繋がれているアメルの手は、温かい




 それはあたしとまったく変わらない、温かさ






第1夜







(――― 一体、なんなのよ)

 温かい手に引かれながら、あたしは必死に、ずっと考えていた。
 ずっと、ずっと考えていた。
 今のこの状況が一体何なのか、探り当てるために。

 でも、考えても考えてもどうしようもなくて、胸の内に熱いものが込み上げて、次いで嗚咽が零れ、最終的には泣き出してしまうという繰り返しだった。
 人間、本当にどうすればいいかわからないときはとにかく、泣いて落ち着くべきだというが、なかなか泣きやまない場合は一体どうすればいいんだろう。



 何が起こったのか



 どうしてここにいるのか



 どうすれば帰れるのか



 それはどんなに考え続けても、答えなんか浮かばなかった。
 周りの、緑溢れる景色の全てが現実なんだと叫んでいて…何よりもアメルの小さな手の温かさが“生きている人間”の体温そのもので、夢では感じることが出来ないリアルさを、混乱しているあたしに無理矢理押し付けてくる。

「ほら、もう着きますよ」

 なだめるように優しく笑って、アメルはあたしの手を引いてさらに先に進んだ。
 優しい笑顔だ…出会って間もないあたしを心から心配してくれているのだとわかる。 良い子だなと安心するけれど、胸の奥が痛い。涙も、ぼろぼろと零れ落ちていっては、なかなか止まってはくれなかった。
 いきなり泣き出して、そのうえ泣き止みもしないのだからアメルも困っているだろうに。

「とりあえずあたしの家に来てください。
あなたに何があったのかはわからないけど…でもおじいさんだったらきっと力になってくれると思うから」

 そうしてようやく、青々とした森を抜けた。
 とたんに広い空間があたしの前に現れて、眩しい光があたしの全てを淡く照らして、眩しさに思わず細める。
 そして視界に映るその景色に、感嘆の声が漏れた。

「う…わぁ―――」

 森の青さに溶け込みながら、それは穏やかな空気を醸し出していた。
 緑の地面に沿うように、道は人が通れるように適度に補整され、木と石で組み立てられた家々が大きく間隔をあけて、ぽつりぽつりと立っている。 …建物の作りは、あたしがよく知る日本より、海外の小さな集落といったイメージのほうが近い。
 ぱっと見た限りでは村人の数はそこそこと言ったところだろう。
 村の子供は木で作られたオモチャを持ってはしゃぎまわり、大人たちはそんな子供達を見守りつつも材木を運んだり、農作物が詰まれた荷車を運ぶ牛を操りながら、倉庫らしき建物の中に入っていくのが見える。

 ―――ここが、レルムの村。
 平凡で、あたしの世界とはまた違ったモノだけれども、綺麗だった。
 汚れていると言われている地球とは大違いで、森に溶け込むように暮らしているその様は、見ているだけで穏やかだ。

「ここがあたし達の村、レルムの村です。 綺麗でしょう?」
「うん、きれい」

 あたしはその景色に惚けながらも返事をする。
 村には感じた事もない、穏やかさがそこにあった。 真の平和ってこの村のためにある言葉かなと、普段ならあまり考えない、そんなことを考えてしまう。
 アメルはあたしの言葉に嬉しそうに笑ったが、その表情はすぐに曇ってしまった。

「でも、今日はお休みだから静かなだけなんです。 明日からはこの村にたくさんの人が訪れると、ものすごく賑やかになるんですよ」

 賑やかだと、楽しいだろうと思った。
 でもそれを言葉にしたアメルの表情は、何故か、酷く淋しげで。

(あ、そうか)


 アメルは村の人の期待に応えるため、聖女をしているんだっけ

 ―――自分の心を、押し殺して


「それじゃ、この村はものすごく賑やかになるんだね」

 そうなれば、森に溶け込むように暮らしているといった印象は、あっという間に消え去るだろう。 少しばかり、それが残念にも思える。

「賑やかなのも好きなんですけど…あ、こっちですよ。 おじいさんの家は村のはずれにあるの」
「そういえばさっきも言ってたっけ」
「ええ、優しくて強くて、あたしの自慢のおじいさんです」

 曇っていた表情とは別に、小さな喜びを胸に秘めた、表情だ。
 それは本当に、心からその人のことが大好きなのだと言っている…とゆうか、お爺さんってあのマッチョキコリのアグラ爺さんのこと……?
 ―――つ、つつつつまりあたしはこれまで見たことないほどの筋肉をこの目に拝めるというわけでして…ああぁぁ…! 緊張する…! でもおじいさんよりロッカとリューグの肉体美も拝みたいんですがだめですか、アメルさん。(だめだろ

 ”聞きたい…でも聞けない…!”と頭を抱えて仰け反りそうになっているのをどうにか堪えていれば、アメルが不思議そうに首を傾げていた。
 その目は本当に、心の底から不思議そうな目だ。


 ―――言えない!
 まさかアナタノ兄弟ノ体ハトテモ素晴ラシイノデショウネーとかなんとか考えていたなんて!

