第4夜 チュンチュン・・チュン・・・。 鳥の声が耳に届いて、深いところに沈んでいたあたしの意識は目を覚ます。 うめき声をもらしながら寝返りを打てば、眩しい光に顔をしかめてしまった。 「・・・んー・・?」 眩しさに目がしょぼしょぼしながらも、目覚めたあたしはぼんやりとした目で屋根を見上げた。 (・・・・・・・・・・・・・あれ?電気がない・・・・?) 部屋の天井にある電気がない。 一瞬”何で?”と考えて、視線をちらりと動かせば、見慣れぬ棚がそばにあった。 その棚の上には、男物の服がたたんで置いてある。 木々の香りに包まれた部屋の中で、あたしはようやく理解した。 「・・・ああ、そっか・・・」 サモン2の世界に来ちゃったんだっけ?あたし・・・ そう思うと、急に目が覚めて行くのを感じた。 ガバッ!とベッドから跳ね起きて、(ロッカとリューグから拝借した)服を手にとって、 着替えようと首を動かす。 が。 グ キ ッ ! 「あいったーーーーーーーーーー!!!!(痛)」 首に激痛。 どうやら寝違えてしまっていたらしく、あたしは言葉を出せないまま、ベッドの上でのたうち回る。 なんとも言えない痛みに涙までにじんできた。(ヒー!) 「・・・・あ、朝っぱらかこの仕打ち・・」 そして痙攣したまま突っ伏して、涙目になりながら恨みがましく呟いた。 「あ゛・・・すっごいヤな予感・・・・」 それは的中するのだった。 「おはよー・・・」 寝違えた首の痛みに、テンションも自然に低くなる。 それでも笑顔で挨拶をしようと笑顔を見せてみたけれど、元気に挨拶はとても出来なかった。 「おお、起きたのか?おはよう、」 「おはよ、アグラじいさん・・・ちょっと首を寝違えて・・アイタタタ・・・」 「そりゃ災難じゃったな」 アグラじいさんはおかしそうに微笑んで、斧を担いだ。 どうやら今から出かけるところらしい。 「朝食はもう出来ているから、食べていなさい。ワシはちょっと用事があるんでな」 「・・・用事?」 「ああ、今日中に大木を4本も切ってこなくてはならなくなったからな・・、村人も次は何をやらかすつもりか心配じゃわい・・・」 (・・・そうか、お爺さんも反対していたんだっけ・・・) アメルが聖女になることを。 それは皮肉にも村の壊滅と言う形で、アメルは聖女をやめることが出来るという。 ただでさえ寝違えたせいで沈んでいる気分が、更に沈んで行く感じがした。 「・・・そういえばどのあたりで木を切ってくるの?」 「そうじゃな・・、今日は数が多いから森のはずれ辺りの木を切ってくるんじゃが・・」 森のはずれ あたしはサッと顔色が青くなるのを感じた。 ・・・もしかして、いや、もしかしなくても。 (トリス達と出会うあの場所デスカーーーーーーーーーーーー!!??!?!) ”んノォォォォォォォ・・!”と苦悶するあたしを、アグラじいさんは不思議そうに眺める。 だけどあたしはおじいさんの様子を気にしている余裕はなくって、頭を抱えた。 も、もーだめ!あたしマジで死ぬかも!!(嫌だー!!) ふと、アグラじいさんは何かを思い出したように、たくさんの斧や槍などが置かれてある 棚から一つの短剣を取り出してあたしに手渡した。 ずっしりとした重みがあたしの手に伝わる。 「?・・これは・・」 「用心のためじゃ、最近は嫌な風が吹いておるからな」 その表情は険しいもので、あたしはゴクリと息を呑んだ。 ・・この人にはわかるんだ・・、さすが老いても獅子将軍・・・ 「それじゃ、ワシは行って来るが・・わからんことがあったら村の誰かに聞くといい。 皆、親切に答えてくれるじゃろう」 「うん、・・あ、そうだ・・ロッカやアメルやリューグは?」 「アメルは聖女の役目を、ロッカ達はアメルを護る仕事や聖女の力を求めてやってきた客の列を警備する役目に当たっているぞ。