”――――貴方に、誓います”







第31夜







瞼を持ち上げれば、なんたる快晴か。

少しの眩しさと、イオス達の話し声で目が覚めて、木々の隙間から覗く空にそう思う。
欠伸を噛み殺しつつも一度大きく口をあけて、傍にいるらしいゼルフィルドに時間を聞けば
6時52分ということらしいけど、二度寝するにはもってこいだ。(オイ)
よしよし、んじゃ寝るかー・・・。



「寝ぼける癖は相変わらずだな」



苦笑しつつ、けれど優しい声が二度寝しようとしたあたしの耳に降り注いだ。
いつもよりずっと、ずっと優しいルヴァイドの声だ。


ルヴァイドの、声。


それに起き上がって顔を上げれば。
ルヴァイドが声を同じく、とても優しい表情であたしを見下ろしていた。


「ルヴァイド・・」

「どうした?」


聴けば聴くほど、夢の内容がどばっとあたしの中に溢れ出てきた。
あれは夢なのか、夢じゃないのかわからないけれど。
けれどやっぱり、それは悲しくて       


(レディウス)


でもどうしてあんな夢(?)を見たのだろう?
どうしてあんなに切ないものを、悲しいものを、怒りを覚えさせるものをあたしが見えた?

そう自問すれば、じわりと涙が滲みんでしまってぼろっと、零れた。
それにルヴァイドが、イオスがかなり驚いたような顔に変わった。


「「?!」」

「ドウシタノダ?」


まさか、ルヴァイドの過去みたいなものを見て泣いてしまった・・なんて言えるはずがない。
あたしは”何でもない”と首を振って、涙目ながら彼らにどうにか微笑んでやった。

それにしても、泣いただけでこんなに慌ててくれるなんて、なんだかすごく嬉しい。(不謹慎かな?)


「欠伸したから出てきただけだよ」

「しかし、今のは明らかに普通のモノとは・・」

「お黙りイオス」


あたしはごすっとイオスのオデコに空手チョップして黙らせた。
もちろん痛くないようにしていたからイオスも怒らず、まだ何か言いたそうに顔を歪めていた。

あたしはイオスと顔を寄せ合って、コソコソと会話する。


「ルヴァイドが心配するでしょ!余計なことは言わない、オーケー?(ボソボソ)」

「だが君の体調も心配に決まっているじゃないか。
・・・君はもう僕にとって・・大切な人なんだぞ・・///(ボソボソ)」

「え?ほんと?それは嬉しいなー!ありがとね、イオス!あたしもあんたが大切よ!(親指グッ!)」

「(・・”大切な人”という部分の意味を聞き流すか普通?)・・・・・・まぁとにかくだ、
何か体調が悪かったりとか、困ったことがあれば言ってくれ。・・出来る限りは手伝うから」

「(おや?何かとっても不機嫌そうなオーラが・・?<何故!?)うん、本当にありがと!」


噛みあっているようで、噛みあっていない会話。
けれどもあたしはそれに気がつくことなく(哀れイオス)、ルヴァイド達にも向き直って
泣いてしまったさっきの出来事を彼らから拭い去るつもりで、にっこりと笑う。


「大切だから、ルヴァイド達のこと守って見せるからね!」


どんと胸を叩いて、あたしは高らかに宣言。
それに彼らデグレア一同はまたもや驚いた顔してたけど(ゼルフィルドは例外)、
・・次には呆れた表情であたしを見返してきた。


「まさか女にそんなことを言われるとはな・・・(呆)」

「男の立場がないですね、僕達も(汗)」

「・・・(どういえばいいかわからないゼルフィルド)」


様々な反応を見せる彼らに、あたしはまた笑って山道を下り始めた。
それにルヴァイドもイオスもゼルフィルドもあたしの後を追ってきて、なんとファナンまで
馬で送ってくれるそうだ。(ラッキー!)

彼らと他愛ない会話を交わしながら、あたしは空を仰ぎ見た。


空はやっぱり快晴で、昨日の雨の空気はすっかり払拭されている。
清々しい、とまでいえるほど。

空の青さを眺めながら、あたしは誓いを思い出す。






             貴方に、誓います”






レディウスに誓った


自分の意志にも誓った



けれどあたしは、誓うだけでは終わらせない




ちゃんと、最後まで守ってみせる






・・・レイムたちに真実を聴かされても、彼らが生きていてくれるように






(・・レイム、か)


脳裏に浮かぶのは、夢の中で短髪の髪で登場した彼。
何とも冷たい瞳だった。
聖人のように微笑むけれど、瞳には何の温かみもない。

・・でも、あたしはあんな瞳は向けられたことがないけど           ・・・。


(向けられたこと、ないなぁ・・)


あれだけ殴ったり蹴ったり罵ったりしてるのに(思い返せばあたしってば女王なことを・・<汗)、
彼はまったく、あたしを嫌いなったりしない。
逆にさらに懐いてくる(嫌)と言った感じがする・・・!!(滝汗)



それに、レイムはあたしの事を知っているようだ


さっき森の中でも、あたしがレイムを知っているみたいなことも言ってた


でも・・あたしはアイツの事なんか知らない



っていうか、あんな知り合いがいてたまるか、という話だ(ほんとにな)



(・・でも何だろう・・胸の奥が苦しい・・)


自分の身体をぎゅっと抱きしめて、あたしは胸をしめ付ける苦しさを紛らわす。
レイムのことを考えれば、痛む気がする。(恋煩いではない、断じて!)



・・でもなんとなく、彼を思い出さなくてはいけないような



けれど思い出してはいけないような



そんな矛盾の苦しさが押し寄せて、あたしの中で蠢き合う。



(・・苦しい・・?)



何故、苦しい?



      考えちゃだめだ)



振り切れ。
レイムのことは、外に出せ。
今は思い出すべき時じゃない。
もうちょっと、もうちょっと先だ。



だからそれまでは、目を逸らしておくべきだ



そう切り替えれば、どうにか苦しさが収まった。
何も考えず、考えず、ルヴァイド達に目を向ければ。
そうすれば、苦しさは波のように引いてゆく。


?」


イオスが呼んだ。
ルヴァイドも、ゼルフィルドも、彼らにすっかり先を越されてしまったあたしを見ていた。




それは彼らに”友”として見てもらえている証のような




優しいあの眼差し




「なんでもないよ、それじゃ行こうか」





そんな彼らに、酷く泣いてしまいそうになったことはあたしだけの秘密。















そんなこんなで送られてます、あたし

いやー、でも今なら天国へ行けるかも

だって馬に乗ってるのよ?

