第38夜






今日も晴れ渡る空が広がるリィンバウム。
そんな世界の一部である、貿易港ファナンの外れの道場では、アメルがにこにこと笑顔を見せ、
洗濯物を気持ち良さそうに広げ、乾していた。

最近は黒の旅団の攻撃もなく、ネスティの体調もが貰って来てくれた薬のおかげでとても良く。
今日の昼は、叔母のいる村に行く事が出来るだろう。

何もかもがとても順調。

これが何よりも嬉しい事だった。
側で手伝っているレシィとトリスもすごく嬉しそうに、アメルと同じ気持ちだと言わんばかりな
笑顔で、真っ白になった洗濯物を乾すのを手伝っていた。


「でも本当に良かったですね!トリスさん」

「うん!これもさんとレシィとレオルドのおかげだよ!ありがとう!!」

「そういえば・・レシィくん、さんはどうかしたんですか?」

「はい!ご主人様は爆睡してます!」



ちょっとやそっとの事では起きないと思います!



笑顔一杯に言い放つレシィに思わず、爆睡している彼の主人の姿を思い浮かべて、
トリスとアメルは互いの顔を見合わせて笑う。


「そうだよねー、走ってゼラムまで行って帰って来たし」


そこまで言ってトリスはふっと考えた。
ゼラムからファナンの往復は多少の日数がかかると兄弟子が言っていた事を、思い出したのだ。


「でも、ゼラムからファナンは結構距離があるのに2日で帰ってくるなんて・・走っても出来ないよ?」


首を傾げるトリスの言葉に、レシィはビクリと肩を震わせた。
そして乾いた笑いを浮かべながらも、そそくさとその場を離れようとする。
けれどもトリスとアメルの二人の手に肩を掴まれて、逃げられなくなってしまった。


「レシィくん、どうやって二日で帰ってこれたの?」

「教えてくれない?」

「あうあうあう・・」



哀れ子羊

ピンクのエプロンが死ぬほど似合っているぞ



素直過ぎる性格のためか、レシィの行動に全てが現れていて、トリスとアメルは更に詰めよった。
だがレシィは健気にも口を抑え、ブンブンと首を横に振る。
彼の主人がこの場にいれば“よっしゃ、萌え!”とほざいてガッツポーズをしていただろうが
トリスとアメルには通用しなかった。


「レシィくん、どうして教えてくれないの?」

「何か大きな秘密でもあるのかなぁ〜?」

「あううううううううううううううううううううう・・・(滝汗+半泣き)」


レシィは口を抑えて更に早く首を横に振る。
頭の中ではイオスの優しい穏やかな表情と、ルヴァイドの大きな手の温かさ。
・・ちなみにルヴァイドには顔を抑えつけられたが、それも良い思い出と変換してある。


「だ、・・だめなんですぅ!僕の・・僕なんかの口から言って良い事じゃないんです!
あの人の・・ご主人様の口からじゃないと・・」



自分の口ではだめだから

トリス達にあの優しい人達を

もっと憎ませてしまうかもしれない

主人でもあるあの人の言葉じゃないと

きっと誰かが悲しんでしまう



だから、言ってはいけない



「ごめんなさいトリスさん・・アメルさん・・・。
でもご主人様の口以外から出ることは絶対ダメなんですぅ!!」


レシィは叫ぶように言い放って、滲む目元を拭いながらダッと走り出した。
後ろでアメル達が呼ぶ声が聞こえるけれど、聴こえないフリをする。

・・デグレア軍のしたことは、レシィも聞いた。
それはとても酷くて、悲しくて、レシィにとってはあまりにも大きな衝撃と恐怖。


(・・でも)


あんなにも、優しかったのだ。
優しければ何でも許されるというわけではない。

けれども、彼らは本当に優しい人間だったのだ。


それはレシィが戸惑うほどまでの。


どうにか玄関口までたどり着いて、中に入ろうとドアノブを引っ張る。
開いたと同時に踏み出せば、ドンっと誰かとぶつかって、レシィは小さく悲鳴を出しながら
しりもちをついて座り込んでしまった。


「あうぅぅ、ごめんなさいいい〜」

「・・おう」


レシィはぶつかった本人の顔を見て、ヒクッと頬を引きつらせてしまった。
ぶつかってしまった相手はレシィが微妙に恐れている人物・・リューグだったのだ。
彼の顔を見て、泣くまいと必死に止めていた涙腺が。


「あわわわわわわわわわわ・・・!!!ご、ごめんなさいいいいいいいい!!!(><)」


一気に揺るんで涙が流出。
それに驚くのは、いきなり泣き出されたリューグである。(不憫な)


「お、おい?!何で泣き出すんだよっ」

「あれ?リューグ??」


追いついたアメルが、不思議そうにリューグとレシィを見る。
どういえばいいのか、リューグはしばし考えて・・・レシィのことは放置することに決めた。(オイ)


「アメル、これ残りの洗濯」

「う、うん・・ねぇ、レシィくん、さんの口から聞けばいいのね?」

「・・・・」


レシィはしょんぼりと俯いて、鼻をすすりながらボロボロと大粒の涙を流す。
その姿は彼の主人がいれば“ああもう可愛過ぎて拉致りてぇ!!”とほざきながら硬く拳を固めるだろう。

一方トリスは、泣いているレシィの姿に・・・・・・・・・昔の、自分の姿を重なった。
それは派閥に来たばかりの自分。



マグナは別室に連れていかれて



自分は一人、ただの広い部屋に取り残されてしまったと思ったら



とても頑丈そうな扉から、たくさんの大人達が現れて



自分に同じような質問を繰り返した



<何故、サモナイト石を使ったんだ>



”違う”


”知らなかったんだもの”



