古き記憶は動き出す それは受け継がれた想いと共に 止まったままの歯車も動きだす 現在の時間を刻む様に ゆっくりと 第34夜 足は自然に急ぎ足。 あたしは自然と早くなる足を動かしながら、小走りに近い状態で蒼の派閥に向かっていた。 少し遅れてルヴァイド、イオス、レシィ、・・・そして師範と、後に続く。 切りそろえられた街路樹、庭園は視界に映る。 貴族や、貴族に近い者達、そして高位な騎士達が住むといわれている高級住宅街を突っ切っていた。 その高級住宅街を突っ切り、そこから少し離れた場所に派閥があるのだ。 (あともう少し・・!) 豪華な家々の隙間から、蒼の派閥の屋根がチラリと見えた。 それに焦る心がぐっと早まり、心臓を鷲づかみするような感覚に覆われる。 (ネス・・待っててね) 必ず 必ず、助けてみせるから ・・・・ふと、そんなあたしの足が止まった。 それに同じように早足で歩いていたルヴァイド達が一度あたしを通り過ぎて、 不思議そうにこちらに振り返る。 「?」 あたしは、後ろに振り返った。 振り返っても、子供が数人、老夫婦が並んでゆっくりと歩いている、ただの町並み。 けれど。 「 」 今 今、誰か 誰かに、呼ばれて イオスがあたしの顔の前で軽く手を振った。 それに金縛りが解けたように、あたしははっと我に返って、目の前にある綺麗なお顔をしばし見て、尋ねる。 「・・・・・・・・・・イオス、さっき、あたしの名前呼んだ?」 「・・・?・・いや・・それがどうかしたんだ?」 「・・・う、ううん、何でもない」 今、誰かに呼ばれたような気がする あたしの知らない人の声 でも呼んだのは、確かにあたしの名前じゃなかった もっと、別の響きが・・・けれど、それはあたしの名前だったと あたしの中の何かが 響くように告げている それは鐘のように鈍く、重く、・・深く 「?!!!」 あたしは足の力が抜けて、倒れそうになったが咄嗟にイオスに支えられる。 イオスの名前を呼ぶ声が聞こえるが、頭の中で鐘のような音が響いて頭痛がする。 「・・違う・・」 「・・?」 「ご主人様?!」 ルヴァイド達も俯くあたしの顔を覗き込んでくるが、あたしは顔を上げなかった。 いや、上げれなかった。 鐘のような音が響く 誰かが、あたしでないあたしを呼んでいる 穏やかに、笑みを浮かべて手を差し伸べながら 「・・違う・・」 あたしは違う あたしは、貴方の呼んでいるあたしじゃない お願いだからその名前は呼ばないで ・・その名前は、たくさんの人に想われて逝ってしまった人の名前だから ”たった一人の本当のあたし”の名前だから ふと一瞬、あたしの上が陰った。 何かが上に通り抜けたらしく、レシィはキョロキョロと空を見上げていた。 「あれ?今何か通ったような・・?」 けれど、彼が見上げる空に影はない。 ”鳥かな?”と首を傾げたあとで、レシィが慌ててあたしの背中をさすって落ち着ける。 「、どこかで休むか?」 「・・平気、イオス、ルヴァイド・・ありがと。 あたしを呼んだのは、誰? 晴れ渡る空と、青々と茂った大地。 達が派閥に向かっている間、ハヤトとガウムとモナティはゼラムを出ていた。 手に一杯荷物を持つハヤトはその重みに文句を漏らす。 「ふー、荷物が重いなぁ・・少し買い過ぎたかな?」 「でも他のマスター達の分も入っているですのー・・」 「そうなんだよなー、まったく・・ナツミは珍しい物買って来いって言うし、トウヤは・・何だっけ? 難しーい、分厚い本を3冊買って来いって言うし?まぁ、アヤは何も頼まなかったから助かった けど・・俺、これじゃーパシリだよ・・」 ハヤトは大きくため息を吐いて、モナティ達を見た。 「でも、ゼラムの景色を楽しめたからいいか。・・モナティは楽しかったか?」 「はいですのー!マスターと一緒にお出かけは嬉しいですの!」 「きゅーーーーーーーー!!」 何とも可愛らしい、反応。 