念願のイオスの細腰(強調)に抱き付く事が出来てるのよおおおおおお!!(のたうち)


ああん♪もう幸せよ!!(悦)



・・・」

「うふふふへほほほほ・・・(奇妙な笑)あ、何?イオスvv」

「・・う、馬から落ちないような速さだからそんなに抱き付かなくても・・///」


馬をゆっくりと歩かせながら、イオスは頬を染めてあたしに言った。
そんなイオスの反応がとても可愛くて、あたしは更にイオスの細い腰にしがみついて頬を寄せると、
イオスがびくっと驚いたように肩を震わせてあたしを見た。
うははははは!最高ーーーーーーーーーー!!!


「うわ・・!・・?!」

「イオスはあたしに抱き付かれるのが嫌なの?」


耳元でそっと囁くとイオスの肩が再び大きく震えて、彼は慌てて耳を抑える。
あたしだって散々そうされたんだから、少しは思い知れー!(ってか、攻め万歳・・!!


「うわー!イオス、顔がすっごく真っ赤!!可愛いーvv」


イオスの腰から手を離して首に腕を回し、あたしは後ろから身を乗り出す。
乗り出すと彼の顔は丸見えで、これ以上なく紅かった。



てーか、イオスさん

貴方本当に男性ですか?(失礼)


何でそんなに見目麗しく美しいんじゃーーーーー!!!!(完敗よー!)



あんまりにも悔しいから”バカー!”と身を更に乗り出して、イオスの後頭部をバシバシ叩いてやった。
叩かれている本人はかなり痛そうに声を洩らしていたけど、あたしの身を乗り出している体勢に
ぎょっとするような表情を見せて。


!そんな風に身を乗り出すとバランスが          

「わッ?!」


世界が、ガクンッ!と大きく揺れた。
というか、あたしが馬の背から足を踏み外したのだ。(OH!NOー!!<泣)

ヤベェ(滝汗)、と思ったあたしの目には空だけしか映ってなくて。
次の振動と痛みに覚悟して目を硬く瞑った。











!」



イオスはの身体が馬から落ちかけた時、瞬発力を総動員して咄嗟に手を伸ばした。
腰を掴んで自らにどうにか引き寄せれば、今度は自分が馬から落ちそうに慌てて手綱を
取ってバランスを保ち、落馬を食いとめる。

馬の高い鳴き声が辺りに響いた。

それを少々耳障りに感じたが、まずはの怪我の有無を確認する。


「・・っと、・・大丈夫か?!」

「・・・」


はぎゅっとイオスの身体にしがみついて、肩を震わせながらコクコクと頷く。
どうやらかなり怖かったらしく、声も出ないらしい。
イオスは呆れたため息を吐きながら落ち着かせるように、の背をっぽんぽんと宥めすかす。


「だから言っただろう?馬に乗っているときはふざけてはいけないんだ。
それが大きな怪我になり、また戦いの支障にもなるから・・」


怒った口調で咎めるイオスに、の表情はますます暗くなって行く。


「・・ご、ごめ・・」

「・・だめだ、許さない」


が、ぎょっとイオスを見上げた。
かなり怒っているのか?!と言わんばかりの表情。


(・・可愛い)←重症


思わず笑みがこぼれそうになるのを必死に堪えて、ぎゅうっと彼女を抱きしめた。
改めて考えれば、彼女が落馬で大怪我など。


・・なんと、恐ろしいことか。


「僕はともかくキミが大怪我でもしたらどうしてくれるんだ?」

「?イオス・・?」



そう

キミが怪我をしたらどうすればいいんだ?

僕は回復の召喚獣のサモナイト石を持っていないんだ

キミが死んでしまったら

僕も死んでしまうかも知れない



彼女の身体をもっと自分のほうに引き寄せて、こめかみに唇を落とす。
はそれに驚いたのか、か細い肩がビクンと震えた。


「ちょ           ・・?!」


慌てて肩を押し返すの力はあまりにも弱くて、それに堪らなくなって頬にも口付ける。
キスをする自分の唇に彼女の熱い体温が伝わって、なんだかとても心地よい。


愛しさが募る。




イオスはもう1度、今度は音を立てての頬にキスを繰り返した。


















(あぎゃああああああああああああああ!!!!)


あたしの頭は、何も考える頃が出来ないほどまでに混乱してしまっていた。
イオスが何回もキスをしてきて、しかも最後は音付きで。(またかい!)←ツッコミ
それに思わず、妙な考えが浮かんでしまう。


イオスが自分を好いていると、思ってしまう。



(だああ!違う違う!イオスがあたしの事好きなわけないでしょ!)



それじゃ何?!

キス魔!?キス魔なの?!

それともふざけてるの?!



キス魔説は微妙に嫌なので、あたしはふざけているという選択肢を取った。
これなら納得できる、っていうか寧ろふざけてるとしかいいようがないでしょ!
・・・お酒のんだらすごそうだ・・(遠目)


「ちょっと!イオス、やめてってば・・!ふざけないでよ!!」

「・・ふざけてなんかいない」


返って来たのは、思ったよりも静かな呟き。
それにあたしはイオスを見上げれば、イオスがあたしを見下ろしていて。
髪に隠れていない赤い瞳が真剣な色を帯びていて、それにあたしは何だか怖くなった。

いつもの優しい目をしたイオスとは違う、別の人みたいだ。





イオスはあたしの前髪をそっと掻き上げて、額にも唇を落として。
見つめ続けていれば吸い込まれそうな瞳で、じっと見つめてきた。


「イオ・・ス・・?」

「・・僕は・・キミが・・」



あたしが?



