第8夜







「・・と、いう事があって、後に聖王国がさらなる発展を遂げたらしい」

「へぇー・・そんなことがあったんだ」

感心したような音を含ませながら、あたしはイオスに返事した。
イオスとようやく握手する関係にまで修復されてから、かれこれ数時間が経った時である。
リィンバウムについて色々と聞いてみれば、イオスはすらすらと答えて、教えてくれた。
案外歴史にも詳しくて、頭も良いらしい。

「イオスってほんと詳しいのね〜・・、それってやっぱり勉強したから?」
「ルヴァイド様に教わったことが大半だ、あの方は色々な本を読んだからだと言っていた」
「う〜ん、ルヴァイドも勉強が出来るのか・・・印象のとおりというかなんというか」

あたしは笑いながら、ルヴァイドがばりばりと勉強をする姿を想像する。
ううむ、これで眼鏡をかけていたりしたら惚れそうだよルヴァイド!(興奮)

”眼鏡ルヴァイドも美味しそうでゴザンス・・!”などと一人で悶えていたら、イオスがふっと顔をあげてテントの入り口を見ていた。
あたしもそれに習って耳をすませれば、何やら外が騒がしい。


「少し待っててくれ」

「うん」


イオスが外へ出て、黒い鎧の兵士達と何か言っている。
こっそり覗いたあたしにはまったく聞こえなかったんだけれど、すぐにイオスが戻ってきて、
ざわめいていた理由を教えてくれた。

「兵士を数人連れて、少し森へ行って来る」
「え?森って・・・」
「連絡係の消息が途絶えた。最近多いことでこういうことは何度かあったのが・・。
ルヴァイド様に何かあったかもしれないという可能性がないこともないからな」
「・・・消息が、途絶えた?」

あたしの疑問に、イオスは少し俯いて答える。

「はぐれ悪魔が最近、妙に人間を襲っているんだ。僕達<黒の旅団>もその原因を調べてはいるんだが・・なかなかそれが見つからない」
「・・・はぐれ、悪魔・・」

一瞬、脳裏に銀色の髪の吟遊詩人の後姿がよぎった。
全ての、根源。

あたしが怖がっているように見えたのか、イオスは肩に手を置いて、励ましてくれた。

「ゼルフィルドも残っているから大丈夫だ、何かあったら彼を頼ってくれ」
「ゼルフィルドに?大丈夫かなぁ・・・(イオスの時のようになりかねないわよ)」
「彼はルヴァイド様の命令に本当に忠実だ。・・・だから大丈夫だ」

”なるほど”と、あたしは手を叩いて頷いた。
ヤバくなったらゼルフィルドのところへ逃げろ、という言葉を、深く深く胸に刻みつける。
全速力で逃げるわよ!あたしは!!(か弱いしね!)←自分で言うか

「少しくらいなら息抜きに外へ出てもいいが・・くれぐれも見つからないようにするんだぞ」
「うん、気をつけてね」

途端に、イオスの頬が少し赤らんだ。(何で?)
それにあたしは首をかしげて彼を見れば、彼はあたしから視線を外して、
慌てて”行って来る”とテントの外へ出て行ってしまった。


一体なんだって言うの・・?









「うーん!なーんか本当に良い天気だわねー♪」

イオスたちがいなくなってから、あたしは約10日ぶりくらいに外へ出た。
ああ!なんていうかもう太陽って素敵!気持ちよすぎ!!(ハイテンション)
ずーーーーっとテントにこもりっぱなしだったから、カビが生えそうだったわよ!!

うーんと精一杯伸びをして、あたしは大きく、そして胸一杯に深呼吸をする。
草の香りや、すがすがしい空気に、顔が緩む。
辺り一面は青々とした草原で、近くには泉もあって、陽の光で水面がキラキラと反射していてすっごく綺麗だった。

「さーてと・・ゼルフィルドは何処にいるのかな・・・?」

何かあった時にゼルフィルドを頼れと、イオスは言っていた。
でもその”何かあった時”に彼を見つけられなかったら、無意味だ。(無意味すぎる・・!)

外を探検したいという気持ちもあったので、周りをよく確かめてから早速外へ出てみた。
兵士の姿がほとんどない。残っていると言ってもほんの3人くらいで、イオスは結構な数の兵士達を連れて森へ向かったみたいだ。

キョロキョロと、大きくて黒いロボットの姿を探して、周りを見渡してみる。
けれどゼルフィルドの姿は見えなくて、あたしはさらに辺りを探索することにした。


ゼルフィルドー?