それに心の中がほんわかと温かくなって、ハヤトは嬉しい気持ちのままモナティとガウムの頭を優しく撫でた。 彼らは本当に慕ってくれて、とても嬉しい。 だからほんの少しの失敗をしても、思わず許してしまうのだ。 「よし、それじゃ帰るか」 意気込むと、急に空が陰った。 モナティ達と揃って上を見上げると、次の瞬間、ズシン!っと砂埃を立てたながら、巨大な翼を持った 竜のような生き物がハヤト達の前に降り立った。 降り立つ風に吹き飛ばされそうになりながらも、ハヤトはその生き物・・召喚獣の名を呟く。 「レヴァティーン?」 「ハッヤトーーーーーーーーーーーーーー!!!」 レヴァティーンの背から、一人の少女がハヤトを呼んだ。 少し茶色が掛った両脇を垂らしている黒い髪に、まん丸とした大きな黒い瞳。 丈の短いミニスカートだが、構わずレヴァティーンから飛び降りて着地して。 「おっかえりーーーーーーーーーーーー!!」 そう言いながらハヤトに走り寄ったかと思うと荷物を笑顔で、しかも素早く引っ手繰って ドーン!っと思いっきり突き飛ばした。 ハヤト、当然突き飛ばされた為、後方に吹っ飛んで地に沈んだ。 ・・酷ぇ(遠目) 「ま、マスター!」 「あははーだめだなー、男がそんなのじゃー・・でもモナティ達も買い物ご苦労様ー」 よしよしと頭を撫でる少女に戸惑いの視線を投げるモナティ。 だがハヤトはムクリと起き上がってジロっと少女を睨みつけた。 「男でも痛いものは痛いんだよ!ナツミ!!」 「ハヤトは頑丈だから大丈夫だってー♪あ、トウヤー!キミの本もちゃんと買ってくれてるよー?」 レヴァティーンにはまだ2つの人影があった。 一人はナツミの声に軽く手を振ってレヴァティーンを撫でている、ハヤトより背の高い少年。 もう一人はハヤトとナツミの様子を心配そうに覗っていた・・長く、美しい黒髪を持つ少女。 「皆来てたのかよ・・」 「うん、だってハヤトが遅いとあたしの頼んでた物もすぐに届かないでしょ?」 「・・あのなー・・」 「まぁ、気にしない気にしない!エルゴの王でしょ?!」 「ナツミ達だってそうじゃないか・・?」 バンバンと背中を叩くナツミを呆れた表情で見ながら、ハヤト達はレヴァティーンの元へ戻る。 そう、彼らは1年前。 無色の派閥の乱の魔王召喚の儀式の為、誤って召喚された者達。 最初はこの世界に来て戸惑っていた彼等達だが、この世界に住むために受け入れてくれた 優しい仲間達に助けられたのだ。 仲間達と共に戦い、いろんな悲しみや苦しみ、どうしようもない切なさと共に喜びを知って。 再び召喚された魔王を倒し、本当の居場所を見付けたのだ。 そして月日は1年流れ・・現在に至る。 「お帰りなさい、ハヤト」 「ただいまー、アヤ。ナツミに吹っ飛ばされて散々だったけど、迎えに来てくれて助かったよ」 「ふふ・・でも私、初めてゼラムを見たけれど・・すごく大きいですね」 アヤはゼラムの姿に尊敬するように見上げながら、言葉を繋いだ。 それまでレヴァティ−ンを撫でていたトウヤは、全員が乗り込んだのを確認すると 自分もレヴァティーンの背に乗って指示した。 「飛んでくれ、レヴァティーン」 静かなその声にレヴァティーンは反応して、ゆっくりと翼をはためかせながら宙に浮く。 モナティは必死にアヤにしがみついて、振り落とされない様に耐える。 「大丈夫ですよ、モナティ。この子は乱暴な飛び方をしないから」 「みゅううう〜・・でもぉ・・」 「そうよ!モナティ!あたしなんて立っていられるんだから!」 「それはナツミだけだよな・・(ボソ)」 「ハーヤト♪スカイダイビングを楽しみたいのかなー?」 パラシュートなしで(笑顔) すいません、嘘デース ハヤトは焦りながらも慌てて会話を変える。 いくら誓約者の自分でも、落ちたら死ぬものは死ぬ。(俺だって人間なんだー!<涙ながらの主張) 「そういえば、ゼラムで変な感覚を覚えたんだよ。俺」 「変な・・感覚ですか?」 首を傾げるアヤに、ハヤトはこっくりと頷いた。 