神様、これは一体どういうことでしょうか。







第0夜







 まず第一に、よくあるすがりつき文句が頭の中を過ぎて行った。

 その間にも完全に硬直してしまっているあたしの五感の全ては、周りの状況を逐一聞き取り感じ取っては、ますますあたしを混乱の底へと突き落としていく。
 いや、もう、自ら底に落ちていきたい気分でもあったり。
 アアアァァァ、とか叫びながら落ちていきたい。

(ええと、落ち着け、おちつけ)

 取り合えず自分を落ち着けるための言葉を何度も呟きながら、耳は、鳥のさえずりを聴いた。
 木々が風に揺れて、青い葉と葉がこすれあって静かに音をたてるそれももちろん、聴きとっている。 とても綺麗な音だと、自然に思えた。
 身体は、爽やかで、けれど少しばかり肌寒い朝の空気を感じて、その冷たさに肩を震わせる。 いつも寝る前に着替える寝依のままなので、当然、薄着でもある。

「……おちつけ」

 まさに、朝の空気。
 それは間違いはない。 独特のあの空気は、いつものとおりだ。


 しかしここは、どこだというのだろうか。
 

 ―――見渡す限りが緑だった。
 逞しく、天高く伸びる木々はその太さからかなりの樹齢を感じさせる。 こんなにも立派な木は本当にあるんだなぁと感心してしまうほどだ。 そんな緑の木々の合間から零れ落ちる明るい木漏れ日は見惚れてしまうほど綺麗なもので、木漏れ日に満たされた青い地面もまた美しい…非常事態を告げるの鐘が脳内でやかましく鳴り響いてさえいなければ、まったりと堪能していたところだ。

 見上げると、あたしの上空は緑がぽっかりと開いて、薄い青の空が広がっていた。
 白い雲は何の混じりけもないほどの純白をたたえ、薄い青は東に昇る太陽によってさらに薄いものとなり、明け方のような名残りを残している。

「…きれい」

 しばらくは、見慣れぬ世界を惚けたように眺めていた。
 一呼吸をするたびに入り込む体に満ちる空気は冷ややかで、けれどとても澄んでいて心地よく。 視界は緑の青に満ちて、目に優しい。 ついでに今の状況に錯乱しそうになりそうなあたしの心にも優しい。
 やっぱり緑って癒し系の色だよね、ありがとう緑。

「……だからってこの状況が解決するわけないしねぇぇぇ!
 あああぁぁもう何よここ何なのよこの自然いっぱい癒しいっぱいところはっていうか本当にココハドコデスカーーーー!?!

 緑の青に満ちたその世界。 それは周りが森だからだ。
 コンクリートで出来た家で寝たはずなのに、……あたり一面、見事な緑が溢れ返っている。 視界一杯を覆うような、とても綺麗な緑。
 いや、綺麗なのは全然。 ほんっとに全然構わないんスけど!

「ちょ、マジで何であたし森に……あ、でも夢オチがあるし、うん、夢だ」

 野外で寝た記憶なんてないし。
 夢オチ、決定。
 ”はぁやれやれまったくリアル過ぎな夢も嫌よねぇ”ともう一度横になろうとして―――。

「……」

 身体が、強張った。
 ぎしっと、軋むような音を全身で聴く。


 ――音。

 それが、耳に届いた。
 背後の茂みから、ガサリと。

「じょ、冗談でしょ……?」

 思わず呟いたあたしの言葉を否定するかのように、ガサ、ガササッと茂みから響く音が増えるばかり。
 それは<誰かが、何かがあたしの元に近づいているからだ>と、あたしの中の本能が告げる。 なんてことなの。 あたしという裁判長が異議も全て却下して夢オチという判決を下したというのに、その音は判決を覆そうとあたしへと近づいてくる……。

(ゆ、夢オチ! そういうオチにしとくべきじゃないの!?)

 しかし夢は一向に覚めない。
 オィィィィ、いい加減起きてよ! あたし!
 「ひいいいい」と完璧に腰を抜かしてしまっているあたしは、ただ、揺れ動くそのポイントを見つめて硬直することしか出来ない。


 次の瞬間。
 ガサァッ!と現れた複数の影の出現に、自分の中で何かが、ぶちんと切れた。


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」


 恐怖に引きつった悲鳴と表情を浮かべて尻餅をつき、逃亡しようと即反転。
 視界の隅で軽やかに舞う木の葉が視界に映ったが、完璧に混乱して我を忘れてしまって今にも逃げ出そうという思考がいっぱいになって、四つん這いのままザカザカと這うように背を見せた。
 も、ももももももう逃げる以外に何をせよと?! 反撃できそうな道具もなければ武器もないという女が謎の生命体との遭遇に逃げる以外の何をせよと!?!