(・・ついでに、ルヴァイドやイオス達のこと、少し聞いてみようかな?)

思わず、そんなことを考えた。
でもルヴァイド達は(色々あったけど)、あたしに本当に良くしてくれた。
・・・・・酷く痛めた喉も、怪我もほとんど治った。
それはルヴァイドの看護のおかげだし。(ルヴァイド達のせいで痛めたけどね)

「・・あ、でも知らなかったらどうしよう・・・?いやいや、機械兵士たるもの。ご主人様とその部下の好みの一つや二つは覚えておいてもおかしくはないはず・・・。
それじゃゼルフィルドには何をあげようかな・・?オイルは(多分)この世界にないだろうし・・・食用オイルでも大丈夫かな・・・?」


そっちの方が逆に無理そうだわ


「うーーーーーーーーーーーーーーん、悩むなァ・・」

ルヴァイドとイオスとゼルフィルドの好きな物。
そこまで考えてあたしは向こうの世界のことを思い出してしまった。


・・誕生日、近かったのになぁ・・・


どうやら無事に迎えれる事はないようだ。
元の世界に戻りたくても戻れないし、祝ってくれる人もこの世界にはいない。
誰もあたしを知らないから

「・・・あ゛ー気分が重い・・・パソコンソフトでも買ってもらおうかなって思ってたのに・・・」


そういえば、パソコンでサモンイラストや小説とか見ていたあの日々が懐かしい。
もちろん色んなカップリングで・・そーいえばルヴァイオもあったなぁなどと懐かしめば。

(ん?ルヴァイオ・・・??)



・・良からぬ考えが、頭の中の妄想スイッチを入れた。



もし



もしルヴァイドに好きな物を聞いて帰ってきた答えがイオスだったら・・・?(滝汗)





『イオス・・・(切なく)』


『ルヴァイド様・・!(乙女チックに)』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



(うおえあああああああああああああああああ!ストップあたしの脳みそーー!!!)

あまりのリアルさに眩暈がして。よよよ・・と座り込んで空を仰いだ。
頭の中は妄想爆裂ルヴァイオオンリー。
っていうか本気で笑えないところがまたスゴイ!!すごいわルヴァイオ!!

(でもあたしはルヴァトリ&イオトリ派だし・・!てゆーかマジでそんなこと言われたらあたし・・あたしはもう・・・どうリアクションすればいいのよ!?聞き流す?!聞き流すべきなの??!それかイオスの頭にリボンを付けてルヴァイドのテントに放り込むべきなの?!それはそれで危険な香りが・・・!!その前にこの胸のトキメキは何なのよ誰か教えてギブミーー!!!)


でも何となく素晴らしい事を考えちゃった気がするわ!(拳グッ)


妄想に走り過ぎたせいか息切れしながらあたしは周りを見渡す。
こんなあたしの姿を誰かに見られていたらもう一生の恥だわ・・。

「・・と、取り合えずゼルフィルドよ!ゼルフィルド!!ゼルフィルドはどこなのよー!?」


こんなあたしを止められるのはカップリングの少ないあんただけなのよおおおお!!!



そんな悲痛な叫びは、しばらくあたしの心の中で反芻することになる・・・。











あれから30分後。
あたしはようやくゼルフィルドを見付けた。
彼は少し高い丘の上で、座り込んでいたのだ。
微動だにしない彼の肩には、鳥達が数羽、彼の元で戯れている。

(なんと、平和的だこと)

”焼き鳥食べたいなぁ”などと最悪なことを考えつつ、あたしはずかずか歩み寄る。
探しに探して、探し回ってあたしはかなり疲れていて、少し不機嫌だった。

「もう!ゼルフィルド!居るなら返事してよ!!」
「・・・・・・・」
「・・・ちょっと、ゼルフィルド?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

応答なし。
それにあたしは”こ、こここ壊れた?!”と思って思わず彼から数歩身を引けば、とある考えが頭に浮かんだ。
機械兵士は太陽の光でエネルギーを充電させるという云々。

(・・・今、充電中ってこと?)

