第14夜







地獄風呂から這い上がり、あたしは笑い疲れの為すぐにベッドに身を沈めた。
ふかふかベッドが久しぶりだったので、おかげでグッスリと眠れた。
そして晴れた日の朝。


「あー・・しんどい・・・・(沈)」


あたしの気分はどん底だった。
昨日の地獄で笑いすぎて腹筋が痛くて痛くて・・・(泣)


(むー、朝ご飯食べて元気出すかー・・ファイト、自分・・・)



裸見られたくらいでヘコむようじゃ、この世界で生きて行けないわ!(拳グッ!)



自分を励まし、おもむろに上着を脱いで椅子に引っ掛ける。
そして上がキャミソールになって次にロッカのシャツ(最早所有物確定)に手を伸ばそうとすると、
ドタドタと賑やかな足音が聞こえてきた。


「?・・トリスとバルレルかな・・?」


“朝から元気だなー”と思いながらシャツを掴むと急に扉がバァン!と開いて、あたしは思わず
後ろを振り返り、部屋に入ってきた青年                ネスを凝視した。


!キミに用が・・                      


・・・・・・・・・・・・・。


あたしとネスはしばらく見詰め合った。
あたしが呆然と見ていると、ネスの白い頬がだんだんと赤くなってきて。


「あ・・あ・・その・・」


彼の顔が赤くなっていくと同時に、あたしは近くに置いてあったサモナイト石(機)を掴んで


「ノックしろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!(ブンっ!)」


全力投球でネスに投げつけてやった。
それは某野球の監督が“ワンダホー!”と言わんばかりのスピードとパワーで。



素晴らしく鈍い音を立てながらネスの身体は廊下に平伏すのだった・・・。





















「・・で?何の用なの?」


あたしはギロリとネスを睨みながら不機嫌口調で答える。
心の中も不満がいっぱいで。



くうう!なんであたしがこんな目に遭うのよ!本来ならあたしが覗く側なのよ!!<違っ



あたしは零れそうになる悔し涙を呑んだ。
ネスも咳払いしながら、まだ頬を赤く染めて“僕は頭ばかり殴られているような気が・・”とぼやきながら
石をぶつけられた頭をさする。


「・・実はトリスとマグナの相手をしていて欲しい」

「・・は?」


ネスの言った意味がわからなくて、あたしは間の抜けた声で聞き返す。
相手?
それってあたしがトリスとマグナとハサハとバルレルを連れてサモンハーレムして良いって事?!
無料で?!


「・・・・僕は用事があるんだが・・それに彼らについてこられると困る」

「用事?」

「・・大切な、用事だ」

(あ、そっか・・ネス・・・融機人だったんだ)


フリップから薬を貰いに行かなければ・・融機人はこの世界で生きていけない。
そして彼は融機人であることを隠して生きているから誰にも相談できなくて、悩んでいる。
特に、トリスとマグナには知られたくないから、その分近寄らせては行けないと思って行動しているんだ。

それじゃ、あたしがネスの為に出きる事は・・・彼を安心させて派閥へ行かせる事。


「ネス」

「・・だめか?」


ぽんぽんと頭を撫でてやって、あたしはにこりと笑ってやった。



安心して、行けるように



「いってらっしゃい、あの子達はあたしにまかせてよ」


そう言ってやると、ネスは穏やかな笑みを浮かべて笑った。
おお、撫でられるの嫌がってない・・?!すごいわ!あたし!!ネス使い・と呼ばれても
まったくオッケーよね?!<良くねえ


「・・・ありがとう・・・」

「(トリップ中)っは!ど、どういたしまして!!朝ご飯まだ?」

「いや、まだだが・・」

「それじゃ、さっきの事は水に流しさないけど一緒にリビングに行きましょう。あたしはもー
空腹で限界なのよー(><)」

「・・流さないのか・・(汗)」

「当たり前でしょ、それか許して欲しかったらあたしにサモナイト石を譲ってよ」


意気揚揚、威風堂々(意味違うし)と言い放つあたしに、ネスはポカンとして。
呆れたようにため息を吐いた。


「まったくキミは・・どうしてそう・・・」

「・・だってあたしは足手まといは嫌なのよ、・・あたしがいるせいで物語が変わって来ている。

「え?」


あたしはやばっと慌てて口を抑えて、ネスが言い出す前にカウンター。


「あはは、何でもナイナイ♪それじゃとっとと行きましょうってかサモナイト石を譲って、ってか譲れ。
じゃないとあたしはまた皆に迷惑かけちゃうよかけてもいいの?良いわけないでしょ。ついでに
基礎知識を教えてくれるとまたまた大変嬉しいんですけどどうよ?ネス」

