やや恍惚に満ちたような瞳をに向けた。 そして掴んでいるその腕を、唇から零れたような赤い舌でちろりと舐め上げる。 「貴様ガコノ女ノ魂ノ輝キに惹カレタヨウニ、我モコノ女ノ匂イに惹カレタ。 コレホド美味イ匂イヲサセタ人間ハソウソウイナイ。 ・・・コノ女ハ、他ノ召喚獣ナドニモ大層美味ソウニ映ッテイルダロウ」 ローレライが、の首に腕を絡ませてを抱き込んだ。 そしてうっとりとしたようにの頬をその指で撫で、レイムを見る。 「貴様ハ姦計ト虚言ヲ司ル悪魔、ソノ魔力ハ確カニ我ヨリ上ダロウ。 ダガ今ノソノ憑代カラ僅カニシカ感ジナイソノ貧弱サは何ダ? ・・・今ノ貴様ハ、我ヨリハルカニ劣ル」 「・・・・」 「コノ女ハ我ノモノダ、コノ女ハ我ガ喰ラウ」 この言葉に。 レイムは、嘲笑するかのような笑みを浮かべた。 それにローレライは不機嫌そうに眉を歪め、槍をレイムの喉元に突きつける。 「何ガオカシイ!」 「いえ、とてつもなく愚かで、低能な<はぐれ>だと思いまして」 が、この獣のモノだと? 冷ややかで、そして相手を腹の底から、本当に嘲笑っているかのような、笑み。 それにローレライの瞳が怒りに灯り、海中の中だと言うのにも関わらず、激しい勢いで槍を振り上げれば。 レイムはやはり、笑んだままで。 「 槍が、ふわりと受け止められた。 勢い良く振り下ろされたそれは、細くで長い、その指にいとも簡単に受け止められた。 「彼女の香りに理性を失い、警告をするであろう本能を鈍らせ、 大悪魔に位置する私に刃向かおうなどと 嗤うレイムの身体から、僅かに紫色の光があふれ出てくる。 それにローレライはとてつもない負の力・・魔力で、刃が受け止められたのだと理解して。 彼の内に、強大な魔力が秘められているのだと、今更ながらに理解して。 「小賢しい」 大悪魔の、言葉。 それにローレライは恐怖に全てが包まれて、掴まれた槍を彼から取り返そうと力を込めても、 レイムの指で受け止められた槍の刃はまるきり微動だにしない。 「ああ、それから一つ、訂正を」 レイムはやはり、笑んだままで告げた。 それは見る者の心を奪うような笑み。 だがローレライは心を奪われるどころか、恐怖で覆い尽くされていた。 そして今更ながら後悔していた。 人間の女に手を出したこと。 レイムを、自分より下に見ていたことを。 「彼女は、私のモノですよ」 ・・青の瞳は、何も映さなくなったまま暗闇に途切れた レイムはを海から引き上げて、他にもローレライがいないかと周りを見渡した。 ローレライどころかレナード達の姿もなく、先ほどいた場所とは多少異なる場所に辿り着いたようだ。 先ほどのローレライは一体、彼女をどこに連れて行こうとしていたのだろうか (おそらく、喰らうための巣に戻ろうとしていた・・ということでしょうか) そこで思考を打ち切って、レイムはの唇に触れて呼吸の有無を確かめる。 先ほどからピクリとも動かず、息もしていない。 どうやら多量に水を呑んでしまったらしい。 「・・・・」 ぐっと、の顎を掴んで上に向かせた。 そして人工呼吸の方式に則って、そのまま己の唇を彼女の唇に近づけて 「ゲホッ!」 あと15センチで触れる、というところで、が水を吐き出した。 そのまま彼女は幾度も咳き込みながら水を吐き出し、全てを吐き出し終えた後には、 地面でぐったりとしたように仰向けになって呼吸を何度も繰り返す。 「げほっ・・こほ・・ もう一度咳き込んで、は覆いかぶさっているような体勢のレイムを見た。 過度の咳き込みに自然に潤んだ目で見上げて、よろよろとしながら半身を起こす。 「・・・・・けほっ・・」 レイムはただ、小さく咳き込むを見つめていた。 憂いを含んだかのように、疲労が浮かんだ目を長い睫毛でやや伏せて、 艶かしく頬に纏わりついている髪も、濡れた唇にも、その横顔にも全てに、魅入られたかのように。 ただ、彼女を見つめて。 <>に、他の存在では感じなかった、衝撃のようなものを それを、確かに感じ取った (そんな、馬鹿な) 前世の関係から、多少の力はあるものの・・愚かで、弱く、傲慢で 彼女ではない、に 彼女の持つ魂の輝きに、<惹かれ始めている> 「・・・・・・・・・・・・・・・・・レイム?」 