罵声が怖くて。
全てが怖くて耳を抑えてもすぐに取り外され、また同じ質問をされて追いたてられる。
ただ泣いてばかりで、怖くて怖くて仕方がなくて。


「・・レシィ、もう・・いいよ」


トリスはレシィのふわふわとする頭を優しく撫でる。
レシィが顔をあげると、泣きそうな表情のトリスがいて・・レシィの涙がピタリと止まる。


「ごめんね、言えない理由だって・・あるよね」

「・・トリスさん・・?」

「・・トリス?」


アメルもリューグも側に寄って来て、心配そうにトリスの表情を覗う。
それの気遣いにトリスは何だか泣きたくなった。



どうしてだろう

こんなに優しい仲間が、友達がいるのに

どうしてこんなに苦しいんだろう

どうして派閥がこんなに怖いんだろう


どうして・・“縛られている”と


感じてしまうんだろう



考えれば考えるほど、恐怖は募る。
もうあの場所は、自分の中では染み付いている・・恐怖の対象でもあるのだ。

泣きそうな気持ちを無理矢理堪えて、口元に笑みを浮かべた。
そしてアメル達のほうに振り返り、にっこりとしながら彼女に言う。


「あたしがさんの口から聞くから、アメルもそれでいいよね?」

「え・・?は、はい・・」

「あ、そーだ!そういえばあたし、ネスに言われてたレポートがまだ残ってたんだ!
ごめんね、アメル、レシィ、リューグもまた後でねー!」


トリスは駆け出して、その場を去っていった。
アメルは呼んで引き止めようとする、けれどもリューグが片手を前に出してそれを制した。


「リューグ?」

「・・あいつにだって、背負うモンは背負ってんだ。        何も言ってやるな」


そう言って俯くリューグにアメルとレシィは顔を見合わせた。
何だか皆、どこか様子がおかしいような・・・?


「本当にダメになって、あいつが泣き出してきたときに受け止めてやればいいんだよ。
本当に、本当にダメになった時に、守ってやればそれで・・・」


リューグは空を仰ぎながら、言った。
それは自分がしてもらえて、どんなに救われたかを表す言葉。



        あたしが、リューグを守れない”



「リューグ?」

「・・・そろそろ昼飯だから、グースカ寝てやがるあいつを叩き起こしてくる」


”あいつ、いつまで寝てるつもりなんだか”と、呆れたように歩き去って行くリューグの後姿を
見つめながら、アメルは両手を胸に当てて。


そっと瞳を閉じて、祈る。





苦しみから解き放たれて


身体の傷より深く


複雑な心の傷が、悲しみが





優しさに、温かさに癒されますよう           



















「うううぅぅ、何でこんなに難しいんだぁ?」


とある一室で、うめき声が響いた。
マグナは部屋でネスティの新しいレポートに頭を痛めつつ、問題集と格闘していたのだ。
ちなみに勝敗はレポート用紙も真っ白なのでマグナが負けていたりする。


(ああでも、本当・・ネスが助かってよかったなぁ・・)


そう考えれば、思わず顔がにやけた。
ネスは本当に、自分達にとって大事な人だ。
家族同然な存在なのだ。

・・・・・・本当に、良かった。


「うーんでも・・これじゃ俺、朝飯だけじゃなくて昼飯まで抜かされちゃうよー」


“嫌だー!”と、とうとう頭を掻きむしるマグナの部屋の扉に、小さなノックが響く。
問題集を睨みながら立ち上がって、けれど最終的にはすっぱり諦めて部屋の扉を開けると。


「・・トリス?」


俯いたトリスが、そこに立っていた。
ネスが元気になってから、本当に笑顔を絶やさなかった彼女が、今は・・。


「何かあったのか?」

「・・っ」


トリスは堪え切れないというように、マグナの腰にしがみついて。
肩を小刻みに震わせながら小さな、とても小さな嗚咽を漏らす。

それは彼女が。

とても嫌なことを思い出した、合図だ。


「・・・トリス・・」


マグナはそっと、自分とは少し違う髪の色をした頭を優しく撫でる。
トリスはその手の優しさに、更に嗚咽を漏らして、マグナの服を涙で濡らした。



どうして苦しいんだろう

こんなに優しい、温かい手があるというのに



しばらく経っても一向に泣き止む気配のないトリスに、マグナは”うーん”と、ポリポリと頭を掻きながら、
トリスを”よいしょっと”抱き上げて、部屋に招き入れる。
そして布団が少し乱れているベッドに、彼女を抱え上げたままどっかりと座り込んで、
トリスを膝の上に座らせて包み込むように抱きしめてやった。


「大丈夫」

「っ・・!」

「大丈夫、怖くない」


トリスの、マグナの服を握る手に、力がこもる。
それにマグナの表情が一瞬険しくなったが、すぐに目を伏せて落ち着きを取り戻し。


「怖くない・・俺も、ちゃんと傍にいるから」



だから、どうか



握られていた手の力が、ふっと抜けていった。
それに顔を動かしてトリスの顔を覗き込めば、ようやく落ち着いたかのように鼻を鳴らして、
ぐしぐしと目元を擦っている。



だから、どうか



怖がらないで、苦しまないで



ここは、あの場所ではないから



        ここは、大好きな人たちがたくさんいる、君のもう一つの居場所だから



「大丈夫か?」

「・・うん・・っ・・」



マグナはそこでにこりと微笑んで、彼女を再度抱きしめて、ぽんぽんと背を叩く。
そしてふと、白いカーテンの揺れる窓辺を見つめて、そこから広がる蒼の世界と、
眩しい太陽の光に目を細めて       目を、静かに伏せた。