(人として)言えない!


 慌てて“あははは〜何でもないよー”とごまかして、あたし達は先に進んだ。
 観光客な気分で村を見学しつつ、アメルは村からほんの少しはずれた場所に立っている、大きな一軒家に案内してくれた。
 他のどの家よりもずっとずっと大きくて、広い。 …これって、さっき案内された村長さんの家の倍はあるんじゃないか……?

(なんか…4人暮らしの割には広いような気も…?)
「ロッカとリューグは先に帰っているのかな…? ま、いいか。 おじいさーん!」

 他の家に比べて断然大きいその家に驚いていたら、アメルが家の中に入って行ってしまった。 またリューグに出くわしてしまったら自分の身も危うそうなので、あたしも慌てて後に続く。 (アメルはこのうえないストッパーだ! むしろあたしの生命保険…!)

 家の中に入った途端、木の香りが鼻腔をくすぐった。
 森の中にいるのと同じような、不快にならない木の香りだ。
 次いで目に付いたのは、白いテーブルクロスに飾られた木製のテーブル。 そっとテーブルクロスをなでると、絹ではない、木綿の手触りが指先に伝わる。 ”でも綺麗なテーブルクロスだなぁ”と視線を動かして目に入ったのは、大きな棚。

(うわ…本物の槍だ)

 窓から差し込む陽の光りに、銀の刃が淡く照らされている。
 それはぞっとするほどの輝きだ…それでも好奇心から恐る恐る、棚まで近づいてみる。 よくよく見ればリューグの握っていた斧も棚に立てかけられてあった。 どうやら、彼らは一度この家に帰ってきたらしい。

(こんな危ないもの、人に向けてるんじゃないわよ…)

 ようやく落ち着いた今、あのとき言えなかった文句を胸中に呟いて、同時に、先ほどの出来事を思い出してしまって体がぶるりと震えた。。
 はわわ…何かあったらあたしはこれで真っ二つ…?! 一刀両断!?
 お、おおおお恐ろしい! なんてやつだあの赤毛は…!

「にしても、めちゃくちゃ大きい斧もあるね…さすがアグラじいさん、伊達にマッチョしてないわ」
「え? 何かいいましたか?」
「ううん! 何でもな―――」

 聞き返してくるアメルに手を振れば、自分の姿が暗い影が落とされた。
 それに”あれ?”と首を傾げて、振り返れば、なんと見事な胸筋が。
 ―――何故、胸筋…?と疑問が思考をかすめたが、こんな胸筋は滅多にお目にかかれない。 取り合えず、社交辞令として褒める

「す、素晴らしい胸筋をお持ちデスネー…じゃなくてぎゃーーーーーーー!!

 我に返ってからようやく胸筋の存在に違和感を感じたあたしは遠慮なしに叫び声をあげて、アメルの背に隠れた。
 降って沸いたように現れた大柄な体格の中年(いや老人?)男は…いや、アグラ爺さんらしき人物(寧ろマッチョがそう語る)は、あたしの悲鳴にびっくりしたのか、目を見開いて固まっていた。
 彼の、丸太のように逞しく、大きく太い腕が小さく上げられていることから、あたしの肩を叩こうと思っていたようだ。

「あ、あああアメルアメルアメル! どうしようあたしこれまでに見たことがないほどの胸筋の持ち主を見てしまったわ!」
「ふふふ、大丈夫ですよ。 ―――この人があたしのおじいさんです」

 アメルの紹介にどうにか冷静になると、あたしは慌てて彼に頭を下げた。
 人様を見ていきなり悲鳴上げて胸筋胸筋と連呼してしまったのだから普通は頭を下げる…おおおお、でも本当にすごいイイ身体ですアグラ爺さん! あなたが優勝であるべきだと思う!(何の)

「すすすすすみませんでしたあああああっっ」
「いやいや、ワシも驚かせてしまったようだしな…アメル、おかえり」
「おじいさん、ただいま!」
「―――で、こちらの娘さんは?」

