“あたしが、薬を貰って来てあげる” ネスティはその言葉に、ぼんやりとした意識を覚醒させた。 第32夜 今、彼女は何と言った? 慌てて身体を跳ね起こそうとすれば、身体の節々がズキンと痛み訴えるものの、それを無視して 何とか起きあがり、そして信じられないような表情でを見ると―――彼女は笑っていた。 「だって貰ってこなきゃネス、死んじゃうでしょ?」 「・・っ・・無理だ・・もう、間に合わない・・っ・・!」 胸に激痛が走った。 ・・・・人間とは違う身体を持つ融機人は、病に酷く弱い。 リィンバウムの人類にとってはただの風邪でも、融機人にはとてつもない激痛と 高熱を伴わせ、やがては死に至らしめる。 ネスティはグッとシーツを握り締め、意識を失わないよう懸命に己を保ちながら、言葉を紡ぐ。 「・・それに・・ここからゼラム・・は・・日数がかかる・・たとえ辿り付いたとしても」 ネスティは背筋をゾッと震わせて、派閥の空気を思い浮かべた。 たくさんの人がいるのにも関らず、酷く冷たい空気を持つあの忌まわしい居場所。 アンナニ冷タイ所ニ 行ッテ欲シクナイ 「・・辿り付いても、管理にしている者が許可が・・なければ薬は下りない・・っ・・」 そうだ。 フリップが許可を下さねば薬は手に入らない。 義父を頼っても最終的には彼の許可が必要だから、意味もない。 「でも、このままでいても仕方が―――」 意識も朦朧とし、視界が霞んでいく。 けれど最後の力を込めてをそっと引き寄せて、その華奢な身体を己の腕の中に捕らえた。 そうすれば、彼女は酷く驚いた声でネスティの肩を掴んだ。 「ちょ、ちょっと?」 「・・行って・・欲しくない」 「え?」 の肩に顔を埋めて、自分の気持ちや苦しさを伝える。 ・・・最後かも知れない、我が侭も。 次に気を失ったら、もう2度と目が覚めないかも知れないから。 彼女や仲間に会えなくなるのが、酷く悲しく想える。 「・・あんな冷たい所に、・・っ・・キミを行かせたくない・・―――ここに・・居て欲しいんだ」 怖い 怖い 激痛と、やり切れない想いと共に 独りで死んでいく事が 「・・独りは・・嫌だ・・っ・・・・」 本当に自分を知る者は誰もいない この苦しさも、悲しさも恐ろしさも 自分の心を知る者はどこにもいない だからこうして生きている間だけでも 自分を知って欲しい 誰よりも真っ直ぐに進めるキミに 誰よりも真っ白な色を持つキミに はネスティの言葉を聞きながら、大きくため息を吐いた。 深い深い、ため息を。 「あんた、死にたいの?」 「・・・・」 「死にたくないんでしょ?」 「・・当たり前だ・・」 ネスティはただを抱きしめて批判する。 自分はまだキミをたくさんと知らないから。 「・・それじゃ、もっとしっかりしてよ」 「だが」 「・・あたしの知ってるネスティは、もっとしっかりしてるわよ? そんな弱気にならないでよ!もっと馬鹿馬鹿言ってあたしに殴られてよ!!」 「・・き、キミは・・・(怒)」 「それにあんたは、独りじゃないんだよ?」 少し身体を離して、の細い指がネスティの滲む涙を拭う。 その仕草はとても優しくて、思わず安心して目を閉じた。 暗くなった視界に感じるのは、一つの温もりのみ。 「・・無駄じゃないって事、証明して見せる。だから、しっかりしなさい!」 ペチンとネスティの両頬を叩いて、いつもの変わらない笑顔で笑った。 少し痛む頬が現実感と意識を取り戻して来て、だんだんと咳も収まってくる。 「ようは気持ちをしっかりすれば、病気なんて治るもんなのよ?」 「・・(病気ではないんだが)・・」 「それにねぇ・・あたしのトリスとマグナが悲しむでしょ?! 