朝が来る度、眩しい朝の光が顔にかかる。 それはとても温かくて、元の世界に戻ったような、もしくはレルムの村に戻ったような。 ・・・そんな切ない気持ちになる。 でもそんなこと、頭の中では錯覚だとわかっていた。 重たい瞼を押し上げれば、昨日や一昨日と同じテントの天井。 打ち身に痛む身体を無理矢理起き上がらせれば、傍らには熱いスープと水とパン。 そして傍には、書類を読んでいるルヴァイドがいる。 あたしはそれに何故かほっとした安堵感を覚えて、目を擦りながら声をかけた。 「おはよー、ルヴァイド」 「・・よく眠れたか?」 そんな会話が。 ここに連れられてから、何度繰り返されたのだろう? 第7夜 「あー、あ、あ、あああーーー〜〜〜〜〜♪」 ルヴァイドに挨拶をしてからいつものように発声練習。 喉痛めたあたしなのだが、口から外へと出て行ったのは、本来の声よりほんの少し涸れた声。 うーん、どうやらまだ完治したとはいいがたいようだ。 でもこの間よりかは、かなり治っていることは実感できる。 「んー、苦い薬我慢して飲んだ甲斐があったなー」 ”さてさて、今日も顔を洗うぞー”と、用意された桶(用意がいいなデグレア軍!)に 手を突っ込んで、あたしはばしゃばしゃと顔を洗い始めた。 この間何度も怒鳴ったせいで、4日過ぎても喉の痛みも引かなくて困ったけど、 でも飲み続けている薬のおかげで、息をするのには支障はないほどまでに治った。 食欲だって、かなりある。 朝ごはんだってたいらげたさ! (そういえば、なんでだろ・・?) ルヴァイドから受け取った薬を飲みながらあたしは考えた。(相変わらず苦い) ここにきて結構経っているんだけれども、目を覚ませばルヴァイドがすぐ傍にいた記憶しかない。 たまにどこかへ行ってしまうけれど、それはほんの1〜3時間くらいだけで(作戦会議なのかな?)、 あとはほとんど、ずっと付き添ってくれている。 ・・・・書類とかは読んでるけど、部下に指揮とかしなくていいわけ?(汗) 「ルヴァイドー」 すぐ傍にある椅子に座っていたルヴァイドに声をかける。 この数日間、ルヴァイドしか話す相手がいないのですっかり、普通に話しかけることができた。 (・・いやまぁ、完全に許したわけじゃないけど・・) でも、すごく優しくしてくれているのだ。 それは罪悪感からかもしれないけれど、それはとても優しくて。 思わず、心が緩んでしまう。 「何だ?」 「あのさ、ルヴァイドって総隊長なんでしょ?」 この前、彼の部隊について聞かせてもらった。 本当はこういうのは聞いちゃだめなんだろうけど、何度も頼み込んでやっと、ルヴァイドのことだけを教えてもらえた。 それを思い出しながら、あたしは言葉を続ける。 「・・ルヴァイド、あたしの傍にいてもいいの?」 「?」 「だから・・ええと、部下の人達は何も言わないの?」 怪我の手当てだって相変わらず手厚いモノで、ほとんど一緒にいてくれている。 寝るときも、床に新しく寝床を作って傍で寝てくれているのだ。 ・・・・最初は緊張していたのだけれど(不眠症になりかけたよ)、今ではさすがに慣れた。 あたしの言葉に、ルヴァイドは”ふむ”と声を零して。 「・・不審に思われてはいるな。だが・・お前の事は外部には秘密なのだ。 まだ怪我の治っていないお前を一人にするわけにも行かぬだろう」 「申し訳ございませんでした・・!(土下座)」 思わず床に座り込んで土下座ポーズをして謝るあたし。 いや、総隊長が不審に思われてる軍隊ってヤバいんじゃないですか・・!?(滝汗) 土下座のあたしにルヴァイドはわずかな笑みを口元に浮かべた。 そしてあたしの頭にぽんと手を置いて。 「頭を上げろ、俺が決めたことだ」 「はぁ・・、でもあたしのこと知ってる人って他にいないの?」 疑問を彼に投げかけて、あたしはルヴァイドの次の言葉を待った。 そんなあたしの頭の中では、とても綺麗なお顔のイオスや、ゼルフィルドのことがある。 あの二人にも秘密なのかな・・?でもあたし、イオスと追いかけっこもどきをしたし・・??(汗) しばらく悩んでいたようだったけれど、彼は小さく言葉を出す。 「・・知っている者もいる、が」 「え?ほんと?!」 「俺の腹心の部下が二人だ、お前のことを知っている。 俺達の食事を運んできてくれているのもその二人だ」 ”そのうちの一人は機械兵士だがな”という言葉であたしは確信した。 絶対、イオスとゼルフィルドのことだ。 ・・・・そういえば、朝食昼食夕食時に、テントの入り口でルヴァイドが誰かと小声で話しているのを見たことがある。・・その声はあまりにも小さかったから、よく聞こえなかったけど。 ルヴァイドはため息を吐きながら続けた。 「だが、あまりよく思われていないぞ」 「・・・・・・・・え?」 思わず、きょとんとしてルヴァイドを見た。 そして次には、良く思われていない=嫌われているという方程式が浮かぶ。 あれ?っていうかあたし何かしたっけ・・?(汗) 「・・・・・・・・・(まったく身に覚えがないわよ!)な、なんで?」 「・・・・・・・・・・・・・」 また、<なんともいえないような顔>のルヴァイドになった。 ・・・・・・なんか、あたしってばルヴァイドにこういう顔ばっかさせてるよーな・・? 「・・・あたし、その人に何かした??」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・(何で黙るんスかそこで??!!!!)」 やっぱり黙るルヴァイドに、叫ばずにはいられなかった。 そしてその端整な顔のこめかみに浮かんでいる小さな汗も、気のせいだと思いたい。 あああああ頭痛くなってきたかもしんない・・!(頭痛発生) (・・いやいや、待て待て、落ち着け自分・・もうちょっとよく考えてみよう・・) ゼルフィルドは機械兵士だ。 