第30夜







・・・               、?





ふと気がつけば、あたしはその世界にいた。
以前トリスとマグナ達の小さい頃の過去を見せた・・真っ暗で、寒い世界。


(あれ?あたしイオスと話をしてなかったっけ?)


そう考えて記憶を探る。
ああそういえば、雨が降ってきたから雨宿りついでに一眠りをしよう〜とかなんとか言って、
イオスを隣に座らせて、ルヴァイドを膝枕にした状態のまま眠っちゃったんだっけ?(ルヴァイドは起きなかったのだ)



あたしは自分の身体を見た。
この間は裸(ハダカ!<泣)のようなものだったけれど、今回はキャミソールにミニスカートで、なんだかクラスチェンジ(というのか疑問だけど)している。
いやまぁ裸よりはずっとマシなんだけどね!

”しかし今度は一体何が?”と首を傾げれば、ぽつりと小さな光が鼻先に触れた。
少々驚きつつも見上げれば、そこでようやく光が降り注いでいることに気がついた。


(あの光だ)


それはトリスとマグナの世界でも、唯一温かかった光。
温かいそれは暗いこの世界に満面なく降り注いでいて、とても綺麗だった。


だけどそれは魅せられると同時に悲しいモノだと思わせる。


(ああ、これは合図だ)


何の合図か、わからない。
けれどあたしはそう思った。

それは始まりを告げる、光なのだと。


全身に光を浴びていれば、何だか眠くなってきた。



(夢の中でさらに眠るなんて、ヘンなの)



そんなことを考えながら、あたしはそっと瞼を伏せた                  


















・・しばらくして、ふっと瞼を持ち上げた。
目を開けたのに、視界は真っ白になっていた。
けれどそれは勘違いだとすぐにわかった。


(あ、違う・・雪だ)


目の前に広がるのは白銀の世界で、あたしは思わず感嘆を漏らした。
ここまで見事な雪景色も、そうそう見られるものではない。
あー!カメラ欲しいー!!(そして激写ー!!)

けれどもあたしがそこにいないことを証明するかのように、息を吐いても白くならない。
キャミソールでも全然寒さも感じなくて、足元の雪に手を伸ばせば、するりとすり抜けてしまう。


(ああやっぱり)


切なさのあまり思わずため息がでた。
触ることが出来ない=せっかく可愛いものを見つけても思い切り触ること撫でることが出来ない、というわけでもあるのだ。
ギャー!切な過ぎて死んじゃうよーー!!(泣)←泣く論点が間違っている


(あんまりだわ・・!あんまりだわ神様・・!ウサギは一人じゃ生きられないのと同じで、
あたしも癒し(と書いて愛と読む)がなくちゃ生きていけないのに・・!!)



ウサギに失礼だ



・・・・・とにかく、ここでも嘆いていても仕方がない。(脳内に焼き付けてやる・・!<決意)
周りをキョロキョロ見渡すと、一匹の白いウサギを発見した。

白くてモコモコしていて目はまんまるで、あたしは思わず可愛いそれに近寄って行く。


(ウサギ・・今夜はウサギ鍋ね!(キラーン))


考えたその瞬間、ウサギは何かを感じ取ったのかマッハで逃げて行った。(あ!)
それに一瞬呆然としてしまったけれど、すぐに“さすがは動物の勘ね!”と闘志を燃やしながら銀色の大地を踏みしめて、あたしはウサギを追いかけた。(本当は冗談だけどね!食べられないってば!)

だがそれでもウサギはウサギだった。
その脚力を見事に使い、雪の小山に消えていく。
ああもう速い!さすがアニマル!!


追いかけるのを諦めて、あたしは再び周りを見渡して少し歩く。
雪を踏みしめている音もなく、疲れも何も感じない。


(どうなってるのかなぁ・・って、あ)


少し向こうに、街らしき建物が見えた。
それは威圧感を醸し出す灰色の壁に囲われていて、その威圧感にあたしは聖王都・ゼラムの城門を思い出してしまった。(あれは白い壁だったけどね)



それにしてもこんな大きな街なんて、ゼラムの他にあったかなー?



呆然とその建物を見上げると、それはどこか重々しい空気を漂わせていて。
よくよく見て観察をしていれば、”要塞”という言葉が頭に浮かんだ。
どっかで見たなーと思ったけど、戦争とかでもよくあるらしい防護壁ってやつ?


(・・雪に包まれた、街・・・・・?)