泣かせたらあたし、あんたの墓に供えられたお供え物を奪って逃げるからね!!」 逃げるなよ 「嫌ならあたしが来るまで待ってて!いいわね?!」 「・・キミは本当に グラッと身体をベッドに沈め、ネスティは仰向けにを見上げて弱々しく笑った。 その瞳には、小さな輝き。 「・・待ってる・・早くするんだぞ」 それだけを呟いて、ネスティは静かに目を閉じた。 目を閉じても映るのは、怒っているの顔。 やっぱり僕は、キミが好きなのかもしれないな 小さな胸の温かさ それは大きな信頼から生まれた 生への希望の灯火・・ ネスが死んだーーーーーーーーーーー??!?!(焦) あたしは目を閉じたネスの肩をガックンガックンを揺さぶって、生きているかを 確かめる。(ってか、いきなり死ぬなよ!) 「ネス!しっかりしなさい!逝っちゃだめよ?!」 逝くのはあの変態で充分なんだからねー! そんな事を叫びながら気を失ったネスの胸に耳を当てて、心臓の動きを確認する。 鼓動は静かに動いていて、彼の寝息も聞こえて来て、あたしはハーッと肩の力を抜いた。 「・・ったく、紛らわしーのよ・・」 ネスの顔に浮かび上がる汗を拭ってやりながら、あたしは起こさないようにネスの髪を 撫でて、布団を掛け直してやった。 そして彼の額に自分の額を当てて、静かに目を閉じて祈るように呟く。 「・・死んじゃ、だめだからね?」 それを終えて、あたしは足早に部屋を出た。 今のあたしははっきりいって疲れてるし、すっごく眠い。 ・・・でも、ネスの命がかかってるとなると、のん気に寝てなんていられない。 彼は・・死んではいけない人だ。 あたしがそう、望むから。 拳をキツク握りながら、眠気も疲労も拭うかのように頭を振って、皆が集まる部屋に向かった。 状況説明も大変そうだなー(遠目)と、ちょっとがっくりしながら。 「さん!それ本当なの?!」 「ネスが・・病気・・・」 今にも泣きそうなトリスと、落ち込みを隠し切れないマグナに頷きながら、 あたしは言葉を続けた。 「あたしは派閥に行って薬を貰ってくる、だからトリス達はネスの看病をしておいて欲しいの」 あたし達のいる空間に、重い沈黙が舞い降りた。 ようやくトリスとマグナも仲直りしていた空気をあっという間に覆した、それは悲しくて、苦しい沈黙。 俯いていたアメルは思い付いたように顔を上げてあたしを見た。 「さん、あたしの奇跡の力じゃ・・」 「無理・・だと思う・・ネスが持っているものは・・奇跡で治るものじゃないと思うの」 やってみなくてはわからないけれど、ネスは心の中を見られたくないと思う。 “・・独りは・・嫌だ・・っ・・” あの言葉は、ネスの弱ってる気持ち。 そんな場合ではないとわかっていても、けれど彼は必死なのだ。 自らが人間ではないことを隠すことに、必死なのだ ・・あたしにしてみれば召喚獣がうようよしているこの世界で”何でそんなこと 気にするんだろう?”と思ったけれど、けれどそれはあたしの考えで。 ネス自身のものではないから、そのことで酷く悩んでいる彼にとっては軽いものではないのだ。 ・・・だから、気持ちを勝手に見られたくないはずだ。 「・・そんな」 何も出来ないことにショックを隠せないアメルの肩に手を置いて、ケイナはあたしを 心配そうに見つめた。 「でも一人でゼラムに戻るの?」 「・・うーん、あたしは一人で大丈夫って言ったけど・・・(^^)」 あたしの腰にぎゅうとしがみついて、潤んだ大きな目であたしを見上げるレシィと。 後ろで静かに佇むレオルドを見てケイナは苦笑して頷いた。 