確かリューグが警備に回っていたはずじゃが・・どこにいるかすぐにわかるじゃろう」 「そっか、・・それじゃアグラじいさんも気をつけてね」 「ああ、行って来る」 そう笑って、大きな斧を担いでアグラ爺さんは家を出て行った。 あたしはその広い背を見送って、少し重い短剣をぎゅっと握り締める。 「・・・・・いよいよ・・・か」 デグレアの奇襲は今日だ。 その予想は多分確実。(寝違えたし) 「・・取り合えず何か食べて、それからその辺を探索してみよう」 奇襲されたその時、すぐにでも逃げやすくなるように。 確かデグレアの黒の旅団と、ガレアノ達が操っている死人兵がくるはずだ。 そういやルヴァイド達は自分の部下以外の兵士が死んでいること知らないのかなぁ・・? 「・・それに・・・いきなりルヴァイドやゼルフィルドに会わないよねぇ?」 寧ろ会ってたまるか・・と呟きながらあたしは食事を開始した。 食べ終わると、さっさとお皿を片付けて出かける準備をして、今日初めて外へと足を踏み出した。 もうちらほらと、多くの客が村に賑わいをもたらしている。 「・・さて、まずはどこから逃げるかな・・・」 ちょっと重い短剣を腰に引っ掛けて、あたしは村の周りをぐるりと一周することに決めた。 時間が経てば経つほど、人がどんどん増えていく。 ・・これじゃー、アメルも大変だわね・・・(汗) (村の人から聞いた話にじゃ、アメル達の家からのほうが早く外に出られるみたいね・・・・) そこまで考えて、あたしはふっと思い出した。 「・・そーいや、イオスはどこにいたんだろ・・・?」 金色の髪を持った青年の姿が、ぽんっと浮かび上がった。 20歳だというのにもかかわらず、少し高いめの声を持った、美人なデグレアの軍人。 その前に生で見れるのかしら、あの細腰 あたしは思わずうっとりしながら細腰を思い浮かべる。 けれど、細腰を観察する前にイオスに殺られるだろうな・・と、考えて細腰観察は諦めた。(細腰細腰言うな) 「・・ま、いいか・・ん?」 村が段々騒がしくなって来て、行列が出来始めた。 それはこの小さな村に奇妙な光景を生み出す、人の列。 その人の多さにあたしはあんぐりと口を開けて、間抜けな姿のままそこに立ちすくむ。 (うっそぉ・・集まる所には集まるというか・・その前にこの多さの人間が一晩で・・・?!) そう思うと、背筋がゾッとした。 戦争なんてテレビとかでしか見たことないし、血の臭いや人が焼ける臭いなんて知らない。 その悲鳴すら聞いたことない。 それに耐えて、あたしは逃げられるのか? 逃げられたとしても一人でどうする?その後はどこへ行けばいい? (・・聖王都・ゼラムにでも行ってギブソン達にかくまってもらおうかな・・・?) 一応サモン1もクリアしてるし(ギブソンも攻略済み)、何とかなるかも知れない。 あたしは彼らに大しては、ある意味有利な情報持ってるほうだし・・。 (・・でも、アメル達みたいにつけこむのも・・ヤなんだよなぁ・・) いっそ仲間に入れてもらったほうがまだマシかも!とやることや行き先が決まって、 あたしは”うっーし!”と拳を固めて気合を充電していたら、多くの人が並んでいた列の 一部がわっと騒がしくなって、そちらに視線を向けてみる。 その騒がしい中から、リューグの姿を発見した。 彼の怒鳴っている姿におやおやー、血の気の多いやつねー・・とまで、言葉を漏らして。 次には、頬を引きつらせてしまった。 リューグが 客の誰かに怒鳴っているのだ。 しかもその怒鳴っている相手は 見たことある人物で (・・自称イケてるお兄さん・フォルテじゃーーーーーーーーーーーーーーん!!!) あたしは思わず駆け出した。 途中で2回ほど人とぶつかってしまったけれど、謝りながらも走る足を止めずに、ただひたすら リューグの所まで突っ走る。 本物かどうか見極めなくてはならない。 フォルテに何かいわれたのか、さらに怒り狂い始めたリューグの肩を掴んで、あたしは彼の名を叫ぶように呼んだ。 「リューグ!」 「ああ?!