ふっと思い浮かべるのは、ルヴァイド達の顔。
雪国生まれの彼らデグレア軍。(雪国美人って彼らのことよね!まさに!)
あたしの知ってる限りでは、リィンバウムでの雪の国なんて断崖都市・デグレアしか思いつかない。




あたしは門に近づいて、固く閉じられているそれを息を呑んで見上げた。
いやはや、やはりこうもぬぅぅぅんと閉じられてたら怖気づくっていうかなんていうか・・。(汗)
これじゃー蹴りでも無理よねー・・ううむ・・。


取り合えず、何事もチャレンジ精神が大事である。
あたしは扉に手を当てて思いっきり押して見ると。



シュルンっ 



透りぬけて



 ボスッ!



勢いつけすぎたのかそのまま雪にのめり込んでしまった。
触ることは出来ないけれど、埋まることは出来るという。
・・何でこんな微妙設定なのよこの世界か・・!(どうせなら触れる設定にしてくれたって・・!!)


(っていうか、ダサーーーーーーーーーーーーーーー!!!(超恥))


がばっと顔を上げて身体を起こし(雪まみれにならなくて良かった!本当に良かった!!)、
キョロキョロと周りを見まわして、人がいないことを確認すると慌ててと立ちあがる。
あっはっはっは、目撃者ナーシ!



あたしは慌ててその場を離れて、街の中の、大通りらしき場所へと踊り出た。
驚くことに、その大通りは人が多かった。
賑わいがあり、華やかさもあり、一見すれば普通の、繁栄している街である。


・・・・・・・・・・?


けれどあたしは、その人の群れの中で、何かが引っかかった。
違和感。そう、違和感と呼べばいいのだろう。



笑っている人が居るのに、話をしている人がいるのに。


                何故か皆、同じ顔に見えるのは何故?



(静かだ)



賑わっている。
華やかだ。

けれど、どこか静かなのだ。




静か、過ぎる             




不気味さが、ゾッと背筋を逆立てた。
賑やかで、華やかで、けれどどこか静か過ぎて、・・下手すればホラー映画のセットよりも怖い。
いや、怖いのは当たり前だろう。



彼らは本当に死んでいるのだから。



(死人兵を無理矢理笑わせたら、こんな感じかしら・・)


空っぽな笑い方だ。
これはこの国で唯一生きている人を騙すための、嘘の街並みだ。


後ずさりをして、ここではないどこかへ行こうと視線をめぐらす。
けれど偶然、その中の住人の一人と目があった。


見えるはずがないのに、目があったような気がした。


そして見えた瞳の奥は            



(・・っひ・・!)



瞳の奥は虚ろで、とてつもなく暗くて深い。
一見すれば生きている人間、けれど瞳は死人の瞳だ。
この国は、レイム達悪魔に一番に乗っ取られ、死んでしまった国なのだと改めて感じた。

聖女を巡る戦いの、一番の、被害者達。



あたしは目を閉じてその場を走った。
身体が透明なお蔭か、人とぶつかることもなく壁にぶつかることもない。
偽りの住人が雪をザクザクと踏みしめて響かせるその足音すら恐怖に感じて、あたしは
耳も抑えてひたすら逃げ続けた。



怖い



ここは怖いトコロ



死んでしまった街



どんどん壁を擦りぬけて、がむしゃらに走りまわって目を開くと。
目の前には、街とは違う作りの大きな門が佇んでいた。

いかにも本に出てきそうな・・城、と言うやつである。

この中もまた静か過ぎて、怖い。


あたしは思わず方向転換をするが、門の入り口で一人の男が目に入った。
赤紫色の髪をもった、大柄でガッチリとした体格の騎士。
その顔はその雰囲気はルヴァイドを思わせる。


(・・って、ルヴァイド?!)


あたしは声をかけた。
っていうか、何故彼がここに!?!とそれだけしか浮かばない。

けれども男はあたしの声に気がつかぬように、誰も触れることがない、気付くことがない
あたしの身体の中を見事に通り抜けて、そのまま城に入っていった。
その背を見届けながら、あたしは考える。
真正面から見た彼は・・・ルヴァイドじゃなかったのだ。


けれどもルヴァイドと、とてもそっくりな人。


・・・いや、ルヴァイドが彼に似ているのかもしれない。




・・・・・・・・まさか


ルヴァイドのお父さん?




そんな答えが頭をよぎって、あたしは彼の後を慌てて追った。
ガチャガチャと鎧や剣の音を城内に響かせながら、この静寂も臆することなく進む騎士。
ああ!なんかスゲェかっこいい!!(萌)

彼はとある一室の前に辿り付くと、険しくしていた表情を緩ませて扉を叩いた。
しばらくしてからバンっと出てきたのは同じ赤紫色の男の子。


「父上、お帰りー!」

「今帰ったぞ、ルヴァイド」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




(はい?)