「レシィとレオルドがどうしても行くって聞かないから・・(汗)」 「だ、だってご主人様・・昨日、帰って来なかったから僕・・僕・・(泣)」 「アルジ殿、コレカラ単独行動ハ控エルヨウニシテ頂キタイ」 「あー!わかった!わかったから泣くな怒る(?)な二人とも!!・・と、いう訳・・」 結果、一緒に来てもらうことにしたの。だから危険度はあまりないわよ」 レシィのフサフサ頭を撫で繰り返しながら、あたしは大きな溜め息を吐く。 心配してくれてるのはわかるんだけどなー・・(遠目) 「それじゃあよ、の身の安全はコイツらにまかせるとしてよ。どうやってゼラムまで戻るんだ? 時間がかかるだろ?その間にもネスティの奴が 「喝っーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!(バチーン!)」 「ヘブゥっ!」 あたしはフォルテにビンタした後、倒れた彼の背中を思いっきり踏み付けた。(気分は女王)←危険 後ろではトリスとマグナが泣きそうな表情で堪えていて、泣かしかけたフォルテへの怒りの火をつける。 ってか、縁起でもないこと言うな! 「あんた・・それ以上言ったらマジ吊るすわよ?(怒)」 「グフゥ・・(吐血)」 白目を向いたフォルテを床に放り出して(酷っ)、あたしは自分の部屋に足を抜ける。 「さん、どこへ行くんですか?」 ロッカはあたしの顔を不思議そうに見て、言葉をかける。 「着替えに行くの、せっかくのこの服も汚れちゃったしね・・」 変態やら胸毛やらのおかげで は? スパッツを履いてスカート装着。 上から上着をガボっと被って首を出し、左膝にはいつでも変態に蹴りを食らわせられるよう にと丸い膝当てを付けて、頑丈そうなブーツを履く。 (・・良いなぁー・・ファンタジー!って感じがして何かまたワクワクするわー!(萌)) メラメラと萌えまくって(漢字が違う)いるあたしの部屋の扉がコンコンとノックされる。 あたしは“はい?”と返事して扉を開けるとそこにいたのはリューグ。 「おりょ?リューグ??」 「・・本当に三人だけで行く気かよ」 「イエスイエス★だって大勢で行くとデグレア軍に見つかっちゃうでしょ?それにあんた達は アメルを護る為に居るんだからアメルから離れちゃだめでしょ?」 あたしの言葉に、リューグは考え込むように俯いた。 まぁ、本音はイオス達に出くわしたもしもの時に穏便に事を済ませたいのだ。 ロッカやリュ−グ達がいれば絶対戦闘になって薬どころじゃなくなる。 ネスが死ぬってーの!!(汗) 「だ・か・ら・・絶対付いて来ちゃだめだよ?」 「・・・手」 「?」 「手、出せ」 あたしは“?”と言うような表情をしながらも左手をリューグに差し出すと、リューグは 無理矢理掴んで左手の薬指に指輪をはめる。 「ゆびわ・・?」 「・・それ、お前にやる。・・墓参りに付いて来てくれた礼だ」 どうやらゲームで入手出きる“護りの指輪”らしい。 小さく、けれど燃えるような紅い石がとても綺麗であたしはリューグに礼を言う。 「ありがと、リューグ・・でもこの渡し方はないんじゃない?」 「・・何だよ、袋に詰めて渡せって言うのかよ?」 渡し方に文句を付けれたと思ったのか、不機嫌そうに顔を歪める。 だがあたしは“違う違う”と手を振って、笑いながら左手の手をリューグに見せた。 「この左手の薬指に指輪って・・結婚する相手に贈るための仕草なんだよ、知ってた?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あたしの発言に、リューグはしばらく呆然とあたしの左手を見つめて。 