「・・・・・・・・・・(長っ)だめだ、召喚師でもない一般市民に召喚術を教える事は禁止されている。
一般市民に教えるとその教えた者も、教えられた者も厳しい処罰が待っているんだ」

「・・あー、そういえばそうだったわねー・・(遠目)」



それじゃサモナイ1はどーなんねん、ネスさんよ(もはや親父化)

バリバリの一般市民がサモナイト石でゲルニカ召喚してたんだけど



あたしの思っている事がわからないネスは、少ししてからはっとしたように顔を赤くさせる。
今度は何ナノさ・・


「どーしたのよ?ネス」

「・・い、今・・ネスって・・」


あたしは首を傾げて、ぽんと手を打つ。
あちゃー、やっちゃったよ・・怒られるかな・・・?


「あー、ごめん、ネスティ。マグナとトリスが呼んでたからつい・・」

「あ・・ち、違うんだ。・・・・・・・・・・ネスでいい」

「・・(今なんか異様な間がなかったか?)あ、ネスでいいの?」

「ああ・・、・・・・キミには借りが出来たからな」


あたしから視線を外して、ネスは廊下を足早に歩き出した。
置いていくんかい、こら!(怒)


「ちょっと待ちなさいよ!こら、ネスー!」

「そ、そんな大声で呼ばないでくれ!」

「何言ってんのよ!乙女かお前は!!(両刀使いのクセに!<攻受両方オッケの意味)」

「お、乙女・・?!(ガーン!)」

「あー、ハイハイ。乙女と呼ばれて嬉しいのはわかったからさっさと食べに行くわよ」


そう言って、あたしは沈むネスの手を掴んでリビングへ引っ張る。
おーおー、スベスベしてますね・・あ、何故か敗北感を感じるわ・・!
ってか、あたしって変態っぽいわね!(なんか嫌だけど)


「ん?ネス・・何立ち止まってんのよ・・?」


引っ張ってもネスは動かなくて、少し俯かれていてその表情は読み取れない。


「ネス?」
















繋がれた手は小さく、そして細くてネスティは驚いていた。

同時に泣きたい気分に覆われていたのだ。
彼女は自分が融機人と言う事を知らないから、こんな簡単に手が繋げるのだ。(本当は知ってます)
知らないから側に来て、マグナ達を同じように笑えるのだ。


(・・だが・・)




それでも




それでも安心してしまう




温かい手が其処にあって




フリップに会う勇気が、あの罵声に耐えれるような気持ちが




身体を優しく包んでくれる




忌み嫌われたこの身体を




「ちょっとネス?起きてるの??」

「・・

「ってか、あんた手が冷たいわねー?ちゃんと寝てる?それとも貧血なの?低血圧??」


の言葉に身体が、震えてしまった。
異様に手が冷たいのは、きっとこの融機人の肉体のせい。


(・・どうして・・)




こんなにツラく感じるのか




大切な、一族の身体だというのに




どうして悲しくなるのか




はネスティの手をとって、自分の頬に当てる。
その行動に思わずぎょっとして、身体を硬くしてしまった。
触れている手にの体温が伝わってくる。


・・」

「あんたさー、レバー食べなさいよ、レバーを」

「ればー?」

「あたしの世界の料理なんだけど・・スゴイ味がするの。でも栄養があって貧血者にはオススメ
なのよ。レバニラとか」

「ればにら??」

「・・ま、この世界にはないんだろうけど・・今度あたしが料理してあげるわよ。
簡単なモノなら出来るし・・」

「・・が?料理??」

「・・あんたとことん失礼な人ね・・(怒)、嫌なら良いわよ。トリス達においしーーーーーモノ作って
食べさせて、ネスには食べさせてやらないから」


怒ったような口調でネスティを見上げて、にんまりと笑う。
瞳の奥は、からかうような光があって。


「ま、失敗作はあんたの口に詰め込んでやるわ、だから健康管理くらいはちゃんとしなさいよ」

「・・僕は元からこういう体温なんだが」

「でも知ってた?手が冷たい人は心が温かい、優しい人だって・・」

「・・?そんな迷信があるのか?キミの世界には・・・」

「迷信って言わないでよ、・・まぁそれを信じるんだったら手の体温が高い人はどうすればいいんだーって
ツッコミを入れるところだけど、ネスは優しいから当たってるじゃない?」