「ああ、何かな・・懐かしいって思ったんだ」 まだ、胸の奥に残っている 目を閉じると映るのは後姿 華奢な身体を持った、女の子の姿 ナツミは深刻そうな表情をするハヤトの頬をつつきながら(どうやら柔らかくて気持ちが良いらしい) ニンマリと笑ってからかった。 「もしかしてぇー、ゼラムにいた女の子に一目惚れってやつじゃないのー?」 「いや、そういうのとは違うんだけど・・」 「怪しい!白状しなくちゃアレク川で洗濯しちゃうわよー!!」 「うえ?!」 「まぁ、すごく綺麗になってしまいますね。」 止めろよ、アヤ はい? ギャーギャーと喚く三人(二人?)にトウヤは静かにため息をついた。 時折ハヤトの助けを求める声が聞こえるが、無視して広大なゼラムを眺める。 「・・・」 「どうしたんですの?マスター?」 「きゅー?」 「・・何でもないよ、モナティ、ガウム」 トウヤはモナテイィに穏やかに笑みを見せると、すぐに下空にあるゼラムのある一点に視線を集中した。 そこは城とは違う、大きな寮のようなもの。 「・・ハヤト」 「うわー!洗われるー!・・って、な、何だよ?」 「さっきの話を詳しく聞かせてくれないか? 懐かしい、と言うのかよくわからないが あの建物に何かを感じるのは確か 落ち着いたトウヤの反応に、残りの三人は互いに顔を見合わせて。 丸い輪を作って座り、話し合う。 ハヤトの話を一通り聞いて考え込むが、答えはまったく見つからない。 エルゴの王・・もとい、誓約者である自分達に、そんな影響をもたらす女の子 一体何者? 「・・ソル達に聞いたほうがよさそうだな・・」 「そうですね、カシスやクラレット、キール達に伝えてお話しを聞いてみましょう」 「んー、それじゃ少し早く帰ろうか?レヴァちゃーん!少し早めでよろしくねー!」 ナツミの声にレヴァティーンは反応して、先ほどよりもぐんとスピードを上げた。 レヴァティーンには”友”の言葉を素直に聞いただけなのだが、乗っている人間のハヤトたちには たまらないスピードである。 「うわー!レヴァティーン!早すぎ早すぎ!!ナツミ!別に急がなくても良かったのにー!!」 「た、確かに失敗したかも・・って、きゃーーーーーー!!!」 誓約者一行は、恐ろしいスピードのまま大空を駆けて行き。 サイジェンドに着いた時には全員フラフラで、サイジェンドで面倒を見てくれている 少女・リプレの看護を受けた事は言うまでもなかった。 合掌 「さて、ここが蒼の派閥じゃ、フリップ殿は本部にいるじゃろう」 ラウル師範はそこまで言うと、入ろうとしたルヴァイド達にストップをかけた。 え・・何故?! 「お前さん達はここで待っていてくれ、用があるのは殿だけじゃからな」 「しかし」 「いいよ、イオス・・わかりました、あたしとラウル師範だけですね?」 ラウルはにっこりと笑みを浮かべて頷く。 「・・ここの者は必要以上に他者を嫌う、ルヴァイド殿達は待合室で待っていてくれ、 ・・そんな顔をせんでも殿に危害は加えぬよ」 息子の未来の嫁に怪我でも加えられたら大変じゃからな オイ(一同全員) 「いいか?・・あの男の言葉に引っかかってはだめだからな?」 「イオス、あんたねぇ・・・(怒りよりも寧ろ、呆れしかでない)」 「ホラ、殿。ワシと子供の名前でも考えようじゃないか」 「え?ええ??(滝汗)」 「・・・・(ルヴァイド、無言で剣の柄に手をかける)」 「わーん、ルヴァイドさん止めてくださいーーーー!!」 ・・あれやこれやと会話が捻れたが、あたしはラウル師範の後ろについていって派閥に入り込んだ。 派閥の中はシンとしていて、本当に人がいるのかと疑ってしまうくらい静かで。 変な気分になる。 「それでは殿、子供の名前は何がいいかの?」 「・・は?!あれって本気だったんですか?!」 「ワシはいつでも本気じゃぞ?」 「こ、子供なんてそんな・・」 どもるあたしにラウル師範は庭を見るように言う。 