今度はあたしの顔を見下ろして。 「・・・・・・・・ッ!!/////」 ・・・・次には、火が出たかのように真っ赤に顔を染めた。(珍しい!) 「リューグ?」 「あ・・あ・・お、俺は別にそんな意味で渡したんじゃねえぞ! ただ・・ただ・・ってか、誤解すんなよ!!!されてもメーワクだぞ!!////」 「(迷惑ってコラ)わかってるわよー、でも本当に好きになった人に指輪を贈る時 だけにしときなさいよー?誤解されてあっという間に失恋するわよ」 「う、うるせぇよ!!////」 顔を真っ赤にしながら、リューグはドカドカと廊下を歩く。 あたしは笑いながらその隣りに付いていく。 「あはは、怒らないでよ。もう、本当に短気なんだからー・・(呆)」 「ほっとけよ!」 「・・・・でも・・ありがとうね。大事にするから」 リューグはチラリとあたしの方に目を向けて、今度は大きくため息を吐いた。 何か馬鹿にされてる・・?(怒) 「・・ったく・・何で俺がこんな奴に・・」 「何よ、何か言った?」 「・・何でもねーよ・・」 「?」 「・・絶対戻って来いよ」 「あったりまえ!あたしはまだまだ生きるわよ!」 あたしはニッと笑って、軽くリューグの肩を叩く。 それにリューグは呆れた表情を見せて、あたしの頭をワシャワシャと撫で繰り返して笑った。 「ぎゃー!髪がー!!」 「戻って来なかったら承知しねーからな」 そうを言って、今度は俯いた。 次から次へと忙しいわね、この男も・・・と考えつつ、あたしはそんな彼に首をかしげる。 さっきから一体何なのさ・・? リューグは拳を硬く握り、まっすぐにを見下ろして言葉を出す。 「・・俺、今年の命日・・兄貴も連れていこうと思ってる」 「・・・??」 「・・今度は一人じゃなくて・・ 長く 長く 素直になれず 遠回りして ようやく行こうと決心がついた 今年で最後の涙にする 来年は、彼女の言った通りに仲間も連れて そうして初めて、兄と笑い合う それは花よりも何よりも 最高の親孝行かと、自分なりに思ったから これを言おうと決心するまでに、かなり時間がかかった。 他人にとってはとても軽く、簡単なことでも・・自分にとっては酷く重くて、迷うことで。 けれど言えた今、心がとても安らいでいて。 ・・リューグはの手を握って穏やかに微笑んだ。 「・・来年、テメエも来いよ」 「・・・ええ???!(汗)」 驚きを隠さず見上げてくる小柄な少女に、リューグは呆れたため息を吐きながらも、ぼやいた。 「あのなぁ、テメエが来なきゃ意味ねーんだよ・・一応、俺が兄貴と行くと思えたのも、 ・・・・・・まぁ、お前のおかげでもあるからな」 「そ、そーなの・・??」 「・・そうなんだよ、ったく・・鈍い女だぜ」 「リューーーーーーーーーーグーーーーーーーーーー?(怒)」 “今日こそその触角を千切ってやる!むしってやるー!”と、怒り出すの手を軽く 避けながらリューグは笑った。 いつも涙しか届けれなかったけれど 今年で最後にしよう 来年は、笑顔を届けるから だからその日を楽しみにしていて欲しい 俺達はもう大丈夫だ あたしはリューグと別れた後、もう一度ネスの様子を見るために部屋に向かっていた。 トリスとマグナ達は慌てて看病に必要なものを買い揃えに行ったりと、あわあわと 慌てている。 (独りじゃないよ、ネス) 心配してくれる人たちが ここにいるよ 何も知らなくても ・・・”ネスティ・バスク”を大切に、心配してくれる人たちが 扉を開けると、ネスは苦しそうに呼吸をしながら眠っていた。 