が、レイムの名を呼んだ。 不思議そうに、見上げて、名を呼んだ。 それだけで、今まで以上な高ぶりを覚える。 「・・・・・・ローレライは、もういません」 「・・助けてくれたの?」 問いかけて、そして先ほどの言い合いを思い出したのか、彼女は気まずそうに視線を逸らした。 逸らされた事に不思議と小さな痛みを覚えて、レイムはにもう一度見て欲しくて、 彼女の顔へと腕を伸ばす。 「 が、俯いたままぽつりと言葉を零した。 それに伸ばしかけていた腕を下ろして、レイムは彼女の横顔を見つめる。 「・・さっきは、八つ当たりしてごめん。・・・それから」 「?」 が、恐る恐ると言ったようにレイムを見て。 不思議そうな表情を浮かべている彼に、今度は苦笑したように微笑んで。 「助けてくれてありがとう」 温かな 温かな、アナタ 衝動的に、の肩へと手を伸ばす。 そうして掻き抱くように抱き寄せて、冷え切っている身体に触れ、濡れた髪に唇を当てて、 ただひたすら、強く抱きしめる。 「ちょ」 慌てるに、レイムの欲に火がついた。 奪ってしまおう。 このまま、自分だけのものにしてしまおう。 彼女の呪いの鎖を解き放ちたくて、リィンバウムに復讐をしたくて、力を求めていたけれど。 今は、連れ去って、手に入れてしまえばは自分のモノに 「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 が、叫んだ。 今まさに、重大な事実が発覚したと言わんばかりに。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・その時レイムは初めて、脱力感というものを覚えた。(私としたことが・・) 「ちょっとレイム!」 「は、はい?」 「トリス達は?!トリス達はどこ!??もしかして他のローレライに襲われてるんじゃ・・!」 ”こうしちゃおれん!”とレイムを突き飛ばし、海に再び潜ろうとしているのかスタスタと岸まで歩く。 レイムはと言うと、突き飛ばされて欲についた火がすっかり萎えてしまっているのを理解しつつ、 慌てての腕を掴んだ。 「さん、トリスさん達はそのうち追いついてきますよ」 「そんなのん気なこと言ってる場合じゃないでしょ!」 「いえ、恐らくハサハさんの力でさんが大丈夫だということは知られているはずです」 あの仙狐は簡単な占いなら出来るだろう。 が沈んだ場所からこの場所まで繋がっているはずなので、多分もうすぐ近くまで来ているはずだ。 しかしそれでもは不満そうで、レイムは苦笑する。 我が侭で、どこか子供のような貴女 どうしようもなく、惹かれていく 「もう少しここで待っていましょう」 もう少し 二人だけで あたしはレイムにため息を吐かずにはいられなかった。 なんというか、八つ当たりをした罪悪感から助けられた事に気まずい気分だというのに、 彼はすっかり、笑顔であたしを許してしまっているのだ。 ・・・助けてくれたことには感謝してるけど、こんなにも優しくされていると レイムの正体が明かされたときに傷ついてしまいそうだ。 (傷つきたくなんか、ないのになぁ) 情がうつると、困るのだ。 自分が傷ついてしまうことが、確かになってしまうから。 ・・取り合えず、レイムの言うとおりにあたしはトリス達を待つことにした。 海水を含んですっかり重くなってしまっている服を裾を絞ると、ぼたぼたと水が落ちていく。 うーあー!濡れて気持ち悪ーーーーーー!!! 「あぁもう、まさかあんなことが起きるなんて思ってもなかったから着替えなんか 持ってきてないのに・・気持ち悪っ!」 「いえ、これはこれで良いと思いますが」 あたしは、怪訝そうな目でレイムを見上げた。 彼はにっこりと、一生懸命服を絞っているあたしを指差して。 「男としては、嬉しい光景ですv」 「・・・・・・・・・・・・・・(アホ決定)いっぺん死んでこい」 「だってさん、燃えませんか? 若い男女が暗い洞窟で遭難するというシチュエーション! これはもう“さっさとくっつけお前ら!”と神が応援している証拠ですよ運命ですよ!!」 そして縁結びの神も熱いコールで応援中ですよ!きっと!! 「そんな応援する神がいたらマジ殴る!!