癒されるのは




いつの日なのだろうか




解き放たれるその日が




来るのだろうか






















ああー・・幸せって、まさにこの事ねー・・



あたしは枕に顔を摺り寄せながら太陽の温かい陽射しを浴びる。
本当に天気が良くて、心の中の疲れも何もかも拭い去って行ってくれるようだ。
温かさに包まれながら、眩しい光に気持ち良さそうに丸まって、ただ心地よい世界に浸る。




周りの天気が良くてもう最高の睡眠時間ー・・

これで美少年か誰かに膝枕だったら更に萌え・・いやいや、幸せになれるわよねー・・・




ぼんやりと、,窓から見える蒼い空を見上げる。
今日も快晴、白い雲も北北西に流れて行って、ちょっぴり冷たい風が
カーテンを揺らしながら部屋に染み入る。

それをしばらく眺めていたら、ふと、バルレルの言葉を思い出した。



“テメエにつけた血の匂いの奴の事だけどな・・言わなくていい”



(・・バルっちはあんな事言ったけど・・・あたし的にはイオス達の事を話すチャンスだから
すっごく都合が良いんだけどなー・・・)



知ってほしい

本当は言いたい

今まであたしを支えて、助けてくれた彼らの事



(でもリューグ達が怒り狂うことは必至ねー、ああもうどないせーっちゅーねん・・・)


布団に再びもぐりこんで、うーあうーあと頭を抱えていると、バッと布団が捲られた。
ぎゃー!あたしのスイートタイムを壊す奴は誰じゃ?!

あたしは怒ったように布団から顔を覗かせて、捲り上げた本人を見て“ゲッ”と
声を漏らしてしまった。
本人・・リューグはあたしの反応が気に食わなかったのか不機嫌な表情を見せる。



いや、っていうかあたしが怒るのは当たり前でしょ



「オイ!!!いい加減起きろ!!」

「あーもー・・・もう少し寝かせてよー・・馬鹿リューグ・・」

「ああ?!誰が馬鹿だテメェ?!」

「ロッカはもっと優しく起こしてくれたわよー?そりゃもう手取り足取り腰取り優しく柔らかくー・・・・」



ホスト・ロッカがいたらあたし、めちゃくちゃご指名しちゃうわー・・・(悦)



「なっ?!////」


”手取り足取り腰取り優しく柔らかく”という言葉に、リューグは何やら顔を紅くさせてあたしの顔を凝視する。
さすがにその年になるとそういう事もちゃんと理解しているようである。
あっはー!ウブな奴ー!!(笑)

しかしなんともおもしろいやつだ。
あたしは思わず、もっとリューグをからかってみた。


「・・しかもほっぺにキスまでされちゃって。
あらまどうしましょこれは嫁にいくしかないかしら寧ろ行きましょうかいえいえ行きます行かせろ
嫁にくれっ!て感じでさぁー・・」


笑いを必死にかみ殺しながら、再び被った布団の中でモゾモゾと動く。(あー、二度寝幸せ!)
リューグはリューグで、兄の知らない部分に衝撃を受けているようで、固まったまま顔を紅くして、
あたしを見下ろしていた。


(っていうかロッカがそんなことするわけないじゃん・・なんでわかんないんだろう?)


不思議に思いつつも布団の中で、二度寝の幸せを堪能する。
そしてしばらくしてもリューグが固まったままだったので、からかい過ぎたかな?と、ネタバレをした。


「なんてウッソー(嘘)、あのロッカがんな事するわけないでしょ?」

「・・(覚醒)はぁ?!///」

「当たり前じゃんよ・・(汗)、それにあたしがそう簡単に許すわけないでしょー?」



まぁ頬やら額やら手の甲やら薬指やらは奪われてしまったけどね!(泣き笑い)



は?



「ま、気にしないでー。それじゃ着替えるから出ていけ(笑顔)


“乙女の着替えは高くつくんじゃオラー!”とリューグを蹴り飛ばしながら、あたしはパタン
っと部屋の扉を閉めながら謝った。



「あたしは見る側なのでごめんねリューグvv」



「・・テメエ、最低だ・・・(沈)」




















あたしがリューグと一緒に居間に向かっていると、食事の準備の手伝いをしていたロッカと出会った。
ロッカはあたしに爽やかに(本当に爽やかだよあんたも・・!)挨拶をしてきてくれて、あたしもそれに
笑顔で返す。


「おはようございます、さん。よく眠っていましたね(^^)」

「おはよー、ロッカ!(今日も素敵に爽やかね!)そりゃもうぐっすり寝ちゃったわよ!
やっぱ寝るって気持ちいいわぁ〜vvv」

「・・ってか、もう昼だろ・・」



お黙り、リューグ



目でそう黙らせれば、リューグは不機嫌そうに表情に顔を歪ませながら、
舌打ちをしてあたしから視線を外す。
っていうか、子供か、お前は。(ツッコミ)

ロッカはあたし達の様子に苦笑しながら奥へ行くように促した。


「もう少しで昼食の準備が整いますから、先に座っていてください」

「・・そうだ・・・・オイ、馬鹿兄貴」


何かを思い付いたのか隣りからリューグがあたしを押しのけて、ロッカの前に出る。
あたしは喧嘩か?!と一瞬リューグの背中の服を掴みかけたけど、けれどもまったく、
そういう雰囲気ではなくて・・・・・微妙に首を傾げた。

ロッカも、不思議そうにリューグを見ている。


「リューグ?」

「・・馬鹿兄貴・・俺・・今年の・・」

「リューグ・・?」


強く握られていた拳が、更にグッと強く握り締められるのをあたしは見た。
とても言いにくそうな、この顔。
前に一度、見たことがある。


(ああ、お墓参りの時に見た)


そこまで思い出して、あたしはようやくリューグの不可解な行動の意味がわかった。



ロッカを誘おうとしてるんだ、お墓参りに



両親が死んでから、一度も二人でお墓参りに来たことがないというこの二人。
いつもはロッカに反発ばかりで、喧嘩ばっかりのリューグ(酷い言われようだ)が、
ロッカを誘おうと口をモゴモゴさせているのだ。

“よっし!リューグ頑張れ!”とあたしは心の中で応援しながらリューグの言動を見守る。
けれどもリューグはリューグで、慣れない事をしているせいかなかなか話を切り出さない。
じ、じれったいー!!