何だテメエ・・って・・?」 「はぁ・・はぁ・・そ、その人・・・」 息切れで少しつらかったが何とか顔を上げて、フォルテを見る。 そして、絶句した。 「ん?なんだ、あんたは・・」 「もう、フォルテ!列を割り込もうとしたのがいけなかったのよ・・って、ちょっと?!」 あたしは座り込んでしまって、怯えたようにフォルテたちを見た。 そんなあたしにビックリしたのか、フォルテ(確定)やケイナ(美人だ!)、リューグまで驚いた表情であたしを見つめていた。 「お、おい・・?」 「ちょっと・・大丈夫?」 「なんだー?この子は・・」 来てしまった まだこの世界に来て一日しか経ってないというのに せめて1週間は欲しかったけど 彼らが来てしまった 今夜、彼らが来る 「どうしたんだ?フォルテ、ケイナ――――――」 後ろから男が近づいてきた。 白い肌に、、眼鏡を掛けた、知的そうな男。 そんな彼も知っていて、あたしは座り込んだまま後ずさりしてしまった。 そして。 「どうしたの?みんな?」 女の子の声。 あどけないその顔と、両脇の髪を垂らしていて、右手には短剣を持っていて。 あたしが主人公として選んだことのある、もう一人の新米召喚師。 「あれ?その人は・・」 彼女の視線が、あたしに向けられる。 真っ直ぐな瞳によっぽど動揺していたのか、あたしは思わず声に出してしまった。 その女の子の名前を。 「・・トリス・・・」 『え?』 最後の声は、全員が見事ハモッた声で。 ヤバイ!と思いいつつその声に弾かれた様にあたしは立ちあがって。 お得意の先手必勝攻撃を開始。 「リューグ!」 「な、何だよ・・」 「この人はお客様!とゆー訳で無礼禁止喧嘩禁止乱闘禁止よ!」 「・・はぁ?だってコイツらは列を・・」 「それはそれ!どうせこの大きな人はこういう性格なのよ!気にしてたらあんたの頭が破裂する!それでは皆さん、ようこそレルムの村へ!」 「あ、ああ・・」 眼鏡男・・もとい、トリスのお目付け役であるネスティ・バスクが呆然としている三人の変わりに返事をする。 彼自身も呆然としていたようだが、立直りだけは早いらしい。 「えとですね、列もすっごく長いので割り込むより素直に並んだ方がちゃんとしたものになりますので割り込まないでください、大きい人!!」 「あ、ああ・・悪かった・・」 あたしの勢いに呑まれてか、フォルテは謝ってきた。 あたしは次の標的をネスにした。 「それからそこの眼鏡を掛けた白い人!宿をお探しなら自警団長・ロッカを訪ねるとあっさり素直に見つかります、とゆーわけでさっさとロッカを訪ねてください。彼と同じ顔なんできっとすぐにわかるかと思います。髪の色は青いけどね」 「・・・・・(呆気)」 「それじゃ、リューグ!あたしは先に帰っとくけど乱闘は起こさないように! 別に客がケガしてもいいけどあんたがケガしたら大変だからね!気をつけるように!」 「・・き、客がケガしていいって、テメエな・・」 リューグが、呆れたように呟いた。 彼のその顔には先ほどの怒りの色はすっかり消えていて、あたしは満足したように一度頷いて。 「それじゃ、最後に・・」 あたしは深呼吸してトリスに向き直った。 「あなた、そこらへんを散歩してきて。いい?絶対散歩してちょうだいね?」 「へ?あ、あたし・・?」 「そ、あなた!・・それじゃあたしはこれにて御免!(ダッシュ逃げ)」 一方的に話しかけて注意して、あたしは彼らに背を向けてダッと駆けた。 何かもうあそこにいるのが耐えられなくなって、走りながら泣いた。 先の見えない恐怖から、少しでも逃れたくて。 それは逃れるどころか拭うことすら出来なくて。 惨劇が始まる。 それは止めることが出来ないモノ、あたしは自分のことだけを考えた。 他の人のことは・・あたしにはどうしようもない。 怖くて怖くて、考えられないのだ。 家に戻ってバタバタと、おじいさんたちの家を家捜しさせてもらった。 