「ま、待ってください! 怪しい者じゃないですから落ち着いてください!」

「……はい?」


 しかし耳に届いたのは宇宙人等の声ではなく、普通の、女の子の声だ。
 まさか宇宙人がこんな可愛い声を出して喋ることなどあるまいという偏見と(取り合えず宇宙人に謝っておくべきでしょうか…)、人間という同種の存在に我に返ったあたしは、”ひ、人だーーーーー!”と半泣きになっている顔を上げて、少女へと振り返った。


 ……余計、混乱した。


 視界に映ったのは三人の少年少女だった。
 色鮮やかに映るのは、甘やかな茶の髪と、鮮やかな赤い髪と、空を思わせる青い髪。
 ……すでにそこから日本ではありえないモノなのに、彼らの着ている服も、ありえない。
――――彼らの存在自体も、ありえなかった。

 再び硬直して、引きつった表情を崩さないあたしに、女の子はまだあたしが驚いたままだと思ったのだろう。
 困ったような表情を浮かべて…けれど次には安心させるかのように、ちょっとだけ笑って手を合わせて、謝ってくる。

「ご、ごめんなさい……驚かせてしまって、すみません」
「そっちが勝手に驚きやがったんだから謝らねぇでいいんだよ、アメル」

 木漏れ日を受けてなお鮮やかに映る赤髪の少年の言葉に、あたしはむっと顔を歪めた。
 おいこら赤毛。 普通は謝るもんだぞこの野郎。

「でもリューグ、驚かせちゃったのはあたしたちのほうなんだし…ね?ロッカ」
「そうだぞリューグ、それに相手は女の子だし……あ、あの大丈夫ですか?」

 穏やかな、優しい笑みがあたしに向けられて、晴れ渡った空を思わせる青の髪の少年があたしに手を差し出した。
 尻餅ついたあたしが体を起こすのを手伝ってくれようとしているのだろう……それの手をまじまじと見つめて、決意をするように唇を一文字に結んで恐る恐る手に取れば、握り返された。
 握り返されたそれに思わず悲鳴がでかかったが、どうにか堪える。
 そして立ち上がろうと足に力を込める前にそのまま、少年らしい強い力で体を引っ張り起こされた。
 反動で、よろりと少年に倒れかかってしまう。

「あ、すみません」

 詫びてくるその言葉を耳にしながら、あたしは呆然とした。
 生きている人の体温。
 生きている人の力。
 生きている人の身体―――それを夢オチと片付けるには、とても、とても無理だった。
 こんなに立派な証拠が出されてしまっては、夢オチ判決は見事にひっくり返されたも同然だ。
 その事実に衝撃を受け、頭を真っ白に、ついでに中身もすっからかんにしてしまいながら硬直してしまっているあたしは再び、その名前を胸中で繰り返す。

(…アメル、リューグ、ロッカ…)

 その名前は、あたしにはとても聞き慣れた名前で……いえいえ、チョットマッテクダサーイ。
 あたし、夢見てる。 うん、夢だよね?



 何で自分が、サモナイの世界にいるわけ??



 あ り え な い にも程があるんですけどぉおおぉぉ……!!!



「―――あの、大丈夫ですか?」

 あぁ、でもこれは本物だ。
 ナマだよ、本物だよ。 どうしよう。 現実では芸能人にすら滅多に会えないというのに。

「……だ、大丈夫……、です」
「そうですか、良かった」

 あああぁぁぁぁいい笑顔だ。 いい笑顔だよ、ロッカさん。
 そのちょっとした微笑だけでも充分お腹一杯です、でも夢ならそろそろ覚めてください。


 ――――でも夢は、覚めないまま。


 あたしは意を決して、ロッカに尋ねる。

「あのー……ここは、レルムの村の森周辺……じゃないわよね?」
「そうですが?」

 うおぁ即答!
 あまりの即答っぷりに思わず意識が遠のきかけた。
 すごい、言葉に衝撃を受けて気絶しそうになるなんて初めてだ。

 そのままふらりと倒れかけるあたしを、ロッカが慌てて支えてくれた。

「わっ、だ、大丈夫ですか? 怪我をされているんですか? ……アメル、この人を看てあげてくれるかい?」
「はい!」
「わーーーーー! ちょ、ちょっと待って! いい! 大丈夫だから!」

 全力でアメルの治療を拒否するあたしに、三人は首を傾げた。

(診て貰いたいのは山々だけど、今はだめ、絶対だめ!)