だから感情がないとすれば、あたしを嫌うこともない。 感情があったとしても、あたしはまだゼルフィルドと真正面から話した事もないし。 嫌われるようなことはしてない・・・・・・・・・・・・・と、思う。 残る可能性はイオスだ。 嫌われてるなら絶対こっちだ。(断言) ルヴァイド信者で、ルヴァイドラブ(待て)だし、イオスにとってルヴァイドは”自分以外に殺されるのは許さない”と決めているほどのラブっぷりだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ以上考えるのはやめよう、なんか頭痛くなってきたし でもやっぱり気になるから、うーんうーんと考えてみた。 ルヴァイドがじっと、あたしを見つめていることにも気づかずに。 やっぱり仲良くなったほうがいいのかなぁ・・・? おかしな女だ 深く深く、”うーんうーん”と真剣に悩みだす彼女を見てそんなことを考えてしまった。 口にも出かけたその言葉だが、彼女としばらく過ごした経験から黙っていることにする。 きっと彼女のことだから、不貞腐れて寝てしまうだろう。 (だが、寝ているばかりも身体にも良くないしな・・) 食欲もある、元気もそれなりに出てきて、立ち直ってくれたのは嬉しい。 けれどやはり完全には癒えていないものもある。 ・・・・・それは、心の傷だ。 この数日間に何度も見たことがあったのだ。 夜に、悲鳴を上げて起き上がる姿を何度も見た。 レルム村の壊滅の光景が夢に出たのか、側で寝ていた自分の胸に顔をうずめて、何度も”ごめんなさい”と泣きじゃくる・・・見ている者を、苦しくさせるほど切ない姿。 苦しめているのは自分だとわかっていても、どうすることもできなかった 苦しめている自分は、癒してやることができないとわかっている だからかわりに抱きしめて、背中を撫でて、小さく声をかけることしかできなかった ・・・・・それは、彼女にとって癒しに満たないであろう行為 俯いて、小さく息を吐く。 それはとても小さな、自分のやるせなさ。 そんなルヴァイドをばっちり見てしまったのか、悩んでいた彼女はルヴァイドの前まで駆け寄って、ずいっと無遠慮に顔を覗き込んでくる。 覗き込んでくることで、顔と顔の距離がぐっと縮まった。 自然と互いの瞳が近くなる。 「ルヴァイド?」 「・・いや何でも 返事をしかけて、ふと・・彼女の着ている衣服が目に入った。 自分の代えの服を着せてあったので上下ともサイズがぶかぶかなのだが、何回も着せているせいか、少しくたびれかけている。 「少し待て」 「?」 ルヴァイドは彼女に背を向けて、必要最低限のものしか入っていない荷物を開け、彼女に着替えをさせようと代えの服を探す。 けれどどれもこれも大き過ぎるので、ズボンのほうなどはベルトで締めても落ちてくるかもしれない。 「・・ふむ、どうしたものか・・」 「・・・いきなりどしたのよ・・ルヴァイド(夜逃げ・・?<オイ )」 「ずっとその服のままというのもあんまりだからな」 そこで彼女も気がついたのか、くたびれてしまっている服の裾を掴み、”うーん、確かにねぇ”などと小さく笑う。 「待っていろ、借りてくる」 「・・へ?いや!だめでしょ!いくらなんでも贅沢(?)なんかしてられないし・・!!」 慌てて、ぶんぶんと首を横に振る反応に思わず苦笑がこぼれる。 だがずっとこのテントの中にいさせているのだ、何か少しでも気分転換などをさせたほうが身体に良いのかもしれない。 ・・少しでも、うなされることが少なくなるかもしれない。 そうなるのなら、きっと今は何だってやれるのだろう 「大丈夫だ、今度はサイズにそれほど違いはないだろう」 「いやいやいやいや!っていうか誰の服を借りてくる気なの?!あたしのことは軍の人たちに秘密なんでしょ!?」 出て行こうとするルヴァイドの上着の裾に必死にすがりついてくる彼女。 慌てているそれが何やら少し楽しくなってきたが、ルヴァイドは彼女の手をやんわりとはずさせると、外させたその手で彼女の前髪に触れた。 「お前のことを知っている部下が2人いると言っただろう、あの夜にお前を追っていた、金髪の男を覚えているか?」 彼女の動きが、ぴたりと止まった。 次には顔色がさっと青くなって、ルヴァイドの腰にすがりつくようガシィッ!!としがみついてきた。 その妙な反応に、思わずきょとんとしてしまった。 彼女は叫ぶ。 「ルヴァイドのアホー!!それってあたしを良く思ってない人ってその人のことでしょ!? そんなこと頼んだらあたしますます嫌われること確実じゃない!!」 「そこまで心の狭い男ではないと思うが・・」 「いいや!あのテのタイプは絶対執念深いのよ!なんかもう几帳面そうな顔してたし!それに・・それに・・・!」 ぎゅううっとしがみつく腕に力をこめて、彼女は唇を震わせた。 その表情は切羽詰っていて、まるで何かを認めたくないとでもいうような感情がこもっているようにも見える・・必死の、表情。 「それに?」 「もう見ただけで!あの人のほうが腰が細いってわかるじゃないのーーー!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 一瞬、彼女が何を叫んだのか理解できなかった。 取りあえず、もう一度尋ねてみる。 「・・・・・・・腰?」 「あの時は暗すぎてたし怖かったからあんまり覚えてないけど!でも絶対絶対あっちのほうが腰細いのよ!スリムなのよ!ナイスバディ(間違ってるよ)なのよ!! あ゛ーーーもうっ!!何であんなに細いのよあの金髪男ーーーーーーーーーー!!!」 女は、わからん ルヴァイドは、本当に、わからなかった。 ◆ 取り合えずどうにか外へ出れば、青一色に塗りつぶされた空が視界に現れた。 