「リューグ!しっかりしなさいよ!」

「う、うるせえよ!・・・・ああもう、何でもねえ!」

「は?」


リューグが、ヤケになった。(少なくともあたしの目にはそう映った)
彼は何故かギロリとあたしを睨むと(何故?!)あたしの手を引っつかんで、ぐいぐいと
ロッカを置いて外へ出て行ってしまう。


「もー!あそこまで言いかけてたのに何でそうなるのよ!馬鹿ー!!(怒)」


ロッカは連れ去られるあたしと、連れ去るリューグを見ながら、小さくため息を吐いたのだった。
















「もうリューグ!何で言わないの?」


リューグはを道場の裏に連れ込んで、そこで掴んでいた腕を放す。
それと同時に叫ばれた言葉が、さっきの通りだ。
彼女に言われると、いえなかった自分がますます腹が立ってくる・・が、取り合えず言い訳する。


「・・馬鹿兄貴は前の俺と同じ気持ちのままだ、あのまま俺が言っても絶対来ねえよ」

「何でさ?!そんなの誘って見ないとわからないじゃない!」

「・・俺はあの馬鹿兄貴の弟だ!何年兄弟やってきたと思ってる?あいつの顔見れば大体わかる」


はリュ−グの言葉にグッと息を詰まらせる。
やはり兄弟には兄弟何か感じる部分があるのだろうと、思ったのだろう。
リューグはが大人しくなったと確認すると、近くにあった木材の上に座り込んだ。


「・・あいつはまだ迷ってる、俺と墓参りに行くか、今年も一人で行くか・・」



そこにあるのは複雑な気持ちと



自分に対する意地がある



が俯いた。
一瞬泣かしたかと思ってしまったが、そこまで酷いことを言ったつもりもない。
どうにか表情を変えず、を見つめていれば・・・・彼女がぽつりと呟いた。


「・・ごめん、あたし      何もかもわかったような、口きいて・・」


リューグは俯くを、思わず呆れた目で見上げた。
普段は酷く気が強くて意地っ張りな性格だというのに、何でこういう時は、こんなに素直なのだろう。



少し、羨ましいかもしれない

自分も素直に謝る事が出来たなら

意地を張らずに

・・・・想いを、言葉で伝えられたなら



何気なく、彼女の手元に視線を落とす。
自分とは違う、何とも細い指だ。(よくこんな指であんなにバシバシとツッコめるモンだなと心底思う)
自然に指に意識させると、左の人差し指に紅い指輪が淡く輝いていた。


それはいつかの夜に、贈った指輪。


”この左手の薬指に指輪って・・結婚する相手に贈るための仕草なんだよ、知ってた?”


彼女の言葉が脳裏にぶわっと展開された。
”結婚”という言葉に妙に顔が熱くなってきて、まともに彼女の顔が見れなくなって、
リューグはいきなり立ちあがる。


「・・命日はまだ先だ、焦らずに行くから・・んな情けねえ顔してるんじゃねえよ、馬鹿」

「ば・・?!人が心配してやって愚痴まで聞いてやってんのに馬鹿?!あんたの方が馬鹿じゃない!!」

「オラ、とっとと食いに戻るぞ」

「あんたは一体何の為に連れてきたのよ!?ムキー!この触覚!!」


の意味不明な叫びを聞きながら、リューグはもう1度の指に視線を移す。
渡し方が最悪だったが、一応付けてくれていると思うと恥ずかしいが         嬉しい。
アメル以外の異性に贈り物などしたことがなかったので、さらに。


そこまで考えて、変わったなと自分で思った。



変わった

少しずつ、変わって行く自分がいる

しかも良い方向に

それは多分、目の前にいる喧嘩友達のような妙な関係の少女のおかげ


変わって、いっている


・・礼を言うのが筋なのだろうが・・・



(言ったら言ったで、こいつ絶対調子に乗りやがるな・・)



やめた

それに改めて言うのも、馬鹿らしい

どうせ礼を言うなら、一緒に大切な事を伝えてからがいい


           伝える時が来るならば、の話だが



(大切なこと?)


そこで自分の考えていることに、ようやく疑問を覚えた。
大切なことって、何だよ。

ちらりと、を見た。
今だ怒っているように眉を寄せている
はねている寝癖がついている髪を何となく、そっと抑えた。

離した瞬間、それは勢い良くぴょんっと元に戻ってしまった。

思わず、ぶふっ!と吹き出す。


「何笑ってんのよ」

「くくっ・・いやな、テメエの寝癖があんまりにも」

「寝癖?・・ッギャ!?な、何で?!直ったと思ったのにーー!!」


悲鳴はともかく(なんて色気もない悲鳴なんだお前)、仕草がやはり、女ということか。
慌てて髪を押さえるそれに、何だか調子が狂ってくる。


(・・取り合えず)


リューグは微かに浮かぶ笑みを噛み殺しながら、グイッとの頬を横に引っ張った。
何とも柔らかい、ふにふにしている。(時々女には骨がないんじゃないかと真剣に考える)

一方、は当然引っ張られているのだから、痛いわけで。


「いひゃいいいいいいいいいいい!!!???あんははにふんのよ?!」

「何言ってんのかサッパリわかんねえよ、ってかお前、本当によく横に伸びるな」

「むぎゃあああああああああああ!!!!!(Σ ̄■ ̄)」

















「ああもう!なんて無神経な男なのあの赤触覚ー!」


弄ばれたあたしはあの後、リューグに今までにない強力な回し蹴りを食らわせて陥没させた。
いやもうだって、寝癖は馬鹿にするわ横に良く伸びるわと好き放題言うから!