彼の着ていた服も、発汗によってすっかり湿っていたりする。 それにとうとう、あたしも覚悟を決めた。 ・・・・・・ごめんね、ネス 今からあたし、貴方を脱がせるわ 人命救助だから許せよ!と呟きながら、ネスの服に手をかけて行く。 白い肌が露出されると思わず“イエーーイ!”と叫びかけてしまうけれど(必死に堪える)、 次の瞬間には凍り付いたように、身体が竦んでしまった。 機械的な、肌 (うわ、本物・・) あたしは手際良く着替えさせていくけれど、視線は鈍い色をした肌に釘付けで。 ドキドキしながら融機人・ネスの肌に触れてみる。 「・・硬い・・」 妙な肌触り。 人でない事がありありと伝わって来て、何だかネスに悪い事をしているような気がした。 ネスは今まで、ずっとこれを隠し続けてきたのかと思うと、胸の奥が熱くなる。 「・・・よし、これで・・良いよね?」 機械的な肌が出ていない事を確認すると、少し腕をまくってもう1度触れてみる。 「・・ん・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の艶っぽいボイスは何ですか、ネスティさん。 さすが両刀使い・・と呟きながら腕を元に戻す。 やっぱり、妙な心地がする。 でも、嫌悪感は感じなかった。 変わりに感じるのは、言いようもない懐かしさ。 「・・?何だろ・・・・」 取り合えずネスの服を持って外に出て、あたしは足早に道場を出ようと準備をする。 えらく時間がかかったが、まぁしょうがないだろう。 あたしは急いでハサハ達が待つリビングに戻るのだった・・・。 「そいじゃ、ちゃっちゃか行ってきまーす!!」 それをトリス達に言って、あたしはファナンの夜道を駆け出した。 召喚獣で行けばいいのかもしれないけれど、今のあたし達の周りにはそこまで 高等なモノを召喚できる人はいない。 レシィ達もあたしの足に合わせて付いて来てくれて、自分の足の遅さに正直悔しかった。 くっそー!カモシカの足が欲しいーーーーーーーーーー!!! ああ、こんな事なら山へ狩りに出かければって・・何言ってんだあたし! 動物愛護精神を持とうぜ!!いやそれ以前にカモシカの足取ってきてもしょうがないし!(本当にな) ・・・せ、せめて足が速くなるアイテムか何かないものなのかな・・?(泣) 自分のボケにツッコミを入れるのはあまりにも淋しかったけど、取り合えず無視。 休まず走って街を出て、ほんの少し休憩をする。 「ご主人様・・僕が背負いましょうか・・?」 「はぁ・・はぁ・・だ、だいじょーーーーーーぶ・・・(滝汗)」 顔を上げるとただ草原のみが広がる大地。 それは果てしなく、永遠に続くのかと思わせるくらい広くて、見ていて眩暈を起こしかけた。 (辿り着けるのかな・・?) そんな疑念が、早くから生まれる。 けれどもブンブンと首を振って雑念を払うと、ネスのことを思い浮かべた。 苦しそうな、ネス。 あたしは呼吸が穏やかに戻ると確認すると、きゅっと唇を引き締めてまた走り出した。 草原な道な為街道と違って走りにくく、途中で草に足を取られ転びそうになる。 “危なー!(汗)”とふんばって足を走らせたけど、次には思いっきり転んでしまって、 あたしは草原の上に身体を投げ出されてしまった。 「・・ーー(痛)ーーっ・・・ゲホッ・・っはぁ・・はぁ・・」 息をするのも苦しくて、はっきり言ってこれ以上は走りたくない。 (・・でも) 涙が目に滲む。 あたしはそれをぐいと拭って、もう1度走ろうと立ちあがる。 「ご主人様・・」 「アルジ殿」 「・・だ、大丈夫・・ホラ、走るよー・・」 しばらく走ってファナンがやっと見えなくなった。 