優しい?



「だってトリスやマグナ、ラウル師範やギブソン・ミモザのこと気遣っているじゃない。
あんたの口の悪さは一生モノだと思うけど、それも個性だって考えれば良いわよね、うん」

「一人で納得されても・・」

「・・ほら、結構温かくなった。次は温かいモノ食べて身体を暖かくしましょーね、ホラ行くよ」


手を引っ張られて、ネスティはつられるように歩く。



本当は派閥に行って、あの薬をもらいに行きたくない



あの人に、会いたくない



あんな冷たい空気が溢れる所なんて、嫌だ



「ネス、あんたの用事ってすぐ終るの?」

「・・わからないが・・」

「ふーん、それじゃ早く終ったらあたしの買い物に付き合ってよ。どうせ暇でしょ?」


の発言に思わず眼鏡がズリ落ちそうになる。
暇?命を狙われているのに暇と?
あまりの考えなし発言に抗議しようとするが、先に発言されてしまった。


「待ってるからね、だからさっさと帰ってきなさいよ」



待っている?



「トリス達も一緒に連れて行くから、あんたのその毒舌も必要よ。協力してね」



必要とされている?



「帰ったら皆で買い物、はい、決定!」



居場所は、ここ・・?



の後ろ姿を見ながら、ネスティは堪えられなくなったモノを表に出した。














「ふ・・」

「・・?・・」

「あははは・・・はは・・」


急に笑い出したネスに、あたしは思いっきり退いた。


ぎゃーーーーーーーーーー!何か笑ってる・・?!何か言った?あたし!!


困惑してるあたしを余所に、ネスは腹まで抱え出した。
そこまでおかしいんかい!コラ!(怒)


「ちょ・・何で笑うの?!」

「はは・・す、すまない・・お、おかしくて・・・・」

「(答えになってねえ!)はあ?!」


あたしは目を丸くして、ネスを見上げたけど彼はまだ笑っていて。
ようやく笑い終わると大きく息を吸って吐いた。


「キミは不思議だな」

「・・・・(あんたに言われたくねえよ)あたしはあんたの方が不思議でたまんないわよ・・・」

「キミの突っ走っている思考力に、自分の考えていた事が馬鹿馬鹿しく思えてきたよ、本当に・・」

「・・貶してるの?それ・・(妄想力は最強よ)」

「いや、ある意味尊敬に値するよ・・・・久しぶりに笑ったら空腹になってきた。行くぞ、

「(・・乙女が指図かよ・・)・・りょ−かい・・。」


あたしの表情を見て、ネスはまた吹き出した。
あんたキャラ変わってるぞ!オイ!!(ツッコミ)
文句たらたらなあたしはさっさと先に進んでいて、ネスが笑みを浮かべていた事を知らなかった。






勇気を、ありがとう


















「あ、二人ともおはよー!」

「あ、トリス!おはよう!!(愛)」


あたしは即行でハサハとトリスの間の席に座る。
おほほほほほ!ゲットだぜ!!(両手に花)
目の前にはリューグで、今なんか怪訝そうな顔されたけどバレたかしら・・・?(滝汗)
・・ん?リューグ??


「あれ?リューグとロッカはここにいるの?」

「何だよ、いちゃ悪いかよ?」

「リューグ、そんな言い方はないだろう(フォーク&ナイフを装備)。僕達の考え方は
間違ってるってわかったんです。中立な意見のさんの意見に納得したので・・
ここでアメルを守っていきます。」

「・・・そ・・う。」




ヤバイ、



話しがドンドンずれていってる




ってか、じーさん探してやれよ!誰か!!(汗)




(・・あたしがここにいちゃ悪影響なのかな・・?)