ってかいやー!触るなボケーーーーー!!!(蹴)」 「(顎にヒット)ガフっ!・・な、ナイス、サマーソルトキック・・!!(恍惚)」 「ぎゃあああああああ!!!こんな間近で恍惚とした表情見せるんじゃないわよおおおおお!!!(嫌)」 「さん・・!ゴチになります!!(がばぁ!<押し倒し)」 「ぎゃあ!盛るなーーーーーー!!」 「ははは、可愛い人だ・・照れないで・・(悦)」 ラブ・フォエバー!!(ガシィ!) 「ヒィィィィィィ!!!顔掴むなああああああああああああああああ!!!!」 ああ!神様! 貴方はあたしがこんな変態にヤられても良いって言うのですね?! ってかもうあんた呪ってやるうううううううううううううう!!(泣) あたしが神に呪いの呪詛を送り始めたその時。 「・・・・・・・・・俺様達はお邪魔だったか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の声は。 あたしはレイムの顔を掴んで身を起こせば、レナードたちが唖然としたような表情であたしたちを見ていた。 なんというか、もう、あれは完璧に誤解している。 そんな眼差しだ。(誤解だあああああああぁぁぁぁ・・!) 「ち、違う!断じて違うのよレナード!!」 「ってばレイムさんとそんな仲だったなんて・・」 「ミニス!それも違う!誤解よ!!(滝汗)」 「・・・・おねえちゃん・・・・」 「ハサハーーーーーー!そんな目であたしを見ないでーーーーー!!」 何というか、本気で泣きたくなって来た。 これでトリスにまで誤解されたら首を吊るわ・・あたし・・(そこまで嫌がりますかbyレイム) 「さん」 「トリス・・(違うの!信じてトリス!)」←哀れレイム トリスは、にっこりとあたしに笑った。 「あたしは信じてないよ、だってさんが違うって言ってるし」 「トリス・・!(キラキラ)」 あぁ!トリスにそう言ってもらえるだけで救われるわ! さっきまでは呪っちゃってたけど神様、ありがとう!! 感激するあたしを余所に、トリスはあたしとレイムの間に入ってにっこりとレイムに笑いかけた。 「レイムさんって、さんのこと好きなんですか?」 「はい(即答)」 (即答すな!!(滝汗)) 「でもさんはだめですよ」 トリスはにっこりと笑って、あたしの腕に抱き付いて頬を寄せてくる。 か、可愛い・・!!(馬鹿) でも、その可愛い口から、とんでもない発言が飛び出した。 「あたしのお兄ちゃんかネスのお嫁さんになるんだから♪」 ・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あたしはトリスの発言に立ちくらみを覚えて、思わず頭を抑えた。 ラウル師範 血は繋がってませんが、この子は確かに貴方の娘です あの義理父あればこの娘あり(遠目) 「そうすればさんはあたしの未来のお姉ちゃんになれるもの♪楽しみ〜vvv」 「ア、アノー・・トリスサーン・・?(思わずカタカナオンリー)」 「ね、ね?さん。あたしとしてはお兄ちゃんを推薦するけどなー?」 妙に、迫力のある笑顔だ。 この可愛い笑顔に何だか、ネスの薬を取りに行ったときのラウル師範を思い出す。 しかし、トリスに押され気味にあたしをトリスから引き離すように、レイムが腰を掴んで高く抱え上げた。 「あー!!」 「さん、私のことを愛してますよね?」 「いや愛してないから、ってか世界で一番退く存在よ、あんた(そして降ろせ!)」 「ほら御覧なさい、トリスさん! 今確かに“愛してるわレイムvv世界で一番貴方が好きvv”と言ったでしょう?!」 「どんな都合のいい耳してんだあんたわーーーーーーーー!!!!(殴)」 「(殴られて)ガフッ!っふ・・それも愛の拳・・!!」 彼は唇の端から血を吐きつつ(拭えよ)にっこり笑むと、あたしに顔を近づけて唇を近づけてきた。 ひぃ!またかい!!(退) 「さぁ・・永遠の愛を誓いましょう・・!」 「嫌に決まってるだろおおおおがあああああああああああ!!!!」 「ちょ、ちょっとレイムさんやめてーーーーー!!