陽の光が穏やかに降りかかり、それに目を細めてルヴァイドは草原を踏みしめる。 柔らかな草の感触が、足から身体に伝わった。 周りでは黒の鎧に身に纏っている部下達が剣の稽古をしていたり、作業をしていた。 ある者は笑いながら、ある者は無感情に黙々と。 少し向こうから、軽い足音が耳に届く。 そちらに視線を向ければ、淡い金髪。 「ルヴァイド様!」 「イオス?」 「本国から密会の申し込みがきています、先ほど使者が・・・」 金髪の青年・イオスは手に持っていた手紙をさっと差し出した。 それを受け取って目を通し、内容に思わず眉を歪める。 「ルヴァイド様?」 「ここから少し離れた森に隠れている、元老院議会の使者が報告を要請しているようだ」 ため息が、ルヴァイドの口からこぼれた。 本当ならば壊滅させた後、1〜3日休んでゼラムに向かうはずだった<黒の旅団>。 だが彼女を助けてしまったから、その療養のため、壊滅させてからもう10日以上はここで過ごした。 今まで色々と理由をつけてここまで引き伸ばしてきていたが、共に休んでいた兵士達もそれぞれ聖女捕獲を訴え始めている。 休んだ理由云々について、元老院議会もその重い腰をあげたということだろう。 彼らはルヴァイドの報告を聞くために、わざわざ使者を聖王国領域に送り込んできたのだ。 ふと、彼女と過ごした光景が脳裏に浮かぶ。 罪の意識で苦しくとも、どこか優しい、温かく感じたあの瞬間。 だが、それも終わりだ 「・・・・イオス、俺は使者に報告に行く」 「はい」 「そこでお前に頼みがあるのだ」 「・・・・?」 イオスが微妙に眉を歪めた。 何となく、自分に降りかかることを感じているようだ。 それにルヴァイドは苦笑しながらも、イオスにそれを与えるために口にする。 「お前に、しばらく彼女の世話を頼みたい」 「・・・・・・・・・」 顔が、しかめっ面になった。(そんなに嫌なのか) 「・・お前が、彼女についてよく思っていないことはわかる。 俺が彼女を助けてしまったせいで、こうも予定が大幅に狂ってきているのだから」 イオスは、すっと肩の力を抜いた。 次には呆れたように小さくため息を吐いて、視線を地面に向けて俯く。 ・・・・・風が、その金色の髪を淡く撫でた。 それを眩しそうに目を細めながら、イオスから空へと視線を映して、ルヴァイドは続ける。 「だがその遅れはいつか俺が取り戻す」 たとえ、周りから責められようとも 助けてよかったのだと 出会えて良かったのだと 心が思えているのだ 摘み取って、奪っていくばかりの自分の手が 何年ぶりかに、守ることために触れたのだ ・・・・それを嬉しいと思っているのに、何故、後悔などが出来ようか 「・・・ルヴァイド様」 イオスは、ここではないどこかを見つめているルヴァイドの僅かな表情に、表情には出さないものの、心底驚いていた。 口元に、僅かに浮かんでいる笑み。 それはほんの小さなものだけれど、イオスにとっては大きいもので。 「・・ イオスは、否定の言葉を出すことはできなかった。 「あ、おかえりルヴァイド!」 「・・ああ、服は後から渡せそうだ。少し待ってもらいたい」 「あはは、ほんと別にいいのに・・・・・それより、一つ質問があるんだけど・・」 ルヴァイドはやや首を傾げて彼女を見下ろす。 それに彼女は”うー、あー”などと何やら呻いたが、意を決したように顔を上げて。 「あたしのこと嫌ってる人がいるって言ったよね?どうすればその人と仲良くなれると思う?」 「・・仲良く?」 彼女はこっくりと頷いた。 どうやら散々悩んだ結果が”仲良くして事をすませよう”というものになったらしい。 だがすぐに何かを思い出したように、微妙に眉を歪めて否定するように手をぶんぶんと振った。 「いや!仲良くするにはヤバイから・・嫌いからほどよく友好的な顔見知りな関係にまで修復しておきたいのよ!だから、その人のこと詳しく教えてほしいのよ」 「・・?」 「あたしだって・・・・・・・・そう簡単に打ち解けるなんて思ってないから。だからってこのままだったらルヴァイドにも迷惑かけちゃうしね、ほどよく友好的な顔見知りくらいだったらちょうどいいかなぁなんて思って・・」 ・・ああ、そうか 言いにくそうに告げる言葉。 それにルヴァイドは改めて、彼女にしてしまったことを思い知らされる。 森を焼き。 家を焼き。 人の命に手にかけて。 ほんの少しの時間で、全てを奪ってしまった我々。 許しても、そう簡単に受け入れることができなくて。 許してもらえても、そう簡単にそれに甘えることはできなくて。 互いに打ち解けることができなくて、なかなか知ろうと思うことができなくて。 どちらも、歩み寄れぬまま そこまで考えて、ふと彼女の言葉を思い返す。 「・・ちょっと待て」 「ん?」 「俺に迷惑?」 問えば、彼女はあっさりと頷いて。 「だってあたしに付きっきりでいてくれてるから、苦情がきているわけでしょ? それって迷惑以外の何者でもないじゃない(まぁ美形の看護は乙女の夢でもあるけどね!)」 あっけらかんと言う彼女を思わずぽかんと見てしまった。 けれど次には苦笑が零れ出て、自分の前髪を掻きあげた。 なんと、変わった女だろうか 言葉を交わせば交わすほど、そう思えて仕方がない 「・・ルヴァイド?」 「これからお前と彼を会わせよう思う」 一瞬、沈黙が舞い落ちてきた。 その妙な沈黙にルヴァイドがわずかに首を傾げれば、彼女は”はぁ?!”と大声を出してルヴァイドの袖にすがりつく。 「な、何でそうなるのよ?!あたしはただその人のことをルヴァイドから聞こうと・・」 「会ってみたほうが早いだろう」 「アホー!!その人はあたしのことを嫌ってるんでしょ?それならいきなり会ったってあたしが彼に親しくできるわけないし、彼だってあたしと親しくなろうなんて思う前に最悪な展開になっちゃうわよ!」 