あたしは言われたまま庭を見ると、綺麗に刈り取られた木々が目に入った。 「?」 「人がおらんじゃろう」 もう1度見ると、ベンチが設けられているのに誰もいない。 噴水もついているのにその腰掛ける場所にも誰もいない。 静か過ぎる派閥。 「皆、自分の部屋で勉強しておる。ここでは位が全て。誰も他者を受け入れようともせぬ。・・寂しい所じゃ」 「・・ラウル師範・・?」 「トリスとマグナがいた頃はよくあのベンチで二人仲良く昼寝をしていた。それはとても 可愛くての・・ネスティに見つかって怒られた光景もよくあったのぅ」 ラウル師範はその光景を思い出したのか、優しく目を細めて苦笑する。 あたしはまだ、彼が何を言いたいのかわからなかった。 「だが、誰もトリス達をわかろうとはしなかった。 成り上がりで召喚師になったトリス達の才能を疎んでおったのじゃ・・そう、誰もが」 淋しげな表情をするラウル師範に、あたしは何も言えなかった。 疎んでいた、つまり・・少なからずとも彼らにとっては良い環境でもなかったはずだ。 解ろうとしない、人達 それは受け入れて欲しいと望む者に、どれほどの絶望や疎外感を与えるものだろうか 誰よりもトリス達を愛していた彼の辛さが身に染みてきて、悲しい。 「トリスとマグナは召喚師になるための試験を受けた。 そして護衛獣を召喚し、フリップ殿が召喚したモノを見事倒し、二人で合格した。 じゃが、マグナはワシの為にここに残って妹のトリスを外へ送り出したのじゃ・・。 あの子のように他者を思いやって己の身を引く事は、そうそう出来るのもではない」 「・・そう・・ですね・・」 「・・マグナは表情こそは出さんが派閥の空気を嫌っておる、それはネスティと同じじゃ。 ・・人間、存在を否定される事より辛い事はない」 あたしはふと、以前ケーキ屋でバイトしていた事を思い出した。 手の甲から血を流し、どこか変な様子だった悲しそうなマグナの顔。 “・・ちょっと、自分が嫌になっただけだよ” 自分が嫌になった? “手当て、ありがと。何か肩の荷が降りたよ・・” 肩の荷って、何よ? あの時はマグナが何も言わなかったから何も聞かなかった。 でももしかしたら、派閥が関係しているのかもしれないとは思っていた。 ・・存在を否定している派閥。 噴水から目を逸らし、ベンチからも目を逸らし、彼はあたしを真っ直ぐに見つめた。 いつもいつも思うのだけれど、この人は本当に優しい眼差しを持っている人だなと思う。 ・・・見つめられて、すごく心落ち着くのだ。 批判の色も、嫌悪の色もまったくない・・とても優しい瞳を持つ人。 そんな彼が、あたしに柔らかく微笑んだ。 「・・じゃが、殿。お前さんがこのリィンバウムに来てくれて・・ワシは本当に感謝しておる」 「・・・・・・・え?」 ラウル師範は穏やかに笑ったまま、あたしの手を握った。 シワの浮かんだ、細い、骨ばった手だけれども・・とても温かくて。 「マグナ達を受け入れてくれて、本当にありがとう」 「え?え??」 「本当に 底の見えないような愛情が、ラウル師範の中にある。 本当にマグナ達を愛していて、本当の娘や息子のように想っていて。 本当の家族より深い絆がそこにあって。 それにあたしは何だか、妙に照れくさくなった。 「あ、あたしは・・ただマグナ達が好きだし・・友達だから・・」 「それだけで充分なのじゃよ。 その殿の気持ちが・・何よりもあの子達を救っている。 ・・・・・暗い過去を持つ彼らの、大きな支えになっている」 暗い過去 それはどれくらい、辛く、悲惨なものなのだろうか 「・・これからも、あの子達を頼んでも良いかの?」 「も、もちろんです!マグナ達を苛める奴は、あたしのハンマーでぶっ飛ばすから!」 それが変態だったらなお力と殺意を込めて!! 頼もしいのう 意気込むあたしにラウル師範はにっこりと笑って、あたしに向かって頭を下げた。 ええ?!ちょっと!!?(ギャー!) 「マグナ達を、よろしく頼みます」 彼は、父親の顔であたしに言った。 