(><)」 あたしにキスしようと唇と顔を近づけてくるレイムと、それを必死で避けるあたしと、 そんなあたし達を必死で止めようとするトリスとのめちゃくちゃな構図に、 ハサハはオロオロと、ミニスは呆然としていたが。 レナードは一息煙を吐いて、拳銃を天井に向けて容赦なく引き金を引いた。 バァン!と響くあまりに大きなその音に、あたし達はピタリと動きを止めて。 レナードはまた煙を吐いて、ため息をついた。 「お前さんたちが恋愛をするのも、その兄弟を薦めてるのも勝手だ。 だが花は時間がないんじゃなかったか?」 「・・そ、そうだった・・!レイム!降ろして!!」 「そんな勿体無い事はしたくないのですが・・」 ”このまま運んで差し上げましょうか?”と笑顔で言ってくるレイムに、あたしは丁重にお断りした。 ・・・・・・・・・・・・ただし、それはあたしの拳で黙らせただけだったが。 「で、とレイムはどうしてそんなに濡れてるんだ?」 「実は・・ローレライに海に引きずりこまれちゃって」 あたしは奥の道へと歩きながら、さきほどまでの状況を説明した。 それにレナードは険しい表情を見せて、自分のコートを脱ぐとあたしの肩にかけてくれた。 「俺が油断していたせいもある・・すまなかったな」 「そ、そんなことないって!こうして助かったし」 確かに、命の危険は感じたけど。 でも、あたしの花に頼りたい気持ちは変わらなくて・・・。 「・・・・・・さん、もう、進むのは止めにしませんか?」 (いつの間にか復活した)レイムが、あたし達にそう告げた。 誰よりも一番先頭に立っている彼の向こうは、さらに蒼く輝きを放っている壁に囲まれた道がある。 ・・まるで、ここから先に花があると言わんばかりの、蒼の壁。 「・・レイム?」 「ここより向こうに、花があります」 「へ?」 「ここから先は<蒼の雫>が咲く事が出来る唯一の場所・・“蒼の聖域”の内部になるのです。 その証拠にここから先の壁は今までの壁より、より深い蒼に輝いているでしょう?」 まるで海の中にいるような、そんな蒼さを思わせる。 けれどもあたしは案内をしてくれた彼を呆然と見つめて、どうにか言葉を出した。 「何で、目の前にあるのにやめなくちゃいけないの?」 レイムは、首を横に振ってあたしを見下ろした。 「さん、所詮はただの伝説です」 「な・・!」 「・・・・・・・・・先ほどのローレライの巣も、ここから先にあるようです」 一瞬、掴まれたときの感覚を思い出した。 あの、ひやりとした、とても冷たい、感触。 「そしてローレライは言っていました。・・・・”人間達に奪われて、花は最後の一輪のみ”だと」 あたしは思わず、レイムの横を通り抜けて奥へと走った。 奥へ奥へと走るうち、洞窟の壁はさらに蒼く輝きを増していって、 しばらく走り続けて辿りついた先には、探していた花があった。 大きく開けた空間の中で、洞窟内まで繋がっていた海の中からひっそりと茎を伸ばし、 小さな蕾をつけている花が一輪。 ・・・・最後の、一輪。 周りには、乱雑に摘み取られた痕。 あたしがこれを摘み取れば、”蒼の雫”はリィンバウムからなくなる。 「花は花です、それはキッカケにしかならない。 貴女は気付いているはず、心はそんな簡単なものではないと・・わかっているはず」 「さん?」 追いついたトリスがあたしの所までやってきて、俯いているあたしを心配そうに覗きこんだ。 あたしは何とか笑って見せたけど、それでもちゃんと笑えてないのはわかる。 「花は、人間の私利利欲のため消えかけている」 ガツン、と頭を殴られたような気がした。 「たかが伝説と言えど、花自体は貴重種、人工生産することすら難しいものです。 ・・しかし貴女が摘めと言うならば、私はためらいもなく摘みましょう」 時間が丁度、日付が変わる時刻になったのか、花がゆっくりと開き始めた。 淡い、蒼。 海の花と名づけてもおかしくない、寧ろそのものだろうと思わされる・・綺麗な、蒼の花弁。 レイムが、海から伸びている茎へと手を伸ばす。 あたしはそれを震えながら見ていたけど。 ”花は、人間の私利利欲のため消えかけている” 震えながら、彼の手を掴んで・・摘むことを、止めた。 頭の中では、どうすればロッカと仲良くできるんだろうということでいっぱいだ。 