「ヒヒーーーーーーーーーーーーーーン!!」


馬の甲高い声に、あたしはハッと我に帰って向こうの方角を見るとファナンもう目と鼻の先。
それにイオスは馬を一瞬、恨めしそうに見たようだったけれど(馬に罪はなくってよ、イオス・・!)
彼はあたしを一度抱きしめて、抱え上げた。


「わ・・!」


また、落馬しかけたときの浮遊感に覆われる。
けれど今度はしっかりとした手で支えられているから全然怖くなくて。
イオスは馬の背からふわりと飛び降りて綺麗に着地してから、あたしはじろりとイオスを見上げた。


「いきなり降りないでよ!」

「君は鈍感すぎる」

「は?」

「・・鈍感すぎて・・・手が出せないじゃないか

「い、イオスー?」


邪魔されたのが嫌だったのか、どこか拗ねた口調で文句を言って、イオスはあたしを地面に下ろす。
っていうか何で拗ねてるのよ・・・!(汗)
そっぽ向いたまま不機嫌そうに顔を逸らす彼に、思わずため息が出た。


「ちょっと、何怒ってるのよ」

「別に怒ってなんかいない」

「(いや絶対怒ってるってあんた!)怒ってる!!」

「怒ってなんかいない!それより早く行ったらどうなんだ?
・・・・・僕なんかといると面倒ごとばかりで大変になるぞ」

「イオス!!」


あたしは彼の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
それに彼が一瞬息を呑んであたしを見て、あたしは睨むように彼の瞳を見つめる。


「あたしにそんなこと言わないでよ!」

「な・・」

「嘘でも、イオス達と居ることが面倒ごとなんだって言わないで!!
そんなこと言われたら・・あたしは何でこうやってイオス達の傍にいるのよ!」

「・・・」


赤の瞳に、驚きと動揺の色が浮かび上がる。
それをさらに切り込んでいくようにずずいっと顔を寄せて、続ける。


「面倒ごとになっても、友達でいたいって思ってるからこうやって一緒にいるの。
話をしたいからこうやって話しているの。イオスにとってもどうでもいいかもしれないけど、
でもあたしにとってはこれが嬉しいことでもあるんだからね!」


その言葉に、イオスの目が丸くなった。
一瞬何を言われたのかわからなかったようだったけれど、次第に理解出来たのか
次には俯いてしまった。


「イオス?」


首を僅かに傾げて覗き込めば、彼の頬が淡く色づいている。(乙 女 決 定 !<ネス2号・・!)
ああもうほんと女顔といいますか・・。


「・・       すまない」


次には、穏やかに笑った。
うお!マブシー!(眩暈)かなり眩しいよイオス!
あたしが男であんたが女なら速攻で押し倒してるよ!!マジで!!!(落ち着け)


「でも僕はキミが傷つくのは嫌だ」

「え」

「・・            キミが好きだから」


微笑みながらの、言葉。
それはあんまりにも優しいものだから、あたしはやっぱり嬉しくなって、さっきの事もすっかり忘れてしまって。

笑い返して、イオスに言った。


「あたしも(押し倒したいくらいに)イオスが好きよ?」


ケロリと返すあたしの言葉に、心なしかイオスの頬が引きつったように見えた気がする。
あたしの気のせいかなー?

















(・・また聞き流された・・)


イオスは“?”と言うような表情をするに大きくため息を吐いた。
自分は他者に対する気持ちの理解度が鈍いらしいが、彼女も他者からの気持ちに鈍いと言えるだろう。

多分、彼女のことが好きな他の男にも気付かないのだろうなと、イオスは微妙に同情した。



やっと気付いた君への気持ち

昨日、レイムがキミの事を「愛している」とはっきり言った時

あそこまではっきりと、自分の気持ちが言えるあの男が羨ましいと思った

僕は告げる事すら、躊躇っているのに



あの男ははっきりと、僕達の目を見て言った



(少し、見習ってみるか・・)


が聴けば速攻で”やめとけ!あいつを見習うのだけはやめとけ!!”と叫びそうなことを考えながら、
イオスは眼下に見えるファナンの町並みをぼんやりと見つめる。
青い海が美しく、僅かな潮風の香り、平和な情景。

・・果てしなく、惹き込まれる。


「・・イオス?何ぼーっとしてるのよ」

「・・キミは鈍いとか言われないか?(遠目)」

「?別に、言われないわよ?逞しいって言われるけど」



誰にだ



ある意味それは正解だと思うが、あえて口には出さないで置こう。
イオスは渋々と馬の手綱を掴んで地面を蹴り上げ、その背にふわりと身を乗せる。

微かに香る潮風が、イオスの髪を柔らかく攫う。


「それじゃイオス、気をつけてね」

「キミもな、無防備過ぎるから少しは周りを警戒した方がいい(特に男に)」

「アイアイサー!・・でもあたし、そんなに無防備過ぎる・・?(汗)」


ビシィっ!と敬礼ポーズをした後“無防備?”と訪ねてくるにイオスは笑みを浮かべて、手招きをした。
疑問に感じることなく近寄ってきたの服の胸倉を掴んで、鼻の頭に軽いキスを贈る。


「・・・(呆気)」

「・・・本当に無防備過ぎて心配だ、キミが獲られないかとね(ため息)」


イオスは穏やかに笑って、の左手を掴んで薬指に口付ける。


それは騎士が愛しい者のために贈る動作。


その動作の意味を知ってか知らずか、の顔は火が出るように真っ赤になってイオスを見上げた。


「・・イイイイイイイオ・・イオ・・・・(どもり)」

「元気で」


イオスは満足そうに笑っての頭を撫でて、馬を走らせて颯爽と駆けて行った。
意味を理解してもらえなかったけれど、一応好きだと言えたのでそれで良しとしよう。

の驚いた表情を思い返して、笑いをかみ殺しながらイオスは草原を駆けぬけて行った・・・。




















あたしはイオスが去ってから、ずっと呆然としたままイオスが帰って行った草原を見つめた。
そして自分が何をされたと思い返して、果てしなく広がる空を見上げて呟いた。


「・・あんた、キャラ変わってない・・・?(放心状態)」



あれじゃーホストだよ、イオス隊長



ある意味役得ー!と拳を固めながらあたしはフラフラとファナンへ戻って行く。
取り合えずこれは決定だと思うわ、うんと考えながら・・・。



デグレア・プリンス★兼特務部隊隊長イオス



キス魔決定の瞬間であった




















「どうしてよ!あたしも行く!」

「だめだ、トリス・・は俺達が探してくるからトリスはここで待ってるんだ」


モーリン道場で、先ほどから繰り返されているこの口喧嘩。
それはトリスとマグナのモノである。



”一日経ったというのに、が帰ってこない”