それはとても、とても真剣で。 「・・・・・はい、あたしなんかでよければ」 出来る限り、側にいます あたしの言葉を聞いて、ラウル師範は本当に安心したように笑って。 それから彼の目をはしから、ぽろぽろと涙が零れ落ちるのを見た。 「ありがとう」 両手で顔を覆って、ラウル師範は繰り返した。 何度も、何度も、繰り返した。 まるで、自分は彼らに何も出来なかったと言うように。 何度も、何度もあたしに告げた。 あたしはしばらく、そんな彼にどう返せばいいのかわからなかったけど・・、 そっと、彼の肩に手を置いて。 「・・師範、顔を上げてください。お礼を言うのは間違ってますよ?」 あたしは彼に、ハンカチを差し出した。 師範が顔を上げて、あたしは微笑む。 「悲しくても、苦しくても」 苦しくて悲しい世界でも 「派閥が大嫌いなマグナ達が、今まで生きてこれたのは」 生きて、呼吸をし続けることが出来たのは 「 きっと、この人がいたから この人が、とても大切に、彼らを愛していたから 「だから、本当にお礼を言わなくちゃいけないのはあたしのほうですよ? ・・・・・ありがとうございます、ラウル師範」 師範の顔が、堪らなくなったかのように表情を歪めた。 そしてあたしの手をハンカチごとぎゅうっと握り締めて、また何度も”ありがとう”を繰り返して。 あたしもそれに何度も”はい”と返事して、しばらくしてから立ち止まっていた足を進めた。 空は、相変わらず美しく晴れ渡っていた。 (・・?) ネスティは気だるい空気を感じながら、目を覚ました。 まず一番に目に映ったのは木製の天井で、自分がまだ生きているとわかり、そっとため息を吐く。 (・・まだ、大丈夫か) 痛みを抑えながらギシッと身体を起こすと、誰かが側にいた。 そこにいたのはマグナとトリスで、ネスティのベッドにもたれるように眠っていた。 その目元は赤い。 「・・マグナ・・トリス・・」 ずっと一緒だった彼ら。 そんな二人にどれほど救われただろうか?きっと分からないほど・・救われている。 「まったく・・キミ達は本当に・・馬鹿だな」 融機人で一人な自分は、同じ境遇にも関らず二人でいられるキミ達を羨んでいたというのに。 「・・だが 嫉妬して嫌悪して どんなに罵倒しても突き放しても それでもキミ達は自分の側にいてくれて 真っ直ぐにぶつかって来てくれて 「・・残念だが、まだ死ねないよ・・キミ達はまだ一人前じゃないからな」 二人の髪を撫でて、ネスはを思い浮かべた。 “・・それにあんたは・・独りじゃないんだよ・・?” (・・そうだな・・キミの言う通りだ) ようやく、気がついた それは遅すぎたと、言っても良いかもしれない トリスとマグナ達以外で、自分に笑いかけて。 喧嘩して、涙を見せて。 諦める事を知らない異界の者。 「キミが、好きだ」 言えない気持ちを呟いて、何だかとても落ち着いた。 人を好きになることはこんなにも苦しくて、こんなにも緊張するものなのか。 初めての感情。 例え自分を見てくれなくても 他の者を見ても キミを好きだった事は、絶対忘れない こんなにも温かく 包み込んでくれたキミの存在を ネスティはふと、自分の服に気がついた。 意識を失った時とは違う、楽な格好になっていて。 誰かが着替えさせたと言う事になる。 (?!・・だ、誰が・・?!) 震えが身体に走る。 着替えさせた人物は、この異常な身体を見ただろう。 ずっと隠し続けてきたのに見られてしまった。 トリス達が? いや、違う・・彼らにはあれほどキツク言ってあるからそんな事はしない だとすれば? ネスティの頭の中に、ふっと人物が浮かんだ。 (・・・・?) あたしはラウル師範に“ここで待っているように”と言われて、ボーッとしながら待っていた。 てゆーか、暇ですなー・・早く終らないかなー・・? ってか、ネス・・生きてるのかなー・・ああー干からびていませんようにー・・ ネスの干ぼしなんていらないんだからねー・・(本当にな) (・・それにしてもフリップに何て言おうかなー。