ばったりと地に伏せたリューグを放って、あたしは先に居間に戻って食卓につく。
あーもう疲れた・・・(沈)
すると目の前にミニスが座って、あたしの姿を見た途端怒ったように机を叩いて身を乗り出してきた。
わー!今度は何さーーーー!!!??!


「ちょっと!!!」

「な、何?!!??!(何かした?!)」

「もーーーーーー聞いてよ!が寝てる間の午前中に私、大変だったんだから!」

「な、何が・・?(ヒィ!十歳なのに怖い!!)」


ミニスは更に声をあげながら、悔しそうにダンダン!っと机を叩く。
ロッカが用意した食器がガタガタと揺れて、それは今にも壊れそうなほどの威力。
横から慌てたロッカが出て来て、食器を持ち上げながらミニスが落ち着くように言葉を掛ける。


「ミニス、落ち着いて・・(汗)」

「ケルマよ!あの人・・私がシルヴァーナを持ってないって言ってるのに信じなくて・・それで近くの
洞窟に決闘しにいったの!でもケルマが自爆しちゃって・・それで洞窟が・・」


あたしとロッカは延々とミニスの愚痴を聞いていたが、フォルテの“腹減った〜”の声に救われた。
うおー、ちょっと頭が痛かったけどシナリオ通りに進んでくれていて安心したわー・・(遠目)

頭を抱えながら突っ伏しているあたしの隣りに、カザミネが倒れるように座り込んで来た。
彼にしては珍しく生気のない顔・・いや、彼の頬やらどこかしこにもついている赤い、唇の
形の正体を、思わず彼に訪ねた。


「・・カザミネ、何でそんなに顔に口紅が一杯ついてんの?(早く拭いて、怖いから)」

「・・け、ケルマ殿に・・2時間程追いかけられたのでござるよ・・あんなに逞しい女性は殿
以来でござる・・・・」



ほっとけ!



あたしは呆れながら“ッチ、ある意味美味しいイベントを見逃してしまった・・”と悔しさを噛み締めつつ、
目の前に置かれたパンに手を伸ばして口に運ぶ。
焼き立てなのかサクサクしていて美味しい、しかも昨日は食べている暇がなかったから更に美味しいと思う。



(あーもう平和最高)



美味しそうにパンを食べているあたしを、隣りで死んでいたカザミネはじっと見ていた。
思いつめたような、絶望的な表情のままである。



・・頼むからその目で見るのヤメレ

パンが不味くなるから



「・・殿・・・」

「何?」

「・・逞しい女性から完璧に逃げる術を伝授してくださらぬか・・?(瀕死)」



完璧に!!(熱い眼差し)



「あたしが知るかーーーーーーーーーーーーーー!!!(怒)」



あたしはどっちかと言うとケルカザが好きなのよ!

ごめんね、カザミネ!!(鬼)













さん、食べ終わったんですか?」

「あ、アメル・・うん!もーすっごく美味しかったよーvv」


食器を片付けに台所に向かったあたしに、アメルが穏やかに、少しはにかみつつも微笑んだ。
そして思い出したようにあたしに昼食の乗ったお盆を手渡して。


「これをさんに持ってきてほしいってネスティさんが言ってましたよ」

「ああ、そういえば・・彼は大丈夫なの?」

「はい、もうすっかり良いみたいで・・病み上がりなのにまた本を読んで調べ物をしているんですよ。
さんもちょっぴりこらしめてあげてくださいっ、あたしが言っても全然聞かないんですもの」


ちょっと頬を膨らませて拗ねたように言うアメルに、あたしは”了解”と笑って台所を出た。
昼食の乗ったお盆の中身を零さないように慎重に歩いて、部屋で待っているネスの部屋の前に立つ。


(それにしても、あれこそまさに<本の虫>ってやつかしら・・?)


病み上がりなのに、もう調べ物とは。
これで症状がぶり返したりでもしたら、あたしにどう詫びてくれるのだろう。


「ネスー?入るよ?」

「・・・・・か?丁度良かった。手伝って欲しいんだ」


あたしはお盆を片手でどうにか持って、ドアノブをひねって部屋に踏み入る。
けれど目の前に広がる光景に、思わずガション!とお盆を落としそうになった。


ネスが半裸状態で何やら格闘していたのだ。


・・ちなみにあたしの視線はネスの白い生肌に釘付けだったり。(変態か)


「ね、ネス!?あんた何・・露出サービスしてんのよ?!(露出万歳!)

「べ、別にサービスしているわけじゃない!ただ着替えていたらボタンが
髪に引っかかって取れなかったんだ!」


よくよく見れば、頬を紅く染めて弁解するネスの着ていたパジャマのボタンに髪が絡まっている。
あたしは“サービスじゃないのかー”と残念がりながら、ネスの髪を解くようにゆっくりと取り外す。


「うっわー、すっごい見事に絡まってるわねー・・」

「・・悪かったな」

「あーもー怒らないでよ、もう少しで取れるから・・・」


時間が少しかかったがあたしは絡まった部分を何とか解く。
長い間格闘していたというのか、解けた途端にネスはバッと上着を脱いで、パジャマを雑に
ベットの上に放り投げた。(そんなに辛かったのか・・!<笑)