明日には、アメルのお祖母さんがいるという森に向かうのに。 このままでは、皆の負担になってしまう。 レイムは、レイムを掴んでいるあたしの手をそっと握って、涙ぐむあたしをしばらく見下ろす。 そして彼は、ぽんっとあたしの背を押して、自分の胸へと引き寄せて。 ゆっくりと、あたしの背を撫でて言った。 「本当に人の心を繋ぐのは、花なんかじゃないのですよ」 人の心 それを本当に繋ぐのは お金でもなくて、プレゼントでもなくて・・やっぱり、それもまた心で 勇気を出して、歩み寄ろうとした人の心で 「 あたしは、その言葉でようやく決意するのだった。 結局、花はそのままにしておいた。 既に日付が変わっていて、満月はファナンの空を漂い、道場へと戻っていくあたし達を照らしている。 「レイム!」 あたしは帰ろうとするレイムを見送る為、道場の外へ出た。 すっかり夜も更けていて、海の波しか聞こえてこない。 「おや、さん?」 「そこまで見送るわ」 「いえ、別に大丈夫なのですが」 「見送るの!」 ずかずかと道場の門まで歩くあたしに、レイムは苦笑しながらも後についてきて。 門を出て、周りの景色を一度見渡してからあたしはレイムに振り返った。 「・・今日はありがと」 思い返せば色々と勇気付けられたり、励まされたりしていたような気がする。 思わず顔を赤くしながらも礼を言うと、レイムは目を丸くして、次にはにっこりと微笑んだ。 「お礼ならキ」 「その後「ス」って言いやがったらぶっとばすわよ?(笑顔)」 「ははは、嫌ですねぇ。そんな事言うはずがないでしょう?」 言う気満々だったろ、アンタ 「・・まぁ、ですが仲直りしたい相手が男というのは気に入りませんが、そこそこに頑張って下さい」 「わかってるわよ」 ”直接怒ってる理由を聞こうだなんて、気が重いけど”と呟くあたしに、 レイムはやっぱり、笑ったままで。 「・・レイムはもしかして、最初から花を摘ませる気なんてなかったの?」 「はい、そうですよ?」 あっさりかよ 「・・(落ち着けあたし)何で、目の前まで案内してくれたの?」 「貴女なら、花がなくとも大丈夫かと思いまして」 「・・・・・・・あたしだって、人間だよ。物にすがりたくなる」 占いとか 花とか、物とかで、相手の心に許しを得たくなる すがりたくなる 「ですが途中から気付いていたでしょう? あたしは少し驚いた表情を顔に出して、レイムを見た。 確かに、そう思いかけていたことは思いかけていたけれど、何で彼が気付いたんだろう。 「所詮はそんなことなのです。 時間をかけて改めて考えれば、他にもたくさん、解決策が浮かぶのです」 「・・なるほど」 結局は、今回のはパニクったあたしのせいで大きくなったということなのだ。 嫌われてしまった動揺はまだ収まっていないけれど、でも洞窟に行く前よりかは、ずっと冷静だ。 ・・・・・・しかし、レイムにそれを気付かされるというのも、何だか微妙な話だわ・・・(汗) 「結局、振り出しに戻るってことね」 「あ、そうそう・・さん、これのことなのですが」 レイムはあたしがあげたバンダナを懐から取り出して、大事そうに抱きしめた。 ・・・何だか、嫌な予感がする。 「バンダナ、どうもありがとうございましたvv 取り合えず今日からこれと一緒に寝ますvvきっと良い夢が見れると思うんですよ!(拳グッ!)」 「やめんかーーーーーーー!!!(ガスッ!)」 あたしは間髪入れずレイムの頭をどこからともなく取り出したハンマー(鉄)で殴る。 ってか、それじゃー完璧犯罪者だっつーの!! 「ガフっ・・(吐血)でもさんの温もりが・・」 「それと一緒に寝るなら返せ!今すぐ返せ返して一人で寝ろ!!」 「そ、そんな・・!さんからこれを取り上げられたら私は枕を濡らして寝なければ いけないじゃありませんか?!?」 そんな酷い事を言わないで下さい!!(泣) お前こそ気持ち悪いこと言うな(鳥肌全開) あたしはレイムの言動に頬を引きつらせ、ため息吐く。 真面目だったら結構イケてると思うんだけどなー・・(遠目) あたしがぼんやりとそんな事を考えていたら、レイムは時計に目を向けて“おや”と呟く。 「そろそろ本当に帰らなくては締め出しをくらってしまいますね、それではさん。 