「・・最悪な展開だと?」 「よくて殴り合い、悪ければ殺し合いよ!っていうか一般人が軍人に勝てるわけないっつーの!!」 「だがもう呼んでしまっているのだが」 「ギャーーーーーーーーーー!!もうルヴァイドの大馬鹿ーーーーーーーー!!!」 スパーン!と、どこから取り出したハリセンで、彼女はルヴァイドの顔をはたいた。 よくよく見れば寝床の周りの2つくらい、同じ形のものが置いてある。 それに”よほど暇だったのか・・”などと、ルヴァイドはのん気に再確認。 我に返った彼女は、慌ててルヴァイドに謝った。 「ごめん、つい!ノリツッコミで!!」 ノリツッコミで騎士をぶつな(天からのツッコミ) 「いや、大して痛くもなかった」 「ああああああああたしってば黒騎士をハリセンでぶつなんて・・!普通なら命獲られたっておかしくない所業を〜〜〜!!!こうなったらお詫びに<黒騎士をハリセンでぶった女>の称号を墓の中まで持っていきます・・・!!」 それが詫びというのか疑問なのだが ルヴァイドはまた、苦笑。 何だか彼女には妙に怒る気が起きないというか、呆れしか出てこないというか。 けれど、どこか安らいでいる (・・あとはイオスとのことだけだが) そこで、ふっと気配を感じてルヴァイドは振り返った。 振り返ったさきには、服を片手にじっと佇んでいるイオスの姿。 そんな彼の様子に首を傾げながらも、ルヴァイドは彼に礼を言う。 「イオスか、わざわざすまなかっ バサッ!! ルヴァイドの言葉にも反応せず、イオスが服を乱暴に地面に投げ捨てた。 それにルヴァイドが唖然としてしまっている間(彼女は”ヒー!”と悲鳴を上げていた)に、彼愛用の槍を手に持ち構え、赤い瞳でルヴァイド達を・・いや、彼女を射抜く。 「貴様ぁ・・・!!」 「ひぇぇ・・怒られてるのはやっぱりあたしなのね・・!!」 「先ほどから貴様の行動を見ていれば、ルヴァイド様に何度無礼を働けば気がすむんだ・・・!!」 あまりの怒りっぷりに、さすがのルヴァイドも思わず頬が引きつった。 どうにか落ち着けようとするがそれを遮るかのように、イオスの槍が彼の手によりブゥン!と鋭く空を切り、それに彼女はひしっとルヴァイドの背中にしがみつく。 「る、るるるるルヴァイド・・あたしってば絶体絶命のような気がするんだけど・・!」 「・・よほど・・怒っているようだな・・・」 「今さっきの槍で空を切ったのも威嚇じゃなくて、マジなんじゃ・・・!?」 「・・・・・・・・・・・・そのようだな」 このまま二人を置いて森に行っても大丈夫なのか そんな思いが、ルヴァイドの胸のうちを過ぎるのだった。 ヤバイ、ヤバイ、ヤバ過ぎる! あたしはしっかりと、ルヴァイドの背中に隠れながら胸中に叫んだ。 っていうか無礼ってあのハリセンのこと?! 謝ったつもりだったけど、あんたにとっては誠意が足りないって言いたいわけなの?! イオスがルヴァイドに向かって叫ぶ。 「ルヴァイド様、その女から離れてください!」 「い、嫌よ!絶対!ぜーーーーったい離れないんだから!!(離れたら殺られるだろーがよ!!)」 「お前に言っていない、ルヴァイド様に言っているんだ」 「ああああああんた!あたしがルヴァイドから離れたらその槍でさっくり殺っちゃうつもりでしょ?!」 「よくわかったな(あっさり)」 「わからいでかーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 ああああ、もう絶対仲良くなんかなれない あたしはそう確信してしまった。 否定したくとも、イオスは完全にあたしを嫌っている。 でもあたしはイオスに何かした覚えはないので、ルヴァイド絡みで嫌われてしまったようだ。 思い当たることといえば・・・・・・・半裸見たことがもうバレたか?!(それかよ) 「とにかく落ち着け、イオス。武器もしまうのだ」 「ルヴァイド様っ」 「俺は彼女に償いきれぬことをした、それ相応の扱いをしなければならん。 全ては・・俺が自らの意思でやっている」 「僕が心配しているのはそんなことではないのです、・・ただ そこまで言いかけて、イオスは口を閉ざした。 ルヴァイドはルヴァイドで、イオスをじっと見下ろしている。 あ、あのー・・なんかあたし、お邪魔虫のよーな気がしてきたんですけど・・(っていうかこの空気は何?) 「・・・ルヴァイド様、もうそろそろ森へ行かれたほうがいいと思います」 話が、急にあたしの知らない話題になった。 それに”え?え?”とルヴァイドを見上げれば、ルヴァイドはやや躊躇って。 「少し私用が出来たのだ、夜には戻ってこれるのだが」 「あ、そうなの?・・大丈夫よ、あたしの心配はしなくていいから)」 笑って、言ってやる。 今日一日だけのようだし、それくらいだったらどうにかなる。多分。 「だが体の怪我のこともあるだろう、その間の世話をイオスにと頼んでおいたのだが・・」 「いりません(キパッ!)」 「・・・・・・・(即答か)だが自分で包帯を巻けるのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・根性で頑張るわ」 そうなのだ、上腕部分に治りの遅い怪我があるのだけれど、どうしてもそこの包帯がなかなか巻くことができないのだ。(難しいのよ・・!!) だからってイオスに手伝ってもらおうなんて、思ってもいない。 怖 ぇ っ つ ー の ! ! ! 「ルヴァイド様、彼女の面倒は取り合えず見ます。 だからもう行ってください、これ以上待たせてしまっては面倒なことにもなりかねません」 イオスが、あたしの腕をグイッと掴んでルヴァイドから引き離す。 けれど、掴んだ部分が最悪に悪かった。 そこは今だ治りきっていない、怪我の部分で。 「イターーーーーーーーッッ!!!」 