まず絶対鼻で笑われることは確実ね。 取り合えずあたしの目標は怒らないこと、逆ギレしないこと。 これを破ったらネスの薬は絶対もらえないわよねー・・(遠目)) あたしは緊張しながらも深呼吸を繰り返す。 くあー、ドキドキするー・・ 「殿」 「あ、師範・・」 「どうやら今は会議中らしいのでな・・休暇中のワシは追い出されてしまったんじゃ」 「休暇中だと良くないんですか?!(一体どういう規則だ?!)」 「・・休暇中だと、その召喚師はその日だけ召喚師ではなくなる。勉学に没頭し過ぎて 過労で倒れる召喚師があまりにも多いため、総帥が数日の強制休暇というものを設けられたのだ。 ここではワシはただの老人じゃよ」 「(何じゃそりゃ!)そ、それじゃ薬が・・!」 「フリップ殿と話そうにも取り次いでもくれん・・同僚のグラムスもその会議に出席していて 彼に頼むことも・・・」 ムカムカと、怒りの感情があたしの中で沸き立つ。 さっきは怒らないって決めたけど、これじゃあたしの来た意味がないし・・何よりネスの 薬を貰うのは明日になってしまう。 ルヴァイド達にも迷惑になる、だから今日中に何とかしなければならない。 「・・ラウル師範」 「・・?」 「すいません、あたし・・今から迷惑を掛けます」 「殿?」 あたしはダッと奥へ駆けていき、重たそうな扉まで全速力で走る。 扉の前では兵士が二人いて止めようと腕を出すが、あたしはそれをうまい具合にすり抜けて 会議室らしき扉の前で思いっきり叫んだ。 「フリップ・グレイメン様ぁーーーーーー!!!!」 後から追ってきたラウル師範もその声に酷く驚いたよな表情を見せるが、あたしは構わず扉を 蹴破って会議室の中に踊り出る。 これでも機械兵士を何回も蹴った黄金の足よ!イエス!!(意味不明) 会議室の中にいる召喚師達の視線が一気にあたしの注がれる。 けれどあたしは怯みそうになる気持ちを無理矢理隠して辺りをさっと見まわして。 目的の人物を見付けた。 「フリップ様!」 「こら小娘!ここに立ち入るな!!」 「あんたに用はないわよ!フリップ様!!」 あたしは一番奥にいるフリップの前まで走って、椅子に座っている彼の前に膝をつける。 ルヴァイド達にもした土下座だ。 人にモノを頼む時はそれなりの誠意と礼儀でとあたしは考えているからだ。 ・・問題は土下座が礼儀と通じるかどうかなんだけどなー・・(問題外だ・・!) 「あたし、っていいます!!」 「だ、だからどうした・・!?」 「(確かにだからどうしたね!)お願いがあって来たんです!ネスティ・バスクの薬を下さい!!」 ネスの名前に、会議室にいる召喚師の顔に動揺と驚愕の色が現れて。 フリップの顔にも困惑が現れた。 「薬がもうなくて、あたしが代理でここまで来ました!お願いです!彼を助けてください!!」 「き、貴様はあの男が何なのか知っているのか?!」 「フリップ殿!」 フリップがネスの正体について言おうとしているのか、追い付いたラウル師範はそれを咎める。 ラウル師範の行動であたしがネスの事を何も知らないで来たと思ったのか、土下座をして いるあたし見下すように笑う。 くぁ・・!この笑い方がすんげぇムカつく・・・!!(うおー!チクショー!) 「ネスティ・バスクを教えてやろうか・・?あいつは」 「フリップ!もうやめるんだ!」 一人の男・・グラムスがフリップを止めようとするが、それより早くフリップは答えた。 「ロレイラルの融機人という異界の者だ!私達とは違う生き物なのだぞ?!」 その場が、静かになった。 重たくて、冷たい沈黙。 それに負けず、あたしは静かに答えた。 「・・知っています」 フリップやグラムス、ラウル師範の表情に、その場にいた全員の顔色が変わる。 あたしは構わず、フリップを見上げて続けた。 「・・あたしはネスティ・バスクを知ってます。