とても名残惜しいですが気をつけて戻ってくださいね」 いや、道場はもう真後ろにあるんだけど 「そんな短い距離と言ってもその間に襲われたらどうするんですか?!」 んなわけねぇよ レイムはあたしのツッコミを無視して、熱い瞳でそっと手を握ってくる。 そして(何故か)濡れている瞳で呟いた。 「例え貴女が襲われたとしても・・」 「何?あんたが助けてくれるの?」 「私がその襲った相手をぶちのめして、変わりに私が・・!!」 「やっぱテメエはそれかーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!(ガスゴスッ!!)」 変態はやはり変態だわ・・騙された・・(沈) あたしはレイムを見送ってから、そのままロッカの部屋に向かった。 多分、まだ明日への準備とかで起きているだろうと思うし・・・。 (どーか!どー−−−−か!うまく行きますように・・!!) あたしは祈りながらも、緊張した面持ちで部屋の扉をノックする。 軽い、音が2度響く。 ノックをしてからしばらく、彼からの返事を待ってみたけれど、ロッカの声は聞こえなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっそーん(滝汗)」 思わず、頭を抱えながらうずくまってしまった。 もしかして!もしかしてもうとっくに寝ちゃったあとですか! なんていうかもう、あたしは仲直り(?)すら出来ないまま森へと向かうんですか!神様!! あたしが本格的に落ち込みそうになった、その時。 「何やってんだよ」 思わず、ガバッ!と顔を上げてあたしは声の主を見つめた。 そこには黒のタンクトップを着て、首にタオルを捲いて、いかにも風呂上がりと言わんばかりのリューグ。 きゃー!タンクトップ萌えー!!(逝け) 「リューグ・・丁度良かった助けてー!(><)」 「うぉっ?!??」 あたしはリューグの腰にがばぁっ!と抱き付いて、助けを求めた。 しかしリューグが慌ててあたしを引き剥がす。 まだ張り付いて(?!)いたかったけど、さすがに力には敵わないのであたしは渋々手を離して、 リューグを見上げた。 「リューグ、つれない・・」 「つれないじゃねえ!いきなり何しやがんだよ?!」 「あはは、ごめんごめん・・ところで本当に良い所に来てくれたよねー♪」 リューグがタオルでがしがしと髪の水気を拭いながら、首をかしげた。 あたしはぱんっと手を合わして、彼に言う。 「あのさ・・ロッカ・・いる?ノックしたけど返事なくて・・」 「馬鹿兄貴?」 リューグはそのままノックもせずにガチャっと扉を開けて中に入る。 目に付いたテーブルには、既に明日の準備は万端と言わんばかりに、荷物が置かれてあった。 あたしも後に続くと、ロッカは本を膝に乗せたままベッドの上でうたた寝していた。 ・・しかもリューグとおそろいと言っても過言ではない、黒のタンクトップ。(ってか、絶対おそろいよね!<嬉々) 「・・(タンクトップ萌えよ!イエス!!)あちゃー、寝てる?」 「ったく。いつも本読んでうたた寝してっから、本読むのヤメロっつたのに・・」 平然と本を片付けるリューグに、そこであたしはふと、気がついた。 入ったときに感じた、違和感の理由に。 「・・そういえば、同じ部屋なんだ?この前はリューグとフォルテだったのに・・」 「今日から変わったんだよ」 あたしは思わず、ズサッ!と部屋の外へまで退いた。 そして信じられない、とでも言うかのように目を思いっきり見開いて、リューグを凝視して。 「嘘?!」 と、叫んでしまった。 純粋に驚いたリアクションを取ったつもりなんだけれど、リューグは嫌味にとったのか、 彼はむっとした表情を見せて。 「なんだよテメエ」 「だ・・だって・・一緒の部屋にしたって・・」 そんなの、朝に目を覚ましたら血の部屋っていうのは嫌よ! しねぇよ(怒) リューグは頭を掻きながら、あたしに来いと手招きする。 あたしは“?”と思いながら近づくと、首に腕を回されて軽くシメられた。 「ぼ、暴力反対よ!」 「テメエが言うな、バカ。 ・・ったく、お前は俺達を何だと思ってんだよ」 「顔を合わせれば血まみれブラザーズ(キッパリ!)」 