そっと顔を覗き込むと、いつも目が光っていた所に光はなかった。
あたしの考えはどうやら、あながち間違ってはいないらしい。

その後わき腹をくすぐったり、頭を撫でたり色々やったけれど何の反応もなくて。
策が尽きた(?)あたしは諦めて隣りに座り込み、そして何気なく丘の下を見て言葉を失った。


「う・・わぁ         ・・・」


眼前の風景は、壮大なモノだった。
草原の草は波のように風に揺られ、草と草のこすれあう音はとても心地よく。
さらに遠くのほうへ目を向ければ、白亜の城壁が見えた。(たぶん、あれがゼラムの城だ)
青空は雲に彩られて、まるで海のように広がって、泉もまた光の反射がかかっていて眩しく、それらを、食い入るように見つめ続けた。

さすがにこんなモノは見たことない。
惚れ惚れとしながらも、あたしは黒い機体に親指を立てて呟いた。

「・・ゼルフィルド、ナイスポジションで日光浴だわ」

それは呆然とした呟きで。
あたしはふと、動かなくなったゼルフィルドを見た。


どうしてここを選んだのだろう?


そんな疑問が過ぎって、あたしは首を傾げた。
機械な彼が充電する場所を、この素晴らしい景色が見える丘を選んだのは、ただの偶然だったのだろうか?・・・それとも自分の意志で選んだのだろうか?

(・・戦いのために作られた兵器も、安らぎってモノを望むの事があるのかな・・?)

いや、それはないのだろう。
彼らは戦うために作られて、望むものなどないはずだ。


         機界ロレイラル。
それは自らの文明の繁栄により、生み出した物たちに反乱を起こされ、人が住めなくなってしまった世界。生き物が・・住むことができなくなってしまった世界。

(あたしの世界も、いつかそうなっちゃうのかなぁ)

進んでいく文化。
それは元の世界を思わせる。

(それにしても、機界兵士も省エネでイケるとはねぇ<笑)

エスガルドもレオルドも日光浴が大好きで。
サモンをプレイしていた時は「充電式なんか、あんたら!」とツッコんでしまったが、深くは考えたことがなかった。

太陽の光を受けて、鈍く輝くその黒い機体を、じっと見上げた。
ルヴァイドの身長よりも高い、威厳あるモノ。

(・・?あれ・・)


何か、おかしい


何で、こんな気持ちになる?


ずっとずっと前に、こうして見上げたことがあるって、


どうして思ってしまうんだろう?


ふと、ゼルフィルドの硬そうな装甲に赤い何かがついていて、それを指でなぞれば、乾燥したのか赤い粉があたしの指先を染めた。
”錆びかな?”と思いつつ臭いをかげば、錆びとはまた違うモノの匂いがした。


それは錆びよりももっと、鉄錆びのような臭いだった


「・・血が、こびり付いてる」



誰の血なんだろう、としか思わなかった



怒りも悲しみも恐怖も、あたしの中にはなくて



ただ、どういう気持ちで血を浴びたのか知りたかった



その前に、心が彼にあるかどうか解らないが




「・・ルヴァイドの・・ためなんだろうね」


あたしの口からため息が漏れた。
彼を発掘したルヴァイドに忠誠を誓って、ルヴァイドのお父さんの汚名を晴らすためルヴァイドと共に闘っている戦闘兵器。
戦う為に作られた兵士。
ロレイラルはそんな哀しいモノばかりを作る世界なのだろうか。

「・・よし、暇だし、ゼルフィルドを綺麗にしてあげよう!」

やっと思い付いて、あたしは一度テントに戻った。
ルヴァイドが用意してくれた、あたしの治療に使われた白い布を掴んで、その布と水を入れる洗面器らしきものを拝借して、再びゼルフィルドの元へ走る。

「・・はぁっ・・はぁっ・・つ、疲れた・・・!」

遠いっちゅーねん!とゼルフィルドの頭をハタキながらも、あたしはゴシゴシとこすり始めた。
さすがに長い間放置されてきたせいか手ごわい。
取れるところあっさり取れるけれど、取れないところは本当にとりにくい。

思わずムキになって思いっきり、力をこめてゴシゴシゴシゴシ!とこすってやって。
どうにか、こびりついている血を取ってやった。

「・・はぁぁぁ・・、なんでちゃんと洗わないのよあんたは・・・」

自分の手にも、乾いて粉になっている血がついてしまって、じっと眺めてしまう。
赤い血を。


戦う為に生まれたんだね


そんな思いが、切なさを誘った。
それを振り切るようにパシャリと手を水で洗って、次は顔の部分をこすってやる。
ゼルフィルドはまだ動かなかった。


(人形みたい)


彼が動かなくなったその姿は、まるで置き去りに去れた人形のよう。
いや、機械兵士ってそういうのに似ているんだろうけれど・・・。

話を聞いてくれる人形に、今この時、あたしは少し頼りたくなった。


「・・あたしの話、聞いてくれる?」


それでも彼は返事しなくて、あたしはこする手を止めないまま一方的に話す。
誰にも言ってはいけない内容だったから、正直言ってありがたい。
それはあたしの抱えているモノ。