激痛のあまり、思わず全力でイオスの掴んでいる手を振り払った。 けれど振り払った途中でゴッ!!っと、何かを殴ったような・・そんな痛々しい音と感触が、何故かあたしの耳に拳に届いて。 自分の血の気がひいていくことを理解しながら、イオスを見た。 彼は、頬を押さえていた。 オーマイガッ(眩暈) 「・・・イオス、大丈夫か?」 イオスはルヴァイドに答えず、再びあたしの腕を掴んだ。(今度は怪我をしていないほうの腕) そして妙に、爽やかな笑顔で彼のほうへ向き直って。 「ルヴァイド様、気をつけてください。最近ははぐれ悪魔が多いようなので」 掴まれている腕が、ぎりりっ!と強く握られた。(アイタタタターーーー!!<泣) さらにはあたしをルヴァイドの前に出して、あたしの耳元に唇を寄せながら。 腹の奥底から、・・・寧ろ地獄の奥底から響くような声で囁いた。 「この女は、僕が責任持ってしっかり、面倒を見てやりますので」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マズイ、本気で殺られる ぶわっと、嫌な汗があたしの体全体に吹き出した。 イオスもイオスで綺麗なお顔(右頬負傷)の裏に、”ブッ殺す・・!”と言わんばかりの表情を隠し、妙な笑顔でルヴァイドを送り出そうとしている。 しかもルヴァイドは気づいていないのか、”なら頼んだぞ”などと言い出して、素直に送り出されようとする始末。 ああ、ルヴァイド どうしてあなたは気づかないのか この、”今からにでも殺してやりたい”と言わんばかりのオーラを!! ルヴァイドはあたしの心を叫びに気がつかない。(本当に叫んだらあたし(の人生)は終わりだ・・!) 鎧と剣と兜を探して、それを身につけ、マントをバサリと翻す。 ”ああ・・本当に行っちゃうよ”などと絶望のどん底に突き落とされていたら、耳に、音が響いた。 それはなにやらガション、ガションと重たい響き。 ・・がしょんがしょん? 音のほうに、目を向ける。 ルヴァイドとイオスも目を向ければ、テントの入り口の役割である布の向こうから、不思議な声が聞こえてきた。 「我ガ将」 機械的な、感情のない声。 次には、ルヴァイドよりもずっと背丈の高いロボットが入ってきた。 黒の、機械。 それは人間にも少し似ている、不思議なモノ。 だけどいきなりの登場には、さすがのあたしも平常心ではいられなかった。 悲鳴が喉まで一気にせり上がって、次には大音量で放たれる。 「ひ・・ぎゃぁーーーーーー?!・・ムゴムガムガ!!」 「静かにしろ!」 掴んでいた腕にさらに力をこめて、イオスの手があたしの口を覆った。 口を塞がれて、大きな悲鳴がくぐもったモノに代わり、息苦しさがあたしを覆う。 「モガ!ムガガムガムガ!(痛い!何すんのよ馬鹿力!)」 「静かにしろと言っているだろう! 他の兵に気づかれる・・いや、気づかれる前にひと思いに殺したほうが・・」 「ムガーーーーーーーーー!!ムガモガガムゴゴムグーーー!! (ギャーーーーーーーーー!!さっきの事を根に持ってんでしょアンターーー!!)」 あたしとイオスが格闘している間に、ルヴァイドとロボットはあたし達のことをまったく気にかけず(え?!何この反応!<汗)、なにやらぼそぼそと会話をしている。 それからルヴァイドが”わかった”と、大きなロボット・・機械兵士・ゼルフィルドに頷いて、あたしとイオスに言葉を発した。 「兵士を数人連れて森へ向かう、戻るのは深夜になるかもしれん」 「・・・モガ?(・・・え?)」 「ただの報告に向かうだけだが、ゼルフィルドが用心のため連れて行けと言っているからな。 ・・・・・イオス、彼女のことを頼むぞ」 イオスが、眉を歪めた。(あからさまに嫌がってるわねアンタ・・!) けれどやっぱりルヴァイドの頼みを断れないのか、しぶしぶ、頷いて。 それにルヴァイドはわずかに笑みを浮かべ、そのままあたしの前から姿を消した。 ゼルフィルドも、一度あたしとイオスを見下ろしてから、ガションガションと足音を立てて去ってしまった。 「・・・・い、行っちゃった・・・・」 絶望的な、心境だった。 ただいま相性最悪であるイオスと、よりによって二人きりだなんて。 イオスが、あたしから離れた。 地面に投げ捨てた服を拾って、あたしのほうへ雑に放り投げて。 「僕はお前の世話を頼まれたが、話し相手になるつもりも、ずっと側にいるつもりもない。 それだけは覚えてくんだな」 「・・・よっぽど、あたしが嫌いなのね」 あまりの嫌悪っぷりには呆れしか出てこない。(お前は姑か) 砂をパンパン払いながら、あたしは半眼でイオスを見やれば、彼は表情も変えぬまま、素直にそれを肯定する。 「嫌いだ」 あっさりと、言われた。 その言葉に、あたしの中がカッと熱くなった。 泣きたい気持ちと怒りたい気持ちがめちゃくちゃになって渦巻いて、どうしようもないモノに心が覆われていく。 こんな真正面から嫌いだなんて言われて 平気でいられるはずがない イオスは、俯いてしまったあたしに背を向けた。 そのままテントから出て行こうとする 悔しさに適当に物を掴んで、イオスに向かって全力投球。 ゴッッ! たまに自分のコントロール力が怖くなるが、今のあたしには感謝すべき力だ。 それが彼にぶち当たって、幾分、心の中がすっきりした。 はっきり言って、自分が繊細な人間だなんて思わない でもそれで傷つくことがないといえば、大嘘だ 嫌いだといわれれば、傷つくし 好きだといわれれば、嬉しい 何でこんなやつにここまでそんなことを言われなくちゃならんのか。 相手がそういうつもりなら、あたしだって返すまで。 あたしはイオスに向かって中指を立てて、大声で叫んでやった。 「あたしだってあんたなんか大っっっ嫌いよ!!!」 イオスの馬鹿ヤローーー!!! 後頭部に、衝撃。 