そんなことを考えながらあたしはトーストをかじる。
こっちもあたしがいた世界も、食べ物とかあんまり変わってないから、大して困ることもなかった。


「おはよー!ちゃん」

「あ、ミモザ。・・・・おはよう・・・・(退き)」

「いやぁねー、昨日のお風呂場で地獄を見たからってそんなに警戒しないでよ」

「・・(いや、それは無理)あ、あははははは・・」


リューグは大きいため息を吐いてぼやいた。


「・・何で地獄なんだよ・・・?」

「あたしとミモザ先輩がさんのわき腹と足をくすぐったの♪白状しなかったから・・」

「白状・・ですか?」


ロッカとリューグは首を傾げる。
いや・・ちょっとトリスさん?・・まさか・・(嫌な予感)


「うん、さんの身体の治療した人、美形な男の人だったんだって!(アッサリ)」

『な・・?!』

「きゃあああああああああああ!!!ちょっとトリスーーーーーー!!!(あっさり言うなー!)」


あたしは慌ててトリスの口を抑える。
でもさっきの発言はもうその場に居た全員の耳に入ってしまって・・
あたしは顔を真っ赤にさせた。


(いやあああああ!!!もういやああああああああ!!!(泣))



ああ!可愛いトリスを恨めない自分が憎い!!(愛だわ!)


思いっきり頭を下げて項垂れるあたしの首筋を、ミモザがついっと撫でた。


ひぎゃあああああああああああ!!な、何すんの?!(次から次へと!)」

「・・ちゃん、これってキスマーク?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


きすまーく?
そんなモノつけられた覚えは・・・


ちゃん、誰かに襲われた?(爆)」

「ええええ?!襲われた覚えは・・・」

「例えば誰かに首筋吸われたとか・・」



・・吸う?



その単語に、あたしの中で昨日イオスにされたことが感触とともに、鮮明に甦る。
イオスの、唇の感触とあの小さな甘い痛み。


「・・・・・・・っ!!!」

『何ぃ?!』


ガタンと席を立つのはマグナ達。
ってか、イオスの馬鹿ああああああああああああああああ!!!
上司が上司なら部下も部下ってことなのおおおおおおおお??!??!


、誰に・・?!(マグナ焦る)」

「ちょ・・そんな事聞かないでヨ!あれは強制的に・・///」

「襲われたんじゃねーかよ、ソレ・・・・(フォルテ汗)」

「うっさい!(サモナイト石(無)投下)」

「(顎にヒット★)がはぁ?!」


あれやこれやとリビングは騒いでしまって朝食どころじゃなくなった。
だが、ミモザの「ペンタ君をお口に詰め込んで欲しい?(笑顔)」発言に皆は黙々を席についた。



助かったけど・・あれはあんたが原因よ・・ミモザ・・・(汗)












朝食を食べて、あたしはマグナとトリス、バルレルとハサハ、そしてアメルと一緒にギブ邸を出た。
てーか、このメンツ最強じゃん・・・。(汗)


「ね、まずはどこへ行くの?」

「そーだなー・・繁華街にでも行って見るか?」

「おお!おいニンゲン!俺に酒を飲ませてくれるのか?!(嬉々)」


喜んでマグナに近寄るバルレルだが、ハサハが前に出て来てふるふると首を横に振った。


「ああ?何だてめえ・・違うって言うのかよ?」

「・・(こくん)」

「だー!うるせえな!俺は酒が飲みたいんだよ!てめえの主人と交渉するからどけ!」

「(ふるふる)」

「(むかっ)ど・け!」

「(ふるふる)」


ハサハは泣きそうになりながら首を横に振って、マグナの前から退かない。
どうやら護衛獣としても役目を果たしているようだが・・、あたしはその健気さに鼻血が
出そうになって思わず鼻を抑えた。(危険)
護衛獣の戦い(?)はまだ続く。