失礼かも知れないけどアグラじいさんはしばらく帰ってこないし、ロッカやリューグも遅めにしか帰ってこない。 適当に、使われていない棚を探していたら、ホコリのつもっている石を見つけた。 宝石かと思ったけれど・・・・・宝石ではない、不思議な輝きを放つ石。 「・・!何よ・・あるんじゃないの・・誓約済みのサモナイト石・・・」 それは紫色のサモナイト石と緑色のサモナイト石。 サモナイト石は初めて見るけど、結構大きい。 あたしの手に収まるか収まりきらないかの、大きさだ。 「中身は・・リプシーとエールキティか・・。アグラじいさん確かに素人かもしれないけど、持ってないと言ってなかったもんねー・・、あたしも質問の仕方が悪かったわ・・」 しかもホコリが積もり具合から、どうやら長年使っていないモノらしい。 (・・・あたしの質問が悪かっただけじゃなくて、ただ忘れていただけなのかも・・・) 獅子将軍もド忘れはあるのか・・と脱力しながら片づけを始める。 無我夢中で探していたから、いい感じに荒れてしまっていたのだ。 誰かが戻ってくる前にどうにか片しておかないと、何を追及されてしまうかわからない。 そしてだいだい片付いた後、入り口がからアグラじいさんの声が聞こえた。 「、戻ったぞ」 「あ、おかえりなさいー!アグラじいさん」 「うむ、今日は早めに切上げて来たのじゃ、お前さんは包丁を持つとスゴイことになるらしいからな」 「あははは、ロッカ達から聞いたんですか?」 「まぁな」 あたし達はその場で笑い合っていると入り口が騒がしくなった。 それにアグラじいさんが首をかしげる。 「ん?なんじゃ?」 「あ、あたしが出るよ・・はーい!どちら様・・」 「すみません、僕達はロッカに紹介してもらった者ですがここはアグラバインさんのお宅・・って、君は・・・」 眼鏡の奥にある目が、驚きに見開かれた。 あたしはあたしで、にっこりと彼に微笑みかける。 「・・いらっしゃい、ロッカに会えたんだ?」 外に居たのはトリス一行で。 あたしの出現に彼らはかなり驚いていた。 彼らを家に迎え入れて、大きなテーブルのある部屋へ彼らを通して、人数分のお茶を出す。 アグラじいさんも椅子に座ってから、ネスティがすぐに自分達の名を明かした。 それを聞いていたおじいさんは一度彼らを眺めて、そしてロッカに出会った話を聞いて納得したようで。 彼らがここに宿をとらせてほしいという頼みを、あっさりと許可したのだった。 「ロッカとリューグってそっくりでしょ?最初見た時は多少なりとも驚いたんじゃないの?」 アグラじいさんが割り当てた部屋に彼らを案内しながら、あたしはネスに話しかけた。 彼は彼で小さく頷いて、あたしに話を合わせてくれた。 「ああ、君の言う通りにしたら本当にあっさり宿が見つかったよ・・それにしても彼らは双子なのに、君は全然似ていないんだな」 あたしは一瞬、彼の言葉に首をかしげた。 けれどすぐにネスの言った意味を理解して、あははと笑って受け流す。 「違う違う!あたしはここの家の人じゃないのよ。ただの居候で、ここにお世話になってるの」 「それにしてもよー、この家、周りの家とはえらい違いだよな。あのじーさん、偉い身分なのか?村長とか??」 「ちょっとフォルテ!失礼でしょ・・」 「大丈夫だよ、ケイナ。あたしも最初見たときは驚いたんだけど、アメルが・・彼のお孫さんが聖女だからね。やっぱりそれなりの待遇は受けているみたい」 これはロッカの受け売りだ。 ”ここまで大きくなくても良かったんですけどね”と、彼は少し複雑そうに笑っていた。 「それじゃぁよ、ここが聖女の家だったら、別にあの列を並ばなくても良かったんじゃねーの? 俺達、ケイナを見てもらおうとしたんだけどよ・・・」 「あははは〜、残念でした。アメルは別の家に住むように言われてるみたいよ? ・・・だからなかなか、彼女もこの家に帰れないみたい」 ”自分の家があるのに、なんか変でしょ?”