「あたしを知っている人は誰もいないの、あたしは別の世界から来たから」



しかもイキナリのご招待ってやつで



「それでね、ルヴァイド達の未来や、この世界がどうなるかって知ってるんだ」



悪魔と闘う、隠された悲しい罪の物語の全てを



「・・信じられないでしょ?あたしだって信じられないよ・・・でも」



ここにきて、寂しさを覚えた


怖さを覚えて、優しさに触れて、今度は人が死んでいく悲しさを、苦しさを


そして憎む虚しさを、重たさを、あたしは知ってしまった


それは全て、幻覚や、錯覚じゃなくて



「・・・正直、ツラかったなぁ・・・」



だから、心から願うのだ


あたしは、心から、願ってしまうのだ



「・・ゼルフィルド達はまだ、闘い続けるけれど」



ルヴァイドの傍にいるために



          死んじゃダメだよ?」



今のあたしには彼らが死ぬことが、とても耐えられそうになかった。
厳しい一面を、複雑な一面を、優しい一面を知ってしまって、意外な一面を知ってしまって。



死んでほしくないと思った。



「・・死んだら、あたしが許さないから」

怒った口調でそう言って、あたしは笑ってゼルフィルドの頬(?)をふいてやった。
ずいぶんと、見違えるほど綺麗になった。(ような気がする)

「本当に許さないからね・・死ぬときはあたしの許可を取ってから死ぬように、いいわね?」



なんて無茶苦茶な言い分なんだろう



設定だから死ぬことは確実なのに



その前に彼はこの話を聞いていないというのに



無茶苦茶過ぎて、逆に呆れられてしまいそうだ



「・・でも、あたしは決めたの、運命を変えてやるって」



好きになりかけている、あなた達が死ぬことなんてないように



「・・・・絶対あたしが助けてあげるから」



逆らってやる、足掻いてやる



誰も死なせることのないように



そう、決めたから



「・・ふぇ〜、やっと綺麗になったー・・」


こびり付いていた血はほとんど消えていて、まるであたしの悩みが消えたみたいだった。
この血はあたしの悩みかも、と笑って、あたしはゼルフィルドの横にちょこんと座り込んだ。

こつんと、彼の腕(?)にもたれる。
機体の冷たさがあたしの体温に触れて、それに目を閉じた。


「・・・死んじゃ・・・・だめだからね」



それは悲しいことだ



苦しいことだ



だからあたしは、敵であるあなた達に願うのだ




・・・どうか、生きていて欲しい、と




しばらく、景色を見つめながらゼルフィルドが起きるのを待ってみた。
でも彼は起きなかった。
そのうち、太陽がどんどん紅色に近づいていく。


「・・・・・・・・・・・・・・起きねぇ・・・・・・・・・・」


ゼルフィルドはまだ動いてなかった。
てゆーか太陽!太陽もうほとんど赤いってあんた!(夕暮れだよー!)

「ちょっと!ゼールーフィールードー!!早く起きなくちゃあたしデグレア軍にバレちゃうでしょ!」

そう叫んでも岩のように動かず。(キー!!)
あたしは、自分の中でプッツーーーーーーーーーン、と何かがキレる音を聞いた。

「寝過ぎだーーーーーーー!!」

あたしはゼルフィルドの背中に回し蹴りを食らわしてやった。
ルヴァイドのときといい、イオスのときといい、何だかデグレア軍を殴ってばっかりだ!(最低だ)

「っていうか!いくら何でも寝過ぎでしょ!!ゼールーフィールードー!!」

ギロリと睨み付けて、威嚇してみた。
けれどがそれでもゼルフィルドは、まったく動きすら見せず。


「・・・もういいわよ・・」


あたしは不貞寝を決め込んで、ゴロリと草原のベッドで横になる。
今まで言えなかった悩みを吐き出せたせいか、ずいぶんと心の中が楽になった。
やっぱりこういうのは口出すに限るわー。


案外、あっさりと意識を手放してしまった。











がゼルフィルドの隣りで寝息を立ててしばらくしてから、小さな機械音が鳴った。
それに機体の肩部分で翼をつくろっていた鳥達は、バサバサッと翼を広げ、空に立つ。

羽根が数枚、空に舞った。


「充電率100%・・・背ノ装甲ニ微軽傷ノ損害アリ・・・」

太陽はもう暮れかけていて、暗い色がリィンバウムを包み込もうとしていた。
そろそろルヴァイド達も戻ってくるころだろう、と考え、彼はガシャンと立ち上がる。

だが立ち上がったと同時に、何かが地面に倒れる音をセンサーが捕らえた。

「・・・・・」

それは、ルヴァイドが助けた人間だった。
そんな彼女の傍らには、赤い色に染められている白い布や、水が入った桶。
怪我をしたのだろうかと彼女を調べても怪我らしい怪我は見当たらず、新しい外傷はないと判断する。