あたしは首を軽く捻った。
当の子供は父親らしい彼に頭をぐしゃぐしゃと撫でられて喜んでいる。
その姿はとてつもなく幸せそうで。
でもあたしは床に膝をつけ、ダンダンと床を叩きながら心底悔しがった。



ぐぁー!もう旦那でしたか?!売約済みでしたか?!謎の貴方!!


(心底)ざーーーーーーんねーーーーーーーーんんんん!!!



「父上、手が冷たい。早く入って温まろう?」

「・・そうだな、ルヴァイド」



ってか、その子供がルヴァイド?!

うわー!めっちゃ可愛いいぃぃぃいいぃいぃぃいぃぃいぃぃ!!!!(悶絶)

あのルヴァイドにこんなラブリー時代があったなんて・・!(失礼)



あたしは悶えながら、ジッとミニ・ルヴァイドを見る。
あたし的推定年齢約12歳、少年から大人への階段を上がりつつあるその体つき。
微妙にゆるやかなカーブがかかっている短い赤紫色の髪。(父親似なのね・・)



お父様、いえ、お義父さん。



あたしに息子さんをください(願)



美味しいぞ、チクショー!と萌えてるあたしの思考は置いておいて・・(置くな)
あたしはルヴァイド(ミニ)達が入った後、こっそりと後についてお邪魔する。

部屋の中を見まわすと綺麗な絵や、大きな花が飾られていて。
思わずボーゼンとしていたら、奥から長くて綺麗な黒髪を持った女の人が
出て来て、ルヴァイド達に微笑みかけた。


「お帰りなさい、レディウス」

「ああ、具合は大丈夫か?」

「ええ、何だかすごく気分がいいわ・・貴方が持って来てくれた薬のおかげね」


二人はそっと笑い合って、お互いの頬に口付けし合う。
おおおおおおお、大人!!ってかラブラブですねー・・・ルヴァイド(ミニ)なんか
目を抑えて照れてるよ・・・(可愛い奴め・・vv)


「ち、父上!母上!///」

「ふふ、それじゃ今お夕食を持って来るわね」


ルヴァイド母(名前知りてー!)が奥へ戻って行って、ルヴァイド達はソファーに座り込んで
談笑し合う。
それは本当に幸せそうで、ルヴァイドの表情も生き生きとしていた。


「父上、母上の病気が治ったらどこかへ出かけよう!
そうすれば母上はもっと具合が良くなるだろうし!」

「お前は優しい子だな、いつも母さんを気遣っている」


レディウスはルヴァイドの頭を優しく撫でて、笑う。


(・・あれ?)


あたしは何かの引っかかりを感じた。
笑っているのに・・どこか暗い表情、そして何かを思いつめているような・・そんな表情。


「お前が大きくなって大切な人を見付けたら、その人を大事にするんだぞ?
お前を心から愛してくれる、お前が心から愛せるその人を。
・・私はルヴァイドに誰よりも幸せになって欲しい」

「・・・・・・・・・・父上?」

「さぁ、ルヴァイド。母さんの手伝いをして来てやりなさい」

「?・・はい!」


トタトタと走り去るルヴァイドの姿を愛しそうに見つめて、レディウスは腰に下げてあった
剣を鞘から抜き、その刃に自分の姿を映し出す。
鈍い光を放つそれは、ロウソクの炎に照らされて妖しく揺らめき、レディウスは目を
閉じ、静かに呟く。



「・・この剣にかけて、家族を護る」



それは重く、誰にも揺るがすことの出来ない決意。



「私達を見守っていてくれ・・            我が友、アグラバイン」



あたしはそれを、隣で聞いていた。
アグラバイン。
それはアメル達の育て親である、・・獅子将軍・アグラバインのこと。
彼とレディウスは親友で、この国のために戦っていた将軍達。


・・けれどアグラバインは禁忌とされている森に調査に向かって重傷を負い、
助けられたアメル達の村で生きていくことを決め、この国には帰らなかった。


彼が生きていることを、レディウスは知らない。
きっと      死んだと思っている。


レディウスが呟いた言葉。
その言葉に現れている意思を見て、あたしは思わず叫んでしまった。


(だめよ!レディウス!!)


だけど声は届かない。


(死ぬんだよ?!あいつらと戦おうとしたら・・・貴方は死ぬ!
そうしてルヴァイド達が悲しむんだよ!!?だめだ!だめだよ・・・!!)