しかし、これで完全なる上半身裸ということになる。


「ぎゃー!!あんた何嬉しい事してくれるのよーvv」

「・・何でキミが喜ぶんだ・・・?(汗)」

「だってあたしは見られるより見る側・・」


そう言って喜ぶあたしの目に、ネスの、機械の部分が目に入った。
この前見たときは夜だったからあまり怖いとか思わなかったが、今は昼でとても明るい。

鈍く輝く、複雑な模様のようなそれに、思わず一歩後退してしまった。


「あ・・」


退いたあたしに、ネスが一瞬、傷ついたような表情を見せる。
その表情に我に返って、あたしはどうにかこれ以上引き下がってなるものかと足を踏ん張った。


「ごめん」

「一応・・キミに見せておこうかと思っていたんだが・・・だが、気持ち悪いかな・・」


ネスは、謝るあたしに苦笑した。
あたしは退いてしまった一歩を埋めて、もう一歩足を踏み出して、ネスのすぐ傍まで歩み寄る。


、無理をしなくても」

「いいから」


触れようと、手を伸ばす。
その手が震えていていることにネスが気付いて、無理矢理あたしの手をとった。


、いいんだ・・無理をされても、辛いだけ     

「こうやって無理でもしなくちゃ、ネスに近づけないでしょ!」


あたしの言葉に、ネスが黙った。
でも、怖くても、それでも無理をしなくては、ネスに近づけない。

近づきたいのだ。

少しでも、ネスの傍に。


「いいから、離してネスティ」


ネスティの手が、あたしをゆっくりと離した。
あたしはやっぱり、手を震わせながらそっと首の部分に触れてみる。


「っ・・」


ネスの表情が歪んだ。(何か・・エロいぞあんた!←あたしが恥ずかしいよ!<汗)
それでもそっと首筋を撫でて、肩へと伝い降りる。

どこもかしこも冷たくて、凹凸がある感触が伝わる。
人とは明らかに違う、その感触、冷たさ。


「・・・冷たいね」

「・・ああ、ここには血も・・何も通っていないから・・・」

「何かドキドキする、こういう身体に触ったのって初めてだから・・・」


あたしはネスに笑いかけながら少し屈んで、ベッドに座り込んでいる彼の首に顔を埋めた。
頬に当たる冷たい部分は、しばらくすればあたしの体温が染みてきたのか段々と温かくなってきて、
その温かさに思わず、安心してそっと目を閉じる。


「ネス、温かい」

「・・さっきは冷たいと言って、今度は温かい?・・・・・・矛盾してるぞ」

「この身体、必死で隠して来たんだね           ずっと」



<ずっと>



それは一体、どれくらいの月日だったというのだろう



ネスはあたしに応えず、黙ったままだ。
それでもあたしは続けた。


「・・でもあたしはネスを嫌いにならないよ、ネスはネスだから」

「・・・・」

「師範ね、あたしにネスが救えるって言ったけど・・・・・あたしは違うと思う」

「?」

「ネスを救うのはあたしじゃなくてトリスやマグナ・・皆の気持ちだって。
皆にわかってもらえて・・その時が・・ネスが本当に救われる時だと思うの」


ネスはそっと、あたしの背中に腕を回した。
あたしは少し驚いて身体を震わせたが、すぐに落ち着いてネスの肩に頬を寄せる。


「勇気を出すことは大切だよ、逃げてばかりじゃ何も変わらない。
怖くてもネスが前に進まなくちゃ誰も、何もわからないから・・。
考えてたり、待ってるばかりじゃ・・本当に何も変わらない」

「それは、・・・・それは、わかってる。でも僕は」

「ゆっくり進もう?大丈夫、きっと打ち明けれるから。
               あたしも、一緒に、出来る限りは手伝うから」


背中にある、ネスの手に力がこもった。
それに押されてあたしは完全にネスの上に倒れこんでしまっている形になって、
突然の状態に”ギャーーー!///”と心の中で絶叫をあげていたら、ネスがさらに
力を込めてあたしを抱きしめてきた。

抱き込むように、強く、強く。

あたしの髪に顔を埋めて、力強く。

・・・・・・・・・・・・・その行動に当然、あたしは慌てるわけで。


「・・ネネネネ、ネス!?ちょ・・と・・?!」


あたしはネスの胸に顔を押し付けられて、思わず顔を赤くする。
はぅぅぅぅ!悩殺・・・・以上だよ!!(一部機械だけど!)
ってか、裸の胸に顔を押し付けられて平気で入られるほどあたしも恥知らずじゃねーーーーー!!(汗)


「ちょっと離し・・!!(ああ、理性が・・!<危険)」

「・・てくれ・・」

「・・・・は?」

「キミが、苦しい時、悲しい時は          言ってくれ」

「??」


ネスは身体を離して、あたしの顔を覗きこむ。
眼鏡の奥にある瞳が妙に熱っぽくて、あたしはかなりヤバイ状況なのではないかと、考えた。
い、色男・・!!(汗)


「今度は僕が」


ネスが、言葉を止めた。
一度俯いて、目を伏せて・・・けれどすぐに、また顔を上げて。


        今度は僕が、キミを助ける」




え?




あたしは思わず目を丸くして、ネスを見上げた。
ネスはあたしの不思議そうな視線に気付いて、慌てて恥ずかしそうに顔を俯かせる。
その白い頬は、やっぱりさり気に赤い。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・乙女クサッ!!(オイ)

ってか!ネスのヒロイン説ゲージがかなり高くなってきてるんだけど?!


思わず、呟いてしまった。


「ネス・・あんた本当に乙女になって来てるわよ・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(は?!)・・・・・・・・・・・・・・」

「このままいくと誰に襲われても文句は言えないわね、でもガッツよ!!」



少しは抵抗しなさいね!