 アグラじいさんは怯えさせまいとしてくれているのだろうか、気さくな笑顔で笑いかける。
 ああ良かった、さっきのことは水に流してくれそうだ…助かった… 身体はマッチョでも心は天使だ。 何ていい人なんだこの人。

「えーと、さっき森の中で出会った――あ、ごめんなさい。 お名前聞いてなかったです」
「あ、えーと…です」
「そうか、。 しかしこの気候でその格好は寒くないか?」

 そう言われてあたしははっとする。
 もう脳内が混乱で溢れかえっていたから、秋に近いこの気候をまったく寒いとも思っていなかった。
 ――――ていうか、パジャマのまんまじゃん

(ううう! こんなカッコで村を回り見学していたのね…、たぶんこの世界でもこれはどこをどう見てもパジャマに見られてしまうと思うから、リューグ達の目にはパジャマで森をウロついていた変な女――むしろ変人に映っていたに違いない……アアアァッ、そりゃ、斧も向けられるっつうのぉぉ…!)

 ようやくまともに働き始めた思考で、それまでの自分の行動に色々と突っ込みを入れていれば、アグラ爺さんはやっぱり不思議そうに、首を傾げつつ。

「今はまだ秋の季節に入ったばかりだから多少は暖かいが…そんな格好でここまできたのか?」
「あ、あははは…はぃ…(もう笑うしかない)」
「しかしそのままでは体を冷やすぞ。 アメル、何か服を貸してあげなさい」
「はいっ」

 服を取りに行こうと身を翻するアメルに、あたしは思わず呼びとめた。

「待って! アメル!!」
「?」
「…できれば大きめな服がありがたいんですが…」
「大きめ?」
「あー、いや、普段から男っぽい格好というか、男物とか着てたから…だから…その…」

 注文なんかをつけて大変申し訳ないのだが、あたしは最後まで言い切った。
 ――いや、アメルの私服って…あの、ミニスカに近いようなそんなイメージしかなくて…あれを着る資格があるのは、アメルのようにスタイルのいいオナゴだけです。 あたしは許されない。 もはや誰に謝ればいいのかわからなくなるくらいだ。

「あ、それじゃロッカかリューグの服でも持ってきますね」
へ?(あれ? 変な方向にいったぞ?)」
「洗濯カゴからとってきますからちょっと待っててくださいね」

 何かを言いたげに手を伸ばすあたしに気付かず、アメルは奥の部屋に引っ込んでしまった。
 …ああー、うん。 まぁアグラ爺さんの着るわけにもいかないしね・・・必然的に双子の服になるよね…あ、でもリューグかロッカの服かぁ、よくよく考えればちょっといいかも。
 なんか、ものすごいお得感が…って、変態か! いや、変態だ!(言い切る)

 “あたしってもうなんでこんな女なんだ…”と項垂れつつも心の中でガッツポーズをするあたしの肩が、アグラ爺さんの大きな手でぽんと叩かれた。
 突然のそれに思わずビクリとして彼を見上げれば、真剣な眼差しがあたしに向けられていた。 ――どうやら、あたしの錯乱ぶりをアメルから聞いて、その答えを彼は簡単に導き出したのだろう。

「お前さんは別の世界から来たんじゃろう、どこの世界から来たのじゃ?」

 ――リィンバウムのだいたいの知識は、攻略本読破していたから何とか覚えている。
 設定の流れに沿って行くと、あたしのいた世界は“名も無き世界”のハズだ。 幻獣界メイトルパや霊界サプレス、鬼妖界シルターンや機界ロレイラルの世界にも当てはまらない――寧ろその全てが混ざり合ったと言ってもおかしくないと思う、“名も無き世界”。


 でもあたしは、“名も無き世界”でもない。


 だってあたしは、この世界で起こるこれからのことを知っているのだから。


 しかし何故ここにいるのかもわからないのだし、これからどうすればいいのかもわからない。
 それをごまかしてもしょうがないのであたしは、一度ため息を吐いて、言葉を出した――正直な、あたしの考え。

「わからないの、気が付いたらここに」
「…は<はぐれ>のようじゃな…」
「(まさかこれから起こること知ってますなんて言えない…) えー、そう…みたい。 でも召喚主はいなかった」

 そう、ここが重要。
 召喚主に出会わないまま、あたしはここに来てしまった――召喚主はどこへ行ってしまったのだろう?(それ以前に、あたしが召喚されるという事実事態が問題外なのだが)
 …事故で消えてしまったのか、もしくは最初からいなかったのか、それもわからない。
 ――しかし、無責任すぎるにもほどがあるぞ召喚主。 召喚獣ナメんなよ。(やさぐれ)