「(ぶらざーず?)血まみれになるか!」 リューグがちょっぴり、力をこめた。 しかしそれでもやっぱり、苦しいものは苦しい。 あたしはリューグにシメられながらもジタバタと手足を暴れさせるが、首を掴まれていて動けない。 くぅぅぅぅ!ズルイいいいいいいいいい!!!! 「離してよ!」 「っへ、自分の力で抜け出してみやがれってんだ」 「出来ないから離せって言ってんのよ!!」 あたしはぐっと拳を握り締めて、リューグを睨んだ。 ビンタの準備はオーケーだ、このあたしの首をしめて優位になろうなんぞ、 どうなるか思い知らせてやるわー!(覚悟ー!!) しかしそこで、あたしはぴたりと動きを止めてしまった。 「・・さん・・?」 ロッカは目を覚ました。 そしてしばらくぼーっとしながら、じゃれあっているような体勢の、あたしとリューグを見る。 「ろ・・・ロッカ・・(ああ心の準備が・・!)」 起きちゃったー!!(汗) ロッカはまだぼんやりとしたまま、あたしを見つめる。 「・・・(寝ぼけ中)」 「・・・・・・・・・・・・・・(ち、沈黙が痛い・・!)」 「よぉ、起きたか?」 ロッカはのろのろと立ち上がった。 あたしはそれにビクビクとしていたけれど、あたしとリューグの目の前に立つと、 リューグの腕からあたしを引っ手繰るように抱きしめた。 はぅ?!何なの?!?(Σ ̄□ ̄) 「ろ、ロッカ・・?(お、おおおおお怒ってる?!)」 「・・・」 あたしが硬直していたら、ロッカの髪があたしの耳に掛って思わず息を呑んだ。 彼の額があたしの肩に触れて、伝わる熱に異様に緊張してしまう。(ノォ!) (あ、あれ?) 妙に、緊張。 それにロッカは、こんなに身長が高かっただろうか? 出会ったころは、あたしよりほんの少し高かっただけだったような気が 息が耳に触れた。 それにますます、あたしの身体はさらに硬直する。 ひぃぃぃ!さ、サービス??!(違う!) 彼は、眠っているように目を伏せたまま。 あたしの耳元に唇を寄せて、一言。 「・・・・ごめん」 え 「・・傷付けて、突き放して・・・ごめん」 ロッカ 突然の、謝罪。 それにあたしは何だか胸の奥が熱くなって、呂律が回らなくて上手く喋れない。 ロッカが・・ロッカが、謝ってくれた。 それはつまり、もう怒っていないということで。 また、笑ってくれるということで しかし。 その後、ロッカはぐらりとフラついて。 「おおぅ?」 ドサッ あたしごと、ベッドに倒れ込んだ。 ・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何事? 「・・・ロ、ロロロロロロッカ・・・?」 「・・ぐー・・・」 「ぐー?(まさか・・)」 事を見守っていたリューグは、呆れたため息をついて、一言。 「・・寝てやがる・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジデスカ・・? キッカケがあれば 分かり合えると信じたい そうして仲直りして そうしてまた喧嘩して そんな事が続いても 最後はきっと許し合える そう、思いたい 取り合えず、これで仲直りしたのかな・・? NEXT --------------------------------------------------------------- 後書き 第44話をお届けさせて頂きました オリジ色が濃いというべきなんでしょうか? 寧ろシリアス色が濃くて途中で発狂しそうになりました。 ローレライって肉食なのか?と首を傾げたくもなりました。 何事もスルーがモウマンタイ!(問題あるよ) レイム、何だかマトモです。(途中で幾度が病気(変態)が発病しておりましたが) ロッカ夢なお話かと思いきや、寧ろレイムなお話に、あれ?(汗) 次でようやく解決です、これも彼らの旅の一部だということで・・・!(言い訳) 随分と時間がかかったので、話がさっぱりわからないような内容ですが・・、 ここまで読んでくださってどうもありがとうございました! 近いうちに誓約者たちが出てくるのではないかと!多分!!(超微妙) 2002.23 2004/6/20大幅修正 |