・・仮にそんな間違った事が起きても全力で抵抗するよ・・(沈)



雰囲気がぶち壊された、と言わんばかりにネスははぁーっとため息を吐く。
けれどもあたしは彼に抱きこまれたまま、ちょっと考えて・・微笑む。


「ネス」

「今度は何だ」

「・・・ありがとう」




ありがとう



そう言ってくれて



本当に、ありがとう




今度は、ネスが目を丸くした。
あたしは彼ににこにこと微笑んだまま見上げて、ぎゅうっと首に抱きつけば、
ネスが驚いた声であたしを呼ぶのが聴こえる。

けれどあたしはさらにぎゅうっと抱きしめて、彼の耳元に小さく告げた。



「おかえり、ネスティ」



そう言えば、慌てていたネスが黙った。
恐る恐るとでも言うように、改めてあたしの背中に両腕を回して、さらに体が密着するように引き寄せて。

開け放たれていた窓から吹き込む風に髪を揺らして、彼は、とても小さく呟いた。



          ただいま、



















               同刻。
貿易港・ファナンから海を越えての大陸の、サイジェンドへと世界は変わる。

南スラムの庭でトウヤが剣を腰に携えて、しっかりと固定されているかを確認していた。
彼の側にはすっかり移動用の召喚獣となってしまった、レヴァティーンが庭の草を食べている。



草食なのか、レヴァティーン



(雑草を食べてくれるのはありがたいんだけど・・あぁ、いっぱい短い草が散らばっちゃってる。
食べ残しを掃除してあげなくちゃ、後々大変よねぇ・・)


赤に近い、ピンク色の髪の少女が、はむはむと草を食べるレヴァティーンを見てうーんと考える。
早い話、あの召喚獣が草を食べなかったらそれで良いのだけれども・・・。
ふと、レヴァティーンと目が合い、その優しい瞳を見て・・・・・・思わずその召喚獣に微笑んでしまう。


(見た目はちょっと怖いけど・・でも瞳がすごく優しいのよね)


召喚主によく似ている、とても優しい色をたたえた瞳だ。
リプレは黙々と荷物の点検などをしているトウヤを見て、やっぱり微笑んでしまう。


(・・でも、またゼラムに行くんだ・・ハヤト達・・)


リプレは心配そうにレヴァティーンとトウヤを交互に見比べて、最後にハヤトを見た。


「ね、ねぇ・・本当にゼラムに行くの・・?」

「んー、でもバノッサが行ってしまったから絶対揉め事起こると思うんだよ。
ホラ、あいつって結構トラブルメーカーなところがあるからさ」


リプレは心配そうな表情をしながらも“とらぶるめーかー?”と首を傾げる。
側にいた、クマのヌイグルミを離さないラミも同じように首を傾げる。

そんな彼女達に苦笑しつつ、ハヤトはラミの頭を撫でて安心させるように笑う。


「それにもしかしたらミニスにも会えるかも知れないし。
ゼラムに寄ったついでに挨拶してくよ」

「えー?!ミニスに会うの?!私も行きたいー!!」


ミニスの友達でもあるフィズが、バタバタと走り寄って来て、ねだるようにハヤトの腰にしがみついた。
ハヤトは苦笑しながらフィズの頭を撫でて“危ないからダメだよ”と言って落ち着かせる。


「ハヤトのケチー・・」

「え?!そういうことになるの?(汗)」

「・・でも、ハヤト達は遊びに行くんじゃないんでしょ?
・・しょうがないから、大人しくしててあげるわよっ」


少々、大人びた意見を口にするフィズ。
けれども瞳の奥が、とても羨ましそうな光に満ち満ちている。
時々えらく驚かされるような発言をする彼女でも、やっぱりまだ子供なのだ。


「うん、・・リプレ達をよろしく頼んだよ?」

「ハヤト、行くぞ。これ以上バノッサと離されたら僕たちの力でも追いつけない」


レヴァティーンに乗り込んだトウヤが、ハヤトに告げた。
ハヤトはそれに頷いて、フィズ、ラミと頭を撫でてリプレを見る。


「それじゃ、留守にしちゃうけど・・気をつけて」

「うん・・、ハヤトも、トウヤも気をつけてね」

「待ちなさいよ!ハヤトぉ!!」


聞き慣れた、元気な声。
レヴァティーンに乗り込もうとしたハヤトより先に、とてもつもない運動神経で召喚獣の背に
飛び乗り、向日葵を思わせる笑顔で、下で呆然としているハヤトを見下ろした。


「あたしも行くわよ!誓約者のあたし達に関係する事だったら、
あたしがいなくちゃ始まらないでしょ?!」

「いや十分に始まるとおも・・」

「レヴァちゃん!あたしからのお願いよ!ハヤトをその足で潰して!!

「な・・?!お前なんて事言うんだよ!レヴァティーンと俺は友達なんだ!
そんな事は絶対しないに決まってるだろ?!」


レヴァティーンはナツミのとハヤトを困ったように、オロオロとしたように見比べて。
潰すべきか潰さずでおくべきか、迷っている。
何たってどちらも誓約者なのだ、そして“対等の友人”なのだ。
板ばさみの状態で更にオロオロとするような行動を見せる。

その様子を、ソルは遠目で見つめていた。



上級召喚獣を困らせるなよ・・(遠目)



「ナツミ、ハヤト。レヴァティーンが困ってますよ?」


鶴の一声、と言うような声にナツミとハヤトは喧嘩をピタリとやめる。
アヤは胸の前で手をポンと叩いて、二人ににっこりと笑いかけた。


「喧嘩をしちゃだめですよ?じゃないと皆さんに迷惑がかかる前に
両成敗をしなくちゃ行けませんから・・」



そうなると私も手加減をしませんからね?(笑顔)



ハイ・・・(ナツミ&ハヤト)