「ではサプレスの者ではないな?」
「うん、それは間違いないよ。 だってあたしが幽霊とか、悪魔とか天使とかに見える?」

 ”こーんな格好なのに?”と笑って答えたら、アグラ爺さんもようやく安心したような笑顔を見せて、ぽんぽんとあたしの頭を軽く叩いて椅子に座るよう勧めてくれた。
 しばらくそこで待つようにと言われて、アグラ爺さんが奥へ引っ込んだのを見届けてから数分後、再び現れたお爺さんの手には、湯気がたっているカップが握られていた。 それはあたしに差し出されて、カップの中で揺れる乳白色の液体を見つめながらあたしは首を傾げる。

「それを飲んで身体を温めるといい」
「あ、ありがとう…」


 ――あ、なんかまた泣きそう


 とても小さな、お爺さんの優しい気遣い。 思わず涙腺がゆるんでしまう。
 けどまた泣いてしまうのもお爺さんを心配させそうだから、ごまかすようにカップに口をつける。

(――ホットミルクだ)

 少しばかり蜂蜜も入っているようで、ミルクの熱と蜂蜜の甘さがじわりと体の中に染みていく。
 同時にこんがらがっていた頭も、ようやく少し落ち着いてきた。

(…お父さんとお母さんはどうしてるんだろ――心配してないかな? あ、でもサモンナイト1の魔王EDやパートナーEDだと時間はあんまり経ってなさそうだったし、大丈夫かな…?)

 ”じゃなきゃ二日後あたりには警察沙汰になって大騒ぎだわね…ヤバイよそれは”と、ぼんやりと考えを巡らせていたら、服を取りに行っていたアメルが戻ってきた。
 その手にはいかにもな“男物”の服が。

 さてさて、どっちの服だろう?
 ロッカだったら笑顔で許してもらえそうだけどリューグだったら斬られかねない――、ああ! どうかロッカでありますように!

「おまたせしましたー、この服を着ていてくれますか?」
「あ、ありがとう…――と、ととととところでどっちの人の服…?(ブルブル)」
「えーと、上がロッカ、下がリューグのですよ」


 両方ですか


 ”嬉しさ半分、怖さ半分な心境ー!”と、あたしは思わず頭を抱えてしまった。
 とにかく斬られ決定っぽい。 とってもヤバイ。

「あ、大丈夫ですよ。 リューグにはあたしがちゃんと言っておきますから」
「…ううう、お願いするよ…リューグ怖いリューグ怖いリューグ怖い…
「本当はとっても優しいんですよ、リューグは」

 ……そりゃまぁ、アメルにはねぇ……と、苦笑が浮かんだ。
 リューグはアメルにメロメロなのだから自然と特別優しく(?)もなるだろう。 今の時点ではリューグ本人も自覚していないようだけれど。

「それじゃ着替えてくるわ。 ありがと、アメル」
「はい…えーと、着替えるんだったらそこを右に行って…」

 部屋までの道を聞くとあたしはそそくさとその場を離れた。
 一歩踏みしめる度に木製の床がぎしりと鳴く…ロッカの上着を広げて、”お借りします、ロッカ……と、リューグ”と呟きながら歩いていれば、さっきまでの混乱と恐怖が、すっかり落ち着いてしまっている事に気がついた。

「ほんとすごいなー、ホットミルクパワーは」

 感心しながら、教えられた部屋へ進む。
 広い家だから思ったとおり、空室となっている部屋も結構あるみたいだ。

「えーと、…ここかな…――――うわっ?!

 ドアノブをひねって開けると、いきなり何かが吹っ飛んできた。
 突然だったものだからあたしはソレを受け止めることも出来ず後方に吹っ飛ばされて、そのまま尻餅をつく形で倒れて、”ガフっ”とうめき声をあげてしまった。(次から次へと何事!?)