それに一瞬、激しい眩暈がイオスを襲った。 前のめりに倒れそうになった身体をどうにか踏ん張って、衝撃にくらくらしていたら、ゴトンっと何かが足元に落ちた。 それはルヴァイドのサモナイト石で、一瞬、ルヴァイドに怒られたような気分になった。 これが、イオスの後頭部にぶつけられたのだ。 「っ 振り返れば、立ち上がった彼女が、投げたポーズのままで、そこにいた。 何度も何度も深く呼吸した後、驚きで目を見開いているイオスに向かって中指を立てて。 「あたしだってあんたなんか大っっっ嫌いよ!!!」 追加で”イオスの馬鹿ヤローーー!!!”と叫んだ後、そのまま寝床まで走って戻り、不貞腐れるように布団を被って、寝た。(まだ昼前だが) イオスは落ちたサモナイト石を手にとって、ぶつけられた石をしばらく眺め、布団を被って逃げた彼女を見て。 そこでようやく、怒りが沸き立って。 「っ!!」 そのまま乱暴に天幕をめくり、出て行った。 イライラはさらに高まって、足音も荒く歩いて進むイオスに数人の部下達が不思議そうな目で見て見送っていた。 (何なんだ!あの女は!?) 爆発しそうな感情に、思わず近くに生えている木の表面を拳で打った。 木の葉は数枚流れ落ち、息を荒くしながらも懸命に心を落ち着けようとする。 だが後頭部が痛みを訴えれば、落ち着かせようとしても落ち着かなくなってくる。 サモナイト石をぎりっと強く握り、目をきつく閉じた。 何故、こうも感情が狂う? 自問して、答えは何かに掻き消される。 彼女にたいした事をされていないということは、イオス自身もわかっていた。 むしろ、何もされていない。 ルヴァイドが彼女に付きっきりなのは、それはルヴァイドが自ら望んだことだから、彼女に当たる必要などない、(ルヴァイドへの無礼はともかく)嫌う理由などは―――。 (・・いや、理由なら・・ある) 嫌う理由にはならなくとも、厳しくしてしまう理由なら見当たる。 彼女は、自分達にとって毒だ。 国や味方に秘密を作ってしまっているうえ、生き残りの存在は”レルム村壊滅”命令を見事に違反している。 彼女は、ルヴァイドの立場をとても危険なものにする。 それ故に、イオスの中で焦りが生まれるのだ。 もし、味方に知られたら? 考えただけで、ぞっとした。 今よりもさらに風当たりがキツくなる・・いや、もしかしたら処刑の可能性だってありうる。 彼女はあの人の、汚名返上の機会を奪ってしまう。 ・・だから、”嫌いだ”と言っておけば。 嫌悪されていると彼女に刻めば、自分が軍に置かれている状況を理解するかと思ったのに。 ”あたしだってあんたなんか大っっっ嫌いよ!!!” そう言ったときの彼女の顔は、怒りたくて、泣きたくて、でもそれが出来ない・・微妙な表情。 傷つけた、と思った。 一瞬、酷く申し訳ないと思った。 彼女はあの村の被害者で、自分達が彼女から全てを奪ったというのに。 矛盾が生まれる。 ルヴァイドが彼女に優しくするのなら、自分が厳しくしなければならない。 なのに自分も、優しくしてやりたいと思ってしまう。 戸惑いが、生まれる (・・・・・断ればよかった、こんな気持ちになるのなら) ルヴァイドの後姿を脳裏に残したまま、イオスはそう思う。 だが彼には最初から、断ることなど出来なかった。 (・・でも、あんな顔をされてしまっては、断るなんて出来るわけがないじゃないか) 青空の下で面倒を頼まれた時に見た、僅かな、僅かにでも笑みを浮かべたルヴァイド。 それを見るのはもう何ヶ月ぶりだろうか。 聖女の任務を受けてから、彼の顔はずっと深刻なモノでしか見たことがなくて。 ・・・あの彼女が彼にあの表情をさせたのだと思うと、ため息しか出てこない。 「・・・・・っ」 迷う自分に毒づいて、イオスはようやく目を開けた。 荒ぶっていた心もどうにか落ち着いて、自分を気遣う部下に”なんでもない”と言葉を返して、彼女の喉の薬と包帯と、昼食を取りに別の天幕へ向かう。 一瞬、よほどゼルフィルドに頼もうかと思った。 だがさすがに機械兵士が秘密裏に、彼女の身の回りの世話が出来ると思えない。(逆に他の人間にバレてしまう可能性のほうが高い) 結局は、自分がやるしかないのだ。 あの人のためにも。 再び、彼女がいるであろう天幕に向かった。 入り口に立ち、しばし躊躇いつつ、意を決するように顔を上げて、中へと踏み込んだ。 中には、今だ不貞寝モードの彼女がいた。 時折鼻をすする音が聞こえるのは、たぶん泣いているのだろう。 「昼食だぞ」 「・・・・」 ため息を吐いて、昼食を乗せたトレイを寝床の近くに置く。 ふと見れば、イオスの服がきちっと畳まれて寝床のすぐ側に置かれてあって、どうやらまだ着替えてはいないらしい。 「早く食べるんだな、冷めるぞ」 「・・・・・・・」 「・・ルヴァイド様がお前に、と分けている食料を無駄にする気か?」 そこでようやく、ガバッ!と彼女は布団から起き上がった。 恨めしそうにイオスを見てから、トレイを自分の元に引き寄せて、黙々と食べ始める。 「・・・・」 「・・・・・・・・・・」 気まずい。 自分はあまりしゃべる方でもないうえ、今は互いに”お前が嫌いだ”宣言をしてしまっているのだから、なおさらそう思う。 カチャンと、皿を置く音がした。 それに彼女のほうへ振り向けば、イオスをじっと見つめている。 「・・・?」 「・・・・ごちそうさま」 ”律儀だな”と思いつつ、皿を下げようとトレイに手を伸ばす。 だがその時、思いがけない事態が起きた。 彼女が、襲い掛かってきたのだ。 「隙ありーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 「?!」 どしーん!と、倒れる音が天幕に響いた。 背中を打ったせいか痛みに顔を歪める。 次には思わず”??”