そして彼は、自分の身体が綺麗になっていることに気がついた。

「・・・・・」

彼は、ぎこちなく彼女を抱き上げた。
なるべく起こさないように、綿密に力加減を計算し、衝撃を与えないように歩行する。

ゼルフィルドは、彼女の言葉を全て聴いていた。
電源は切っていたが、非常用のため全て気配と感覚を感じるように設定していたので、
の話は全て聞こえていたのだ。



“絶対あたしが助けてあげるから”



何から、だろう



いやその前に、彼女はなぜかルヴァイドと同じ何かを、ゼルフィルドの中に芽生えさせる



機械兵士独特の、主に仕えるプログラム



それを、彼女に対しても実行してしまう



彼女は、主ではないというのに



「主、デハナイ?         イヤ、不明、不明、理解不可能、回答不可能」

音声が、知らず知らずのうちに漏れた。
考えれば考えるほど答えが浮かばず、”回答不可能”と結果を出す。

深い、深い何かが、答えを出そうとしている。
けれど何かが妨害して、彼をその答えから遠ざける。


遠く、遠くへ、遠ざける。


自ら不調になっているかどうか調べても、記憶のメモリーにはなんら異常も見当たらない。
”気のせいだ”という言葉で片付けるには、彼は人間ではないので無理だった。

ふと、丘からデグレア軍駐屯地を眺める。
夜に近づいていくごとに、ポツポツと明かりが灯されて。
控えめな、薄明かりの世界を作り出していく。

もう、何度も見たであろう光景。

少しして、軍の中心がざわめいた。
センサーを使い、そこを見れば馬上にルヴァイドとイオスの姿を見つける。
どうやら彼らは無事に帰ってきたらしい。

ルヴァイドが、顔を上げた。
彼の目にゼルフィルドの姿が映り、そしてゼルフィルドの腕の中にいるの存在に、少々驚いた表情を見せた。
意外な組み合わせだったのだろう。

彼はイオスに何らかを呟いて、馬を下りてこちらへ向かってくる。
そこでイオスもゼルフィルドを発見すると、さらに驚いた表情を見せて、部下の目がゼルフィルドに向かないよう、テキパキと指示を下し始めた。

しばらくして、ルヴァイドがゼルフィルドとの前に姿を現した。

「将、オ帰リナサイマセ」
「ああ、・・どうやらもう具合は良いようだな」

それはゼルフィルドに言ったのかに言ったのかわからないが。
ゼルフィルドはそっと、をルヴァイドへとその身体を預ける。

「居眠リヲシテイタヨウデス」
「みたいだな、・・駐留している部下が少なくなったとはいえ、外へ出て居眠りをするとは思わなかったが・・・・・・」

ルヴァイドの口元に、苦笑が浮かぶ。
穏やかな、それ。

ゼルフィルドはそれを視覚に入れながら、問う。

「消息ガ途絶エタ部下ハ」
「・・・・森の入り口近くで、殺されているのを見つけた。すぐ埋葬したものの、まだ俺達の近くに悪魔が潜んでいるやもしれん」

近くに、いる。
それを新しい情報として組み込み始めたその時、別の気配をセンサーが感知した。
彼はそれを感知した時には、種族、殺気、武器の種類などを理解していた。


種族、悪魔


警告を発するよりもルヴァイドとを背後に庇い、ゼルフィルドは黒の機体で盾の役割を担いながら、暗闇に向けて機関銃を発砲する。

ドゥラララララ!と激しく、豪快な銃音が夜の闇に染まった空に響き渡る。
空になった弾薬が地面にいくつも吐き出され、ルヴァイドもを片手に庇いながら剣を握って、ゼルフィルドの狙った暗闇に目を凝らした。

甲高い悲鳴が、夜の闇を切り裂いた。
同時に女性の形をした一匹の悪魔が地に倒れ伏せる。
すでに動かなくなっているそれを目にしたルヴァイドの表情は険しくなり、ゼルフィルドに目をやった。

「ここ最近、悪魔の数が多過ぎるな」
「原因モマダ解明出来ズニ申シ訳アリマセン」
「いや、聖女捕獲の任務を行いながら調査を進めて行くのが今後の方針だ。だがくれぐれも用心してくれ、・・・こいつらは頭がいい」
「了解」