「あいたたたた…もう! 今度は何なのよーー!」
「っ…」


 ――――――――おや? その空を思う青髪は…。


「ロッカ?!」
「あ、貴女は」

 あたしに覆い被さっているのは、ロッカだった。
 唇を切ったのかその薄い唇はわずかに血で汚れていて、当の本人もあたしがいたことに驚いた表情を見せたあとで、謝ろうとしたのか口を開いたけどすぐに口元を押さえてうめくだけで終わる。

「ちょ…大丈夫? あんまり口を動かさないほうが」

 ”いいんじゃないの?”と言いかけて、思わず口をつぐんでしまった。
 ロッカの肩越しに、部屋の奥にいるリューグにと目が合ったのだ――――その表情からはあたしからみても、怒りの感情がありありと浮かんでいる。

 ・ ・ ・ っ て い う か 絶 対 怒 っ て る − !( 悶 絶 )

「リュ、リューグ……(顔怖ぇ…!)」
「良かったじゃねぇか、そいつが入ってきてくれたお陰で衝撃が弱くなってよ…だがな、俺は反対だ。 この意見は変えるつもりはないからな! 覚えとけ! バカ兄貴!」
「っ 待つんだ! リューグ!!」

 ロッカの制止に振り向きもせず、リューグはあたし達の横を通り抜けて出て行った。
 彼はその背を見送ると、ロッカはあたしに覆い被さっている事にようやく気付いたのか、慌てて離れる。

「す、すみません! ケガは」
「あ、あたしは大丈夫だけどロッカ、唇切れてるよ?」

 ロッカは手の甲で血を拭いながら苦笑して、ペコっと頭を下げた。

「お見苦しい所を見せてしまってすみませんでした」
「へ? ああ、いいって別に! それにしても激しい兄弟喧嘩だねー…」

 ロッカは大きくため息を吐いて、リューグが出て行った方向を見つめた。

「僕らはいつもああなんですが、警戒心が強い奴だから…僕が言ってもまったく聞かなくて…」
「――――もしかして、喧嘩の原因はあたし?」

 ロッカは何も言わなかった。
 ただ、優しく笑ってくれただけ。



 “俺は反対だ。 この意見は変えるつもりはないからな!”



 あの言葉はきっとあたしにも向けられていたはずだ。
 彼には相当嫌われているようで、あたしはガックリと肩を落とす。 訳が分からないとはいえど、嫌われるというのはyっぱりどこか辛いものがある――というか、あたしにもどうにも出来んのだよ……!

 ロッカは項垂れるあたしの頭をポンっと叩いて、にこりと笑った。

「大丈夫、貴女は悪くないんです。 ただあいつは人見知りが激しいから」
「…(人見知りという可愛いもんじゃないような気がするんだけど) ううん、あたしが悪いよ。
だっていきなり見知らぬ人が家に入ってきたもの――どう考えても常識ハズレだしね」

 さっきの衝突で落としてしまった着替え用の服の埃をぱんぱんと払って、あたしはロッカに微笑んだ。

「きっと心配なんだと思うな、ロッカ達が」
「心配?」
「うん、見知らぬ人がいきなりやって来たら面倒事に巻き込まれる。
それでアメル達が危険な目に遭わないかって――心配してるのと思うのよ」


 だって、ロッカとリューグは家族を失う気持ちを知っているから


 それがとても苦しくて、悲しいことなのだと


 ここがサモンナイトの世界なら、二人の両親は殺されている設定だ。
 あたしはそのことについて大して考えなかったけど、今ここに立っている場所は、すぐに触れ合える距離で、遠くの場所にいたときとは違うから。

「ごめんね、喧嘩させちゃって」
「…いえ、いいんです」
「いやいや、やっぱ仲良いほうがいいって。 あとであたし、リューグに謝っておくから――あ、あとここらの部屋で空き部屋ない? アメルに教えてもらったけど途中でわかんなくなっちゃって……ほら、これロッカとリューグの服! 借りるのも悪いかなーとは思ったんだけど、この格好のままはちょっと恥ずかしくて」
「あ、こっちです。 もうひとつ向こうの部屋がアメルの部屋になってます」

 彼はそう言って扉を開けて、あたしはアメルの隣の空き部屋に入っていった。
 中はベッドとテーブルしかない質素な部屋だが、今何も持っていないあたしにとってはベッドがあるだけでありがたい。

「おお、綺麗ー」
「物がないですし、アメルも掃除してくれてますから」
「うん、ありがとう――それじゃ、また後でねっ」




 ロッカもまた、優しく微笑んで頷いた。







NEXT






あとがき

第2話です。
アグラ爺さん、「マッチョ」を連呼されておりますが、管理人にとってアグラじいさん=マッチョ!
という、とても変な印象が強すぎて・・こんな扱い・・・。ごめんよおじいさんー・・・。

ロッカがさり気なく多いのは贔屓・・かと!
次はリューグを贔屓します、愛でます。 愛いヤツでございます。

彼との和解はまだまだかと。


2003.11.7文章大幅修正
2006.2.12文章修正

何度修正をすれば気がすむんだ私は…。