それに一同、”デグレア軍に捕まったのでは”、”はぐれに襲われてしまったのでは”と色々と
意見を出し合っていたのだが、夕方から次第に夜となり、さらには夜、雨が降っていたことには
モーリン道場に住み込む者一同、唖然としたものだ。


「やだ!さん探すの、一緒に行く!あたしだって戦えるし・・心配なんだもん!!
ここでジッとしてるなんて出来ないよ!!」

「ダメだ」

トリスはマグナに叫ぶけれど、マグナはアッサリと却下する。
先ほどからこればかりが続いているのだ。
周りの仲間も止めなくてはと、思い始める。


いつも仲の良い兄妹がここまで言い合うのは初めてなのだ。


そんな光景を遠くから見ていたアメル達はハラハラしながら、ネスティは準備を
しながらも横目で見守っている。(見守ってねぇよ、ネスティ)


「ね、ネスティさん・・止めてください!」

「アメル、心配しなくてもすぐに終るよ」

「で、でも何かすごくなってきてるわよ?ネスティ・・(汗)」


ミニスの言葉にネスティはマグナ達を見る。
険悪なムードを撒き散らし、お互い一歩も退かずに睨み合うその光景はマグナとトリスを知らない
彼らには珍しい光景だろう。
だがいつも仲の良い彼らにも、対立することはある。

痛む胸を抑えつつ、ネスティは少し咳き込んだ。


(・・マズイな・・また痛み出した・・)



だが寝ているわけにも行かない

トリス達の為にもを早く見つけなくてはならない



「・・マグナ、そろそろ行くぞ」

「ああ」

「ちょっと!あたしも行く!!ねぇってば!!」

                トリス」


マグナがトリスに振り返る。
その時に、一同が唖然とした。



マグナが、マグナでないような



どこか、冷たさを感じる表情



そんな表情で、妹を見たからだ



「・・・マ、グナ・・・?」


アメルの声が、掠れて出た。
それにマグナがはっとしてアメルや仲間達を見て、唇を噛み締めてトリスを見下ろして。


「・・行って来る」

「っお兄ちゃん!」

「アメル、トリスを頼む」


それだけ告げて、マグナ達は朝日が照らす外へと足を踏み出した。
後ろでトリスの嗚咽が聞こえたが、マグナの足は止まることがなくて。

・・心配そうに、フォルテが彼に静かに問う。


「いいのかよ、マグナ」

「・・・良くない、よ」

「心配だからとかなんとか言ってやりゃいいのによ」


”それで納得してくれるのなら、そう言うよ”と、フォルテに苦笑しつつマグナは歩を進めた。



            見られた



そんな思いが、彼の胸の内にあった。
酷く恥ずかしくて、自分が情けない・・そんな思い。



            あの顔を、見られた



追いすがるトリスに、少し苛立ってしまった。



失いたくはないというのに


傷つけたくはないというのに


どうしてわかってくれないんだろう



・・・心配だというのに、どうして。



追いすがる妹。
それに小さな苛立ちが生まれ、苛立ちから過去が蘇り、
それがマグナには決して表に出したくなかった・・醜い表情を浮かべてしまった。



派閥で得た、人を突き放す表情



(・・みんな、驚いてたなぁ)



けれど昔は、ああいう顔ばかりしていたものだ。
周りの大人が憎くて、嫌いで、・・ネスティと師範であるラウルに会うまでは、ああいう表情を
露骨に出して大人たちからトリスを庇っていたものだ。



街の壊滅



連れてこられた蒼の派閥



叱咤にも近いいくつもの尋問と追求



・・そして、喋らなくなってしまった、妹



あの時のことは、今でもゾッとする。
人にはああやって壊れてしまう可能性がいくつもあって、心の底から嬉しく笑っていられることが
どんなに素晴らしいことか、嬉しいことか、幸せなことか・・思い知らされる。


ふと、一番前を歩いていたロッカが足を止めた。


「マグナさん」

「ロッカ?」

「前から歩いてくるのって、もしかして                 













何でなの



えぐえぐと嗚咽を零しながら、トリスは胸中に思う。



何で、置いていくの?