悲し過ぎる



哀れ過ぎる



止めたいのに、言葉が伝わらない



届かない事がこんなにツライなんて



(・・っ・・レディウス・・!)


レディウスは剣を見つめて誓いを立てる。
それは愛する家族のため。


「・・アグラバイン・・帰って来てくれたのがお前ならまだ何とかなったかも知れんな」


レディウスは再び目を伏せて、穏やかに笑う。


「だが私一人でも、ほんの少しの可能性に賭けてみたい。
あの召喚師達を倒せたら・・この死んでしまったデグレアの国は息を拭き返し、またあの
活気のある国に戻るかもしれんのだ。
そうすれば・・ルヴァイド達も幸せになれる・・・」

(レディウス!)



              逃げてばかりでは何も変わらないのだ」



あたしの頬に、涙が伝う。

彼の言葉が心に響く。

戦う事を、傷付け合わないようにと願ってばかりいたあたしに、大きな波紋を揺るがせる。


「・・デグレアの国も民も、家族も、愛している。だから、救いたいのだ」


ぎゅっと剣を掴んで、レディウスはきつく目を閉じた。
彼も恐れているのだろうか。
訳も分からず現れた、あの4人の存在を。


国を乗っ取った、影の支配者を。


「私に、立ち向かう力をくれ            アグラバイン」


(・・レディウス・・)



怖いよね

レディウスも人間だから、怖いよね

でも戦うんだ

壊されたくないから


でも


あたしは知ってる

立ち向かうと、彼はこの世界から去ってしまう

ルヴァイド達を置いて・・               



あたしはレディウスの手にそっと自分の手を重ねた。
彼のぬくもりも、感触も、何も感じないけれど。

そっと、彼のためだけに祈った。



貴方は死んでしまう



死んでしまうけれど



あたしは、貴方の意思を受け継ぐから



だからあたしに貴方の勇気をください



貴方の立ち向かう力をください



あたしも、護りたい人達がいるから



             貴方と、同じ



「父上?できたよー!」

「ああ、今行く」


鎧を脱いで、レディウスはリビングに向かった。
あたしはその背を見送って、彼の剣にそっと触れる。


(・・この剣・・)


見たことがある作り
以前、駐屯地で治療している間に見せてもらったルヴァイドの剣と同じ・・ルヴァイドと同じ剣だ


あたしはふっと目を閉じて、剣の鞘を抱きしめた。



いつかきっと


貴方の意志と意思も


全て受け継がれるでしょう


国を愛するという想いも一緒に



全て



全て




貴方の愛しい子供へ





















世界はとうとう夜へと姿を変えて、月が上空に穏やかに浮かぶ。
その月に照らされながら、レディウスは入り口で妻と向かい合っていた。

一方、あたしは多少ドキドキしながらもその光景を見守る。
ルヴァイドって、美形家族なのね・・(遠目)


「・・レディウス」

「行ってくる」


一言、だった。
それに涙がほろりと、彼女の少しやせた頬に流れ落ちる。


「・・私は貴方を・・愛してます、無事で・・戻って来て欲しい。・・でも」


レディウスは言葉の続かない妻の身体を抱きしめて、その黒髪をそっと撫でた。


それが最後とだというような、そんな抱擁を。


先ほど“可能性に賭ける”と言っていたけれど、自分が死ぬことはどこかでわかっていたのかも知れない。
騎士の勘が、そう告げているであろうか。


「貴方は、私の誇りです、ルヴァイドにも・・きっと」

「・・すまない、幸せにしてやれなかった」


彼女は、微笑んだ。
それはとても穏やかで、彼の言葉を否定する。


「そんなことありませんよ。
私は病気持ちだったけれど・・貴方に愛されて、ルヴァイドが産まれて」


彼女が手を伸ばしてレディウスの頬に触れ、その頬に軽く口付ける。


「本当に、幸せだったのよ」


レディウスの表情が歪んだ。
ただその言葉に言い表せない何かが胸の内に溢れたのか、ぎゅうっと細身の彼女を抱きしめて。

強く、強く抱きしめて。


              私もだ」


そう、告げて。
唇に口付けて、レディウスはそっと彼女の身体を離した。


「私も、             幸せだった」


それが、最後の言葉だった。
それを彼女に告げてから、彼はそのまま背を向けて部屋を出ていく。

あたしも慌てて後を追い、走って部屋を出た。
出る瞬間、少し振り向くと。


(泣いてる・・・・)