と言って、あたしはこっそりトリスを見た。 彼女はきょろきょろと家の中を見回して、すぐ傍にいる護衛獣の悪魔の少年に、興奮している ように話しかけている。 「大きい家だよねー・・・あたし、寮に住んでたからこういう家に泊まるの初めて!」 「あーそーかよ」 「もー、話くらい聞いてくれたっていいのに・・」 バルレルはトリスに答えず、じっとあたしを睨み付けてきた。 どうやらあたしがこの世界の人間でないと気付いたらしい。 でもちょっと本当に小さいよ、バルっち・・・でもこれが大きくなるんだなぁ・・ “見てみてぇー!”と心の中で絶叫していたら、とん・・と、トリスに肩をたたかれた。 「?」 「あ、あの・・名前、まだ聞いてないから・・」 トリスはそういって、少し恥ずかしそうに俯いた。 隣でネスティが”君が人見知りをするなんて珍しいな”と言っていたけれど、あたしはにっこりと笑ってトリスを見て。 「あたしの名前はよ、仲良くしてくれると嬉しいな」 「あ・・よ、よろしく、さん!」 嬉しそうに、微笑むトリス。 その笑顔に”キュンvv”ときながらも(いやああぁぁぁ、可愛いぃぃぃぃぃ!!)、抱きしめたい衝動を、フォルテを無理やり部屋に押し込む力に変換した。(本人は悲鳴を上げていたが) トリスとネスティがこんな会話をしているのも知らずに。 「どうしたんだトリス?」 「な、なんかね・・さんといるとなんていうか・・こう、胸の奥があったかくなるっていうか・・・安心しちゃうっていうか・・・なんか、不思議な感じがするの」 「・・・君もなのか?」 「・・・ネスも?」 あたしが異世界からきたということを聞いて、ネス達は結構驚いていた。 他にもいろいろと質問されたけど、“んー、まぁまたそのうちにね”と言う言葉で質問を無理矢理終わらせて。 そしてあたしはトリス達をそれぞれの部屋に案内して、居間に帰ろうと振り向いた時、ネスに呼び止められた。 さぁ来た尋問タイム! 「どうしたの?ネスティ・・」 「、君は僕らと初めて会った時・・・トリスの名前を呼んだだろう?」 あわわ、やっぱりそのことか・・! 内心、かなり動揺していたのだけれどどうにかしなくては、と思いながらもとぼける。 「イエイエ、一体何ノコトヤラサッパリデスヨー?」 「・・とぼけるんじゃない、僕はしっかりと聞いたんだぞ」 「き、聞き間違いじゃないの?」 「それだけじゃない、キミは僕達に対して異常な脅えを見せていただろう、あれはどういうことだ?」 「あれはただ座りたくなっただけだよ、今日はずーっと歩きっぱなしだったしね」 無理矢理なとぼけかたであるが、今のあたしは心の中ではかーなーりー焦っていた。 あたしがこれから起こることの大体は知っているとバレたら、何を聞かれるかわかったもんじゃない。 「・・ふざけないでくれ、」 「・・あのねぇ、トリスが心配なのはわかるけど過保護もだめだよ、ネスティ?」 「なっ・・違う!僕は何故キミが僕達に・・」 「あーはいはい、照れない照れなーい。ガッツだ兄弟子!!」 ネスティの身長が結構高いけど、あたしはかなり背伸びをして、笑いながらポンポンとネスの頭を叩いた。 子供にしてあげるような、そんな戯れ。 そんなあたしの行動にネスは頬を一気に赤く染めつつ怒りに眉を歪めて、軽く叩いたあたしの手を 乱暴に振り払った・・・ヤバ、ご立腹? 「何するんだ?!」 「あー、腹が立ったのだったら謝るけど・・でもそれにあなただって聞かれたくない秘密の一つや二つはあるでしょう?あたしはそれと同じで聞かれたくないし、話すつもりもないの」 そう言ってやると、ネスは唇を噛んであたしを睨んだ。 眼鏡の中の瞳に焦りの色が浮かんでいて、あたしは気付かれないようにため息を吐く。 あーもうまた怒らせちゃったよ・・・ (でも・・融機人も大変・・ってことかな?) ネスの本当の名前は、ネスティ・ライル。 