というような表情で、自分に抱きついてきた彼女を見た。 「な・・?」 「あんた、あたしの何が気に食わないっていうわけ?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「・・は?」 「さっきのあたしは大人気なかったと思うし、売り言葉に買い言葉状態だったからつい言い返しちゃったけど、そこのところをはっきりさせてもらおうじゃないのよ」 自分の上に乗っかっている彼女がぐぐっと顔を寄せてきた。 それによって顔と顔との距離が縮まって、妙に気恥ずかしくなってくる。 だがよくよく見れば・・目が、据わっていて。 ・・・・彼女が怒っているということが、イオスの目にも明らかだった。 「レルム村の生き残りであるあたしが生きているから? それともルヴァイドがあたしに付きっきりだから?あんたは何が許せないわけ?」 「・・・」 「あたし、あんた達にようやく見つけた居場所を奪われたわ。だから最初は、ルヴァイドを本当に殺してやりたいとも思った・・でも今は、違う」 襟が、グイッ!と引き寄せられた。 顔がさらに近くなって、イオスは嫌でも彼女の目を見つめてしまう形になる。 そこで初めて、イオスは彼女の目を真正面から見た気がした。 「今は、ルヴァイドの迷惑になりたくないって思ってる。だから今すぐにでも外へ出て草原で昼寝したいなぁとか、ゼルフィルドをもっとしっかり見て触りたいなぁとか、そういう気持ちを無理矢理押さえ込んでるわけ」 ・・・・・・・・・・・・押さえ込んでいるのか 妙に熱く語る彼女に、イオスは曖昧な返事を返す。(たぶんこれは、呆れだろう) そんな返事を返すイオスをギロリと睨んで、彼女は底冷えするような笑みを浮かべて、言い放った。 「でもあんたがそーくるなら、あたしはもう別にどーなってもいいわ。 今からでも外へ出て草原で昼寝して、兵士に見つかるのも構わずにゼルフィルドを探し回ってやるわ」 「何だと?!」 さすがに、この言葉は聞き流せなかった。 慌てて身体を起こそうとするが、彼女は体重と本気の力で、イオスを押さえつけてくる。 「そんで兵士にバレたら”ルヴァイドに助けてもらいました、レルム村の生き残りでーっす”とかなんとか言ってやる、そうすればあんたも困るでしょ?嫌いな人の苦しむ姿ほど見てて気持ちいいものなんてないんだからね・・知ってた?」 「やめろ!」 突然の、怒号。 それに彼女は一瞬、驚きに身体を震わせた。 同時に、自分の襟を掴んでいる力が緩む。 その隙を見逃さずに、イオスは彼女の胸ぐらを掴み返し、ドンッ!と勢い良く突き飛ばした。 彼女の身体は軽々と吹っ飛んで、地面に身体を打ち付けて倒れる。 その間に身体を起こし、イオスは彼女を睨み下ろした。 「いいだろう、僕がお前のことを嫌う理由を教えてやる!!」 感情が、高ぶる。 彼女に対しての後悔や、優しくしてやりたいと思っていた気持ちなんて、とうに吹き飛んだ。 怒りの感情に流されるまま、言葉を出す。 「いいか!お前がここにいることはルヴァイド様と僕とゼルフィルドしか知らないんだ! つまり国に!味方に秘密を作っているということだ!これでお前が外に出て、他の兵士に全てバレてみろ!ルヴァイド様はさらに責められるようなことになるんだぞ!!」 守らなくては 守らなくては 今の立場を、あの人を 「お前が生きているだけで命令違反になる!それだけじゃない、10日以上もここに留まっただけで全ての予定が遅れているんだ!本当なら、本当ならとっくに聖女を追いかけていたはずなのに・・・!!」 守らなくては これ以上、あの人が傷つかないように 戦に関係ない人間一人を殺すたび 酷く酷く、傷ついて悩むあの騎士を 自分と、ゼルフィルドで守らなくては 「お前が何かをする度に、ルヴァイド様が危険な立場になるんだ・・・・・あの方がお前に優しくしても、僕はそうはいかないぞ!」 こんな女に 人の命を奪う重みも苦しみもわかっていないような人間に あの人の全てを潰させるわけには 荒く息を吐いて、イオスは自分の丈に不釣合いな槍を手に取った。 刃先を彼女に真っ直ぐに向けて、少しでも動いたら貫くと言わんばかりに、睨む。 そんなイオスを、彼女は見上げていた。 真っ直ぐに、真っ直ぐに、きょとんとした表情で。 だが、その表情は次の瞬間に、あっさり緩んだ。 唖然とした表情が、笑顔に変わった。 さらにその口からは、のんきな声がこぼれる。 「あー、そういうことか〜」 槍を向けられているのに笑うなど、その異様な光景に今度はイオスが 槍を構えたまま、唖然としたような表情になる。 彼女は胸を撫で下ろしてから、ぺったりと地面に手をついた。 「あーーーーーーーー!それにしてもすっごいびっくりした! マジで槍向けて怒るんだもん、もう驚くことなんかないわよ!機械兵士だろーが、嫌味イオス5人分だろーが、裸ルヴァイドだろーがもうドンと来いよ!!」 「・・ハダカ?」 「あ、いえいえこっちの話。・・それにしてもスリルあったなぁ・・」 一体、どういうことなのか まだわかっていないイオスに、彼女はにんまりと笑った。 してやったり、と言わんばかりの笑顔だ。 ・・初めて向けられた笑顔は、悪戯に成功したような笑顔。 「イオスがあたしを嫌う理由、どうしても知りたかったからさ。 まさかここまで引っかかってくれるだなんて思ってなかったんだけど・・しかし、本気で殺されるかと思ったわー・・」 くすくすと、おかしそうに笑う。 それにイオスはようやく全てを理解して、構えを解いて慌てて彼女から刃先を離した。 全て、芝居。 あっさりと、心のうちを暴かれてしまった。 あっさりと暴かれてしまった事実に、頬が赤くなっていくのが抑えられない。 「でも元はといえばあんた達が悪いのよ、レルムの村の人を皆・・死なせたんだから」 「・・・・・・・」 「・・あんた達に、そうしなくちゃいけない理由があったのかもしれない。