人と関る事を嫌うし、すぐに馬鹿馬鹿言って人を怒らせる為に生まれてきたような、すっごーーーーーーーーーく変な人だって」 それでも 「彼の身体を見たときは正直、怖かったです。一瞬、触りたくないって思いました。 だってあたしと全然違うし、その肌は機械で冷たかった」 ラウル師範が更に驚きの表情を見せる。 フリップは肩を震わせながらあたしの話を聞いていた。 「冷たかった・・でも、温かかったとも思いました。 ネスは生きているから、死んでいる人間の身体よりずっとずっと温かかった」 脳裏に、記憶がよみがえる レルムの村で初めて 死んでいる者の身体に触れた それは小さい子供で すごく温かいはずなのに 虚ろな瞳でどこかを見て すごく冷たかった あの時のショックは きっと一生忘れられないだろう フリップはあたしを恐ろしいモノを見るような目で、見た。 彼にとって、あたしはきっとよほどの恐怖の対象になっているのだろう。 唾が飛ばしながら、兵士に命令をする。 「こ、この娘を牢に閉じ込めておけ!早くするんだ!!」 兵士があたしの腕を掴む、それでもあたしはフリップを見て懇願した。 「お願いです!ネスを助けてください!!」 「ふざけるな!貴様・・あの男に惚れているのか?!だとすれば貴様は狂っている! 正気じゃない!!2度と私の前に・・」 「・・っ・・大事と思って何が悪いのよ?!」 「?!」 いい加減にしてよ。 こんなこと言ってる間にも、ネスがどんどん苦しんで、危ないのよ。 その頭に乗っかってるヅラ、獲っちまうぞ!オラ!!(地毛かもしれないけどね!) 「さっきも行った通りネスが怖い!腕だって首だって機械だったし!気持ち悪かった!! あんなの見た事もなかった!テレビとか映画とか、漫画や本とかでしか見た事なかった!」 本の世界とか映画とかの世界では その機械達と戦ってたり逃げてたり、護られていたりしているシーンがあった 見ているときは大して何も思わなかった でもいざ自分がその立場になってみると 酷く怖い 「でも、ネスは笑う・・怒ったり泣いたり・・落ち込むこともある・・それはあたしとまったく変わらなくて ・・その内、ネスなら何でもいいって、どうでも良くなって来たの」 ネスに心はある それに触れると、あたしと何も変わらなかった 「友達・・なの・・!仲間なの!融機人でも何でもいいから!」 ため息を吐いて、怒りながら呆れながらトリス達と一緒にいて それが一番ネスらしいから 人間よりも人間らしい 「 こんな事してる間にも ネスがどんどん遠くなる 泣くな 泣くな、あたし 泣いちゃだめだ 泣くのはネスが助かってから その時だけで充分だから 滲む目元の涙を拭って、あたしは兵士の腕から解放されようとじたばた暴れた。 兵士の鎧は、当然固い。 鎧を蹴ってる足も、殴ってる手も青くなって痛くなって。 逆に顔を殴られて唇が切れる。 それでも暴れ続けて髪を掴まれて、無理矢理床に抑えつけられた。 押さえつけられた冷たい床が心地よくて、同時に意識が遠のいて行く。 ネスも、遠くなる。 「やめろ!ワシの客人じゃぞ!!」 「私はもう知らん!帰らせていただく!!」 兵士に掴みかかったラウル師範が、殴られたのか地面に倒れるのが見えた。 同時にフリップの足音が遠ざかるのがわかる。 頭では動きたいのに、身体が動けない。 (ネス) あたし あんたのこと、反則的に知っちゃったけど でも、 「・・待つんだ、フリップ・グレイメン」 あたしの耳に、子供の声が滑り込んできた。 同時に周りのざわめきが大きくなって、フリップの驚いたような声が聞こえる。 (・・誰・・?) その疑問は。 あたしの意識の限界で確かめる事も出来なくて、あたしは意識を手放してしまった・・・。 が気を失ってから、フリップは叫ぶようにその人物の名前を呼んだ。 信じられない気持ちと、何故ここにいるかのように表す声色だ。 「え・・エクス総帥?!」 