ルヴァイドのお母さんは、背後の月の光に照らされながら涙を流していた。
止めたかっただろうに。
国を捨ててでも、彼女は彼が向かうことを止めたかっただろうに。


けれど止めなくて。


ただ、彼の背を押して。


その立ち姿は本当に美しく、気高くて。
レディウスの背に視界を戻しても、その姿は焼き付いて離れなくて。
ほんの少しだけ、彼女になりたいと思ってしまった。


(ああでも、あたしは彼女になれないや)


思い返して、そんなことを思ってしまった自分に呆れた。




きっとあたしは、一緒に行くと言ってしまうのだろう




隣に立って、どんな場所でも踏み込もうとするかもしれない





置いていかれるのは、何よりも嫌だから





(でも、彼女みたいに支えてあげたいな)





どんな時でも微笑んで支えて




けれど悲しい時は一緒に泣いて




そして戸惑う背中を、押してあげる







そんな人に



















レディウスは、真剣な面持ちで扉を開けた。
ゆっくりと開くその扉の先は、天井が高く、幅も広く、どこかの王室のような印象を醸し出す。
入り口から続く、金糸で模様をちりばめられている赤い絨毯は真っ直ぐに奥へと伸び、
その先には              


「どうしたのですか、レディウス」


聞き惚れてしまうような声が、玉座の隣に流れるカーテンの向こうから響いた。
それにレディウスは唇をぐっと引き締めて、真っ直ぐに無人の玉座へと歩を進める。


「こんな夜更けに、何かあったというのですか?」


再度、カーテンの向こうから声がした。
レディウスはそれに答えず、無言で玉座へと歩き続ける。
そんな彼の目の前に無人の玉座の傍らに控えていた人物・・・・キュラー、
ガレアノ、ビーニャが一歩進み出て、蔑むように薄く笑んだ。


「答えろ、レディウス。・・レイム様が問われておるのだぞ」


レディウスは返事の変わりに、剣の柄に手をかけた。(ってか、さっきのレイムの声?!マジかよ!!<汗)
そしてそのままシュッと、鞘が刃に擦れる音と共に抜き出しつつも少し高い段にいる彼らを見上げて。


「お前達を倒しに来た」


構えて、低く呟いた。
それにキュラーも、ビーニャも、ガレアノも、堪えきれないとでも言うように笑い声を含みながら、
レディウスに言い返す。


「ほう?たった独りでか?カカカッ」

「デグレアの国を、これ以上貴様達に好きにはさせん!」

「ックックック・・何をおっしゃるかと思えば・・どうしますか?レイム様」


その言葉と同時に、カーテンが小さく揺れた。
同時にあたしの視界に、銀色の髪が眩しく映る。


・・・・・・けれどその髪は、見慣れている長さではなく・・短くて。


服装もまともな召喚師の服装で、一瞬”人違い?”とあたしは目を丸くした。



・・・・・・・・・・・・・っていうかオイ


あんたもう別人じゃねえか



(うああああ?!な、ななな何であんな普通にカッコいいの?!
つかもう何でマトモな服からあんなハートが多い服を着るのさ!
寧ろあの服はどこで買ったんだっつーの!ってか、手作り?!<なお悪い)


あたしのブーイングには当然気付かず、現れた短髪レイムは手に持っていた分厚い本を閉じて、
ゆっくりとレディウスにへと顔を向ける。

そして、穏やかに笑いかけた。


「邪魔ですね」


サラリと、言い放った。



ド ッ !



(え・・?)


隣から、あたしの耳に嫌な音が届いた。
何が起こったかわからずに隣を見れば、すぐ隣で剣を構えていたレディウスが後ろに吹っ飛んでいる。

その胸には、分厚い剣と、鋭い槍がいくつも貫いていた。

             召喚術、ダークセイバー。


(・・あっ・・!)


どさっと、大きな身体が絨毯の上に倒れた。
あたしは崩れ落ちた彼の身体を抱き起こそうと手を伸ばしたけれど、無情にも擦りぬけてしまって。
彼の貫いた剣も、掻き消えて元の世界に送還される。

全てがスローモーションのように流れて、ゆっくりとあたしの中に残って行く。


(レディウス・・!)

「私がじきじき、貴方の相手をすると思いましたか?」


穏やかに、まるで聖人のように微笑む彼の手には、紫色のサモナイト石もあった。
それはもうすでに光を放っておらず、ただの石となっている。


(レディウス!レディウス!!)