ルヴァイドは剣を鞘に収め、わずかなため息をついた。
自分にわからないことが多すぎる、そのうえ聖女一行が逃げた先が聖王都・ゼラムとは、敵の要塞に軽々しく飛び込んでいくのと同じことだ。

長い、長い道のり。


「・・俺はいつになったら、父と一族の汚名を晴らすことが出来るのだろうな」


自嘲気味に、ルヴァイドは呟いた。

逃げたくなる時も、多くある。
関係のない命を消していくたびに、後悔が何度も心の中に沸き立って。
その中を進み続けて、最後につかめるのは本当に汚名返上というモノなのか。


         たまに、わからなくなる。


ルヴァイドの呟きに、ゼルフィルドは何も答えなかった。
今の彼に言葉を掛けるのは自分ではないと理解している。


「・・・ん・・・っ」


先ほどの銃撃音と、二人の会話。
それにが、パッチリと目を覚ましたからだ。














「んーーーーーーー??」


あたしは間抜けな声と一緒に、寝ぼけ眼で上を見た。
一番に目に入ったのは、キレイな赤紫色の長い、ゆるやかな髪と。
ごつごつとしている鎧と、整った顔にある鋭い目。


「・・・んんんんーーーーーーーー???」


目をゴシゴシとこすって、あたしはズズイっとその顔に顔を近づける。
それに相手がたじろいだ様子を見せた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルヴァイド?」
「そうだが」
「んんんん?本物?」

ペタペタと、ルヴァイドの頬に触ったり髪を引っ張ったりした。
まだハッキリしない意識に身を沈めていた為、この行動に対して何も思っていなかったが、頬の感触に段々と目が覚めてきて。

血の気が、引く。

「・・・・・・・・・・・・ほ、本物・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・そうだが」

あたしの指にはルヴァイドの髪が絡まっていた。
顔と顔との距離も酷く近い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんていうかもう、絶叫するしかなかった。

(ああああああああああああああああ!マジモノデスカーーーーーーーーーー!!!)

夢じゃないんかい!とツッコミながらも、引きつった表情と乾いた笑みで挨拶した。
ルヴァイドはイオスみたいに心狭いことはないだろうし!殴り合いに発展するなんてことはないからその分安心なんだけどね!


イオス、散々な言われようだ


「おおおおおおおおおおおおおかえり・・・・!は、早かったね・・!!」
「もう夜だが」
「・・・・・・・・・・・・ゼルフィルドおおおおお!起こしてくれたっていいじゃないのさーーーー!!!
あたしあんたが起きるの待ってたんだよ!」
「・・・・・」


いや、黙られても(かなり)困るんですケド


降り注いだ沈黙に、あたしは叫ぶのをやめるしかなかった。
しばらくしてから、妙にざわざわとした声や怒鳴り声があたしの耳に響いてきた。
そちらのほうへ振り向けばなんと、たいまつを持ったデグレア軍兵士があたし達の元に向かってきているではないか。(しかも先頭はイオスだし!)

「げ?!な、何でこっちに来るの!?」
「こっちだ」
「え?」

ルヴァイドがあたしを抱えたまま、デグレア軍兵士達から離れていく。
ゼルフィルドはゼルフィルドで逆に彼らに向かって歩き出し、何やら説明をしていた。

「先ほど悪魔が俺達を襲ってきた、その時にゼルフィルドが打った銃音で彼らが気づいたのだろう」
「へ?・・悪魔?」
「最近リィンバウムに多く出没している悪魔だ、連絡係を殺したのもあの悪魔らしい」
「・・そ、そうなんだ・・」

イオスから話には聞いたけど、本当に大変なことになっているようで。
思わずうなりながら考え込んだその時、あたしは自分の状態に気付いた。


横抱きで、ルヴァイドに抱えられていた


(ギャーーーーーーーーーーーーーーー!!!)


あまりの恥ずかしいシチュエーションに、慌ててルヴァイドを見上げた。
彼は彼で平然として、あたしに”何だ?”と問いかけてくる。(聞くなーー!)

「ルルルルヴァイド・・お、降ろして・・・」
「・・・・」
(何で黙るのさーーーー??!!)