心配してくれるのはわかるけど



傷つかないようにしてくれているのはわかるけど




でも、置いていかれることが嫌いなこと、知ってるクセに            




むかむかが、胸のうちをこみ上げる。
苛立ちが、トリスの中を覆っていく。



置いていかれるのだけは



嫌なのに



あたしだって、さんが心配でたまらないのに



「お兄ちゃんなんか・・大嫌い!!!」


トリスはそれだけを思いきり叫ぶと、裏口からモーリン道場を飛び出していってしまった。
アメル達は慌てて後を追うが、トリスの俊足には付いて行けず見失って。

ミニスがあわあわと顔を青ざめながら辺りを見回して、ケイナにすがりつく。


「ど、どうしようー!トリス、見失ったわよ〜!」

「落ち着いて、ミニス・・取り合えずマグナ達の帰りを待ちましょう・・」

「でもケイナさん・・!」


泣きそうなアメルの肩を掴んで、ケイナは落ち着いた様子でアメルに言い放つ。


「・・アメル、あの子の事を心配して“ここに残れ”って言ったマグナの気持ちもわかってあげて」

「でも・・でもそれじゃトリスさんが可哀想です!」



どちらの気持ちも、わかってしまう



二人はお互いのことが心配なのに、傷つけたくないだけなのに



なのに今は、その気持ちがすれ違ってしまっている



「あたし・・探してきます!!」

「あ、私も!!」


ミニスも手を挙げてアメルの後に続く。
ケイナとモーリンはため息を吐いて、お互いの顔を見合わせた。

を本当に心配するトリスの気持ちも、マグナのトリスに対する気持ちもなんとなくわかっているから。


今まで黙っていたバルレルも不機嫌そうに口を開く。


「俺も行く、兄妹喧嘩なんかに付き合うつもりもねぇが・・あのニンゲンは一応俺の召喚主だからな」

「・・バルレルくん?」

「・・男の召喚師は別に死んでも構わねぇ・・・・だが女の召喚師に死なれちゃ胸くそ悪ぃんだよ」


アメル達は一瞬驚いた。
あのバルレルが酷く悲しそうな表情を見せて、苦々しくつぶやいたのだ。
何とも、バルレルらしくない。


「どうしたんだい?何か・・あったのかい?」

「ッケ!テメエには関係ねえだろ」


バルレルは吐き捨てるようにモーリンにそれだけを言うと、走ってトリスの後を追った。




頭が痛む


記憶の中の記憶が霞む


誰かが側にいるのに、見えなくて掴めない



ただ



その人物が、酷く温かい手を持った人物だということ以外は          




朝日が目に痛む。
気がつけばなんと          泣きそうになっているではないか。


(・・クソ)


思い出せないことが苛立たしくて、腹立たしくて、バルレルは走る速度をぐんと上げた。
往来での人々が”何事?”とでも言うように人ごみを駆け抜けるバルレルを見、仕事に
戻っていく。

平和な暮らしをただ過ごす、人々。
けれどそれは多分、幾人もの犠牲の上で成り立っているもの。



その犠牲の中に、思い出せない、温かな手の持ち主もいることを。



それだけは、わかっていた            













バルレルの背を見送りながら、ケイナはアメル達に向き直る。


「・・それじゃ、私達はマグナ達が帰ってきた時のために道場にいるわね」

が帰ってきたらアタシ達もトリスを探すのを手伝うよ、・・ファナンの街にはゴロツキが
たくさんいるから気を付けるんだよ」

「大丈夫です!」



いざとなれば召喚術でふっ飛ばしちゃいます!!(意気込み)



怖っ



モーリンはアメルの逞しさに眩暈を覚えながらも、マグナ達の帰りを待つため道場へ。
アメル達はトリスを探す為走ってファナンの街ヘ駆けて行った。

道場の門をくぐる際に、ケイナがポツリと呟いた。


「・・もトリスも・・早く帰ってきてくれると良いわね」

「そうだね・・そういえばさっき、バルレルの様子がおかしくなかったかい?」

「モーリンも気付いてた?」


モーリンは頷いて、バルレルの姿を思い出す。
いつも乱暴な彼が、あまりにも悲しそうな顔をするものだから何も聞けなかった。
モーリンは側にいるハサハの頭を優しく撫でながら、大きくため息を吐く。


「何だか、あいつにも複雑な事情があるらしいね」

「・・そうね」

「・・・みんな・・傷ついてる・・・」


突然喋り出したハサハに、モーリン達は向き直ってハサハを見た。
ハサハの言う“みんな”とは彼らのことなのだろうか?


「・・早く・・・・元に戻してあげなくちゃ・・じゃないと・・」



ハサハは、夢を思い出す



それは胸のうちにある悲しい気持ちを、ふわりと浮かばせる



恐ろしい夢



とても温かな人が、消えてしまった瞬間で



誰かと一緒に、たくさん泣いた



・・・ぼんやりとしか見えないその中で感じた、それだけは、確か



そこまで言ってハサハはピクンと耳を動かし、パタパタと入り口へ走って行った。
モーリン達も道場の入り口に走って追いかけると、マグナ達の姿があって驚いた表情を見せた。


「早いじゃないか!あんた達!」

「いや・・がすぐそこまで帰ってきてて・・それで・・」


マグナは暗い表情で事情を説明する。
やはりトリスの事が気になってしょうがないらしい。

後ろからがひょっこりと顔を出してケイナ達に頭を下げた。


「ご、ごめんなさいー!心配かけちゃって・・」

「無事で帰って来てくれて良かった・・けど・・トリスが・・!」
















「うそーーーーーーーーーーーーーーーーー???!」


事情を聞いて、あたしは思わず叫んでしまった。
その大声に側で袖を握っていたハサハは耳を抑えて首を振る。(ゴメンハサハ・・)


「トリスが出て行ったの?あたしのせいで?」

「違うよ、・・俺が悪いから・・」

「何いってんのよ!あたしに決まってるでしょ!!自分が悪いと言うネガティブ発言は
控えなきゃだめよ!!ってか、トリス達を探しに行くわよ、マグナ!!」

「・・でも・・」


あたしは落ち込むマグナに多少の苛立ちを感じながらロッカに手招きをする。


「何ですか?さん」

「ロッカ、ハリセン」


反射的にハリセンをあたしに渡して、あたしは渾身の力を込めて振り上げた。


「こんのヘタレ野郎ーーーー!!(スパーン!)」

「いてぇ!」


その光景を見ていたロッカは拍手した。



素晴らしいです、さん



褒めるな、馬鹿兄貴



ロッカに笑顔でギリギリと締められているリューグを尻目に、あたしは座り込んでいるマグナの前に
立って目線が合うようにしゃがみ込む。


「トリスが心配でしょ?一緒に探そう」

「・・・・」

「あたしが悪いもの、トリスを探してあたしに謝らせて。ほら行くよ!」


あたしとマグナの手を無理矢理掴んで引っ張って、道場を出てファナンの街中を走る。
走って休憩して走って休憩してとの繰り返しをして、夕方まで探したけど・・トリスは見つからない。


「・・と、トリスって隠れんぼは得意なほう・・?(汗)」

「ああ・・俺、鬼やってたけどトリスが掘った穴に引っかかって足を挫いた覚えが・・(遠目)」



穴掘る時点でかくれんぼじゃないよマグナ・・・!!