ネスティ・バスクは、彼の義理の父親である蒼の派閥の師範代ラウル・バスクから受け継いだ名だ。 彼は、人ではない。 自らが栄えさせた文明のせいで、人が機械と融合しなけば生きられなくなってしまった、 機界ロレイラルの融機人(ベイガー)なのだ。 機械兵士が反乱を起こし、ロレイラルを大戦へと導いた時、その戦いを避けたネスティの一族ははるか昔にリィンバウムに降り立ったという。 (蒼の派閥で色々あって人間不信かもしれないけど、でもあたしだって本当のことを話すわけにもいかないし・・怒らせたままで放っておくしかないか・・) あたしはそのままネスを放って、居間に戻った。 ・・何となくトリスの苦労がわかってまた深いため息を吐いて、食事の準備を始めた。 時刻は夕暮れを過ぎていく。 やがて空は紅から紺へと色を変え、紺からさらに深い・・夜色で世界を染めていく。 森の中の闇も深まり、森に住む動物は今日も眠りに落ちていく。 少し遅い時間になって、リューグとロッカが帰ってきた。 いきなり増えた人数に多少驚いていたものの、トリス達と賑やかに食事をすませる。 それからそれぞれ武器を手に持って、リューグとロッカはそのまま家を出て行こうとするので、あたしは驚いた。 「あれ?どこ行くの??」 「今日は俺ら、見回りの当番なんだよ」 「2時間ほど経ったら戻ってきますけど、一応、用心はしておいてくださいね?」 ロッカがにっこりと笑って、あたしに言い聞かせた。 くはー!もうその笑顔にはメロメロですよおにいさん!!(合格よー!!) 「うんわかった、二人とも・・気をつけて行ってらっしゃい!」 ロッカはあたしに微笑んで、リューグは背を向けたまま軽く手を上げて応え、彼らはまた村の見回りに出て行った。(お仕事ほんとご苦労さんです) 二人を見送ってからあたしはまず食器洗いをすませる。 途中でケイナが手伝ってくれたからいつもよりも早く終わって、ついでに部屋の掃除も簡単にすませて、あたしはトリスの部屋に行ってみた。 一度でいいから、向かい合ってトリスと話をしてみたかったのだ。 「やっほー、トリス。今、いいかな?」 「あ、さん。うん、いいですよ」 部屋のベッドで寝転んでいたトリスに笑いながら、あたしも近くの椅子に腰掛ける。 バルレルはもうひとつのベッドで寝転がっていて、あたしがきても動くことはなかった。(寝てるのかな?) 「トリスって見聞を広める旅に出ているんだよね?」 「うん、・・追放も同然な任務だけどね」 この子も未来をわかってない これから起こる、ことさえも でもそれは、普通のことなんだ あたしが、<特別>で、<異常>なのだ でもだからと言って、教えるつもりなんてなかった 自分の言ってしまう彼女の未来に、責任なんて持てなかった きっとこれからも、あたしはトリスたちにこの事を黙って、生きていかなくてはいけないのだろう ・・それはあたしにとって、重荷になるけれど それでも、黙っていようと・・心に、決めた 「―――トリス、これからきっと、ツラくて、悲しくて、挫けそうな旅になる」 でも派閥追放、という事実に少し落ち込んでいるらしいトリスを見たら、 思わずアドバイスくらいはいいかな、と思ってしまって、あたしは言葉を出してしまった。 それにトリスは顔を上げて、不思議そうにあたしを見る。 「?・・うん」 「でもね、うまく行けば幸せで、でも切ない結末が待っていると思うの」 「?幸せで、切ない?」 アメルか、ネスティか。 どちらかが、世界を守るため姿を消す。 いや、途中でカルマルートに入っちゃうかもしれないけど、そこはトリスを信じて、あえて考えないでおく。 「うん、でもトリスは前を向いて進んで行くよ」 「・・負けないかな?自分に・・」 不安そうな瞳があたしを見上げて、思わず抱きしめたくなった。 すごく強く抱きしめて、不安なんか吹っ飛ばしてやりたくなる。 ・・けど、さすがにそれは変質者に近いものがあるので、必死に堪えて心の中で叫ぶだけにしておいた。 (う、上目遣いなんて反則だよ・・・!!!ってか、悩殺・・・!!) 何とか抑えつけて平静を装って、あたしは頷いた。 「周りの仲間に助けてもらえて、トリスはトリスのままで進めるよ。皆を信じなさい!」 ”オマケでいいからあたしも信じてくれたら嬉しいです!”と、再び心の中で付け加える。 トリスはしばらくあたしを見つめて、さっきよりも柔らかな、かわいらしい笑顔をあたしに見せて。 「・・うん!」 ・・・・くらっ(眩暈) 思わず、眩暈を覚えた。 あんまりにも、可愛らしい笑顔。 そして向日葵のような笑顔に抑えられなくなって、思わずがばぁっ!とトリスに抱き付いてしまった。 あああ!ごめんなさいお母さんお父さん!! 娘は今!今、少しだけ変になります!! 宣言すんなよ 「トリス・・可愛いーーーーーーーーー!!」 「さ・・?!」 「可愛い!カワイイー!!もー、たまらん!!」 慌てるトリスがまた可愛くて、更にぎゅっと抱きしめてしまった。 女の子特有の柔らかさや(あたしも一応女なんだけれどね!<一応かよ)、トリスの体温がとても心地よく感じて、目を閉じる。 その温かさを身体に残すように。 もうすぐ会えなくなる、運命の時間だからだ。 (てゆーか畜生!羨ましいわよ!ネスティ・バスク!!<何故かフルネーム) 悶々と、ネスティに向かって恨み言を心の中で呟いていたら、トリスの手があたしの背中に回って、抱きしめ返して。 そして、ポツリと呟いた。 「・・あったかいなぁ・・」 (え?) 「さんすごくあったかい・・・・なんだか、懐かしいなぁ」 「・・トリス?」 懐かしいって、何だろう? 「あたし、ケイナの記憶喪失が戻ったらこの村を出なくちゃ行けないけど、さんのこと・・・・絶対忘れないよ」 さらに、力をこめて抱きしめられた。 それにちょっと驚きながらも、あたしもトリスに言葉を返す。 「・・あたしも(めっさ可愛らしい)トリスのこと(頭ぶつけても)忘れないよ・・・」 そう言って体を離したら、トリスは嬉しそうにまた、にっこりと笑った。 その笑顔にクラクラしながらも危険なことを考えている自分を無理矢理現実に引き戻し、”だめよ!だめよ!!だめなのよ!!!落ち着け自分!犯罪者になりたいの?!”と、必死に自分に呼びかける。 ああなんだか自分がどんどん危険人物になっていってしまうような気がーーーーーーーーーー!!!(苦悩) 心の中で今までにない大絶叫をした刹那。 ドォン!!っと大きな爆音が、夜に染まった外から響いてきた。 それに慌ててトリスにしがみついて、「何事?!」と悲鳴を上げて窓を見る。 外は夜なのに、紅の光に包まれ始めていた。 (・・村が・・燃えてる?!) 「な、何で村が?!」 トリスの悲鳴が耳に流れた。 それにあたしは我に返って、とうとうなんだと確信する。 (来た・・!) とうとう来た 惨劇の合図 きっとあたしは血を見るし、悲鳴に狂ってしまうかも それでも生き延びる えらく前向きな姿勢だけどそう思わないとやってられない これからの道は、あたしが作る そして目標は生き延びること それだけ いくつもの悲鳴が、耳に届いた。 寝転んでいたバルレルも、さすがに起き上がってあたしたちの隣で窓から外の様子を見ている。 (トリスには、バルレルがいるから大丈夫・・) でも、あたしには誰もいない。 自分で自分の身を守らなくては。 恐怖をなんとか押さえ込んで、あたしは震えながら短剣を引き抜いた――――――。 NEXT **後書き** 第4話です。 森双子(ロッカとリューグ)ともなかなか良い空気を保ちつつ、まだまだ続いてまいります。 そして次回はようやくデグレア軍が本格的に登場し、物語の最初の起点に入っていきます。 やっとか・・4話めにしてようやくか自分・・!!(滝汗) ヒロインにとっての災難は、まだまだ続いて行くことに・・。 2003.11.7文章大幅修正 |