何やら恥ずかしさにクラクラして、まともにルヴァイドの顔が見れなくなってしまって、俯いた。
しばらくそのまま沈黙が続いて、耐え切れなくなってあたしが何か言おうとした時に、ルヴァイドが先に口を開いた。


「少し、話がある」

「・・話・・・?」


そこでようやく、そっと降ろしてもらえて安堵の息をつく。
いつもよりもずっと早く動いている心臓をどうにか落ち着かせ、あたしは彼を見上げた。

「俺の国のデグレアには、元老院議会というもので国政を行っている」
「・・?・・うん」
「その使者の召喚師が聖女を捕らえる任務を早くしろと、言ってきた」

あたしは思わず、ぎゅうっと自分の拳を握り締めた。
アメル達はまた、彼に狙われる           

「イオスに聞いたのだが、お前は聖女達に助けられたらしいな」
「うん・・あたしに、本当に良くしてくれた・・」


手を握って、あたしのあの村まで連れてきてくれた


喧嘩もしたし、すごく嫌なことだってあったけど・・・優しくて


「・・・俺は明日にでも、ゼラムに向かう」
「!」
「お前ももう、ここにいさせることはできない」

とうとう、だ。
あたしはようやくここから離れることが出来る。
・・・でもそれを少しさびしいと思うのは、気のせいなのかな?

「使者は俺が好いていない召喚師でな、その男に聖女を捕らえられなかった我々、黒の旅団はいいように言われてしまった。・・・俺が不甲斐ないばかりにな・・・」
「・・・ルヴァイド・・・?(一体どこのクソ召喚師がそんなこと言ったのよ・・!<キー!!)」
「だが、これ以上好き勝手を言わせるつもりはない。・・・お前にわかってくれとも、言わない」

あたしは彼に首を横に振った。


「・・そんなこと言わなくていいよ」


つらいけれど、あたしにはどうすることも出来ない。
その代わり、デグレアの偉い老人の集まりである元老院議会に呪いのオーラを放った。(キェー!<奇声?)
でもその彼らもすでに、本当の支配者と化したあいつらに殺されていて、死んだ後でも操られている。

(あたしは死んでるジジィより、生きてて若いルヴァイド達をとるわ!(拳グッ)
バチ当たりかもしんないけど、・・彼らは運が悪かったのよ)

銀色の髪の召喚師に狙われたその時から、彼らは終わっていた。

(・・被害者のあたしが、こんなことをするなんておかしいけど)

あたしは、笑ってやった。
少しでも、彼の心が楽になれるように。


「・・あたしのことは気にしないで。それにアメルがゼラムに行ったのだったら、あたしもゼラムに行くつもりだし」

「!」

「あたしはアメル達に助けられたのよ?・・彼らしか、あたしを知ってる人はいないの」


ルヴァイドは驚いたように目を見開いてあたしを見下ろして。
あたしは、また笑う。

「・・ルヴァイドは今の道で納得してるの?」
「・・納得?」
「例え誰かの為であっても、ルヴァイドが辛いなら無理はしなくていいんだよ?」
「だがこれは俺が決めた道だ、変える事は出来ない・・」

ああ、なんて彼らしい答えなのだろう。
俯いてしまったルヴァイドに、あたしは首を横に振った。


「変えなくて、いいよ」


俯いていたルヴァイドの頭に優しく手を置いて、ポンポンと軽く叩く。
そんな行動がでるとは思わなかったのか、ルヴァイドは固まってしまってされるがままになっていた。
それが小さい子供のように思わせて、あたしの母性本能がくすぐられる。


「・・変えなくていい、信じた道を行けば良いよ」



ルヴァイドの道はルヴァイドのモノ


だからそれは、誰にも口出しなんか出来ない


あたしの道が、誰にも口出しできないように


彼も道にも、誰も口出しなんか出来ない



「でもあたしは        心配だよ」



それはイオス達にも言えることだ


彼らにも、言えることだ



ざぁっと冷たい夜の風があたし達の髪を揺らして頬を撫で、あたしは小さくクシャミをした。
おおおお、風邪引きそう・・・(寒っ)

今更だが自分が結構薄着だという事に今気がついて、あたしは自分の浅はかさを呪った。
しかし次の瞬間には何かに包まれて温かくなる。
“?”と顔を上げるとそれはルヴァイドのマントで、彼が掛けてくれたらしい。

「ありがとね・・」

優しい、人だから。
だから酷く、心配してしまうのだ。

マントの温もりに包まれながら、あたしは目を伏せた。
彼がアメル達から何もかもを奪った人でも、あたしは一度彼を許してしまっているから、だから・・・心配してしまうのだ。

そして突然。
ぐっと、マントが引っ張られた。

「・・・?ルヴァイド・・って・・・え゛?!」

ルヴァイドはあたしを包んだマントを引っ張って、包まれているあたしごと無理矢理引き寄せた。
次には、ぎゅうっと抱きしめられてて、硬い鎧が頬に当たった。
ゴツゴツとした鎧が酷く冷たくてゾクリとする。


つ、冷たーーーーーーーーーー!!