懐かしむように笑みを漏らしながら歩くマグナにツッコみつつ、あたしも彼の隣を歩く。
そういえばあたし、マグナの口からちゃんとした小さい頃の話聞くの、初めてだ。


「でも俺、トリスを怒れなかったんだよな・・、すごく可愛くてさ。大事でたった一人の家族だから・・」



だから穴掘ったことをネスに怒られて泣いてたトリスに、笑って頭を撫でてた



そう言って笑うマグナにあたしも笑う。
ネス、後でシメようかしら?(待て)

そんな事を考えていたら(逃げろ、ネス)、ベンチに座っているトリスの姿を発見した。
目元はもう赤くて、泣きまくった痕がある。

マグナは気付いていないようで、全然違う方向をキョロキョロと見渡している。


(ふむ・・・)


あたしはまたふと考え込んで、マグナにトリスがいるベンチの反対側に座ろうと勧めて、
わざと大きな声出した。


「あー!疲れたー!それにしてもマグナとトリスも喧嘩することあるのねー」


マグナはいつになく大声で喋るあたしに“?”と言うような表情をしながらも、コックリと頷く。
これでトリスはあたし達の姿を確認出来るわよね・・?(出来なかったらどうしよう!<超弱気)


「・・喧嘩する事だってあったけど、やっぱりトリスは俺の妹だから最後は護ってあげなくちゃ行けない
んだ・・トリスは俺の勇気だから」

「・・勇気?」


マグナは恥ずかしそうに笑って、夕日を見つめた。


「・・トリスが笑うと俺も嬉しくて、トリスが泣くと悲しい。昔、イロイロあったからさ・・
トリスの笑顔に救われてることって一杯合って・・励まされた事もあったんだ。
だから進めた、どんな事があっても」



だから俺の勇気なわけ



ニカっと笑うマグナにあたしは意地悪そうに質問する。


「・・たまーにさ・・誰かに妹馬鹿って言われない?」

「・・・実は・・ネスによく言われる・・(汗)」

「やっぱり?でもそこまで仲が良い兄妹って良いと思うけど・・そういう過保護はよくないわよ」


あたしはじっとマグナを見上げて言ってやる。


「ネスに大体話聴いたけど、マグナのそれは愛情じゃなくて、押し付けだよ。
・・この世界が危険な場所だっていうのはもう充分わかってる」

「・・やっぱり、これは押し付けかな?」

「トリスももう18歳なのよ?恋の一つや二つをさせてあげたり、もう少し行動範囲を広げてあげなくちゃだめよ。
窮屈過ぎてトリスだってちょっと苦しいだろうし、マグナの傍にいて、守ってあげたいとか思うはずよ」

「・・・・」


マグナはぼんやりと夕日を見つめ、目を閉じた。
ただ静かに、周りの喧騒に耳を傾けるように。


「・・見事なすれ違いだなぁ」

「そうね、見てるこっちはハラハラしてるわよ」

「うん、そうかも。・・俺も過保護卒業しなくちゃなー」

「・・・本当に必要だと思った時に、守ってあげなよ・・そういう兄貴もいいんじゃない?」


マグナが僅かに笑みを浮かべた。
それは夕日に照らされて、何だかさらに男前になったように、あたしの目に映る。(成長したわね・・!)


「うん、俺も努力するよ。









マグナの言葉にトリスはぎゅっと膝を抱えて、ぼろぼろと涙を零しながら、声を押し殺して泣いた。
周りでほとんどの人が驚いた顔で見ているけれど、まったく気にならなかった。

を探せなくて悲しかったけど、もっと悲しかったのはマグナに置いていかれたこと。
ずっと一緒だったから、どこへ行くのにも一緒に行きたかった。



派閥から旅立った時のように



置いていくのは、もう嫌だった



両親の時のように



置いて行かれるのは、もう嫌だった



マグナのの会話が、後ろかな耳に届く。


「トリス・・許してくれるかなぁ?」

「うん。きっと解かってくれるって!勇気の元はないけど勇気だせ!元気だせ!」


明るいの声と、バシバシという音が聞こえる。(多分背中を叩かれている音だ)
それにマグナのうめく声も聞こえて、笑った声も聞こえる。


「ほら!早く探すわよ!」

「え?!ちょ、ちょっと待って!・・もう少し心の準備を・・・(汗)」


慌てている声に、思わず笑いそうになった。
ここまで困っている兄を見るのも久しぶりだ。
といる時の兄は、本当にすごく楽しそう。


「野郎が女々しいことを言わない!男なら押して押して押して押し倒せ!!




押し倒してどうする(天からのツッコミ)




「うーん・・それじゃ、歌がいいな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「この前さ、トリスに歌ってただろ?俺、忙しかったから聴けなかったんだ。」

「・・(何で知ってる・・)あのねー、そんな上手じゃないんだけど・・」

「上手じゃなくて良いよ、聴かせて欲しい」


は少し黙って、静かに声を紡ぎ出した。
細くて透き通るその声はトリスの耳にしっかりと通って流れていく。



「一人ぼっちに気づいたとき
 涙あふれだして
 当たり前と思っていたあなたは
 ここにいない」


「素直になれなくて離れてしまった二人の距離
 ごめんねの魔法で
 ほらもとどおり
 近すぎてわからなかったけれど」


「こんなたいせつな二人の絆」


「楽しいときも
 哀しいときも
           二人はいつも一緒だから」



トリスはぎゅっと手を握って、俯く。
ほとんどマグナが謝って、自分が許すってパターンで仲直りしてきた。


でも今回は。


「お兄ちゃん」


トリスは立ちあがってマグナとの前に立つ。
マグナは驚いたような表情をしてトリスを見上げて、はニコリと笑って立ちあがる。


「あたし、ちょっと喉が乾いたからあっちいってくるね」


そう言って、走って向こうへ行ってしまった。
それにマグナは慌てて彼女を呼んだけれど、・・すぐにトリスに目を向けて、微笑む。


「トリス、ごめ       

「あたしは!お兄ちゃんと、色んな事をもっと一緒に見たいの!」


遮られて、マグナが目を丸くしてトリスを見上げた。
ベンチに座っているから自然とトリスのほうが高くなり、トリスの目には自然とマグナが低く映る。


「お兄ちゃんと、一緒に。・・・・・・・置いていかれるのはもう・・嫌だよ・・」



大事でしょうがない人だって

いつも護ってくれる人だって

解かってる

でも



置いて行かれるのはもう嫌だ




そこまで言って、トリスは顔を俯かせる。
マグナは強く握られたトリスの拳をそっと開かせて、手を繋いで。

とんと、トリスの背中を引き寄せて。


           うん」


静かな、肯定。
マグナの匂いに包まれながら、トリスは安堵するかのようにそっと目を閉じた。


いつも優しい、たった一人の優しい兄。




「・・ごめんなさい、大好きだよ・・」








二人はいつも一緒だから




だからこれからも、傍にいよう





貴方(君)は、かけがえのない家族なのです                










(うまくいったみたいねー、良かったー!)