「・・・てめえ・・言っても聞かねえなら力づくで・・」


魔力を放出させて威嚇するバルレルの頭を、トリスとアメルが笑顔で掴む。


「バールーレール?(笑顔)」

「だめですよ?バルレルくん、お酒は大人になってからですよ?」

「げっ・・(汗)」

「おお、バルレル選手の勢いが一気に削がれたー!
彼の中で勝つのは酒か?それとも自分の命か!?これは見逃せなーい!」

「・・おねえちゃん・・?」

「あ、実況よ、実況・・おお!バルレル選手、トリス選手に<こめかみグリグリ攻撃>をされて意味不明な
絶叫を上げております!!どうやらハサハ選手の勝ちっぽいですねー、ハサハ選手。バルレル選手に
勝った感想はいかがですか?」

「・・?(首傾げる)」

「(ああん!メラずきゅんだわ!!)ハサハ可愛いーーーーーーーーーーーー!!!(愛)」


あたしは再びハサハをぎゅうと抱きしめる。
マグナはそんな光景を見ながら「平和だなー」と呟いていた。
いや、あんたも喧嘩をはじめた時に止めようや、マグナ・・(汗)


「・・?」

「どうしたの?マグナ・・・」

「いや、綺麗な音楽が聞こえるなーって思って」



音楽?



あたしは首を傾げる。
そして彼が聴こえるという音に耳をすませれば、確かに聴こえてくる。



竪琴の、音色。



「・・これは・・竪琴の音ですね・・?」

「・・うん、綺麗だね・・誰が奏でているんだろう?・・って、さん?」


トリスの声はあたしの耳の中に入らなかった。


竪琴。


すっかり忘れていた。(オイ)


余計な・・大悪魔の存在を。


あたしは怖くなって、きゅっと唇を噛んだ。




でも伝えてはいけない

伝えては、いけないんだ

コレ以上、捻じ曲げてはいけない物語




「あ・・あの人じゃないですか?」

「本当だ・・バルレル行って見よう!」

「・・・・」

「どうしたんだバルレルって・・ハサハ?」


バルレルは竪琴を奏でている人物を睨みつけ、ハサハは泣きそうな顔でマグナの手にしがみついている。
力ある護衛獣達には感じ取れるんだろうか?
メルギトスの違和感が、その存在が。

いつもと違う、護衛獣達。
けれどあたしも、おかしかった。


(・・な、何で・・?)


すごく、変な感じがする。
怖いのもある、けれどもっと・・もっと別の何かが、あたしの中を満たしていく。


あたしのずっと奥底から、浮かび上がろうとしている。


肩の震が止まらない。
普通に、何も知らないように接しなければいけないのに、奇妙な違和感に気が狂いそう。


さん・・?」

「だ、大丈夫・・」


全然大丈夫じゃないけど、そういうことしかできない。
あたしはじっとその竪琴の主を見ていれば、彼がこちらに振り向いた。



ドクン



心臓が、一気に跳ね上がった。
目が合った。
彼がこっちを見た。

それにぶわっと、冷や汗が流れ出る。


相手は、あたしをじっと見つめていた。
けれどにこりと微笑んで、なんと、こっちに向かってくる。



こないで



叫びたい衝動を堪えた。
けれど口の中がカラカラで、それがどうしても出てこない。

思わず彼から目をそらし、背を向けて震えを抑えようとする。




そして突然、肩を叩かれた。




マグナの手とはまた違う男の、手。




「・・                っ!!!」

「こんにちは」


銀の髪。
美しい細工の竪琴。
(何故か)ハートの多い服(趣味か?)
そして落ち着いた、独特の雰囲気を纏った、人間の男。


・・・見間違えるはずがない。


「ああ、驚かせてしまってすいません・・私は吟遊詩人のレイムと言います。
・・貴女のお名前は・・?」

「・・

「・・さんですか、可愛いお名前ですね」


にっこりと、彼はあたしに微笑んだ。
けれど次にはバルレルがあたしと彼の間に入ってきて、レイムを睨む。


「バルレル・・」

「おや?彼はあなたの護衛獣ですか?」


かろうじて、首を横に振る。
けれどバルレルが間に入ってきてくれたおかげで、あたしの恐怖が一気に薄れた。
・・・なんで?