“アヤ、強ーい♪”と拍手をしているカシスの横で、キールも呆れたため息を吐く。
クラレットもほっと胸を撫で下ろして、レヴァティーンに乗っているトウヤに目を向けた。


「トウヤ、私達も一緒に行きます」

「・・・・・・・」


クラレットはサモナイト石(獣)を取り出して、緑色の光を周囲に瞬かせながら召喚術を発動させる。
自然の色を象徴するような、緑の光。
彼女の手により、力によりて、サモナイト石に膨大な魔力(マナ)が注ぎ込まれ、異界の通路を形成される。


「ゲルニカ」


”真の名”が、呟かれた。
その瞬間に通路はリィンバウムへ開門し、レヴァティーンと同じくらいの、いやそれ以上の大きさの
召喚獣が呼び出された。


「私達は貴方がたを召喚した者の身でもあるのです、貴方がたを守る義務があります」

「それにあたし達、友達でしょ?」


カシスも大きくVサインをしてナツミ達に笑いかけた。
ソルは苦笑しながらゲルニカの背に乗って、キールもその後に続く。

一方、トウヤはため息を吐いて        ナツミ達に乗るように指示して、ソル達に向き直った。


「別に反対する理由もないし・・・好きにすればいいよ」

「さっすがトウヤね!それじゃ行きましょう−!」


カシスの声に、ゲルニカは硬質的な翼をはためかせ蒼い空を目指して上昇。
レヴァティーンもその後に続いて、ナツミは下にいるリプレ達に大きく手を振った。


「それじゃ行って来ます!レイド達にもよろしくねー!!」

「皆!気をつけてねーーーーーー!!!」



見送ったリプレの声は。





空を、風を切るような音と共に空へ舞い上がったのだった。



















ハヤト達がサイジェンドを出た、その同刻。
ゼラムの大陸に刻々と近づいていく、黒い影が空を切り裂くように飛行していた。

その影は、ぐんと下降し、海面すれすれの低空飛行に入った。
先ほどから飛び続けているため、疲れを少しでも回復させようと少々緩やかな飛行に入るのだ。
影・・いや、竜の形に似たその召喚獣は目指す大陸がまだ先にあると理解しているからだ。


バサァッ!と一度翼をはためかせれば、翼の衝撃波により、海が白の飛沫を立てて空に舞う。
それは太陽の光を受けて何とも、美しい光景だろうか。
飛沫の一粒が、竜の形に似たその召喚獣・・・レヴァティーンの主の頬を僅かに濡らした。
主はそれをぐいと拭いながら、舌を打つ。


「クソッ・・まだ見えねえ」


召喚獣の名は、レヴァティーン。
だが乗っている主はハヤトではなく、白い肌を持った青年だった。
彼はその鷲のように鋭い瞳で睨むように、前方に広がる水平線を見つめている。
けれどもどんなに時間が経っても水平線が途切れる事はなく、苛立つように再び舌を打つ。


(だが・・)


胸を、抑える。
この海を向こうを目指し続けていると、体の奥が熱くなっていく。


(近づいて、いる)



だんだんと、“それ”に近づいて行っているのがわかる


手を引かれるよう


導かれるように



熱が、胸を覆う。
それと同時に、脳裏に取り込まれた瞬間の、あの世界が再び蘇る。





落ちて行く




それだけを、感じた。




真っ暗な、闇の底へと落ちて行く




底もないような深い闇




そして、闇を切り裂くような光                  




バノッサは、蘇るあの世界を脳裏から遮断した。
ただ今は、穏やかに波打つ海面を睨む。


(それにしても、何者だ)


取り込まれて死んだはずの自分を、救った女。
戻ってきてからしばらくの間ずっと療養、そして一段落してサモナイト石を手に取れば、
何と、魅魔の宝玉なしで召喚術が使えた。

召喚術が使えるようになっていた。
けれどもそれを使って、憎かったあの街を潰そうとは思わなかった。
長年かけて降り積もっていた憎しみはもう、全て枯れてしまっていたからだ。



あの、温かな手に握り締められた瞬間に            枯れてしまった。



「・・ックソ!」


毒づくと同時に、レヴァティーンが浮上を始めた。
視界が、世界が、海の青から空の青へと変化していく。

浮上と同時に飛沫がバノッサの髪を、頬を濡らして舞い上がり、眩しい太陽の光が目を差した。


「長い時間探させやがったんだ!それなりの美人じゃなかったら女といえど殴り倒すからなっ!!」


レヴァティーンは更にスピードを上げ、大空を駆けた。

目的は、聖王都・ゼラム。

そこで何をすればいいかもわからない。
だがきっと見つけてみせる。




・・その女のためだけに、1年前のあの事件以来ずっと、探し続けていたのだから。













小さな命の灯火は

やがて大きく燃え上がる

それは、道無き道を歩む者を引き寄せて

やがては包み込むだろう


包み込まれた者達は

新たな居場所を見出して

己の道を再び歩き始める


道を照らした灯火は

やがては消えてなくなるだろう


そうしてまた

何度も繰り返されるのだ

過去を繋ぐ輪廻の輪は

永遠に、繰り返されるものなのだ







けれども貴女は、それを断ち切る人なのです











NEXT









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*後書き*

第38話をお届けさせて頂きました。


ネスも助かって、それぞれが、ハヤト達が動き出す話でございます。
しかしバノッサよ・・美人じゃなかったら殴り倒すって・・!命の恩人になんてことを!(笑)

本当はケルマの恋も書きたかったんですが・・会話忘れました・・!
ですがケルカザもいけます管理人。カザミネは女の色香に弱いからなぁ・・(笑)
それに何故私の小説はアメルやアヤがあんなにも強くなっているのだろう。
謎が多き、サモ夢連載でございます・・!

それにしても最後の詩もどんどん長くなっていっている・・。

それでは、ここまでお付き合いしてくださってありがとうございましたvv


2002.2.8アップ

2004/2/15大幅修正