「ル、ルヴァイド!つめた・・(寒いッスー!)」
「・・・

ルヴァイドが、初めてあたしの名前を呼んだ。
それは何か嬉しくて、同時に少し照れくさい。

「な、何・・・?」

耳元に触れるルヴァイドの吐息は、あたしは頭の中を混乱させる。
だけど彼の声は確かにあたしに届いた。



“すまない、・・そして感謝する・・”



泣きそうな、声。
表情を見ようと思っても、肩に顔を埋められていてよく見えない。
どうしよーかと思っていたらルヴァイドの方から離れて、じっとあたしの目を見つめた。

「・・お前が、聖女ではない者に拾われていたなら・・こんなことにはならなかったのかもしれないな」

その声は震えていた。
何かに脅えるみたいに、弱々しくてルヴァイドらしくなかった。

でも、あたしはそれを否定した。

「あたしがアメル達に拾われなかったら、あたしはルヴァイド達に会えないまま、死んでたよ」



おじいさんがくれた短剣と、(使わなかった)サモナイト石と、



アメル達がくれた勇気や、優しさがなかったら



あたしはきっと、何もしないまま終わっていただろう



彼女達のおかげで・・あたしはルヴァイドに助けてもらえたのだ




(それにあたしはトリス達に会わなくちゃいけない・・)



あたしはギブソン邸を訪ねて、誰があたしを召喚したか調べなくては行けないのだ


どうしてあたしの側に誰もいなかったのか


それが謎過ぎてたまらなかった



あたしはルヴァイドの身体から身体を離して、彼の目を見つめ返して、緩く微笑む。


「・・ごめんね」


今は、それしか言えなかった。
その言葉しか思い付かなかった。


「おかげさまで身体ももう充分元気になった、あたしはアメル達の側に行く」



それは敵になると言う事になるけれど



              助けてくれて、生かしてくれてありがとう、ルヴァイド」


あたしの言葉を最後に。
あたし達の周りには沈黙が舞い降りて、静かな空間が出来あがる。
とても、とても静か。

「ルヴァイド様!」

そんな時、イオスの声が沈黙を打ち破った。
どうやら悪魔のほうも無事に片付いたみたいだったけれど、かなり切羽詰った様子に、あたしとルヴァイドは目を丸くする。

「イオス・・どうした?」
「キュラーが急にやってきてルヴァイド様と話がしたいと・・」


ん?キュラー・・・・・あのアゴか!!(酷)


ルヴァイドはあたしを一瞥して、イオスの前を通りぬけると同時にイオスに言い放った。

「イオス、今からを連れてゼラムまで送ってやってくれ」
「え・・?ルヴァイド様・・!」
「ここにいればキュラーに殺されるだろう、・・約束を破りたくはない」


“お前を無事に帰してやる”


それはいつだったかルヴァイドがあたしに言った言葉。


「・・ルヴァイド・・」

「・・・また、会おう。        


ルヴァイドはイオスとあたしに見送られながらその場を去っていったけど、あたしは嫌な予感に覆われて、ルヴァイドのマントをぎゅっと胸元にかき寄せる。


「・・イオス、あたしをキュラーのいる所まで連れて行って」
「・・殺されるかも知れないんだぞ・・いや、あいつはきっとキミを殺す!」
「それじゃこっそり連れて行って!お願いだから・・・!!」

イオスの腕を掴んで、あたしは頼んだ。
何か情報が聞けるかも知れないし、あたしを召喚した人がわかるかも知れない。


でも本音は、ルヴァイド達が心配だったからだ


・・キミは・・」

「・・すごく、嫌な予感がする」


イオスはルヴァイドのマントに包まれているあたしに、大きくため息をついた。



「・・しょうがないな」



渋々と、承諾してくれたのだった。








NEXT



*後書き*

第8話をお届けさせて頂きました。
ですが妙に誰のドリームかわからない仕上がりになってしまいました・・・!
イオスが!イオスが少なっ!!(最悪だ・・)
あまりにもルヴァイド比率の多いモノになってしまいました・・もっとイオスを絡めさせたかった
ですなぁ・・ゼルフィルドのほうも、もっと絡ませて・・!(落ち着け)

微妙にルヴァイオネタ・・(死)
デグレア軍とはお別れです、そしてトリス御一行こんにちは、な感じになるかと・・。


それではここまで読んでくださってありがとうございました!


2003.12.7大幅修正