「あ、あの!レイムさん!演奏とても綺麗でした!」


トリス達がレイムに笑いながら話しかけてきた。
それにレイムは彼らにも自己紹介をして、あたしから離れていく。


「・・・ありがと、バルっち・・」


思わず、そんな言葉がこぼれた。
別に怖いとか、そういうのじゃなくて・・あたし自身に、恐怖を覚える。
・・・・・・・・・・・・・・どうして?


「・・あんまりアイツに近づくな」

「え」

「・・嫌なニオイがするからな」


バルレルの言葉に、あたしは取り合えず頷いた。


一通り自己紹介もすんで、アメル達は話し込む。
あたしは少し離れた所にある噴水の座る所で、アイスクリームを舐めながらその光景を眺めていた。


(あ゛ー、何であそこまで挙動不審な行動をしてしまったんだ、あたしは・・・)


今のレイムは危害を加えないだろう。
もっと話が進んでからだ、だからきっと大丈夫。


(次は普通に話してみせ・・)


さん」


「?!」


考え事をしていたせいか、レイムの接近に気付かなくて。
あたしは思わず息を呑んだ。
レイムはそんなあたしを見て、にこりと笑いかける。


「どうしましたか?随分悩んでおられたようですが・・」

「あ、あははは、ちょっとねー!」


乾いた笑いをするあたしに、レイムはふっと目を細めて、あたしの髪を一房摘み上げ、耳元で囁く。


「随分綺麗な髪をしてますね・・さん」

「(ひい!何か嫌!!)どどどどどうも!!」


どもりながら礼を言って、あたしは再びアイスクリームを舐める。
甘くておいしいけど、悪寒がして味がよくわからない。


「おや、さん」

「はい?」

「ここにクリームがついてますよ」


そう言って、レイムは穏やかに笑いながらあたしに顔を近づけて。
そして唇の真横についていたクリームを舐め取った。


「おいしいですね」


その言葉であたしの中で我慢していたモノがキレた。
いや、本能が叫んだのかもしれない。



“奴を殴れ!”と



「ぎゃあああああああああああああ!!(バチコーン!)」

「ブハッ!」


あたしはレイムの顔を本気で、思いっきり引っ叩いてトドメにドン!っと噴水に突き飛ばした。
レイムの銀の髪が美しい軌跡を描きながらバッシャーンと噴水の中に突っ込んだ。

ああ、水のしぶきが美しい・・(遠目)

あたしは肩で息をしながら、沈んでしまったレイムを見下ろして。


「舐めるな触るな近づくな話しかけるなー!あんたそれ何の行為だかわかってんの?!
セクハラよ!!セクハラ!!!本来なら騎士団に捕まって処刑されるくらい重い罪なんだから!
ってか、初対面の人間にそんなことをするんじゃないわよ!この常識外れ!!非常識!!」


レイムは叩かれた頬に手を当てながら、呆然とあたしを見上げる。
一気に喋ったせいだろうか?半ば心配しているとレイムの唇が小さく動いた。
そして一言。


「・・素敵だ・・!」


「・・は?」


ザバァっと某ホラーテレビ・リ●グの貞子のような髪をさせながらレイムはあたしの手を掴んで。
目を充血させながら喋り捲った。


「ああ、強く気高く美しいとは貴女のことを言うんですね、さん!!今、貴女のその小さな手から
受けた蜂蜜より甘いその痛みは私の心を一瞬で虜にしました!ああああ・・出来る事なら貴女のその
可愛らしい足でフミフミされたいですが私的にはさっきの罵りも聞きたいような気持ちで一杯なんです
さん、私をもっと非常識と罵ってくださいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

「ぎゃあああああああああああああああ!!!変態マゾおおおおおおおおおおおおおお!!!??!」


がばぁと抱き付かれて頬ずりされて、あたしの身体は鳥肌全開。
っていうかコイツ誰?!誰なの!!?ほんとにレイムなの!?!
あああああああ!!何か・・何かゲームと違ううううううううううううううう!!!!


さああああああああああああああああああああん!!(愛)」

「いやああああああああああああああああああああ!!!!!(キモー!)」


あたしはそんなレイムの腹に蹴りを食らわして、今までで一番本気になって走ったんじゃないかと
思えるような勢いで走り去った。
ってか、変態って設定はなかってでしょーが、アンタ!!