あたしはレイムの言葉を聞き流しながら、必死でレディウスを呼んでいた。
少しでも、あたしの声が届いたなら。
それに気がまぎれ、彼が少しでも生きていてくれればと・・あまりにも、無意味なことを考えながら。


「父上ぇ!!」


あたしの手より一回り小さい手が、あたしの変わりにレディウスに触れた。
それは何時の間にか後を追ってきていたのか、息子のルヴァイドの手。
冷たくなって行くレディウスの手を握り締めながら、彼を呼ぶ。


「父上!父上!!」

「・・ルヴァ・・イド・・・?何故・・・・」

「父上・・!死なないで・・・!!」


驚きの色を秘めた瞳が、優しい物へと変わった。
懸命に握ってきているその手をか弱く握り返して、言葉を出す。


「・・お前を・・愛してくれる人・・会って、話を・・・・」

「父上!」


虚ろになりつつある瞳が、ルヴァイドから天井へと映り。
彼を上から見下ろしているあたしを見つめる形となる。


(レディウス・・!)


あたしは彼の顔を覗き込んで名を呼ぶ。
それしか、出来ないから。


「愚かな私のために・・泣いてくれるか・・・」


レディウスが、微笑んだ。
それはルヴァイドに言ったのだろうけれど、あたしにも向けられているような錯覚を起こして、
あたしはもう一度彼の名前を呼んで、涙を零した。




死ぬとわかっていた人だけど


やっぱり悲しい


いなくなってしまうのは


苦しい




「・・ルヴァイド・・を、頼む・・」


・・それは、誰に告げた言葉だったのだろう。


それを最後にルヴァイドの手に握られていたレディウスの手が、力なく落ちた。
それにきょとんとしたのはルヴァイドで、何も言わなくなってしまった父親の身体を懸命に揺らして、
何度も何度も、父を呼ぶ。


「父上・・!・・父上ぇ・・!!」


泣きすがるルヴァイドの前に、レイムは静かに立つ。
それをビクリと見上げるのはルヴァイド。
そんな彼を、レイムはただ静かに見下ろして、告げる。


「元老院議会代理人としての私に手をかけようとしたことは重罪です。
レディウス将軍、そしてその一族は重罪人として扱わせていただきます」


レイムはそれを告げると、そのまま身を翻して部屋を出て行った。
出て行くと同時に、その場に残っているキュラーたちを一瞥し。


「その男の死体は処理をしておいてください」

「了解しました」


レイムの姿が、消えた。
それと同時にキュラーがパチンと指を鳴らせば、ガシャガシャと重たげな金属の鎧を着た
兵士達が数人現れ、レディウスの遺体を担架に乗せてどこかへ行ってしまう。


「やめろ!やめろよ!!」


幼い子供は、動かなくなった父親が運ばれていくことに不安でも覚えたのだろうか。
必死に兵士達に追いすがるが、突き飛ばされて絨毯の上に叩きつけられる。


「っやめろよぉ・・!              父上を返せ!!!」


レディウスの剣が、小さな彼の手に握られた。
けれどその重みで振り回すことが出来ず、ただ持ち上げることしか出来ない。


「・・・っ・・!!」



きっと、彼には絶望的な重みだ



大人になって、剣の訓練さえすれば持ち上げられる、父親の剣



・・・・けれど今の少年の彼には、絶望だけの重み



悔しさに、ルヴァイドの目に涙が溢れ出てきていた。
父親を守れない悔しさか、それとも子供な自分の悔しさか。

兵士達が出て行った方向とは逆に、彼は剣を抱え、走って部屋を出て行った。


(ルヴァイド!!)


あたしも慌てて彼の後を追った。
出て行く直前に一度キュラーたちを振り返れば、彼らはやっぱり笑ってる。(いつかボコり決定!)


(いつか見てなさいよ!その笑ってる顔、思いっきりつねってやるんだから!)


心の中で毒づきながら、あたしはルヴァイドを追いかけた。
小さな子供の足だからすぐに追いつける・・・なんて思っていた自分だったが、これが意外と、追いつけない。
ルヴァイド・・・運動神経良かったっていうか、足はやいよ・・・!!(泣)




彼はずっとずっと走って、街を抜けて、城門を出てもまた走る。
外へ出てもまたさらに白銀の世界を駆け抜けて、いくつもの雪の小山を超えて、
そして疲れのためか足がもつれて派手に転んだ。(ああやっぱり!)


「っ・・・・・」

(大丈夫?!ルヴァイド!!)