あたしは別のベンチにペタンと座り込んで、買ってきたジュースを飲んで大きく息を吐く。
やっぱりあの二人は一緒にいなくちゃねー・・っていうか、寧ろいて欲しい。
そうすれば何よりも、彼ららしく映るから。


”ああ、これで安心して寝られる・・!”と喜んでいれば、誰かがあたしの目の前で立ち止まった。
それに顔を上げれば。


「あ」

「・・・ニンゲン?」

「バルっちー!(嬉々)」


タタタター(走る音)


ガシィ!!(しがみつく音)



「ただいま、あたしの癒し系2号おおおおおおおおおおおおおお!!!」

「抱き付くなーーーーーー!!」


バルレルの頬に頬擦りしながら、あたしはしばし悦に入る。
でもいつもバタバタと暴れるバルレルが、今日はヤケに大人しい。


「バルっちー?どしたの??」

「・・あのニンゲン達はうまく行ったみたいだな」

「あらら?心配してくれてたのね?優しいー」

「・・ッケ、勝手に言ってろ」


バルレルはあたしの持っていたジュースを引っ手繰って、自分の口に運び飲み干す。
ああ!あたしのジューズ代がああああああああああああ!!(泣)


「バルっちの悪魔!酷いー!あたしのジュースが!!こっちは走りまくって疲れてるって言うのにー!」


バルレルはあたしのジュースを飲み干して、ポイッとゴミ箱に捨てるとあたしを睨む。
ああ、マイジュース・・・(遠目)


「俺は悪魔だっつーの!・・・・それよりお前、どこに行ってたんだよ?」



ギクッ



「な、何の事かなー?(滝汗)」


とぼけたらバルレルはあたしをそこらの壁に押し付けて、逃げられないように囲む。
いくら小さくても彼は悪魔で護衛獣、当然力も強い。
ぎゃー!しまったー!!

バルレルが胸元に鼻を寄せた。(ヒィ!?)
それにニヤリと笑んで、あたしを見上げる。


「・・テメエの服や身体から血の匂いがする」

(・・血?)


あたしはハッとして先ほどのことを思い出した。

イオスやルヴァイド達の匂いがあたしに移ったんだ。
彼らの傷とも言える、血の匂いが。


「・・誰かを殺したわけじゃねえ、お前は人を殺せるような女じゃねえよ。
だとすると・・・殺すようなヤツと一緒にいたと言う事になる」

「・・・」

「この匂いだと気付きにくいが、じっとして一定の場所に留まってるとお前の護衛獣や
あの双子達は気付くぞ。もちろん、あのニンゲンや眼鏡もそうだ」

「・・そっか・・」



血の匂い

ただ一緒に居るだけで移るなんて悲しかった

自分に移ったのが悲しいんじゃない


ルヴァイド達がどれほど殺しているかって分かる事が、悲しかった



あたし達二人に沈黙が降りた。
周りでは先ほどと同じく、ざわざわと人々の話し声。

しばらくして、結構時間が経った気がする。

その間、バルレルは何も言わず、赤い、大きな瞳であたしを見つめて来て。
・・それにとうとう、あたしは白旗を振ったように大きくため息を吐いた。


「・・帰ってから、話す。それでいい?」

「本当か?」

「うん、あたしも逃げてばかりじゃ・・隠してばかりじゃいられないから」



少しでも、分かってもらいたい

ルヴァイドとイオスとゼルフィルドの事



今がその時なのかも知れない



あたしはバルレルに笑って、頭を撫でる。
バルレルは何も言わずあたしに撫でられている。


「なんか元気、ないね?」

「何でもねえよ」

「・・言いたくないなら、それでいいけど・・一緒に帰ろう?」


バルレルの手を繋いで、あたしは達は人ごみの中を抜けて、モーリンの道場に帰った。
その間はバルレルは手を振り払いもせず何も言わなくてただ無言。


(・・やっぱり何かあったのかな・・?)


でも聞く事はしなかった。
バルレルから話してもらう事を待つしか出来ない。
あたしが踏み込んじゃ行けない領域も、彼の中にあるから・・・





















「ただいまー!」


あたしとバルレルは道場から帰ってきた。
後からトリス達も帰ってきて、帰ってきたトリスにミニスが一番に飛びついた。


「トリスー!心配したんだよ?!」

「ご、ごめんなさーい!(><)」

「おいマグナ、もうこんな喧嘩なんかすんじゃねえぞ」

「うう、悪かったよ、リューグ・・・(汗)」


トリス達はみんなにもみくちゃにされて、それでも嬉しそうに笑う彼らに思わず笑みがこぼれた。
良かった、本当に。
すれ違ったままは、とても苦しいものだから。


         だから、本当に良かった。


ふと、あたしは仲間が皆揃っていないことに気がついた。
一人だけ、その場所にいないのだ。

ネスが、いない

心配しているはずであろう人がその場にいない違和感に、思わず首を傾げた。
そういえば、ここ最近彼はずっと部屋にこもりきりだったような・・?


「バルレル、あたしちょっとネスを呼んで来る」

「おう」


道場の通路を歩いて、割り当てられたネスの部屋に辿り付いて、木製の扉をコンコンとノックをする。
けれどネスの返事はなくて“?”と、また首を傾げてしまった。


「ネス?入るよー?」


キィと扉を開けると、窓が開いているのか、カーテンが穏やかに揺れていることに気がついた。
紺と紅のグラデーションがかかっている時刻なので、部屋の中も少し冷えてしまっている。

ベッドにはネスの姿がなかった。
”泥棒入ったらどうすんのよ・・”と考えつつも、あたしはまず窓を閉めて辺りを見回す。


辺りは、暗い。


比較的明るい窓辺の傍に設置されている机に視線を映すと、見慣れない紙袋が目に入った。


(・・?)