 有り得ないんです、本当に。
 もしここが本当にサモンナイトの世界なら、アメルの治療はその人の心の中を見て、癒すという奇跡を起こす”聖女”様だ。
 なら、ゲームを何回もクリアしたあたしの中を見てしまったらきっと、この先の出来事がわかってしまう

 レルムの村が滅ぶことや、その先のこと―――。

 (さ、最悪だ)

 色んな意味で頭が痛くなってきた。
 これは夢じゃなくて、ここがレルムの村付近だというのなら、マグナかトリス達もここに来るだろうし、<黒の旅団>の皆様もいらっしゃるだろう……最悪だ、最悪すぎる。 血の気だって引くばかりだ。

 悶々と考え込んでしまうあたしだったが、ふと顔を上げればリューグとばっちり目があった。
 目が合った瞬間に、彼の鋭い目つきがいっそう厳しくなる……え、もしかしなくてもばっりち怪しまれてる……?!(ああでも不審人物オーラは放出しまくってるからそれも当然かもしれない)

「オイ……こいつ、怪しくねぇか?」
「うぐ……?!(ズバリ的中ー!)」
「リューグ! 初対面の人に何てことを言うんだ」

 そうだそうだ、なんてこと言うんだこの野郎。
 多少怪しくなってしまうのはいきなりこの世界にいたからだってば! それくらい許してください。と超下手にお願いしてみる。
 いやもう本当、混乱極まって錯乱しそうなんですってば…!

 しかし森っ子ーズは、とても面白い方向に話を進めていく。

「リューグ。 この人もあたしの癒しの力を求めにきた人かも知れないのよ?」
「……そうなのかよ」

 ますます、目つきが鋭くなった。
 客か否か……それだけの答えを求められているはずなのに、何故彼の目はこんなにも鋭くなるのだ。 まるで縄張りを荒らされてたまるかと言わんばかりに警戒をする猫のようだ。 おのれ、ニャンコ属性かお前は!(そろそろ大変痛々しいので本当に落ち着いてくれ自分!)

「……あー…いや、そういうわけじゃ」
「客じゃねえのかよ」
「……お客だったら、さっき彼女に診てもらってるわ」

 しかしあたしは、その流れを止めなかった。
 自分でもどうしてこんなに機転が利くんだと自分の頭を疑いたくなるが、今の危機より、やがて訪れる危機のほうを恐れているためか―――や、もう、何で、こんなことになっている?
 今にものた打ち回って叫びたい気分だけど もうこれは夢オチじゃないのかもしれないという諦めが、心のうちを覆い尽くしていく。

 そこまで理解すると、心細さがぶわっと全身に広がった。
 思わず俯いてしまう、けれどかけられる言葉は、警告だった。

「なら好きにしな。……だが覚えとけ、あの村でとんでもねぇことやらかそうとすんなよ」

 リューグがあたしの前にやって来た、と思った次には風を切る音が耳に届いた。
 ぶぅんと、重々しい音が鳴る……彼の手に握り締められていた斧の刃が、あたしの鼻先に突きつけられた。
 眼前で鈍い輝きを見せる、鋭いそれに思わずごくりと息を飲めば……リューグが、低く、言い放つ。

「―――誰が、何といおうともこいつでテメエを斬る」

 ……それは殺意、というものだろうか。
 初めて、まともに浴びせられたそれに、悪寒が背筋をぞわりと駆け抜けて、せっかく立ち上がった足を力が抜けて、ぺたんと座り込んでしまった。
 ゲームでは味わえなかった、殺気。
 殺してやるという、その意思が鋭い瞳に現れてあたしを刺す。

 ―――怖い。
 ……細かなかな震えがあたしの体に現れる。

(怖い)

 怖くて、たまらない。
 震えるあたしの様子を見て、充分に脅したと理解したのかリューグはそのまま、茂みの中へ戻って行ってしまった。 木の葉の音が、やがては遠く消えていく。

「リューグ!」

 ロッカもその後を追いかけて、茂みの中に消えてしまった。
 残されたアメルは、腰を抜かして座り込んでしまったあたしを立たせてくれたあとで、そっと背中をさすってくれた。
 あたたかい手が、震える身体を優しく労わるように触れてきてくれた。

「あの…とりあえず、ついて来てください。 お話は、村で聞きますから……」



 ―――村って、なんだろう



 そんな考えが、頭の隅っこにふわりと浮かんだ。
 同時に、彼女の言葉が、痛々しいほどあたしの胸に突き刺さって。








 ……痛みが、我慢できなくて、頬に涙が零れ落ちていった。







これが始まり。








NEXT







**後書き**

初のドリーム小説です。
物語に沿っていく予定の長編夢小説、愛すべきサモン2でお送りさせていただきます。
……実はこの夢小説、思いっきり行き当たりバッタリな連載なんです。
もうその時その時に降ってきたネタで書き綴っていきます…・ゲフンゲフン!(吐血)
物部様の一言でこうして連載をする決意が……!ありがとうございました!!


恋愛要素ももちろんいれます。
一種の逆ハーでございますが、最終的にはお相手を決めていただく予定ですので……(予定かよ)
誤字脱字が絶えませんが、どうかご勘弁を……!

それでは楽しんでいただけると、とても嬉しいです!
よろしくお願いいたしますー!!(^^)

2001.11.9あたりに連載開始
2003.11.7文章大幅修正
2006.2.12文章大幅修正

何度修正をすれば気がすむんだ私は…。