あたしが彼の肩に触れようとする。
けれどそれはやっぱり、すり抜けて。



すり抜けていくそれに、今度はあたしの顔が泣きそうに歪んだ。




ああ、まただ



あたしはまた




見ているだけしか出来ない            




ルヴァイドが、堪えきれなくなったかのように・・空に向かって泣き叫んだ。
それは思わず、あたしの肩がびくりと震えてしまったほど。


それほどの大声と。


それほどの悲しさの響きと。


まるで、弱い自分を後悔して、責めているかのような          


(・・リューグと、同じだ)


リューグも、守れなかった自分の弱さを悔い続けていた。
今も、いつも、悔い続けて、自分を責めて。
少しでも少しでも、強さの高みに上ろうともがいて。

彼は、泣き叫んだ。
これ以上泣く事が出来ないように。
これ以上泣かないように。

”涙は泣き続けると出なくなる”という言葉がある。

彼はこれからのために、涙を枯らすつもりなのかもしれない。
これから自分が歩む、その道のために心をも捨てるつもりなのかもしれない。


そんな彼の姿を見るのは、酷くツラくて。



(・・ルヴァイド・・)



“・・ルヴァイド・・を、頼む・・”



              うん)


あたしはそっと、雪の大地に膝をついた。
泣き叫んで疲れているはずだろうに、まだ嗚咽を零し続ける少年の肩に手を回す。

触れられないけれど、そういう仕草をすることは出来る。

剣を抱きしめて、泣き続ける少年。
そして騎士となった今も、ずっと歩き続けているあの人を抱きしめるように両手を回した。




国を思って、家族を想って逝ってしまったレディウス



貴方のしたことによって、残った彼らは蔑みを、非難を、罵りを受け



そしてとうとう、お母さんすらも亡くして



ルヴァイドは何もかもを信じられなくなってしまう



・・そんな彼が生きる道として選ぶのは



自分の優しい心を殺して、汚名返上への道で




長い間受け続けた蔑みによって、人を信じられなくなってしまった彼が



誰かを愛する事は、とても難しいかもしれないけれど




でも、そんな人と彼がいつか出会えるように


あたしは彼を応援する


対立することがあっても


敵には絶対回らない





あたしはルヴァイドごとレディウスの剣に触れている手を固く握り締めて、そっと目を閉じた。










貴方に、誓います


























懐かしい、夢だ



ルヴァイドは、ふっと目を覚ましてそう思った。



あまりにも悲しく、そして忘れられないあの雪の日



自分の今の道を確定付けた・・・あの始まりを告げた雪の日



片手で、目元を覆った。
久しぶりに見たそれは、ルヴァイドを酷く、弱くさせたのだ。


(・・・?)


ふと、温かな何かが、後頭部に触れていた。
柔らかく、温かで、まるで女の膝のような             


「・・・!!?!!??!(滝汗)」


自分の置かれている状況を理解して、次の瞬間にガバッ!と跳ね起きた。
振り向けば、木の幹に背をもたれ、が穏やかな寝息と寝顔でぐっすりと寝こけているではないか。


「・・な、・・・な、な・・?」


その時のルヴァイドの顔を、彼を知っている者が見れば唖然としてしまうような表情だ。
それほどまでに彼は驚いて、次には慌てて周りを見渡した。
・・ゼルフィルドもイオスもその場にはおらず、思わず胸を撫で下ろす。


何故こんな状態になったかと思い出そうと思案する。
さっきまでレイムと話をしていて、急に意識が途切れたのだ。
どうにかうんうんと唸りながらも思い出そうとしても、まったく思い出せず。

その変わり父が殺された時の事を思い出した。


          父上)



どんなに罪が重くとも


父である貴方は自分の誇り


血にまみれた自分が、唯一誇れる事実



「・・ん・・」


甘やかに聴こえてしまう声が、耳に届いて慌てて振り返った。(落ち着け黒騎士)
けれどがただ声を洩らしただけであって、起きた様子はない。

慌てている自分に、思わずため息をついてしまった。


(まさか、こういうことになるとは・・)




この気持ちは



この甘やかな気持ちは、恋慕だというのだろうか



幾人の女を相手にしても、決して感じることのなかったモノ




・・・そんな資格は、ないのに



彼女に対してだけは、そういうものを抱くべきではないのに




そこまで考えて、再び小さなため息。
自分は、彼女にとっては奪う者で。
だから決して、恋慕など抱いてはいけない。



・・困らせるうえ、傷つけるのは目に見えているではないか



そう言い聞かせながらを見て、寝顔を眺める。
あどけない、寝顔だ。
敵側でもある自分達が傍にいるというのに(イオス達はどこへ行ったのだろう・・?)、
ここまで穏やかな寝顔で寝ていられるとは、なかなかの神経の持ち主だ。


(・・・・まったく、俺は・・・)