見慣れないそれを思わず手にとって眺めて、シールをはがして開封する。
その中には使用済みの薬の入っていたケースが入っていた。


(・・これって・・)


ネスの、薬?


中は全部使い済みで他に薬なんてなかった。
バサバサと袋を逆さにして振っても、何も出てこない。


(まさか、ネスの体調が悪くなったんじゃ・・・!)


あたしはゾッとして、慌てて外へ出て皆に知らせよう袋を机に置いて、
小走りに部屋を出ようと、扉のドアノブに手をかけて開く。


ダ ン ッ ! !


開けようとした扉が、後ろから伸びてきた何かに再び音を立てて閉じた。
あたしの顔の横に、白い指先が見える。

後ろを向くと、額に汗を浮かべ呼吸を乱しているネスティが立っていた。(ど、どこから・・!?<滝汗)


「・・ネ・・」

「・・っ・・ぐ・・!」


ネスは扉に背をつけて、その場に座り込んで胸を抑えてうめき声を上げた。
・・さっき見当たらなかったのは、床に座り込んで気絶でもしていたのだろうか?


「ね、ネス・・!しっかりして!胸が痛いの?」

「・・・・頼む、トリス達には言わないでくれ」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!汗もスゴイ出てる・・・着替えなきゃ」

「触らないでくれ!」


バシッ!と、払いのけられた。
あたしはネスの声に肩を震わせて、彼の身体に伸ばしかけた手をしばし空中にさ迷せて、そっと下ろす。
ネスはそれにはっとしながらも、あたしから視線を外して謝った。


「・・すまない・・でも・・着替えは、いい」

「・・と、とにかく横になって・・ホラ、しっかりしなさいよ」


あたしは足をふんばりながらネスの身体を支えて(コイツ、重っ!)、フラフラしながらベッドに運ぶ。
彼を横にさせた後、薬の入った袋をもう一回覗き込んで薬が余ってるかどうか確認するけど、やっぱり
全然入っていなかった。


「・・どうしよう・・このままじゃ・・(汗)」


ネスを見ると苦しそうに呼吸をして、胸元を抑えている。
あたしはネスの部屋中を探しまわって薬がないか調べたけれど、やっぱりなかった。
よ、予備薬とかないんか!!(ツッコまずにはいられない)


「ネス、薬はもうないの?」

「・・・・ない・・・っ・・」



ぜ、絶望・・・!!(汗)



「本当なら、派閥からとっくに支給されていたはずなんだが・・」

「?」

「・・・・・・・・・」


それきり、ネスは黙ってしまった。
何か、いいにくいことでもあるらしい。
ネスが口を閉ざしてしまうなら、あたしは何も出来ない。


(いや待て待て、考えろ、考えろあたし・・!)


あたしは目を瞑って必死に考えた。
サモンゲームの内容をよく思い出して、何か出来るように考える。

医者はだめだ。
ネスが絶対、召喚術使ってでも拒む。
彼の身体が普通の人間のモノとは違うから・・・ネスは、それをすごく気にしているから。



でもこのままだと、絶対ヤバイことになるというのはわかりきっている。











「派閥」


口から出た言葉で、あたしは思い付いた。
ネスを助けれることが出来るであろう、唯一の方法を。


「ネス、マグナ達に言うわ」


ぐったりとしていたネスの腕が、がっ!とあたしの腕を掴んだ。
それは強く、強く・・鋭い目で、あたしを見上げている。

掴まれた腕が痛いけれど、あたしは言葉を続けた。


「あんたが何と言おうと、知ったこっちゃない」

・・!」

「あたしは、あんたに死んでほしくない」


あたしの言葉に、ネスの目が驚くように見開いて、掴まれていた手が・・・緩んだ。


「派閥から支給されていたものだったなら、何かの理由で送ってこなくなったって言うんだったら
取りに行くまでよ」


あたしはネスの手を握って、もう片方の手でそっと彼の前髪を掻きあげてやる。
いつも冷たい彼の体が、今は異常に熱い。




「・・あたしが、薬を貰って来てあげる」









世界はその時、完全なる夜と化した              








NEXT






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*後書き*

第31話をお届けさせて頂きました。

イオスファンの方々、申し訳ございません。
キス魔説浮上でゴザイマス

あああ!サモナイト石投げないで!!(無理だろ)

でもうちのイオスって・・本当にそんな説がでるほど・・キスしてます。(瞬殺)
ってか、うわぉ、ホスト超萌え!!
イオスがネクタイしめてー、スーツ着てー、「よく来たな」なんて言われたら

逝きマス。(私が)

しゅ、瞬殺モノダー!!
る、ルヴァイドでも可!寧ろ来い!(落ち着け)


ってか、全員来いや。(刺)


イオスは好きな人に甘えそうだという私の超私的妄想オンリー論が混ざっているのです。


気分的にはドリ主のファーストキスは最後まで取っておこうかなと思ってます。
やっぱり最終的のお相手の為に取っておいてあげなくては・・2番目というのは可哀想過ぎるので(笑)


トリス&マグナのお話・・・こんがらがってます。(私が)
分かりづらかったと思いますが目を瞑ってやってくださいませ。
もう直す気力もありません。(沈)

でもどんなに仲が良くても喧嘩はすると思うのですよ。
兄妹ってそんなもんです。


あと主人公が歌っていた歌は<水無月 ひすい様>からの歌ネタ提供です!
ありがとうございましたあああああああああああ!!!

ではコメント・・・。


ゲーム名は日本一ソフトウェア様の<リトルプリンセス〜マール王国の人形姫2〜>で、
曲名は<二人はいつも一緒だから>です。2部合唱ですが、一人でも歌えます。
<クルル>と<クレア>はこの曲を歌っているキャラです。
一応歌詞をそのまま写しました。これが元になってどんな素敵な話が出来るかが楽しみです。



すいません!素敵話じゃなくてえらく変話です・・(吐血)
でもでも本当にありがとうございました!!この二人の喧嘩話も書いてみたかったのです!!


それではここまで読んでくださった方に、最大の感謝を。


2002.1.22

2004.1.17