「ああああああさん・・ジュテーーーーーーーーーーーーム!!!」


後ろの方から追いかけてくるレイムの妙な雄たけびが聞こえるが、あたしは耳を抑えて走った。


ってか、そんな告白いらねえよ!!


あたしは心の中で毒づきながらも庭園へ走る。
トリス達は置いて来てしまったがこっちの貞操が危うい。
どこか隠れる所はないかと、近くの草陰に身を隠した。


さああああん!この爽やか癒し系吟遊詩人・レイムが貴女に踏まれたがってます!
さああああああああああああああああああんん!!」


あたしはかなり“どこが癒し系やねん!”とツッコミたくなったが何とか堪えて、レイムが走り去るのを待つ。
何事も己の貞操大事なり。


さあああああああああああああああああああああん!!」


レイムは庭園を通り抜けてどこかへ走り去って行った。
ふう、一安心ね・・・。


『はぁー、助かった・・・』



・・・・?今、誰かとハモッた??



すぐ隣りの茂みを覗き込んで見ると、息を切らせて寝転んでいる女の子を見付けた。
しかもそれはまた見覚えのある人物で。
女の子はあたしに気付くと、慌てて走りだそうと立ち上がる。


「あ、ちょ・・」

「だ、誰があんた達なんかに捕まるもんですか!」

「は?いや・・ちが・・」

「お生憎様!」


そう言って、走り去って行った。


「・・ちょっと・・ミニスよね?アレ・・・?」


必死で逃げる小さな召喚師の後姿を、あたし呼びかける間もなくぼんやりと見送った。
そしてしばらくして、トリス達の声が聞こえてきてあたしは茂みから姿を現わす。


「みんな!」

「あ!さん何処行ってたんですか?」

「・・・・・・ええ、ちょっとマラソンをね・・・。(遠目)」


遠目に庭園を見るあたしをマグナ達は首を傾げて。


「レイムさんもどこかへ行っちゃったし・・そうだ、次はどこへ行きますか?」

「うーーーん・・どこへ行こう・・?」

「派閥」

『え?』

「あたし、派閥を見てみたいの。だめかな?」


ミニスは確かに派閥のある方向へ向かった。
だから、兵士と一悶着があるはずだ。
それを助けるのはマグナ達。


「んー別に見るくらいだったら大丈夫・・よね?お兄ちゃん」

「んー、いいんじゃないか?」

「よし、決まりね!ホラさっさとこの場所から逃げるわよ!」

(((((何があったんだ??)))))





必死でこの場所から離れる様に急かすあたしを見て、マグナ達はまた首を傾げるのだった。



おとーさん、おかーさん。



どうかあたしを変態から守って下さい



そう祈る自分がとても健気だ・・と思いながらあたし達は庭園から去っていった・・・。














・・余談だが庭園で遊んでいた親子の会話。



「ママー、何かすごく早く走るお姉ちゃんとお兄ちゃんを見たよー♪」

「まー、そんなに早かったの?」

「うん!僕も早く走れるようになりたいな!」

「うんうん、大丈夫よ。きっと早くなれるからね。」

「それでね、お兄ちゃんが言ってたんだけど・・“じゅてーむ”って何?」

「・・・・・・・・・・・・・うふふふ、その言葉を使っていたの?」

「うん!早く走れる呪文なのかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふ、逆に遅くなってしまう呪文だから2度と使っちゃだめよ?」

「そうなの?わかったー♪」

「いいこねー。それじゃとっとと帰りましょうねvそしてしばらくはこの庭園で遊んではだめよ?」

「なんで?」

「こわーいお兄ちゃんに連れ去られちゃうからよ、さ、帰りましょうねvv」

「うん!」



<<今日のお言葉>>




変態には関るな









NEXT




-----------------------------------------------------------------------------


*後書き*

第14話をお届けさせて頂きました。
前半ネスが目立ちまくりです。
レイムやらなにやらで、ミニスが出なかった・・ごめんよ、ミニス・・・。
そのまえに変態登場シーンはどうかと思う。
ヒロインが酷く怖がっていたことも、後日に語れるのではないかと・・。
彼女とレイムの関係、もう少し後で打ち明けていきたいと思います。


それではここまで読んで下さってありがとうございました!


2003.12.14修正