どうにか、言い聞かせたつもりだったのに



彼女を見ていて沸き立つのは



溢れ出そうになるものは



やはり、温かで、甘やかな           




その時に、父が言った言葉を思い出す。






“お前が大きくなって大切な人を見付けたら、その人を           






「・・愛してくれる、人・・・」


ルヴァイドはにマントをかけながら、そっと頬を撫でる。
指先に触れるのは柔らかな感触と、彼女の体温。





彼女の体温が指先に移ったかのように、離れた自分の冷たい指先に、熱がわずかに残って。
それすらも、酷く愛おしくて。

笑みを、浮かべた。

それはとても優しく、愛しい者を見る瞳。



(・・止まらない、ということか)



静かに芽生えた、彼女への気持ち。
それがルヴァイドを包み込む。
温かな翼で、静かに。


それは彼女の腕そのもののような、翼で。







”お前を心から愛してくれる、お前が心から愛せるその人を            







「・・お前が、そうであれば・・いいと思える・・







苦しく、悲しい過去の夢をみた余韻は、消えていた。
変わりに溢れ出て止まらぬ感情がルヴァイドにあって、消えた余韻にほっとして、
安堵している自分がいて。

決意が、生まれる。




は、レイムには渡さない



これ以上奪われてなるものか





そっと再び腕を伸ばして、指先を伸ばす。
ふわりと彼女の髪に触れて弄べば、笑みが零れてしまう。





今まで苦痛だった過去


だがそれは己を見つめなおす最初の原点になった


出会いが人を変える


価値観も変える


心も変える



たった一つの出会いが何もかもをひっくるめて




少し向こうから、気配を感じて顔を上げた。
軽い足音、機械的で重い足音、それはいつも傍らで聞き続けていた、戦友の足音。


「ルヴァイド様っ、目が覚めましたか?」

「オハヨウゴザイマス」


二人が眩しくて、思わず優しげに目が細まる。
そしてゼルフィルドの言葉で朝を迎えてしまっていたことにようやく気がついて、
それに苦笑しつつもルヴァイドは立ち上がり、彼らに言葉を返した。


「ああ、レイムと話していたと思ったのだが・・いつの間にかよく眠ってしまった」

「僕もいつの間にか眠ってしまったんです・・どうしてかはわからず・・(首傾げ)」

「我ノめもりーニモ何モ残ッテオリマセン」


デグレア軍一同、(一機を除いて)首をかしげて考え込む。
そんな彼らの会話にが目を覚ましてしまったのだろうか、”ふぁー”と欠伸を
かみ殺しつつ、目を擦って彼らを見て。


「おはよぉー、みんな」


(・・重症だ)


ルヴァイドは一瞬の間もおかず、そう思った。
声を聴いただけで、会話しただけで、こんなにも心弾むとは。(俺も若いということか?)


「ほら、。寝ぼけている場合じゃないぞ」

「ぬぁー?今何時〜??」

「6時52分ダ」

「ぅえ!?まだそんな時間?!2度寝が出来るってことで、オヤスミ〜・・・・」

!!」


朝日に包まれながら、イオスと、ゼルフィルドと、の他愛のない会話。
それが酷く心地よくて、ルヴァイドはやはり苦笑しながら、彼女に言った。






「寝ぼける癖は相変わらずだな」









いつかと共に


父と母の墓を尋ねよう


・・例え自分が彼女の”愛しい人”になれなくとも


ただ、彼女を知ってほしいのだ




自分が初めて








愛したい、と思えた人だと           

















NEXT






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*後書き*

第30話をお届けさせて頂きました。

今回はルヴァイドとその父レディウス登場の過去話です。
18話にトリスとマグナの過去が見えたように、今度は彼らメインでお送りいたしました。
完全オリジナルです、こんがらがっちゃった人は申し訳ない・・!(土下座)


取り合えず、前々から書いて見たいなと思っていました。(ルヴァ父話)
ゲーム中アグラバインが「若きレディウスに似ている・・(しみじみ)」と言っていた
ので、さぞかしルヴァイドとそっくりな美形の父君だったのでしょう!(逆だろ)
そしてお母様もさぞかしお美しいことでしょう!!(断言)
美形家族かよ・・・!!

修正していて思ったのですが、ルヴァイドが29歳と成長した現在、アメルは17歳(あれ?16?)
なのですが・・その間、レイムが老けなかったことをよく疑問に思われてなかったなぁと思います。
すごく若かったのか、もしくは老けない体質と思われていたのか・・・。
ゲームにこんなことを気にすることはないのでしょうが、気になって気になって・・。
気付けルヴァイド!と思いながら打ってました。(笑)


それではここまで読んでくださった皆様に、最大の感謝を。




2002.1.19

2004.1.14大幅修正