けれどゼラムはまだまだ見えなくて、あたしの中で焦りが浮かぶ。 どうしよう 間に合わなかったらどうしよう ネスが、死んでしまう 嫌な考えを振り切ろうとするが、疲れも手伝ってか全然振り払えない。 汗が目に入るのを拒みながら、歯を食いしばって走る。 マラソンでこんなに走った事はないし、マラソン以外でも走った事がない。 「っあ・・!」 また草に足を取られて、今度は急な坂を転げ落ちてしまった。 ゴロゴロゴロと転げ落ちて、岩にぶつかりそうになる瞬前にレオルドが何とか 先周りをして受けとめてくれた。 レシィも慌てて足を看てくれたけど、泣きそうな表情であたしを見上げた。 「ご主人様ぁ・・この怪我じゃもう走れないです・・」 「・・そ・っはぁ、・・・そんな・・」 身体に痛みが走る。 でも走れなくなるという衝撃の方が、すごく痛かった。 “キミが後悔しない選択をすればいい” そんな言葉があたしの中に浮かび上がった。 それはずっと前に、ネスがあたしに掛けてくれた言葉。 それを思い出して、あたしはついには泣き出してしまった。 泣いてしまったら走れなくなるのに、・・それでもしゃくり上げながら涙を零す。 でも でもネス 後悔しない選択、選んだつもりだったよ 自分でもよく走ったと思うし、マラソン選手もビックリするぐらい走ったと思う でも でも嫌だよ ネスが死ぬのがすごく嫌だよ ネスが死んでしまったら あたしはどんな事をしても後悔する 何でもっと頑張らなかったんだ?って 「う・・ひっく・・ヤだよぉ・・・」 「ご主人様・・・」 泣き出すあたしに、レシィが慌てて慰める。 レオルドはただ静かに立っていたけれど、次には彼の目が一瞬、赤く灯り、 あたしとレシィを庇うように前に立って、武器を身構えた。 レシィもそれに素早く反応してあたしを庇うように手を広げて、ある一点の方角を見つめた。 「・・?」 大きな月を背景に、三頭の馬に乗った三つの人影。 それは今日別れたばかりの、大切な友達だった。 「る、ルヴァイド!イオス!ゼルフィルド!!」 「・・?!」 「何故こんな所にいるんだ、キミは・・」 それはこっちのセリフだよ!とツコミをいれながらも、あたしは足の痛みを無視して、 彼らに駆け寄ろうとする。 けれどレシィがぎゅうっとあたしの服を掴んでそれを許さなかった。 あ、そーいやー説明してなかったなぁ・・(汗) 「ご主人様!この人達は黒の旅団の人です・・!」 「アルジ殿、オ下ガリ下サイ」 その場に緊迫した空気が流れる レオルドは構えを解かず、ジリジリとデグレア軍との距離を詰める。 だけど今度はあたしがそれを許さず、彼らの間に身体を割り込ませた。 「ちょ・・ちょっと待ってーーーーーーーーーーーー!!!(汗)」 「アルジ殿、ソコハ危険デス!」 「だから待てって言ってんでしょ!待て待ておすわり!!(違っ)」 「デスガ・・」 「あーまどろっこしい!(ガションっ!)」 あたしはレオルドを蹴り上げて草原に倒れさせるとルヴァイド達に向き直った。 ルヴァイド達は馬に乗っていて(ってか、ゼルフィルド・・馬に乗れたのか・・)、 その馬の大きさを目で測って見る。 「・・これなら・・」 「・・?」 ルヴァイドは馬から下りてあたしを見下ろす。 あたしはその間にも日数を計算して、考えていた。 「ルヴァイド!」 「何だ?」 あたしはルヴァイドの前に膝をつけて、土下座する。 それに驚いたのかレシィは驚いた声で呼んだけど、あたしは言葉を繋いだ。 「あたし、もう走れないの!」 「・・?