「騒ぎが大きくてね、何事かと思って来て見れば・・」 エクスはフリップの横を通り抜けて、気を失ったの身体を抱き起こす。 怪我が多々あり、唇も切れてとても痛々しい。 「・・フリップ、僕を怒らせるつもりかい?」 「そ、そんな事は決して?!」 「なら直ちにネスティ・バスクの薬を用意するんだ、いつもより多めに」 「は・・はい!!」 フリップは転がるように部屋から出て、ラウルはの元に駆けて傷を看る。 「殿!」 「ラウル、・・すまなかった・・僕がもっと早く来てれば」 「いえ・・総帥・・・・・・・・・・・そのお言葉だけで充分です」 ラウルの言葉にエクスは少し微笑んだが、すぐにに視線を戻して兵士達や周りに目を向ける。 「この会議は中止だ、全員すぐにこの部屋から出てくれ」 蒼の派閥の、最高責任者。 そんな彼の言葉に逆らえるはずもなく、ぞろぞろとその他の召喚師は退出していく。 彼らを見送りつつ、エクスは自分の丈に合わない杖をどこからともなく取り出して、 を床にそっと寝かせる。 「・・・うっ・・」 無意識に声を洩らすの頬を優しく撫でながら、エクスは穏やかな笑みを見せる。 「大丈夫だよ、お姉さん」 ラウルとグラムス以外の全員が部屋から出たのを確認すると、エクスは杖を高々と掲げ。 誓約の言葉を唱える。 「霊界サプレスに生きる聖なる母よ、全てを包み、この者の心と傷を癒せ」 エクスの言葉に会議室の部屋は一瞬で強い光に包まれて、やがては美しい女性が姿を現わした。 それは神々しく、微笑みは子供を慈しむ母の笑み。 呼び出された聖母・プラーマはの身体を光で包み、抱くように傷を癒す。 青痣は消え、唇の傷も何もかも癒されて。 どこにも傷がない状態に戻る。 「・・エクス総帥、お見事です」 「ありがとう、グラムス。・・それじゃラウル、薬はフリップから受け取ってお姉さんに渡しておいてくれないか?」 「はい、ありがとうございます・・!」 「・・ネスティ・バスクが助かる事を、僕も願っているよ」 ラウルはを背負って、器用にエクスに一礼して部屋を出ると感嘆のため息を漏らす。 普通、聖母・プラーマであれだけの傷を完全に消す事は出来ない。 それだけエクスの魔力が強いという事が改めて感じて、更に尊敬の念を抱く。 「・・殿・・」 ネスティの正体を知ってもなお、あそこまで助かる事を願ってくれるなら あそこまで必要としてくれる貴女なら ネスティもきっと、生きていける ラウルは背中から聞こえる寝息に苦笑しながら、昔のことを思い出す。 「よくこうして、マグナやトリス、ネスティを背負って派閥を歩いたもんじゃな・・・」 それにしても、本気で孫が欲しいものじゃな・・と呟きながら歩くラウルの背中で 眠っているの表情はとても穏やかだった・・・。 古き記憶は動き出す それは受け継がれた想いと共に 止まったままの歯車も動きだす 現在の時間を刻む様に ゆっくりと 想いは、これからも受け継がれる 歯車は、これからも動き続ける 歯車を動かす者がその足を止めない限り 諦める事を、しない限りは NEXT ----------------------------------------------------------------------------- *後書き* 第34話をお届けさせて頂きました。 ワタクシ、自分の首を思いっきり締めました。 誓約者を4人出してしまいました・・!しかもパートナーも出るし・・!! ってか、ハヤトが哀れ過ぎます。 アヤ天然、ナツミ暴走、トウヤ我関せず。 助けろよ。 主人公もじれったいですね、正体!!(笑) フリップさん、出ました。(それだけか) なんかシリアス過ぎて頭が痛いです、アイタタタタタ・・・・ エクスさんも出ちゃいましたねー、最初は出る予定なんてなかったんですが。(コラ) グラムスさん、止めて褒めて終ったよ・・アイタタタタタタタタ・・・ ゲームではまだ8話前ですよ・・!! 2002.1.27 2004.1.22 |