でもあの村にいたあたしにとっては悲しいし、悔しいのは変わらないから」 「・・・ああ」 言葉の一つ一つが、突き刺さる。 上の命令とは言えど、彼女から奪い取ったものは、二度と帰らぬモノで。 「・・でもずっと恨んでるのも疲れるし」 立ち上がって、彼女はイオスに微笑んだ。 頬が赤くはれているのは、さっき突き飛ばした時に、地面で顔を擦ったからだろう。 「あたしは本当はレルムの村の住人じゃないから、今はこうして心が落ち着いてると思う。 あの村にそこまで思い入れはないから、今のあたしはイオスたちに笑うことが出来る」 「・・・」 「だけどあたしの知ってる人は、そうはいかないよ」 そう呟いて、彼女は目を伏せた。 誰かを、思い出しているのだろうか。 イオスにはわからない。 「・・・ま、とりあえずさ。あんたの言い分もわかったけど、あたしも今ココで放り 捨てられても困るわけよ。せめてもう少しこの世界のことを教えてもらいたいの」 「・・この世界?リィンバウムのことをか?」 彼女は、笑って頷いた。 「あたし、ここじゃない世界から召喚されてきたんだ。それでレルムの村の聖女達に助けられて、あそこにいたってワケよ」 ”親とか本気でいなかったから、かなり驚いたけどね!”などと笑って言う彼女と、初めて知ったその事実に、イオスは内心酷く驚いていた。 確かにどこか変わった人間かとは思ったが、まさか別世界から召喚されてきたとは。 「だめ?忙しい??」 「・・・あ、いや。そんなことはないが・・」 思わず、そう答えていた。 けれど彼女は、やっぱり、にっこりと笑って。 「大丈夫よ、堂々と外に出るようなマネだけはしないからさ。出来る限りイオスやルヴァイドや、ゼルフィルドには迷惑をかけないようにするし、見つからないように気をつけるから。だから、お願いだから嫌いだなんて言わないでね?」 「・・・・すまない・・」 口から出た言葉は、自然に、謝罪の言葉だった。 いきなりこの世界に連れてこられて、どんな気持ちだったのだろう。 さっぱり、わからない。 「それじゃ、自己紹介をしよう!」 「?」 「よくよく考えたら、あたしってばルヴァイドにも名前言ってないのよね〜。 喉が痛かったし、そこのところをルヴァイドも気遣ってくれたんだろうけど・・」 「・・あの方らしいな」 思わず、笑みを浮かべてしまった。 それに彼女も、笑ったイオスに少し驚いた表情を見せたあと、にっこりと微笑み返す。 「あの人ってほんと生真面目よねー、すごく簡単そうなことでも真面目に考えてそう」 「それは当たっているぞ、たまに僕達も呆れるほどだ」 さっきとは全然違う空気に、イオスは安堵感を覚えていた。 彼女と話せば話すほど、その安堵感はさらに広がり、心に緩やかな波紋を広げる。 「あたしの名前はよ、よろしくねイオス」 「・・よろしく」 差し出された手を握り返して、その柔らかさにまた、笑みを浮かべてしまう。 剣の硬さでもなく、死体の冷たさでもなく。 久しぶりに、まともに触れた生きている人の体温 それが嬉しくて、どこか泣きそうになる 冷たさばかりでは、自分が生きているかも実感できないから 生きている人に触れて、ようやく自分が生きていることを実感して そして、安心してまた歩き出すのだ は、握手を交わす手にやや照れくさそうにしながらも。 やっぱり笑って、イオスに呟く。 「・・最悪な出会いで、印象で、ずいぶん遠回りしちゃったけど・・」 「・・?」 「出会えて、嬉しい。・・・・・・・・やっとそう、思えそうだよ、あたし」 言葉が、深く、深く、胸に、染み込む そして、心に刻まれて 新しい”何か”が、目を覚ます それは 新しい道の導きなのか 新しい物語の鍵なのか 新しい世界の光なのか わからないけれど 「・・さて、と。その前にイオスの服に着替えたいから外に出ててくれる?」 その言葉に、思わず慌てて回れ右をしてテントから出て行った。 ”慌てて出て行くことないのになぁ”などと呟く声に、また顔が熱くなっていくのを感じて。 妙に振り回されている自分に気がついて、思わず目元を押さえて空を仰いだ。 仰いだ空には、眩しい太陽。 その温かな光がイオスの金髪を美しく照らす。 さきほどまでにあった、胸のイライラも。 全て、全て、流れて消えて。 今ここの空気が、とても温かかく感じた。 それは彼女の存在の名残のようで とても温かかった 不思議で、優しい その新しい存在は イオスの中に深く残った 温かさの中で、目を閉じる。 曝け出せば、こんなに心が楽になれるものなのか・・と、また、笑みを浮かべてしまう。 そのささやかなる優しさは 彼らに歩み寄ってきたその存在は やがて運命を変えることになる それは 本当の奇跡を生み出すのだ NEXT *後書き* 第7話、お届けさせていただきました・・・んが!長すぎて申し訳ありませぬ・・!! 一度修正いれればいれるほどどんどん追加されていくのです!減らそうにも減らせなくて これを打つだけで10日はかかったんじゃないかと思うほどです・・ギャー。 修正前はデグレア・プリンスことイオスメインだったのです。(デグプリ・・?)←ジャンル違うし なのにいつの間にかルヴァイドが出て、イオスと喧嘩するわ、嫌いと言われるわで、 もう夢じゃねぇ・・!と思われた方もいらっしゃったかもしれません・・アグフッ! 話も全然違うし・・わかりにくくてもうどうお詫びをすれば良いのやら・・! 次はゼルフィルドが登場し、そして多分次の次にキュラーが出ます。 けれどこの時点で2話の「聖女の横顔」と3話の「再会と別れ」のあたりだなんて ヤバイです。 それではここまで読んでやってくださってありがとうございました! 2003.12.6(大幅修正完了) |