頭を上げろ、お前に頭を下げられる覚えも・・」 「聞いて、あたしはゼラムに行きたい!そして明日にはファナンに戻れるようにしたいの! でもあたしの足じゃ絶対無理だし、明日どころか3日なんて余裕で掛る!!」 「・・・・」 あたしは額を地面にこすりつけて、ぎゅっと目を閉じて叫ぶように言った。 「だからあたしをその馬で走って、連れて行って欲しい!」 わかってる 迷惑だってわかってるよ 彼らにはまた新しい任務があるだろう でも・・頼まずにはいられなかった これが走れなくなったあたしの 精一杯の選択なんだ 「・・あたしの大事な仲間が・・すごく危険な状態なの。でも薬はゼラムにしかなくて・・ ゼラムからファナンはすごく遠い、・・だから・・」 間に合わなかったらの時を考えてしまって、あたしはまた目を滲ませる。 地面に涙が零れ落ちて、ぼろぼろと滝のように頬を伝う。 ネスにあんな大口を叩いたけど でもやっぱり、怖いよ ネスも独りで死んでいくことが怖いって言ったけど けれど知ってる人が死にそうになることも すごく、すごく怖いんだ あたしは涙を拭わずに、ずっと土下座を続けた。 もう、何でもういいからネスを助けたい それだけを考えて。 「・・あたしに手伝ってくれたら、あたしを捕らえても良い!・・あたしは・・」 「・・」 イオスの声に、更に涙が零れ落ちる。 「・・あたしは・・後悔したくないの・・っ・・!」 ネスが死んでしまったなら きっと、どんなことをしても後悔するから ルヴァイドは土下座を続けるあたしの頭に手を置いてきて、あたしは顔を上げてしまう。 そんなあたしの彼は穏やかに笑むと、ふわりとあたしを抱え上げて、馬に乗せた。 「る、ルヴァイド?!」 当のあたしは混乱して、乗せてくれたルヴァイドを驚いたようにしか見下ろせなかった。 淡い期待が、胸を覆いつくしていく。 「他でもないお前の頼みだ、それくらいの事は聞ける」 ポンポンと頭を叩くルヴァイドにあたしは思いっきり赤面しながらも、 ごまかすように彼に早く馬に乗るように急かした。 「そ、それじゃ早く早く!!///」 ルヴァイドは喉を鳴らしながら、あたしの後ろに身体を乗り込ませる。 よっしゃ、しゅっぱ・・ 「ご主人様ぁ!」 レシィはあたしとルヴァイドの間にピョンと飛び乗って来た。 それに馬が驚いて声を出して、ルヴァイドが倒れないように必死でなだめてバランスを保つ。 「レ、レシィ?!(超怖ぇー!!)」 「僕も行きますぅ!!(><)」 「あ、あのねぇ・・・・もう。・・・・・ルヴァイド、三人乗りって大丈夫?」 「・・子供だ、大した事はない」 あら?微妙に不機嫌?? あたしはレシィに腰をしがみつかれながら首を傾げる。 「(ま、いーか・・)それじゃレオルドは?」 「・・アルジ殿、申シ訳アリマセンガココニ残ッテ良イデショウカ?」 「ええ?!」 後ろで馬に乗っていたゼルフィルドもレオルドと同じようなことを言って、 更にあたしを驚かせた。 「ちょちょ・・ちょっと!何で?!」 「今マデノト我々トノ関係ヲ知リタイラシイ。将、我モ残リマス」 「・・わかった。イオス、行くぞ」 「はい!」 「え、ちょっとま・・えぎゃあああああああああああああああああ!!!!」 あたしは馬の走り出した振動に、色気もなにもない悲鳴で草原を渡っていった。 イオスの”落ち着け”と言った声が聞こえるけど、自分の悲鳴で掻き消される。 レシィを挟みながらぎゅっとルヴァイドにしがみついて、五月蝿いと言われそうな 悲鳴を上げながら、あたし達はゼラムを目指した。 ・・ってか、ネスの前にあたしが死ぬっつーの・・・(遠目) そんな達を見送ると、ゼルフィルド達は向かい合った。 彼らはどうやら話し合うらしい。 「デハ、マズ何ヲ知リタイ?れおるど」 「オ前達ト、アルジ殿ノ関係ヲ知リタイ」 「・・・・彼女ハ我ラを”友”ト呼ンデイタ」 レオルドの編みこまれたコードが、風に揺れた。 しばらく沈黙がその場に流れたが、レオルドは自らの体の一部からコードを引っ張り出し、 それをゼルフィルドに手渡して。 「情報ヲ、聞コウ」 「了解シタ、回線ヲ繋ゴウ」 ・・・そんなレオルドとゼルフィルドを、馬で遠くに走っていく達の様子を、 遠くから見ていた者がいた。 彼は銀の髪をなびかせて、愛用の竪琴を奏でながら謳を紡ぐ。 「遥か遠い過去の記憶 永遠を巡る貴女の魂は何処まで受け継がれるのか 貴女はいつになったら解き放たれる事を望むのか 決断の時はもう近く 貴女はどちらを選ぶのか」 「それでも私は貴女に焦がれます そのために、私は私の道を行きます 全ては貴女を手に入れる為に もう2度と 失わない様に 謳が、途切れた。 謳い終わったということか、詩人は・・・レイムは、月を見上げて竪琴の弦を一つ弾いた。 心地よい音がレイムの耳に響き、過去を鮮明に思い出させる。 “貴方は何の用でここに来たの?” そう言った、あの瞳は美しく。 “悪魔の貴方がこんな所に来ても、死んでしまって終りよ” そう言った、貴女の声に惹かれてしまった。 “もう来ない事をお勧めするわ” そう言って、私に背を向けた。 そんな彼女が欲しくて欲しくてたまらなくなって、腕を掴んでサプレスに連れて行こうとすれば、 彼女は抵抗し、逃げてリィンバウムへ行ってしまった。 それから当分、会う事はなかった。 だが心にはずっと残っている。 たった1度しか会っていないのに、全て持って行かれてしまった。 あの存在に。 だから悪魔の部下達の軍勢を引きつれリィンバウムへ向かったのだ。 あの存在を手に入れるために。 「さて・・」 レイムはくるりと身を翻し、本拠地でもある岬の館に戻っていった。 ここから先は当分、自らが手を出すことではないと知っているからだ。 ・・自分は、準備をするだけだ。 彼女を救うための、準備を。 顔を上げれば、淡い朝日が髪を、頬を照らした。 それが眩しくて目を細め、ふっと、嘲笑いに近いモノが口元に浮かべ。 「・・必ず、この手に 言葉と共に草原が、ざぁっと風に攫われたのだった NEXT ----------------------------------------------------------------------------- *後書き* 第32話をお届けさせて頂きました。 段々とシリアスが多くなって、オリジナル要素もどんどん濃くなって、進むペースも 遅くなってきております。 訳分からなくなってしまった方、・・・ほんっとうにすいません・・・・・・!!! でも自分もわからなくなってきて混乱してます、大丈夫か!俺!! リューグも護りの石をプレゼントし、ネスティも瀕死で、ルヴァイドも間に割り込んできた レシィに嫉妬してます・・・けれども無邪気な気持ちで妨害するのは子供の特権ということで・・!(笑) 主人公の服、変わりました! 桐茉様の可愛い服ですvv 初めてのスカートですね!!ああ!スカートビバ!!(ダメダ、コイツ) ありがとうございましたああああああああああああ!!! ハンマーも活用差せて頂きます!!悪魔撲滅用ハンマー・・素敵だ・・! それではここまで読んでくださった方に、最大の感謝を。 2002.1.25 2004.1/21 |